公認心理師監修!自己顕示欲の意味や承認欲求との違いを簡単に

この記事のポイント

  • 自己顕示欲とは、「周囲から認められたい」「目立ちたい」という他人からの注目を求める欲求です。
  • 承認欲求は、自己顕示欲に似ていますが、「悪く思われたくない」という受け身な側面を含みます。一方で、自己顕示欲は自分のアピールを中心とした欲求です。
  • 自己顕示欲の男女差は、一貫した傾向が示されていません。主に親との関わりで形成された価値観が影響しており、自己顕示欲の強さには個人差があります。

自己顕示欲(じこけんじよく)の意味とは?

自己顕示欲の意味や承認欲求との違いを簡単に【公認心理師監修】

自己顕示欲とは、周囲から注目を浴びたい、認められたいという欲求のことを指します。自分の能力や長所をアピールすることで、他人よりも目立ち、褒められることを求めるものです。

例えば、自分の話をしがちであったり、大胆な行動で注目を浴びようとしたりする行動は自己顕示欲が強いと考えられます。自分をよく見せて、人からの評価を高く維持することを目的とした欲求だといえるでしょう。

自己顕示欲と承認欲求の違い

自己顕示欲と似た意味を持つ言葉として、承認欲求があります。いずれも、人から認められることを求める欲求ですが、どのような違いがあるのでしょうか。

承認欲求は、「人からよく思われたい」という欲求に加えて、「悪く思われたくない」といった受け身な側面も含んでいます。一方で、自己顕示欲は他人に対してアピールする積極的な側面が強調された欲求だといえるでしょう。

承認欲求と自己顕示欲の共通点、異なる点について具体的に説明します。

共通点:他人から評価されたいという欲求である

承認欲求が自己顕示欲と共通しているのは、「他者からよい評価をされたい」という点です。承認欲求のうち、賞賛獲得欲求とよばれる側面であり、ポジティブな評価を積極的に求める傾向といえます。

自己顕示欲も、自分をアピールすることで「素晴らしい」「優秀だ」などの評価を受けたいという欲求です。意識や興味の対象が他人に向いているところが似ているといえるでしょう。

異なる点:人から悪く思われたくないという欲求も含む

承認欲求には「人から悪く思われたくない」という拒否回避欲求も含まれます。拒否回避欲求が高いと、「意見を言っても反感を持たれないか」「目立つと嫌われるのではないか」と心配しやすくなります。その結果、消極的な態度をとりやすくなるでしょう。

自分をアピールし、目立つ行動を取ろうとする自己顕示欲とは異なる側面だといえます。

自己顕示欲の過多症とは?

自己顕示欲が強すぎると人間関係上のトラブルや気分の落ち込みにつながりやすいでしょう。自己顕示欲が過多な場合、具体的にはどのような支障をきたすことがあるのでしょうか。

競争意識が強く、自慢が多い

自己顕示欲が高まると、競争意識の強さにつながりやすいでしょう。競争意識が強いと、「人よりも優れていたい」と思うあまり、自分の優位性を周囲に見せつけようとします。例えば、仕事の成功談や知り合いの数を自慢するようなことです。

また、「人に負けたくない」という思いから、相手をあまり肯定しない傾向も見られます。よいと思える相手の意見でも、「いや、でも……」と否定し、自分の正しさを主張しようとします。

周囲の人に対して自慢や否定ばかりしていると、距離をとられて孤立してしまう可能性があるでしょう。

よく見せるために嘘をつく

自己顕示欲が強いと、嘘をついて実際の自分よりもよく見せようとする傾向があります。本来の自分を見せてしまうと、評価されないのではないかと考えて、自分を偽ってしまうのです。

嘘を繰り返していると、周囲からは「信頼できない人だ」「本心ではどう思っているか分からない」と不信感を抱かれます。

他人の評価に縛られてしまう

自己顕示欲が極端に高いと、他人の評価だけを基準にして行動することが多くなります。そのため、他人に認められなかった場合には、落ち込んだり、怒りを抱いたりしやすいでしょう。

また、自分の軸で評価できずに「自分は何がしたいのか」と目的を見失ってしまうかもしれません。努力している意味が分からなくなり、気持ちが塞ぎ込んでしまう可能性があります。

自己顕示欲の強さに男女差はある?

自己顕示欲の強さには、性別によって差があるのでしょうか。承認欲求のうち、自己顕示欲に近い賞賛獲得欲求を扱った研究では、性差が見られることが示されています。しかし、一貫した傾向は見られていません。そのため、自己顕示欲の強さは、育ってきた環境や個人の価値観によって形成されるものだと考えるほうが適切でしょう。

では、どのような原因によって自己顕示欲が強くなるのでしょうか。

自己顕示欲が強い人の原因

「ありのままの自分を認められない」という自信のなさが、自己顕示欲が強くなる主な原因だといえます。本来の自分の姿を見せると評価されないのではないかと考え、嘘をついたり、ポジティブな面を強調したりするのです。

自分を認められない背景には、「自分は有能な存在でいないといけない」という価値観が影響している場合があります。こういった価値観は、子どものころに親との関係で形成されたものであることが多いでしょう。

具体的には、子どものころに親から褒め言葉をあまりもらえなかった体験が影響しています。子どもは大人に比べると自信に満ちあふれた存在です。そして、自信にあふれた姿を親に受け止めてもらうことで満たされ、適度な自信になります。

しかし、「認めてくれなかった」という体験を大人になってからも引きずると、ずっと他人の評価を求め続けてしまうのです。

自己顕示欲が強いことにはメリットもある!

自己顕示欲が強すぎると、周囲から距離を置かれてしまう可能性がありますが、メリットもあります。自己顕示欲が強い人は、負けず嫌いで高い向上心を持っていることが長所の一つです。目標達成のためのエネルギーを持ち、努力を惜しみません。

そのため、適度な自己顕示欲の強さは、目標達成や社会的成功に役立つ性質だといえるでしょう。

【チェックリスト】自分は自己顕示欲が強い?

では、具体的にはどのような性格だと自己顕示欲が強いといえるのでしょうか。以下のチェックリストは、自己顕示欲が強い人の特徴です。当てはまる項目があるかどうか、自分でチェックしてみましょう。

  1. 周りから注目されたい
  2. どんなことでも、他の人よりも目立ちたい
  3. 人に自分の体験を話すことが好き
  4. 自分のことを話題にしてほしい
  5. グループの中でリーダー役を引き受けたい
  6. 他の人と違う服を好んで着る
  7. コンテストや大会で入賞したい
  8. 有名な人と知り合いたい
  9. 自分のことを認めてくれないと不満に思う
  10. ちやほやしてほしいほうだ

もっと詳しく!自己顕示欲に関するおすすめ論文と要約

自己顕示欲に関する論文や情報を要約して紹介します。

承認欲求についての心理学的考察

この論文は、現代の若者の承認欲求とSNSの関連について心理学的な視点から考察しています。主なポイントは以下の通りです。

  1. 承認欲求の概念承認欲求は賞賛獲得欲求と拒否回避欲求の二つの側面から研究されています。現代の若者は、他人を傷つけず、傷つけられないように配慮しながら友人関係を維持しています。
  2. 親子関係と承認現代の親子関係は「無条件の承認」と「条件付きの承認」を併せ持っているとされ、子供たちは親の期待に応えようとする中で、自己受容の不安を感じることがあります。
  3. SNSと承認欲求SNSは若者にとって承認欲求を容易に満たす手段となっています。SNS上での「いいね」やフォロワー数は、承認されているという直接的な感覚を与えます。
  4. 現代における承認の特徴現代社会では、承認の基準があいまいになっており、多様性が重視されます。若者は、SNSを通じて容易に承認を得ることができますが、リアルな社会では承認の基準が不明確であり、不安を感じることがあります。
  5. SNSの役割SNSは、リアルな社会とは異なり、承認を得やすい環境を提供します。ユーザーは自己の良い面を強調し、拒否的な反応を最小限に抑えることができます。
  6. 結論現代の若者は、SNSを通じて容易に承認を得ることができますが、それはしばしば条件付きであり、本当の自己受容には至らない場合があります。SNSは承認欲求を満たす手段として機能しますが、リアルな社会での承認との間には大きなギャップが存在します。

出典:京都女子大学「承認欲求についての心理学的考察─現代の若者と SNS との関連から─」

賞賛されたい欲求と拒否されたくない欲求

この論文は、対人恐怖心性と自己愛傾向が自己呈示に及ぼす影響についての研究です。主な内容は以下の通りです。

問題と目的

  • 対人恐怖と自己愛は「自己愛の障害」を背景に持つが、両者の関連性は複雑。
  • 対人恐怖心性は人見知りや過度の気遣いなどの恥に対する敏感さを表す。
  • 自己愛傾向は自信や優越感などの自己肯定感とそれを維持したい強い欲求を示す。

研究の方法

  • Y大学の学生77名を対象に、対人恐怖心性尺度、自己愛人格目録短縮版(NPI-S)、自己高揚呈示、自己卑下呈示、賞賛獲得欲求・拒否回避欲求尺度を用いて調査。
  • 対人恐怖心性と自己愛傾向の2次元相互関係モデルを作成し、類型ごとの自己呈示の特徴を検討。

結果

  • 4つの類型(対人恐怖心性-自己愛傾向両向型、対人恐怖心性優位型、自己愛傾向優位型、対人恐怖心性-自己愛傾向両貧型)に分類。
  • 自己愛傾向優位型は自己高揚呈示と賞賛獲得欲求が高い。
  • 対人恐怖心性優位型は拒否回避欲求が高いが、自己高揚呈示と賞賛獲得欲求は低い。
  • 対人恐怖心性-自己愛傾向両向型は賞賛獲得欲求が高いが、自己卑下呈示と自己高揚呈示は平均的。
  • 対人恐怖心性-自己愛傾向両貧型は自己高揚呈示が低い。

考察

  • 自己愛傾向優位型は他者からの賞賛を得るために明確な意図を持った自己高揚呈示を行う。
  • 対人恐怖心性優位型は他者の視線を気にし、拒否回避欲求が高いが、自己高揚呈示や賞賛獲得欲求は低い。
  • 対人恐怖心性-自己愛傾向両向型は賞賛獲得欲求を持つが、対人関係に回避傾向があるため自己呈示は行いにくい。
  • 対人恐怖心性-自己愛傾向両貧型は人との深い関わりを避け、自己高揚呈示や賞賛獲得欲求が低い。

今後の課題

  • 調査対象者数を増やし、中間型も含めた詳細な自己呈示の様態を探る必要がある。

この研究は、対人恐怖心性と自己愛傾向がどのように自己呈示の形態に影響を与えるかを明らかにし、これらの特性を持つ人々の行動パターンを理解する上で有用な情報を提供しています。

出典:J-STAGE「賞賛されたい欲求と拒否されたくない欲求」

監修者の編集後記 -自己顕示欲について-

自己顕示欲は、目標達成のためには必要な欲求です。一方で、自己顕示欲が強すぎると、他人を尊重できず人間関係に支障をきたす可能性があります。適度なバランスで自分をアピールしていくことが大切だといえるでしょう。

自己顕示欲の強さはエネルギーとして活かし、他人を尊重する姿勢を持てると、よりよい人間関係を築けます。本記事で紹介した自己顕示欲の特徴を理解し、適度なバランスを保てるよう、意識してみてください。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。