レジリエンスの意味とは?ビジネスで重要な理由や高める方法、事例を紹介
この記事のポイント
- レジリエンスとは、自分にとっての逆境や試練から立ち直る心の力です。
- レジリエンスの高い人はメンタル不調になりにくい、低い人はなりやすいといった特徴を持ちます。
- 従業員個人だけでなく企業全体のレジリエンス向上の視点を持つことは、メンタル不調による休業・退職者を減らし、チーム全体の危機対応能力を高め、生産性を高めるために役立ちます。
目次
レジリエンスの意味とは?
レジリエンス(resilience)とは、自分にとっての逆境や試練から立ち直る心の力をさします。元々はラテン語由来の言葉であり「re(後ろに)+salire(跳ね返る)」つまりゴムボールのように、一時的なストレスが加わり形を変えて元に戻ろうとする現象を意味する物理学用語です。
1985年代にアメリカの発達心理学者であるエミー・ワーナーは、ハワイで生まれた子どもを対象に30年間にわたる追跡調査を行い、精神疾患に関するリスク・防御因子を明らかにする研究を行いました。そして、リスク因子にさらされながらも精神疾患を発症せず、健康さを維持する子どもが3人に1人いたことに着目し、精神的回復力をレジリエンスと名付けたそうです。
参考:レジリエンスとは|JREA 日本レジリエンスエデュケーション協会
レジリエンスとストレスの関係
逆境や試練には会社での業績悪化や挫折、プレゼン発表の緊張など、働くことにまつわるビジネスの場におけるさまざまなストレスが含まれます。その他にも、金銭・健康問題、対人関係などのストレスも該当します。
レジリエンスは上記のストレス以外にも、自然災害や交通事故といった命が脅かされるような出来事に対しても力を発揮するのが特徴です。命が脅かされるような体験により生じる精神疾患を心的外傷後ストレス障害(PTSD)と呼びますが、レジリエンスはPTSDを発症するか、それともトラウマを乗り越え精神的に成長するかを決める要因だといわれています。
参考:PTSDの病態研究|国立精神・神経医療研究センター 行動医学研究部
レジリエンスがビジネスで重要な理由
企業を取り巻くリスクのうち、ハラスメントや従業員のメンタル不調などの労務リスクの未然防止や適切な対処能力向上は企業の生産性にも関わる重要な課題です。
上記の課題を解消するためにも、従業員個人のセルフケア力を含むレジリエンスの向上は欠かせませんが、トラブルの未然防止対策の検討や従業員のフォロー体制づくりなど、企業のレジリエンス向上が求められる場面も多いといえます。
レジリエンスが高い人の特徴
平野真里氏(2010)の論文によると、レジリエンスを構成する因子は楽観性、統御力、社交性、行動力などの資質的レジリエンス因子と、問題解決思考、自己理解、他者心理の理解などの獲得的レジリエンス因子だといわれています。ここでは、レジリエンスが高い人の特徴を確認しておきましょう。
柔軟な考え方ができる
レジリエンスの高い人は、物事を柔軟な視点で捉えることが得意です。例えば、同僚に挨拶をしても返事がない場面でも「相手に何らかの事情があるのだろう」と考える傾向があります。そのため、決して自分が嫌われていると思い込むことはありません。
感情のコントロールができる
気持ちが落ち込んだりイライラしたりするときでも、すぐに自分の心身の状態に気づき、適切な行動をとることも、レジリエンスの高い人がもつ特徴の1つです。「何だか今日は気持ちが落ち込むな」と思えば、早めに帰宅し十分な睡眠をとる、湯船につかるなどの対処ができます。
困難なミッションにもチャレンジする
レジリエンスの高い人は、達成が難しそうだと感じるミッションを目の前にしても挑戦できる点が特徴です。目標を明確にし、達成まで段階を踏みスモールステップで捉えてチャレンジしていく力があります。
逆境にも落ち着いて対処できる
仕事上でミスやトラブルが生じた場合でも、過剰に自分を責めることなく落ち着いて対処ができることは、レジリエンスの高い人の特徴です。ミスやトラブルの原因を分析し、再発防止のための行動がとれます。
環境の変化にうまく対応できる
レジリエンスの高い人は、人事異動や転勤などの環境の変化にフットワーク軽く、上手に対処することが可能です。新しい人間関係を広げるのに物おじせず、変化を楽しみながら対応できます。
周りの人と信頼関係を築ける
上司や同僚などと適度にコミュニケーションをとり、必要に応じて専門家にも頼れることもレジリエンスの高い人の特徴です。人に頼ることを自分の力量不足とは捉えず、むしろ相談力があると捉えます。
参考: レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み,パーソナリティ研究,19(2),94-106,2010.|平野真里
レジリエンスが低い人の特徴
レジリエンスが高い人と比較すると、上記と反対の特徴を持つ人はレジリエンスが低いといえます。特に、レジリエンスが低い人は自己評価が低くネガティブ思考である、周囲とのコミュニケーションや挑戦を避けるなどの特徴がみられます。
「自分には無理」と早々に諦める
レジリエンスが低い人は「どうせ何をやっても自分はダメ」と思い込む傾向があり、あらゆる仕事への挑戦を諦めがちです。無力感も強く、諦め癖がついています。
失敗から立ち直るために時間がかる
失敗やミスに対して「あのときこうしていれば……」と後悔しやすく、ぐるぐる考え続けては落ち込むことが多いのも、レジリエンスが低い人の特徴です。失敗から立ち直るには、かなり時間がかかります。特に夜眠る前は、もんもんと考え続ける傾向がみられます。
自己評価が低く短所に目が行ってしまう
レジリエンスが低い人は自己評価が低く、自分の長所よりも短所に目が向きがちです。例えば、何でもそつなくこなせるとは考えず、自分には何の特技もないと捉えます。
周りの人と協力体制や信頼関係が築けない
職場の周囲の人と日常的な雑談やコミュニケーションをとることが苦手であり、また信頼したり頼ったりできないのは、レジリエンスが低い人の特徴です。自分を出すのが苦手であり、話しかけるきっかけを掴めません。
参考:大学生のレジリエンスがストレス過程と自尊感情に及ぼす影響,健康心理学研究,24(2),p33-41,2011.|齊藤和貴
組織のレジリエンスを高める方法
心理的安全性研究の第一人者であるハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン(2019)によると、組織のレジリエンスはメンバー間の意見や感情の表現、職務への没頭、知識・情報の共有といった変数の度合いによって決まるそうです。ここでは、組織のレジリエンスを高める方法を紹介します。
心理的安全性の高いチームを作る
心理的安全性とは、企業組織の中で自分の意見や気持ちを安全に表現できる状態をさします。
心理的安全性の高いチームを作るためには、年齢や役職、性別を問わず発言のできる機会を提供する、評価方法を見直す、チームのメンバー同士でコミュニケーションをとる際は、批判を避けて共感を意識するなどの方法が役立つといわれています。
全体でサポートする
従業員がひとりで悩みを抱え込まず、必ずチーム全体でサポートできる環境を整えることが大切です。人それぞれ得意不得意があるため、適材適所に仕事を割り振ることが抱え込み防止に役立ちます。
報連相を迅速に行う
問題があればすぐに情報を共有し、対処できるように報連相を迅速に行います。上司は日頃から話しやすい空気を作ることを、部下はささいなことでも好奇心を持って質問することを意識するようにします。
1on1を実施する
上司が定期的に1on1を設定することで、部下の悩みの解決や気づきによる成長をサポートできます。よりプライバシーの守られた場面となるため、部下が悩みや課題、考えなどを表明しやすい点が1on1のメリットです。
チャレンジ精神を促す
上司は適宜、仕事の裁量権を広げるといった方法をとり、若手の従業員が他者依存から自己主導へ成長するのを助けることが、チャレンジ精神を促すのに役立ちます。
レジリエンス経営とは?
レジリエンス経営とは、危機が訪れても柔軟に対処できるレジリエンスの高い企業の経営手法をさします。
レジリエンス経営を意識することにより、企業の危機管理やリスクマネジメント力が高まり、従業員の満足度が向上します。その結果、イノベーションや創造性を促進できるメリットが得やすいでしょう。
また、レジリエンス経営を進めるにあたり、近年コーポレート・レジリエンスの向上が注目されています。コーポレート・レジリエンスとは、組織が変化やリスクに適応し、逆境を乗り越えるための戦略やスキルをさします。
参考: コーポレート・レジリエンス向上の取り組み 第1回 企業のレジリエンス向上の取り組み|MRI三菱総合研究所
レジリエンス高める企業の取り組み事例
レジリエンスについて取り組んでいる企業の例を紹介します。
シナリオプランニングとOODA-Loop|ユニ・チャーム株式会社
ユニ・チャームはおむつや生理用品、ペット用品などの衛生用品を取り扱う大手メーカーです。ユニ・チャームは衛生用品に関連した一人ひとりの生活者の心と体の健康をサポートする企業を理念に掲げています。
具体的には女性のライフステージの変化を1つの危機として捉え、特に産休育休復帰前の悩みや心配の情報交換を増やし、女性が出産・育児に関わらず活躍できる人材育成のサポート体制の充実を推進しているのが特徴です。ソフィ休暇、ムーニーバースサポート休業制度など、女性の心身の健康を考慮した独自の休暇が設定されています。
参考:サステナビリティレポート2023|ユニ・チャームグループ
ダイバーシティ経営と未来シナリオ|キリンホールディングス株式会社
キリンホールディングスは、ビールや飲料の製造と販売を取り扱う大手飲料メーカーです。企業理念として、自然と人を見つめるものづくりで「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献することを掲げています。
キリンホールディングスは、従来のPDCAサイクルだけでは突然の環境変化に対応できないとし、ユニ・チャームも取り入れているOODA-Loopを取り入れています。OODA-Loopは変化が常態化した環境を想定し、状況判断や観察、決定、行動を通して危機的な環境変化に対応することを推奨しています。
参考:第3回 変化対応力を高める レジリエンス経営(前編)|知的資産創造 野村総合研究所(NRI)
もっと詳しく!レジリエンスに関するおすすめ論文と要約
この論文は、中堅・中小企業が直面するリスクマネジメント能力とレジリエンス(復元力)の源泉に焦点を当てています。特に、新型コロナウイルスの影響に注目し、中堅・中小企業の多くが経験する倒産や廃業のリスクについて詳細に分析しています。2018年の中堅・中小企業の倒産及び休・廃業件数が約55,000件に上ったことが示され、これをソーシャルリスクの一例として挙げています。
論文は、倒産や大災害からの回復力(レジリエンス)の事例として、池内オーガニック、酔仙酒造、埼玉イーグルバスの3社を詳細に分析しています。これらの事例は、危機に直面した企業がどのようにして復元力を発揮し、再び成長軌道に乗せることができたかを示しています。特に、これらの企業が直面した困難、それに対する戦略、および復元に至るまでのプロセスが詳細に説明されています。
論文は、レジリエンス力を高めるために必要な要素として、リスクの直視、企業理念の持続、柔軟な思考と戦略、そして困難な状況下で経営者を支える要因(エンドユーザーの声や地域住民の支持など)を挙げています。これらの要素が適切に組み合わさることで、企業は危機を乗り越え、持続的な成長を達成することができると結論付けています。
最後に、論文はビジネス・レジリエンスのマネジメントプロセスを提案し、企業が危機に対応し、社員や関係者の幸福感を高める方法についての具体的なガイダンスを提供しています。これにより、中堅・中小企業が未来のリスクに対応するための重要な洞察を得ることができます。
出典:商工総合研究所「事例にみる中堅・中小企業のリスクマネジメント能力の源泉とレジリエンス力のマネジメント・プロセス」
レジリエンスの築き方に関する考察
本論文は、「レジリエンス(回復力・適応力)の築き方」に関して、その概念、用語の起源、多様な分野での使用例、そしてレジリエンスを高める方法について詳細に分析しています。レジリエンスは、外力による影響から元の状態に戻る力、または困難から立ち直る力として定義されています。この概念は元々物理学から来ており、現代では生態学、心理学、社会経済など多くの分野で使用されています。
論文は、レジリエンスの様々な側面を掘り下げ、個人や組織がレジリエンスを高めるために必要な要素を探求しています。災害復旧のプロセスや精神医学におけるトラウマへの対処、レジリエンスエンジニアリングのアプローチなどが例として挙げられています。レジリエンスを高めるためには、抵抗力の強化、適応力の維持、新たな均衡への移行が重要であると指摘しています。
総じて、この論文はレジリエンスの重要性と、それを高めるための多角的なアプローチを提供しています。これは、困難な状況に直面した際の個人や組織の回復力や適応力を理解し、それを強化するための具体的な指針を提供しています。
出典:CORE – Aggregating the world’s open access research papers「レジリエンスの築き方に関する考察」
監修者の編集後記 -レジリエンスについて-
レジリエンスの高い人は、物事の捉え方が柔軟で感情コントロールができる、困難な課題にも挑戦でき、環境の変化に対応しながら周囲の人と協力関係が作れるといった特徴を持ちます。
また、レジリエンスの高い企業は、チームの心理的安全性が高いために報連相や1on1が活発で、社員のチャレンジ精神を応援し支えられる環境といった特徴がみられます。
近年、ユニ・チャームやキリンホールディングスは、危機的状況に柔軟に対応できる、レジリエンスの高まる企業経営に力を入れています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。