パワハラの定義と意味を簡単に紹介!職場での具体例も

この記事のポイント

  • パワーハラスメント(以下「パワハラ」)とは、相手に不快感を与える行為全般を意味するハラスメントの一種です。
  • パワハラを簡単に説明すると、職場での有利な立場を利用して、不適切な言動で相手に嫌がらせを行うことで、6つに分類できます。
  • パワハラが課題となる職場は少なくありませんが、社内教育など会社として対策に取り組むことで改善し、より良い職場にしていくことが必要です。

パワーハラスメントの定義とは?

パワハラの定義と意味を簡単に紹介!職場での具体例も

法律ではパワハラを、職場において行われる「①優越的な関係を背景とした言動」で「②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」であり、「③労働者の就業環境が害されるもの」として定義しています。簡単に言えば、立場を利用し度を越した言動をすることで、相手の仕事を妨げる行為です。労働施策総合推進法の改正で定義は明確にされました。

ちなみに「職場」とは、必ずしも会社敷地内のみを指すわけではないことも念頭に置いておきましょう。飲み会や懇親会などの場も、職場に該当することがあります。

①優越的な関係を背景とした言動

優越的な関係の定義は、肩書きや職位などの目に見えた上下関係(上司-部下の関係など)のみに限定されません。当事者の専門性や学歴の差など、その他さまざまな要因を勘案して判断されます。

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

「業務上必要か」「相当な範囲を超えていないか」については、さまざまな要件を勘案し判断されます。目的や内容、または状況や頻度などを総合的に見て、個別に判断されることが一般的です。

③労働者の就業環境が害されるもの

精神的・身体的苦痛を与える言動で、労働者の能力の発揮に悪影響を及ぼす場合が該当します。また大声で怒鳴ると、怒られた本人が萎縮するだけではなく、周りで見ていた他の従業員にも悪影響を及ぼすため注意が必要です。

パワーハラスメントの行為類型と具体例

厚生労働省が定めた指針では、パワハラは6つの類型に分類されています。従業員から相談を受けた際は、この類型を基準にパワハラに該当するかを判断していくことが必要です。

なお、類型にあてはまらない言動の場合でも、パワハラに該当する可能性もあるため、前述したパワハラの定義を確認しながら対応しましょう。

①身体的な攻撃

身体的な接触を伴う行動のことです。例としては殴る・蹴るなどの暴行ですが、直接的に接触しなくても、物を投げたり、椅子や机を蹴ったりするなどの行為も該当します。

なお、相手に怪我を負わせてしまった場合は、当然、傷害罪にも該当する行為です。

②精神的な攻撃

身体的接触はなくとも、侮辱や暴言などの言葉で相手を攻撃する行為です。ただし、注意しても直らない遅刻やルール違反に対して、強い口調で相手を指導するなどの言動が、すべてパワハラになるわけではありません。

大勢の前で貶めるなど、配慮がない言動はパワハラと判断される可能性が高くなります。

③人間関係の切り離し

本人の意に沿わない形で、同僚や上司など、周囲の人間関係から阻害する行動を指します。例を挙げると、以下のような行動が該当します。

  • 正当な理由がなく、1人だけ飲み会に呼ばない
  • 特に理由がないにも関わらず、一人だけ、別室で仕事をさせる

ただし、新入社員等の研修のため一定期間、別室で集中作業させることなどはパワハラにはあたりません。

④過大な要求

業務上、明らかに不要な作業を課したり、実現不可能と考えられる作業を行わせたりする行為を指します。例を挙げると、以下の行動が該当します。

  • 長時間、肉体的に過酷な環境で、不要な作業に従事させる
  • 経験の少ない労働者に、研修を行わず高レベルな業務をまかせ、できないと激しく叱責する

なお、従業員の育成のため通常より高いレベルの仕事をまかせたり、繁忙期に作業量の多い仕事をまかせたりすることなどは、パワハラに該当しません。

⑤過小な要求

業務上の必要なく、本人の能力や経験に見合わない、程度の低い仕事を行わせることです。例を挙げると、以下の行動が該当すると考えられます。

  • 管理職を退職に追い込むため、誰でも遂行可能な仕事ばかりまかせる
  • 正当な理由なく、仕事を与えない

能力や体調に応じて、仕事の難易度や負荷を軽減することはパワハラではありません。

⑥個の侵害

労働者の私的な事柄に、過度に踏み込みすぎる行動を指します。例を挙げると、以下の行動が該当すると考えられます。

  • 本人の許可なく、カバンの中などの私物を漁る
  • 性自認や既往症など、無理やり聞き出す

就業環境や業務の割り振りの配慮のため、体調や家族など、センシティブな情報について、本人の了解を得てヒアリングすることは問題ないと考えられます。

職場のパワハラの状況・実態のデータ

厚生労働省の統計調査に基づいて、パワハラの実態を見ていきましょう。統計資料の中にも、パワハラ防止のヒントが隠されています。

パワハラの相談件数

各企業のパワハラ相談件数を見ると、依然として課題は残る状況といえます。2020年厚生労働省実施の「職場のハラスメントに関する実態調査」(以下「実態調査」)では、回答した全企業のうち、過去3年と比較し「パワハラの相談件数が減少した」と答えた企業は約10%でした。

一方「相談件数が増加した」と答えた企業は約9%、「相談件数は変わらない」と回答した企業は約15%でした。セクハラの相談件数が改善(減少)傾向となっているのに対し、パワハラの相談件数は劇的に改善しているとはいえない状況です。

参考:令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 主要点|厚生労働省

パワハラが起こりやすい職場の特徴

パワハラが起こりやすい職場の特徴はいくつか挙げられますが、実態調査で明確に挙げられているのは「上司と部下のコミュニケーションが不足している」という点です。また、同調査の別項目(従業員向け)では「職場があまりパワハラ対策に取り組んでいない」と回答した者の6割近くが、自身もパワハラを一回以上経験していると回答しています。職場としての姿勢が、大きく影響することがわかるでしょう。

したがってパワハラを防止するためには、組織のトップがパワハラ防止の方針を明確にするなど、啓発と社内教育に努めることが必要です。なお、調査内容にはありませんが、パワハラを行う者は、精神論に偏っていたり自分の行動がパワハラだと気づいていなかったりする場合があります。そのため、まずは社内教育での改善を図りましょう。

参考:令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 主要点|厚生労働省

職場におけるパワハラに関する裁判事例

どのような言動がパワハラとされるのか、実際の例を取り上げて見ていきましょう。判断は、状況や経緯により異なりますが、どのような行動がパワハラに該当しうるかの参考にしていただければと思います。

身体的な攻撃型の裁判事例

アパレル店舗での従業員の暴力が不法行為と判断された事件です。不法行為とは「故意や過失によって、他人の権利などを違法に侵害する行為」のことです。

この事件では、アパレル店勤務の店長と店長代行が、業務日報をめぐって対立していました。この際、店長は店長代理の肩を掴んで壁に打ち付けるなど、直接的な暴行を加えています。その後、店長代行は、アパレル店を運営する会社の管理部長から暴言を投げかけられることもありました。

店長代行は、一連のトラブルで外傷後ストレス障害罹患したとして、店長と管理部長に対して損害賠償を請求し、裁判で認められることになりました。

参考:【第52回】 「他の従業員からの暴行などが不法行為にあたると判断された事案」 ―ファーストリテイリング(ユニクロ店舗)事件|厚生労働省
参考:損害賠償請求事件|全国労働基準関係団体連合会

過小な要求型の裁判事例

バスの運転士に対し、下車勤務を命じた上で過小な要求を繰り返した事例です。あるバス運転士が、乗客とトラブルを起こしたことで、上司から叱責と退職勧奨を受けましたが、これをきっかけに精神疾患を発症し休職となります。

復職後、この従業員は下車勤務(再教育期間中に運転業務から外れる)となりましたが、その期間中は、運転士服務心得などを繰り返し読むことや、作文を繰り返すことなどを指示されるのみで、これらの作業がない時はただ席に座ったままという状態でした。その従業員は、下車勤務中の指示が「過小な要求」型のパワハラにあたるとして訴訟を起こします。

裁判では、下車勤務中の業務指示がパワハラに該当すると認められました。

参考:弁護士 師子角允彬のブログ

マネーフォワードグループの取り組み事例

マネーフォワードでは、ハラスメント対策を含む、コンプライアンスの徹底に向けた取り組みを行っています。一連の取り組みが実り「2023年版日本における「働きがいのある会社」調査」ランキングの大規模部門10位に入賞しました。

選出にあたっては、特に「安心して働ける環境がある」の項目などで高い評価をいただいています。

コンプライアンス徹底に向けた取り組み

グループでは複数の取り組みを並行して行っています。まず、取締役会の決議によりCCO(最高コンプライアンス責任者)を任命し、コンプライアンス・リスク管理委員会を4半期に一度開催しています。この委員会では、グループ全体がコンプライアンス推進のために連携をとっています。

また、グループコンプライアンス規程をはじめとした規程を制定することで、コンプライアンス意識の浸透にも余念がありません。その他にも、コンプライアンス研修に関する教育制度を整備し、教育の実施状況を随時、会社サイトで公表しています。加えて、内部通報制度の制定や、贈収賄防止及び反社会的勢力排除の活動にも積極的に取り組んでいます。

「働きがいのある会社」ランキングで大規模部門10位に入賞

前述の通り当グループは、great place to work institute japan主催の「2023年番日本における「働きがいのある会社」調査」にて、大規模部門10位に入賞しました。大規模部門は1000人以上の規模の中からの選出となりますが、当グループとしても初めての入賞です。

当社は、向き合うべきテーマとして「Talent Forword(社員の可能性をもっと前へ)」を掲げていますが、選出にあたっては「安心して働ける環境がある」「仕事に行くことが楽しみである」「お互いに思いやりのある会社である」の3項目で、特に高い評価をいただくことができました。

もっと詳しく!パワハラに関するおすすめ論文と要約

パワハラについてもっと詳しく知りたいという方に、2つの論文を紹介します。

パワハラとその背景にある心理的要因について|岸良範

パワーハラスメント(パワハラ)の背景にある心理的要因について詳細に説明しています。パワハラは、職場での権力の乱用や不適切な行動を指し、被害者に精神的、時には身体的な苦痛を与えるものです。

加害者はしばしば自己愛性人格傾向を持ち、自己肯定感が低く、他者からの承認を強く求める傾向があります。これは不安や恐怖の裏返しであり、自己愛に固着することで他者を低く位置づけ、自己の優位性を誇示しようとします。

実際の事例を通して、パワハラがどのように発生し、被害者にどのような影響を与えるかが示されています。例えば、過重労働や過剰な要求による精神的圧迫、個人的な事情を優先させる行動などが挙げられています。

出典:パワハラとその背景にある心理的要因について|とうほう地域総合研究所

パワー・ハラスメント防止のための法政策|小畑史子

こちらの論文では、労働施策総合推進法に新設されたパワハラに関する規定の詳細と、その法的な意義について説明されています。

新設された規定は、民事損害賠償請求の根拠となる禁止規定ではなく、国、事業主、労働者の責務規定として設けられています。これには、事業主に対してパワハラ防止のための体制整備や措置義務が課されています。パワハラは「職場環境を悪化させる行為」と定義され、予防策として企業によるトップからのメッセージ、ルールの策定、実態の把握、教育、周知などが推奨されています。

論文では、パワハラの根絶をどのように達成するかについての議論が展開され、法規制の必要性について考察されています。

出典:パワー・ハラスメント防止のための法政策|独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)

監修者の編集後記 -パワハラについて-

教育やパワハラ防止の方針周知で改善することは可能です。まずは各社の担当者が、パワハラについて熟知し、社内周知や研修など必要な対策を考えることから始めていきましょう。

また、パワハラを減らし職場の心理的安全性を確保することは、従業員のパフォーマンスを向上する上でも大事です。今やパワハラ防止は法律上の義務でもありますが、コンプライアンス以上の意味があります。会社や事業の発展のためにも、ぜひ取り組んでください。

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