傾聴とは?意味や使い方、職場で活用するメリット、トレーニング方法

この記事のポイント

  • 傾聴とは、相手の言葉に注意深く耳を傾け、その内容を深く理解しようと努めるコミュニケーション方法です。ただ話を聞くだけでなく、相手の身になった上で、気持ちや考えを理解する態度で聞くことです。
  • 職場においても、信頼関係の構築や円滑なコミュニケーションの促進に役立ちます。
  • 共感的な理解や肯定的な関心、自己受容といった態度が重要で、ロールプレイを通して実践的に身につけられます。

傾聴とは?

傾聴とは?意味や使い方、職場で活用するメリット、トレーニング方法

傾聴とは、相手の話に関心を持って積極的に耳を傾けるコミュニケーション技法です。ただ聞くのではなく、聞き手の評価を加えずに、相手の立場に立って理解する姿勢を指します。

元々はカウンセリングの基本技法でしたが、現在はビジネス場面でも効果的なコミュニケーションとして注目されています。特に、管理職が従業員との信頼関係の構築を目指す上で重要です。傾聴の定義について、関連する用語との違いから具体的に解説します。

「聞く」「訊く」「聴く」との違い

相手の話を「きく」という言葉には、以下のように3つの意味があります。

  • 聞く:相手の言葉や音を耳で感じとる
  • 訊く:相手が答えたくない情報でも尋ねる
  • 聴く:心を込めて相手の話を理解しようと耳を傾ける

傾聴は「聴く」姿勢を重視します。相手の話を受身的に聞くのではなく、「何を伝えようとしているか」に注意して聞く姿勢です。また、問い詰めず、相手の言葉を待つようにして聞く姿勢を重視します。

参考:傾聴の基本的態度|こころの耳

「共感」との違い

共感とは、相手が抱いた喜怒哀楽の感情を相手の身になって感じることで、相手への「理解」を指します。一方で、傾聴は「関わり方」をあらわす言葉です。

ただ、傾聴する上では、共感が欠かせません。相手がどのような感情を抱いたのかに関心を持って話を聞き、共感を示すことで、信頼関係が構築されます。

傾聴が使われる場面

傾聴は、信頼関係を築くために効果的なコミュニケーション技法です。どのような場面で傾聴が必要となるのでしょうか。

カウンセリングや看護

カウンセリングでは、カウンセラーが相談者の悩みやつらい気持ちに寄り添って解決に導きます。看護の現場では、患者の不安定な精神状態を落ち着かせ、安心して治療に専念できる状態へと導くために傾聴が重要です。

ビジネスの交渉

ビジネスの交渉では、顧客ニーズの本質を理解した提案を行うために傾聴が必要です。話をよく聞くことで、顧客との信頼関係構築につながり、本質的なニーズを把握できます。

チームワークの強化

傾聴を意識したコミュニケーションは、チームワークの強化にもつながります。一人ひとりの意見や提案が尊重される雰囲気が醸成され、チームに対する愛着が生まれ、結束力が高まります。

教育や指導

部下に対する教育や指導にも、傾聴を活用できます。叱るのではなく、「できない理由を一緒に考えよう」という姿勢を示すことで、部下は自分で考えやすくなります。

家庭内のコミュニケーション

家族との会話においては、よく知っている間柄だからこそ、先入観が入りやすい場合があります。家庭内においても傾聴を意識し、相手の立場に立って話を理解する態度が重要といえるでしょう。

傾聴のやり方

傾聴を意識した聞き方とは、どのように実践すればよいのでしょうか。具体的には「耳」「目」「心」の3つで聞く意識を持つとよいでしょう。

耳できく

相手の言葉だけでなく、声のトーンや大きさなどの非言語的なメッセージにも注意を払います。声のトーンが高くなれば同じトーンでうなずいたり、声が小さければ黙ってみたりするなど、変化に応じて対応するとよいでしょう。

目できく

相手の方に視線を向けて話すことで、「自分の話に関心を持ってくれている」という安心感につながります。また、相手の表情やジェスチャー、視線の動きからも、言葉では表現できない感情を読み取ります。

言葉にならない部分に配慮し理解することで、相手は安心して深い感情を表現でき、信頼関係が強固になるでしょう。

心できく

相手の考えや感情を「心」で理解するために、相手の身になって共感します。自分の感じ方は一度脇に置き、相手が感じた内容をありありと想像しながら受け止めます。

想像しにくい場合は、「自分だったらどう思うか?」とイメージしてもよいでしょう。その上で、自分と相手との感じ方のギャップがあれば、質問してみます。関心を持った質問であれば、相手から否定とは受け取られず、安心感につながるでしょう。

傾聴を職場で活用するメリット

傾聴は、職場においても対人関係の構築に有効な方法です。具体的なメリットについて解説します。

信頼関係を築きやすい

自分の話を否定せず真剣に聴いてもらえることで、「何を話しても否定されない」という安心感を得られるでしょう。否定される心配をせず、本音を話せる関係性が従業員間に築かれます。

業務が円滑に進む

傾聴を心がける意識が従業員に根付くと、信頼関係が強固になります。その結果、互いに協力し合うチームワークが形成され、業務が円滑に進みやすくなります。

また、傾聴によって自己表現に対する安心感が高まり、積極的な意見交換が生まれます。既存のやり方を変化させようとする動きも活発になり、業務効率を改善しやすくなるでしょう。

相手の立場や自己理解が深まる

傾聴を重視したコミュニケーションは、自己理解にも役立ちます。相手から否定されず傾聴してもらうことで、考えや思いが整理され、客観的に理解できます。

また、話を傾聴することで、相手の立場を客観的に理解する力も得られるでしょう。相手の発言の意味や思いを冷静に捉えられるため、感情的な言動が減り、職場の人間関係が良好になります。

傾聴で大切にしたい3つのポイント

傾聴を意識するためには、アメリカの心理学者カール・ロジャーズが提唱した3つの態度を意識するとよいでしょう。ロジャーズは、カウンセリング効果があった事例を分析し、カウンセラーが以下の3つの態度を持つことが重要だと考えました。

  • 共感的理解:相手の気持ちに共感・理解しようとする
  • 無条件の肯定的関心:相手の価値観や人格を否定しない
  • 自己一致:ありのままの自分を受容する

傾聴を意識した関わりにおいても、3つの態度を重視すると効果的なコミュニケーションにつながります。3つの態度について具体的に解説します。

参考:傾聴とは|こころの耳

相手の気持ちに共感・理解しようとする

相手の立場になったかのように、共感しながら聞く態度が傾聴には求められます。そのためには、相手が気持ちや考えを抱くに至った経緯を想像する必要があります。

例えば、「仕事でミスをして落ち込んでいる」と相談され、「落ち込んでいるのですね」とだけ返すのは真の共感とはいえません。仕事のミスがどれほど落ち込みにつながる体験なのか、相手の身になってイメージする姿勢が大切です。

相手の価値観や人格を否定しない

善悪や好き嫌いなど、自分の主観的な評価を入れずに相手を理解しようとする態度です。主観的な評価は、相手にとって決めつけられているように感じ、話しにくくなります。

相手が自分とは異なる価値観や人格を持っているものだと理解し、その存在に関心を寄せて聞くことが大切です。相手は「自分に関心を向けてくれている」と実感し、安心して話しやすくなるでしょう。

ありのままの自分を受容する

傾聴するときには、自分の感じ方を大切にする態度も重要です。話を聞いていると、「どういう意味だろう」と疑問を抱くものの、話を中断してはいけないと考え質問できない場合があります。聞き役に徹しようとするあまり、ありのままの感情を抑圧してしまうのです。

感じたことを抑圧するのではなく、率直に質問する態度が相手にとっては安心感を与えます。自分の感覚をありのまま受容し、実行する真摯な姿勢が相手に伝わるからです。話の中でわからない内容があれば関心を持って聞き直すとよいでしょう。

傾聴のトレーニング方法

傾聴を実践するには、話を聞く姿勢やマインドを身につけた上で、トレーニングを行うことが必要です。職場においては、研修でロールプレイを取り入れて実践するとよいでしょう。

ロールプレイ研修は、4~6人のグループ単位で「話し手」「聞き手」「オブザーバー(観察者)」など役割分担を決めて行います。話し手が実際の出来事を話し、オブザーバーは聞き手を観察し、フィードバックする役割を担うのが一般的な流れです。

ロールプレイを行う際に意識したい、代表的な傾聴技法のポイントを解説します。

参考:傾聴練習の進め方2|こころの耳

相手への関わり方

アイコンタクトやボディランゲージなどの聞き手側の非言語的な態度は、相手との信頼関係を構築する上で基盤となる要素です。具体的には、以下のポイントを押さえて傾聴できているか、オブザーバーが観察するとよいでしょう。

関わりの例よい例悪い例
アイコンタクト「話を聞いている」態度が伝わるような自然な視線相手を凝視する
ボディランゲージやや前かがみの姿勢
リラックスした表情
腕組みをする
眉間にしわを寄せる
声の調子相手の調子に合わせるゆっくり話しすぎる
甲高い声、早口で話す
うなずき「うん、うん」「そうなんですね」と相槌を打つ黙って話を聞く
相槌を打ちすぎる
はげまし「それで?」という言葉や相手の言葉を繰り返して語りを促す何もいわない

質問

話の理解を深めるためには、適切な質問技法の習得が大切です。質問は、以下のように開かれた質問と閉じられた質問に分類されます。自分から話さない相手に対して、閉じられた質問を多用すると詰問している印象を与えかねません。

相手に合わせてバランスよく質問できているかを意識すると、傾聴テクニックの上達につながります。

質問方法
開かれた質問
(オープンクエスチョン)
「どうやって?」「何を?」「どうして?」
「それについて詳しく教えてください」
閉じられた質問
(クローズドクエスチョン)
「仕事の進捗度は問題ないか」
「○○は好きか」

「いいかえ」と「要約」

相手が話した内容の本質や背景を適切な言葉でまとめる傾聴技法です。「いいかえ」は、「仕事が忙しくて困っているんです」という悩みに「それは大変な状況ですね」と伝えたい内容を表現します。

「要約」は、語られた内容をまとめて伝え返すことです。例えば、「仕事が忙しい」「でも成長のためにやり遂げたい」「自分にできるか不安」といった思いが語られたとしましょう。「仕事が忙しい状況で大変。成長のためにやり遂げたいけど、自分にできるか不安に思っているのですね」と返すのが要約です。

いいかえと要約は、相手の気持ちや考え方を整理しながら話を前に進めていくための方法といえます。声のトーンや表情などを含めて、どこが相手にとって大事なポイントかを見極めた上で行うとよいでしょう。

感情の反映

感情の反映は、相手の言葉や表情、態度から感じ取った感情を言葉にして返す技法です。例えば、目標を達成できなかった部下が、「次は絶対に達成します」といいつつ、不安げな表情を浮かべていたとします。

「やる気があって努力家だな」と捉えるのではなく、不安な表情を捉えて伝え返すのが感情の反映です。「不安な気持ちがあるように見えるけど、少し詳しく教えてもらってもいい?」と質問し、相手の感情表現をサポートします。

もっと詳しく!傾聴に関するおすすめ論文と要約

傾聴をどう学ぶか ― 上智大学グリーフケア研究所での経験から

この論文は、上智大学のグリーフケア研究所における傾聴者養成プログラムとその効果について述べたものです。

研究所では、小グループで互いに傾聴し合うことで、参加者の自己理解を深めるとともに、他者への傾聴力を鍛えています。具体的なプログラムとしては、自己理解を深めるためのグループ活動や、傾聴力を高めるための実践的な練習が行われています。

その結果、参加者は自己理解を深め、他者への傾聴力を向上させることができたと報告されています。

この論文は、効果的な傾聴者養成の方法を示しており、傾聴力を高めたい人にとって大変参考になるでしょう。

参考:傾聴をどう学ぶか ― 上智大学グリーフケア研究所での経験から

患者の声を聴くコミュニケーションスキル

この論文では、医療従事者が患者の声を聴く際に重要なコミュニケーションスキルとして、「傾聴」が強調されています。

傾聴とは、患者の内面的・感情的な側面を深く理解するためのスキルで、患者との信頼関係の基礎となります。具体的には、相手の言葉や表現に集中して耳を傾け、誠心誠意聴くことを意味します。

傾聴することで、患者は自分の苦悩を表出できるようになり、徐々に落ち着きを取り戻すことができます。さらに、患者が「ここでは聴いてもらえる」「この人には理解してもらえる」と感じることで、信頼関係の構築にもつながります。

このように、傾聴は患者の声を聴く上で非常に重要なコミュニケーションスキルであり、患者の信頼や心の安定化など、さまざまな効果が期待できます。

参考:患者の声を聴くコミュニケーションスキル

監修者の編集後記-傾聴について-

傾聴とは、相手の話に真摯に耳を傾け、共感的に理解しようとするコミュニケーション技法です。職場においては、信頼関係の構築や円滑なコミュニケーション促進にも役立ちます。また、チームワークが強固になり、業務がスムーズに進むようにもなるでしょう。

傾聴を実践するには、ロジャーズが提唱した3つの態度が大切です。ロールプレイを通して実践していく機会を設け、従業員の傾聴スキルの向上を図りましょう。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。