最低賃金とは?地域別一覧や確認方法、賃金引き上げの企業事例を解説
この記事のポイント
- 最低賃金とは、最低賃金法によって定められた労働者に支払うべき賃金の最低額です。
- 最低賃金は、労働者の生活の安定のために定められた額であるため、一定の例外を除いて下回ることを許されません。
- 最低賃金は、日給や月給などの給与支払い方法によって確認方法が異なります。また、最低賃金の計算から除外される手当など、給与を支払う際には、最低賃金に注意しなければなりません。
目次
最低賃金とは?
最低賃金とは、最低賃金法により定められた労働者に支払うべき給与の最低額です。原則として時間により定められ、一定の例外を除いて下回ることが許されません。
最低賃金には2種類ある
最低賃金には、「地域別最低賃金」「特定最低賃金」の2種類が存在します。
地域別最低賃金は、都道府県ごとに定められており、特定最低賃金は特定の産業ごとに定められています。
特定最低賃金は、地域別最低賃金を上回っていなければならず、北海道や青森県の鉄工業などが設定された産業の一例として挙げられます。また、奈良県における木材製造業などのように、特定最低賃金が日額で定められている場合もあります。
最低賃金が適用される対象者
最低賃金は、原則として全ての労働者に適用されます。しかし、使用者が次の者を使用する場合に都道府県労働局長の許可を受けたときは、労働能力等を考慮して定めた減額率により減額した額を最低賃金額とします。
- 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
- 試みの試用期間中の者
- 一定の認定職業訓練を受ける者
- 軽易な業務に従事する者
- 断続的労働に従事する者
地域別最低賃金の全国一覧
地域別最低賃金は、都道府県ごとの生計費や賃金、事業の賃金支払い能力などを考慮して決定されます。以下は、令和5年度における地域別最低賃金の一例です。
- 北海道:960円
- 岩手県:893円
- 栃木県:954円
- 東京都:1,113円
- 石川県:933円
- 愛知県:1,027円
- 大阪府:1,064円
- 広島県:970円
- 香川県:918円
- 福岡県:941円
- 沖縄県:896円
最も高い額は、東京都の1,113円となり、最も低い額は岩手県の893円となっています。また、全国加重平均額は1,004円となっており、政府目標の1,000円を超える結果となっています。なお、全国の地域別最低賃金は、次のページで確認してください。
最低賃金以上かどうか確認する方法
支払われた報酬が最低賃金を下回っていないか確認する方法は、支払い方法によって異なります。下回ることは許されないため、しっかりと確認することが必要です。
①時給制の場合
最低賃金は、原則として時間によって定められています。そのため、時給制の場合であれば、そのまま最低賃金以上の時給であるか否かで判断可能です。
②日給制の場合
日給の場合では、以下の式で求めた数字が最低賃金以上であることが必要です。
ただし、「日額が定められている特定最低賃金」が適用される場合には、日給が最低賃金(日給)以上であることが必要となります。
③月給制の場合
月給制の場合には、以下の式で最低賃金以上であるかを確認可能です。
なお、1か月平均所定労働時間は、以下の式で計算できます。
(365日-1年の休日合計日数)×1日の所定労働時間÷12か月
④出来高払いや請負制の場合
出来高払いや請負制の場合、まずは賃金計算期間における賃金総額について、出来高払いや請負制により労働した総時間数で除すことで時間当たりの金額を求める必要があります。そして、計算して求めた時間当たりの金額が最低賃金以上であれば、問題ありません。
①~④の組み合わせの場合
日給制と月給制など、複数を組み合わせる場合には、それぞれ時間当たりの額を求め、合計額で判断します。たとえば、日給制を基本として職務手当等の諸手当が月給制であれば、それぞれ②、 ③の式により時間額を求め、それを合計した額と最低賃金を比較します。
最低賃金についてのよくある質問
最低賃金法は、労働者にとって重要なだけでなく、給与を支払う使用者にとっても重要な法律です。本項では、最低賃金についてよくある質問をまとめました。
見なし残業の場合は最低賃金に入る?
みなし残業制による固定(みなし)残業代は、最低賃金の計算に含まれません。みなし残業制を採用している場合には、基本給を時間当たりの金額に換算し、最低賃金に違反していないかを判断します。固定(みなし)残業代は、考慮されません。
手当や賞与などは最低賃金に含まれる?
手当や賞与などは、最低賃金の計算の基礎に含まれません。以下に挙げる賃金は、最低賃金の対象となる賃金から除外し、除外された額が最低賃金の額以上であることが必要です。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 時間外割増賃金
- 休日割増賃金
- 深夜割増賃金
- 精皆勤手当
- 通勤手当
- 家族手当
派遣労働者の最低賃金は?
派遣労働者については、派遣先の所在地における地域別最低賃金が適用されます。また、特定最低賃金については、派遣先における同種の職業に適用される額が適用されます。
最低賃金を守らないとどうなる?
地域別最低賃金を下回る給与を支払っている場合には、最低賃金法により50万円以下の罰金が予定されています。また、特定最低賃金が適用される労働者に、特定最低賃金額以上の賃金を支払わない場合には、労働基準法により、30万円以下の罰金が科される恐れがあります。
日本の最低賃金が低い理由は?
日本の最低賃金が低い理由には、規模の小さい中小企業が多いことが挙げられます。規模の小さな企業は、最低賃金の引き上げに対応しづらいことが考慮されている形です。他にも、人手不足の産業(医療・福祉等)は、介護報酬などが定められており、賃上げしづらいという点も理由となるでしょう。
中小企業の最低賃金に関する調査
資力に乏しい中小企業は、最低賃金の引き上げによって大きな影響を受けます。日本商工会議所と東京商工会議所による「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」では、令和4年10月に行われた最低賃金引上げに伴って、実に40.3%の中小企業が最低賃金を下回ったことによる賃上げを実行したとのデータが示されています。
このデータが示すことは、40%以上の中小企業は、最低賃金付近の賃金しか支払っていなかったという結果です。いかに最低賃金の引き上げが中小企業に影響を与えるかわかる結果となるでしょう。
また、引き上げを行った従業員の属性では、パートタイム労働者が72.4%で最多となっています。この結果からは、最低賃金で働くパートやアルバイトが中小企業を支えていることがうかがえます。
同調査では、令和5年の引き上げ額が40円となった場合の対応について、製品・サービス価格の値上げを挙げる企業が、31.6%で最多となっています。このことから、引き上げによる影響は、中小企業に対してのみではなく、消費者にも及ぶことがわかるでしょう。
参考:最低賃金および中小企業の 賃金・雇用に関する調査|日本商工会議所・東京商工会議所
賃金引き上げに取り組んだ企業事例
賃金の引き上げは、企業にとって大きな負担となります。そのため、引き上げに躊躇する企業がほとんどでしょう。しかし、賃上げを行うことは、人材確保などの面でプラスの効果も発揮します。
賃金を安定させ、企業理念を実現するための人材を確保|株式会社バンダイ
株式会社バンダイでは、賃金を安定させることで、企業理念を実現するための人材確保につなげています。同社では、それまで業績と連動した賞与と連動しない固定給を支給していました。しかし、給与全体に占める賞与と固定給の割合が半々となっているなど、給与額が業績に左右される報酬体系となっていました。
業績に左右される報酬体系では、社員は安心して働けず、また同社の理念である「同魂異才」に沿う人材も確保できないとして、令和4年4月より報酬体系の変更を行っています。基本給の向上を伴う安定した報酬体系への変更という同社の取り組みは、社員のモチベーションアップや、採用競争力向上へとつながっています。
参考:株式会社 バンダイ – 賃金引き上げに向けた取組事例|厚生労働省
大手並みの基本給賃上げで人材確保に取り組む|菊池建設株式会社
総合建設業を営む菊池建設株式会社は、資本金9,000万円、社員数140名の企業で大手建設会社ではありません。しかし、大手並みの賃上げを行うことで、人材確保に取り組んでいます。同社では、利益よりも人材確保を優先しており、採用活動強化のために基本給の見直しを行っています。
同社では賃上げを先行投資と考え、基本給の引き上げを行っています。それだけでなく、時間外労働によらない恒常的な賃上げも目指しています。このことは、2024年に予定される建設業に対する時間外労働の上限規制適用への対応となるだけでなく、人手不足が続く建設業における人材確保にもつながるでしょう。
参考:菊池建設株式会社 – 賃金引き上げに向けた取組事例|厚生労働省
巣ごもり需要の高まりによる業績アップと助成金活用による業務改善により、賃金を引上げ|株式会社アサダヤコーポレーション
食品製造業である株式会社アサダヤコーポレーションは、コロナ禍による巣ごもり需要で業績を向上させました。同社では、業績向上を背景とした賃上げによって人材確保を図っています。
同社では、パートタイム従業員の新規雇用を予定しており、そのために周辺企業に対抗できる賃金水準を備える必要がありました。また、助成金活用によって設備投資を行い、生産性を向上させることで賃上げの原資としています。
生産性の向上により得た利益を積極的に従業員に還元し、更なる賃上げを目指す同社は、従業員にとって働きやすい環境を構築しているといえるでしょう。
参考:株式会社アサダヤコーポレーション – 賃金引き上げに向けた取組事例|厚生労働省
もっと詳しく!最低賃金に関するおすすめ論文と要約
最低賃金に関する論文を要約して紹介します。
全国平均1000 円超時代の最低賃金の在り方 ―欧州の事情を参考にした5つの提案
2023年の日本における最低賃金の在り方に関する提案と分析をしている論文です。
全国最低賃金を40円引き上げ、1000円台に乗せることです。これは過去の引き上げ率と比較して高めですが、インフレ率を考慮すると妥当とされています。また、英国の「低賃金委員会」をモデルに、専門委員会を組成し、ファクト収集の体制を整備することで、政策決定の透明性を高め、労使間の合意を促進することが提案されています。
ほかにも、インフレ経済への移行、人手不足の深刻化、労使間の不協和音など、変化する経済環境の中で最低賃金制度をどのように適応させるかに焦点を当てています。また、中小企業の支払い能力と家計所得の底上げのバランスを考慮しつつ、経済好循環を生み出すことを目指しています。
出典:全国平均1000 円超時代の最低賃金の在り方 ―欧州の事情を参考にした5つの提案|株式会社日本総合研究所
最低賃金は日本において有効な貧困対策か?
この研究は、最低賃金労働者の定義と特徴、および最低賃金の引き上げが労働市場に与える影響について深く掘り下げています。
最低賃金労働者の特徴に関しては、低学歴層、特に中学や高校卒業者に多く見られること、また若年層と60歳以上の高齢労働者にも多いことが明らかにされています。性別では女性労働者の割合が高く、地域別では沖縄や青森などが高い割合を示しています。産業別では卸売り・小売り、飲食店・宿泊業に多く、これはパート労働者やアルバイトの増加に関連していると考えられます。
最低賃金の引き上げによる影響については、特に10代の男性と中年の既婚女性の就業率に負の効果があることが指摘されています。また、高校生の就業状況にも影響を与えており、最低賃金の引き上げが労働市場に複雑な影響を及ぼしていることが示されています。
総合的に見ると、最低賃金の引き上げは貧困対策として一定の効果を持つものの、その効果は限定的であることがわかります。そのため、研究者たちは勤労所得税額控除(EITC)のような代替政策を提案していますが、これらの政策も副作用を考慮する必要があると指摘しています。
出典:最低賃金は日本において有効な貧困対策か?|独立行政法人経済産業研究所
監修者の編集後記-最低賃金について-
最低賃金は、労働者の安定した生活のために欠かすことのできないものです。最低賃金を下回る賃金を支払っているような場合には、罰則を科されたり、社会から厳しい目で見られたりすることになるでしょう。そのため、使用者は給与が最低賃金を下回っていないか、しっかりと確認しなければなりません。その際には、ぜひ当記事を参考にしてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。