インセンティブの意味や使い方を簡単に紹介!

この記事のポイント

  • インセンティブとは、報奨金のこと。
  • インセンティブには金銭的インセンティブと非金銭的インセンティブがある。
  • インセンティブ導入に成功した代表的な企業はディップ・メルカリ・ONWARDなど。

目次

インセンティブの意味とは?

インセンティブの意味や使い方を簡単に紹介!

「インセンティブ」とは、直訳すると刺激や報奨のことです。ある行動に対する意欲や行動を起こす刺激、またはその報奨をインセンティブと言います。

インセンティブは、本来の言葉の意味と経済学やビジネスの世界での意味合いが多少異ります。それぞれの分野におけるインセンティブの意味を確認しておきましょう。

ビジネスの世界でのインセンティブは「報奨金」

ビジネスシーンで使われるインセンティブには「報奨金」という意味合いがあります。もう少しわかりやすく言えば、与えられたノルマや目標を達成した場合のご褒美のことです。ビジネスにおけるインセンティブは金銭で与えられることが多く、モチベーションの向上を期待するためのものでもあります。

経済学でのインセンティブは「誘因」

経済学でのインセンティブには「誘因」という意味があります。誘因とは、ある作用を引き起こす原因のことです。

ビジネス界におけるインセンティブの意味である報奨金を、経済学で考えると利益を生み出すための思考や行動を引き起こす誘因とも考えられ、同義であることがわかります。

インセンティブの英語「incentive」の意味と語源

英語のインセンティブ(incentive)には「動機づけ」「刺激」という意味があり、この場合の動機づけとは、目標に対して意欲を高めるためのきっかけや理由を指します。

ビジネス界や経済学で使われているインセンティブの元となる言葉であり、一つの単語で動機づけや誘因、刺激などいくつかの意味を持ち合わせています。

インセンティブ(報奨金)と間違えやすい言葉

ビジネスシーンでは、基本的な給料にプラスされる金銭報酬がいくつか存在します。どれもインセンティブと間違えやすいため、混同しないようそれぞれの意味を確認しておきましょう。

賞与・ボーナスとの違いは成果の対象

賞与(ボーナス)とは、固定給とは別に与えられる給与です。年に1回、2回、3回など、企業によって支給時期や回数が異なります。

インセンティブとボーナスの違いは、成果の対象です。ボーナスは会社の売上という成果に対して従業員に支払われる給与なので、会社の業績が悪くなるとボーナスが下がる、または支給なしということもあり得ます。

インセンティブは個人の成果に対して支払われるので、会社の業績に関係なく、個人で一定の目標を達成すれば支払われます。

歩合制との違いは既定の成果についての報酬

歩合制とは、成果に対してのみ支払われる給与です。例えば、1契約の締結につき10万円という歩合制であれば、2つの契約を獲得できれば20万円がもらえます。

インセンティブと違うのは、目標を達成しなくても既定の成果が得られればその分の支払いが生じるということです。

つまり、1契約につき10万円/目標10件の契約でインセンティブ5万円だとした場合、8件の契約で終れば80万円、11件の契約を取れれば110万円+5万=115万円もらえる、ということになります。

手当との違いは必要な費用

手当とは、契約により毎月支払われる給与の一部です。主に役職や時間など、何らかの基準に与えられます。主な例として、通勤手当や残業手当、役職手当などです。

インセンティブとの違いは、勤務することで必要費用として充てられる点です。通勤手当がなければ、交通費が自己負担となり、残業手当がなければ無給労働となります。役職手当についても同様です。役職手当がなければ、部下の管理や育成などに費やす意欲や労働について対価が支払われないということになります。

つまり、手当とは会社から支払われるものとして最低限必要な費用です。目標を達成することで得られるインセンティブとは異なります。

インセンティブの言葉の使い方・例文

インセンティブという言葉の意味がわかっても、実際のビジネスシーンでどのように使われるのかがわからなければ、適切な使い方ができないでしょう。ここではインセンティブの言葉の使い方を例文と共に確認しておきましょう。

  • 社員のモチベーションアップにインセンティブ制度の導入を検討したい
  • インセンティブを設定したで、社員同士が切磋琢磨するようになった
  • インセンティブは金銭的なものだけではない
  • A社は商品やサービスのアイデアを出したものにもインセンティブを付与している
  • 固定給とボーナスでは満足しないハングリーな社員にはインセンティブをつけたいと考えている

上記の例文のでもわかるように、インセンティブは名詞として使われます。そのため「インセンティブする」などといった動詞として使うことはありません。

インセンティブの主な種類

インセンティブには、大きく分けると2つの種類があります。それぞれのインセンティブについて具体的な例を挙げながら解説します。

金銭的インセンティブ

「金銭的インセンティブ」とは、名前の通り金銭にひもづいたインセンティブです。「目標金額を売り上げたら○万円」「ノルマを達成したら○万円」などが、主な金銭的インセンティブの例として挙げられます。数字で表される金銭は、社員にとってのモチベーションアップにつながりやすくなるでしょう。

また、金銭的インセンティブは、電子マネーやさまざまなポイントの付与など、金銭以外の物で支給される例もあります。

非金銭的インセンティブ

非金銭的インセンティブとは、金銭や物以外の形で支給されるインセンティブのことです。

  • 人的インセンティブ:周囲の人が魅力的な人間であることがモチベーションとなるインセンティブ
  • 評価的インセンティブ:周囲からの正当な評価がモチベーションとなるインセンティブ
  • 理念的インセンティブ:企業や所属する団体の存在価値自体がモチベーションとなるインセンティブ
  • 自己実現的インセンティブ:自分の将来のビジョンや目標がモチベーションとなるインセンティブ

「インセンティブ」と聞くと、金銭で与えられる金銭的インセンティブを思い浮かべがちですが、他にも人的・評価的・理念的・自己実現的など、お金には換算できない「非金銭的インセンティブ」も存在します。

非金銭的インセンティブの大きな魅力は、仕事へのやりがいや、キャリアプランの実現、目標の達成など、さまざまな自己実現の動機づけになることです。日常的な非金銭的インセンティブは日々の幸福感に直接かかわります。環境や周囲の人物、さらには自分自身の存在が仕事の成果につながり、結果として金銭的インセンティブを得る可能背が高くなる、と捉えると非金銭的インセンティブの充実は欠かせません。

マーケティングに活用されるインセンティブ

インセンティブはマーケティングの世界でも活用されています。マーケティングに活用されるインセンティブは、大きく分けて2種類です。

消費者インセンティブ

消費者インセンティブとは、企業が消費者に対して付与するインセンティブです。

  • 今購入するとWポイントプレゼント
  • 先着○名様に○○をプレゼント
  • 今から30分以内に注文すると商品を1つおまけでプレゼント

消費者インセンティブは、消費者の「購入したい」という気持ちを高めるために使われます。

一見、企業側が損をするようなインセンティブであっても、長い目で見れば顧客を増やせるきっかけになるでしょう。このような観点から消費者インセンティブは、有効な手段としてマーケティングの世界では広く知られています。

トレードインセンティブ

トレードインセンティブとは、企業が小売業者や流通業者へ支払います。主な例として、携帯電話の販売奨励金があり、各代理店がメーカーの携帯電話を多く販売することで、メーカーは代理店へ販売奨励金を支払います。

奨励金の他にも、さまざまな業種で商品代金の割引やリベートをトレードインセンティブとしている場合もあります。

インセンティブ制度のメリット・デメリット

インセンティブは、目標に対して向き合い、成果を出した人がもらえる報酬です。企業側から見れば一見マイナス、従業員側からすればプラス、という印象があるでしょう。

ただし、インセンティブには、単なるプラスマイナスだけではなく、インセンティブを導入することによるメリットとデメリットがあります。

メリットは「モチベーション向上」

インセンティブを導入するメリットは、従業員のモチベーション向上です。「ご褒美がもらえるなら頑張れる」という考えは、仕事への基本的な動機づけになります。金銭的インセンティブであれば、すぐに給与へ反映するため、自分の努力が数字となって現れるのもモチベーションが継続する要因の一つでしょう。

非金銭的インセンティブであっても、「自分は必要とされている」「良い環境で働けている」という思いは、仕事に対するモチベーションアップにつながります。

デメリットは「自分の成果への固執」

インセンティブを導入することによるデメリットは、自分の成果に固執するようになるということです。

会社は業績をアップするために、社員に対しインセンティブを支払い奮起させます。一方で、インセンティブがあることによって、各自が自分の仕事にしか注力しなくなり、チームや部署、ひいては会社全体のまとまりがなくなる可能性もあります。

同じチーム間で協力し合うことや、後輩への教育やアドバイスが行き届かなくなる恐れも生じる点が、インセンティブのデメリットと言えるでしょう。

インセンティブ導入の手順

これからインセンティブを導入するのであれば、3つの手順で行うことをおすすめします。

目的を明確にする

インセンティブには、会社としての「明確な目標」が必要です。「何となく全体の士気を上げたい」など漠然とした目標ではなく、「いつまでに○%の利益アップをする、そのために…」など、イメージしやすい明確な目標を設定します。

特に期日を設けた数字などは従業員にとっても意識がしやすく、インセンティブに対する意欲向上も期待できるでしょう。

社員(顧客)のニーズを把握する

金銭的インセンティブが必ずしも有効とは限りません。モチベーションや購買意欲を高めるためには、ニーズを把握する必要があります。

業績を上げて欲しい社員たちが何を求めているのか、顧客がどのようなインセンティブを求めているのか、という点は調査をしておきましょう。

ただし、顧客に対するトレードインセンティブは、金銭の額やポイントの種類、ニーズに合っていなければ成果を期待できないことがあります。

告知と観察を行う

全てのインセンティブに必要なことは、インセンティブ導入の告知と経過の観察です。まずは社員や顧客にインセンティブについて周知することが、インセンティブ制度のスタート地点です。対象となる社員全員、顧客となる可能性がある方たちに告知できる仕組みを構築しましょう。

インセンティブ制度がスタートしたら、経過の観察を行う必要もあります。経過状況によっては、インセンティブに魅力を感じていない社員や顧客が多いかもしれません。それとは反対に、インセンティブの反応が良ければ、予定よりも早くインセンティブ制度を終了できる可能性もあるでしょう。

インセンティブ制度の事例(ビジネス)

ビジネスの世界では、インセンティブ制度によって大きく業績を上げた企業も存在します。

ここでは日本の企業でインセンティブ制度を活用して、成長を遂げた3社を紹介します。

株式会社メルカリ

株式会社メルカリ(以下、メルカリ)では、2018年に新インセンティブ制度「RSU」が導入されました。RSUとは、Restricted Stock Unitsの略称であり、譲渡制限株式ユニットのことです。

メルカリが社員に提示する条件をクリアすれば、メルカリの株式をもらう権利が付与されるという、珍しい形でのインセンティブ制度を実施しています。

自社の株式を所有できる機会が少ない一般的な企業の社員が、所有のチャンスによって、会社のためになる仕事をしようというモチベーション向上につながります。

参考記事:日本初の挑戦を。メルカリが新インセンティブ制度に込めた想いとその舞台裏|株式会社メルカリ

株式会社カヤック

株式会社カヤックは、「面白法人カヤック(以下、カヤック)」という名称でWeb制作やイベント企画を行っており、ユニークなインセンティブ制度「サイコロ給」を導入しています。

このインセンティブは、月々の固定給にサイコロの目(%)分を上乗せする仕組みです。例えば、25万円の固定給の社員が、サイコロを振って「5」を出した場合、その月の支給が25万円+12,500(※25万円の5%相当分)が支給されます。

参考記事:サイコロ給とスマイル給|株式会社カヤック

株式会社リクルートスタッフィング

株式会社リクルートスタッフィングでは、「GIB(Goal In Bonus)」というインセンティブ制度を導入し、社の通期目標が達成した際に国内外の旅行コースを設けています。社員がお互いにねぎらったり、親睦を深めたりできる機会にもつながっているようです。

関連サイト:RSの仕組み|株式会社リクルートスタッフィング

インセンティブに関する事例(国・自治体)

インセンティブ制度を導入しているのは、一般企業だけではありません。国や各自治体でも、インセンティブ導入に関する事例があります。

デジタルトランスフォーメーション(DX)

デジタルトランスフォーメーションとは、ビッグデータなどに代表される「データ」と「AI」や「loT」をかけ合わせて活用し、製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革して改善していく働きです。

多くの企業がデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいますが、失敗に終わっている企業も多くあります。

そこで、日本では経済産業省が「DX投資促進税制(全社レベルのDXに向けた計画を主務大臣が認定した上で、DXの実現に必要なクラウド技術を活用したデジタル関連投資に対して支援を行う)」というインセンティブを実施しています。

大きな費用が必要となるDXの促進に対して、国から出るインセンティブです。

参考記事:産業競争力強化法に基づく事業適応計画の認定(DX投資促進税制)|経済産業省

環境エネルギー・カーボンニュートラル

温室効果ガスの排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにする「カーボンニュートラル」についても経済産業省が資金援助という形のインセンティブを実施しています。

このインセンティブは「カーボンニュートラル実現に向けたトランジション推進のための金融支援」で、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みに対するものです。

CO2削減の取り組みを進める10年以上の計画を策定し、事業所管大臣の認定を受けた事業者へ、資金の貸し付けるという形のインセンティブです。

参考記事:カーボンニュートラル実現に向けたトランジション推進のための金融支援制度(利子補給事業等)|経済産業省

オープンイノベーション・研究開発

厚生労働省では、医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬の要望募集を行っています。こちらは、欧米などでは使用が認められているけれども、日本では未承認の薬に対するインセンティブという意味合いです。承認の要請から各要件を満たした未承認薬・適応外薬の開発に補助金や税額控除を行います。優先審査という、非金銭的インセンティブが導入されている点にも注目です。

参考記事:医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬の要望募集について|厚生労働省

もっと詳しく!インセンティブに関するおすすめ論文と要約

インセンティブに関するに関する論文や情報を要約して紹介します。

「確定インセンティブ」対「不確定インセンティブ」

セールスプロモーションにおける「確定インセンティブ」と「不確定インセンティブ」に関する研究の概要と、今後の研究の方向性について述べています。企業がセールスプロモーションでどのタイプのインセンティブを使用すべきかに関する意思決定を支援し、マーケティング研究者に対して、この分野でのさらなる研究を促しています。

  1. 確定インセンティブと不確定インセンティブ
    確定インセンティブは消費者が必ず報酬(例えばポイントや値引き)を獲得できる形態です。不確定インセンティブは報酬を抽選で獲得する形態です。
  2. 研究の歴史
    以前の研究では、リスク回避的な消費者の観点から、確定インセンティブが不確定インセンティブより好まれるとされていました。しかし、最近では不確定インセンティブに対する肯定的な研究が増えています。
  3. 研究の課題と方向性
    確定インセンティブと不確定インセンティブのどちらがより効果的かについての統一的な見解はまだありません。今後の研究では、消費者の行動を初回購買と反復購買に区別し、それぞれのインセンティブが有効な場合を特定することが望まれます。
  4. 新しい研究潮流
    確定インセンティブと不確定インセンティブを組み合わせた新しい形態のインセンティブに関する研究が求められています。例えば、一定の報酬を保証しつつ、追加の報酬を抽選で提供するような形態です。

出典:「確定インセンティブ」対「不確定インセンティブ」| J-STAGE

金銭的・非金銭的報酬とワークモチベーション

労働のモチベーションとしての金銭的報酬と非金銭的報酬の役割に関する経済学の視点を紹介しています。労働経済学の観点から、労働者のモチベーションに影響を与える金銭的および非金銭的報酬の重要性と複雑さを詳細に説明している論文です。

まず、伝統的な経済理論では、賃金が高いことが長時間働くためのインセンティブとして機能し、モラルハザードの状況では成果に応じた賃金の差が適切な努力を促すと説明されています。

次に、金銭ではなく現物支給が活用される理由について考察されています。現物支給は使途を限定する効果があり、動機付けの手段として問題があるが、労働者にとっての満足度が高く、企業にとっての提供費用が安い場合に活用されることが指摘されています。

また、金銭的報酬の限界として、マルチタスクや不適切な動機付けの問題、内発的動機を損ねる問題が指摘されています。最後に、非金銭的報酬として仕事から得られる経験や心理的な満足度が機能する点、そして金銭的報酬と非金銭的報酬をどう組み合わせるかに関する最近の研究が紹介されています。

具体的な例として、コンビニエンスストアでアルバイトする大学生のケースが挙げられ、労働の機会費用と労働時間の選択について詳細に説明されています。また、モラルハザードの状況における労働者の努力を引き出すための賃金設計の重要性が強調されています。

出典:金銭的・非金銭的報酬とワークモチベーション|独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)

監修者の編集後記-さまざまなインセンティブに目を向け、人の動機付けに活用しよう-

インセンティブは、社員や消費者の意欲を引き出すための「動機づけ」として広い範囲で導入されています。

どうしても「インセンティブ=金銭」というイメージがあるので、日頃から自分が得ているものがインセンティブだと気がつかない例も多いかもしれません。

インセンティブがどのような形であっても、人をプラスの方向に動かすきっかけとなる報酬や有利な条件の一つとして「インセンティブ」があるということも知っておきましょう。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。