ガバナンスの意味を分かりやすく!使い方・英語の意味
この記事のポイント
- ガバナンスとは、健全な組織や企業運営のための監視・管理体制や取り組みのことを指し、近年では、良い統治のための仕組みという意味としてさまざまなビジネスシーンで使われています。
- 技術の進化やビジネスのグローバル化に伴い、企業に求められるガバナンスの水準や品質、内容も多様化が進んでいます。
- 実質的にガバナンスが効く組織づくりのためには、形式的な取り組みから脱却し、企業価値向上に焦点を当てた社内規定や体制づくりが重要です。
目次
ガバナンス(governance)の意味を簡単に言うと?
ガバナンス(governance)とは、「統治・支配・管理」を意味する英単語です。健全な組織や社会の運営を目的として監視・管理する体制や取り組みを指し、近年は透明性の高い企業経営に必要な要素としても注目を集めています。
ガバナンス(governance)の語源
ガバナンスは、「舵(かじ)を取る」という意味のラテン語「guberno」を語源とした言葉です。この「guberno」という単語がフランスに渡り、「統治・管理する」ことを意味する「governer」に、さらにその後、英語で「governen」となり、今日の「統治する」「管理・制御する」を意味する英動詞「govern」となりました。
「ガバナンス(governance)」は、この「govern」の名詞形となります。なお、響きの似ている「government(政府)」や「governor(知事)」などの単語は、同じ語源を持つ言葉です。
ガバナンス(governance)の言葉の使い方・例文
「ガバナンス」という言葉が用いられる分野や業界は、明確に定義されておらず、国・企業・組織など統治すべき仕組みが存在しているもの全般に対して使用される言葉です。
国内において「ガバナンス」という言葉は、アベノミクスによる成長戦略の一環として、2013年に閣議決定された「日本再興戦略」にて注目を集めるようになりました。
以降、以下のような形で使用されています。
例文1:政治的な組織が国民との信頼関係を構築するためには、公正で透明性の高いガバナンスが必要だ。
例文2:環境負荷や社会的責任を考慮したガバナンスは、持続可能な企業経営を目指すうえで重要です。
ガバナンスとコンプライアンスの違い
コンプライアンスとは、企業が社会倫理や法令などのルールを遵守することであり、その行動が正しく取れるための枠組みがガバナンスという関係性にあります。
先述の通り、ガバナンスとは組織を健全に運営するための統治体制全体を意味し、その仕組みづくりのためには、さまざまな取り組みが実施されます。
そのような取り組みが法令に準じた形で進められるために「コンプライアンス」が必要であり、コンプライアンスが適正に機能するために「ガバナンス」が重要な役割を果たします。
そのため、どちらか一方を切り離して考えるのではなく、両者をバランスよく強化することが大切なのです。
データガバナンスとは?
データガバナンスとは、データ(情報)に焦点を当てた監査・管理体制のことを指します。企業活動はもちろん、社会のさまざまな場面におけるデータ活用が当たり前となっている現代において、企業や組織は責任を持って、データを正しく取り扱うことが求められています。
企業においてデータガバナンスが必要な理由
近年、多くの企業で課題となっているのが、適切なデータマネジメントを実現する体制・組織づくりであり、課題解決に必要なのがデータガバナンスの構築です。
なぜなら、膨大なデータの中から目的に応じて的確なデータを適正に活用・管理するためには、ルールづくりが必要となっているからです。このルールの部分が「データガバナンス」であり、データガバナンスという基盤がしっかりと構築されていることで、データを適正に管理し、経営に活用することが可能となります。
そして、データガバナンスという下支えによって円滑なデータマネジメントが実現することにより、経営効率の向上や経営コストの削減といった効果が生まれることが期待できます。
データガバナンスのメリット
データガバナンスの構築・強化によって、企業はさまざまなメリットを享受できるようになることが期待されます。
代表的なメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
- データに関する共通認識を醸成できる
- データの信頼性が高まる
- コンプライアンス違反の防止につながる
まず、データの取り扱いに関するルールを整備することで、企業内ではデータに関する共通認識を育むことができ、データ活用の標準化を図ることができます。
データを取り扱う人や部門が異なる場合でも、共通のルールで管理・運用が行われることで、データの正確性や一貫性が高まり、データの持つ価値向上につながります。
そして、データガバナンスによって定めたセキュリティポリシーに基づき、データを管理・監視できるようになることで、データの不正利用や漏洩などの事態を未然に防ぎ、不測の事態が起こった際にも迅速に対応することができるようになります。
コーポレートガバナンスとは?
コーポレートガバナンスとは、「企業統治」を意味し、企業が健全経営の実現を目的として、企業内部を適正に監視・統制する体制のことを指します。
コーポレートガバナンスの重要性が高まる理由
企業とステークホルダーとの関係のうちでも特に重要なのは、経営者・取締役会と株主との関係です。企業経営を適正化し稼げる企業とするためには、この関係こそが第一義的なものです。
さらに、海外投資家による株式の保有率が高まっている近年においては、これら海外投資家との建設的な対話を行うことが重要です。
海外投資家のエンゲージメントを高めることで、国内企業の喫緊の課題となっている国際的な競争力の強化、ひいては国際基準での企業価値の向上を促すことができます。
グローバルな資金調達を実現させるためにも、適正な情報開示をはじめ、公正で透明性の高い経営体制を整えることが求められているのです。
コーポレートガバナンス・コードとは
コーポレートガバナンス・コードとは、コーポレートガバナンスの実現と強化を図るために必要な基本原則やルールをまとめた指針であり、「企業統治指針」と呼ばれることもあります。
日本企業の国際的評価の低下に伴う、海外からの投資マネーの流入減少という課題に対する解決策として2015年に金融庁と東京証券取引所が策定し、上場企業への適用が始まりました。コーポレートガバナンス・コードの内容として、上場企業として求められる姿や内部監視体制に加え、各ステークホルダーとの望ましい関係のあり方などがあります。
コーポレートガバナンス・コードが経営者に向けられたものであるのに対し、もう一方の当事者である株主に向けられたコードとしては、スチュワードシップ・コードが設けられています。
ITガバナンスとは?
ITガバナンスとは、企業経営におけるIT活用に焦点を当て、ITに関するさまざまな活動や、関係者を適正に監視および統制する取り組みや仕組みを指します。
コーポレートガバナンスの派生型とされ、ITガバナンスについて経済産業省では以下の通り定義しています。
「組織体のガバナンスの構成要素で、取締役会等がステークホルダーのニーズに基づき、組織体の価値及び組織体への信頼を向上させるために、組織体におけるITシステムの利活用のあるべき姿を示すIT戦略と方針の策定及びその実現のための活動」
例えば、金融機関における大規模なシステム障害が頻発した事象は記憶に新しいでしょう。IT運用体制やリスクの管理および監視体制の不備が理由というステークホルダーの損害は、企業にとって甚大なダメージとなります。このような事態を未然に防ぎ、発生時に被る可能性のある損害を最小限に抑え、かつステークホルダーを適正に保護することが、ITガバナンスの担う大きな役割です。
AIガバナンスとは?
AIガバナンスとは、AIを正しく扱い、統制するための基本的な指針と仕組みのことを指します。近年、急速に成長を続けているAI技術にはまだまだ未知数のことが多く、倫理や道徳に反する活用方法が問題視されるケースは世界中で散見されています。
そのため、AIを活用したサービスを提供する企業は、AIが人類・社会・経済に悪影響を与えないように、責任を持って活用・統制することが求められており、そのための枠組みがAIガバナンスとなるのです。
コーポレートガバナンスに関する状況・データ
ヒト・モノ・カネ・情報が国境を超えて自由に行き交う現代社会においては、企業の抱える経営リスクは多様化・複雑化が進んでおり、企業にはグローバルな視点による統治体制の構築が求められています。
日本国内においても、上場・非上場にかかわらず多くの企業がガバナンスの構築・強化に取り組む中、さまざまな調査によってその現状が明らかとなっています。
「コーポレートガバナンス強化」に対する企業の優先度は低い
PwCあらた有限責任監査法人が2021年3月に公表した『コーポレートガバナンスに関するアンケート調査結果2020年度』では、アンケートに応じた多くの上場企業のうち、自社の取締役会において「コーポレートガバナンスの強化」が重要性の高い議題と考えている企業は13%にとどまっています。
また、「組織内のダイバーシティ(多様性)の強化」3%や「リスクマネジメント・BCPなど」2%など、ガバナンス強化に関連するトピックも軒並み優先度が低い結果です。それらに対し、重要性の高い議題としては「中長期的な経営戦略・ビジネスモデル」83%、「DX」48%、「事業ポートフォリオ」31%などが挙げられています。
また、デロイトトーマツコンサルティング合同会社が2023年3月に『令和4年度 産業経済研究委託事業 (社外取締役の研修やトレーニングに関する調査)調査報告書』を発表しました。こちらの調査では、ガバナンスに関する教育や知識のアップデートに関して、社内外の取締役各自が行うものであることと、社外取締役に期待する役割は事業や経営に関する専門的な知見を提供することと考えている企業が多い傾向であるという結果が出ています。
これらの調査結果から、多くの国内企業における取締役会が、経営会議の延長線上に位置づけられているという実態が見えてきます。
経営層の構造において、経営監督の役割を担い、ガバナンス体制を強化した委員会設置会社がスタンダードと考える海外企業や海外投資家との間にガバナンスに対する意識の差が明らかになっているといえるでしょう。
参考:PwCあらた有限責任監査法人|コーポレートガバナンスに関するアンケート調査結果 2020年度
参考:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社|令和4年度 産業経済研究委託事業 (社外取締役の研修やトレーニングに関する調査)調査報告書
日本の取締役会は高齢化と多様性に課題あり
ベイン・アンド・カンパニーが2023年11月に公表したレポート『日本企業の進化を加速させるボードアジェンダ』では、日本が今後国際市場における評価を高めていくためには、日本の取締役会の「高齢化」と「多様性の欠如」という2つの課題の解決が必要とされています。
各国の取締役に関するデータを比較した際、日本の特徴を表すデータを一部紹介します。
- 71%の企業で取締役会議長を同社のCEOが兼任
- 取締役の平均年齢は64歳
- 女性と外国人の取締役比率はアジア太平洋地域の中で最下位
日本の取締役会は「オールド・ボーイズ・ネットワーク(男性中心)」と評されるように、気心の知れたネットワーク「外」の客観的な評価や監視の目、プレッシャーにおいて、国際基準を下回る実態にある点を、各国のメディアや投資家が指摘しています。
参考:ベイン・アンド・カンパニー|日本企業の進化を加速させるボードアジェンダ
企業のガバナンスに関するイメージ評価ではトヨタが首位
「日経ESGブランド調査2023」において、コーポレートガバナンスに関する企業のイメージ評価では、トヨタ自動車が首位を獲得しています。
「法令を遵守している」「経営トップがガバナンスに対する高い意識を持っている」「役員や従業員が社会的規範に則した行動をしている」といった設問に対し、トヨタ自動車は全て首位となっており、企業のガバナンスイメージにおいて圧倒的に高く評価されている企業であることが明らかとなっています。
また、ガバナンスに関してイメージの良い企業として日本マイクロソフトが2位に急浮上しており、個人情報やプライバシー保護などの情報セキュリティに関する取り組みやITガバナンスが企業イメージに与える影響力が増大しているというトレンドも読み取ることができます。
参考:株式会社日経BP「日経ESGブランド調査2023」
ガバナンスを強化するメリット
日本企業においてコーポレートガバナンスの強化が喫緊の課題とされる中、社内規定や組織体制など、形式的な取り組みとなってしまっているケースは珍しくありません。
取り組みが形骸化してしまわないようにするためには、ガバナンス強化によって得られるメリットをしっかりと理解したうえで、仕組みづくりを行うことが大切です。
企業がガバナンス強化を図ることにより期待できるメリットとして、大きく以下の3つが挙げられます。
企業経営の健全性が高まる
ガバナンス強化により、経営や組織の透明性が高まることで、不正行為やリスクの発生を未然に防ぐ効果が期待できます。
例えば、執行役員制度の導入によって、企業の経営機能と執行機能が分離され、相互監視機能が働くようになります。
企業内でのガバナンスが浸透することで、不正防止やリスク管理機能が高まるだけでなく、利益追求と価値創造の両軸がバランスよく回り、健全性で効率性の高い経営の実現へとつながっていくでしょう。
企業価値が高まる
ガバナンス強化により健全性・効率性の高い経営体制が構築され、ステークホルダーや社会に対してさまざまな価値提供がされることによって、企業は自社の価値向上を図れます。
適切な情報開示による透明性・公正性の高い健全経営を実現している企業に対しては、ステークホルダーからの信頼も高まり、優良企業として企業イメージの向上にもつながります。
企業価値の向上は、円滑な資金調達や優秀な人材の確保などといった新たなメリットをもたらすことが期待できるため、ガバナンス強化は持続的な経営を目指すうえでも重要な取り組みになるのです。
労働環境が良くなる
ガバナンスが強化されることで、組織内において公正で透明性の高い意思決定が行われるようになり、日々の労働環境が改善される効果が期待できます。
まず、組織内での指揮命令系統が整備され、それぞれのポジションの従業員が担うべき業務範囲や責任範囲が明確になることで、業務の抜け漏れといったミスが減り、円滑な業務進行と品質向上を図ることが可能です。
また、公平な人事評価や報酬体系を確立できることも、ガバナンス強化によって生まれる効果の一つとして挙げられます。
このようなさまざまな意思決定や評価の透明性・公正性が高まることで、従業員にとって働きやすく、能力を発揮しやすい労働環境が醸成されていくでしょう。
もっと詳しく!ガバナンスに関するおすすめ論文と要約
コーポレート・ガバナンスを巡る最近の動き
本論文は、海野正教授がコーポレートガバナンスに関する近年の動向と変化を解説しています。第2次安倍政権下で推進された成長戦略の中核としてのコーポレートガバナンス強化、コロナ禍を経ても進展した関連制度や構築、そして2021年から2022年にかけての主な動きを概観しています。特に、会社法の改正、コーポレートガバナンスコードの再改訂、東証市場制度の変更、ESG(環境・社会・企業統治)とサステナビリティ関連の国際協調や関連機関の連携に注目しています。
論文では、企業が株主とステークホルダーの利害をバランスよく取り、経済的リターンの確保と環境・社会問題解決の重視の両立が重要と強調されています。コーポレートガバナンスは形式的でなく実質的な機能発揮が求められ、非財務情報の活用が重要視されています。
また、サステナビリティやESGに関する情報の重要性が増しており、これらは財務情報と同様に重要な意思決定基準となっています。コーポレートガバナンスの進展は、サステナビリティやESG、銀行のシステム障害、企業不祥事など幅広い領域で議論されています。
海野教授は、コーポレートガバナンスの進展に伴い、企業内部でのガバナンスへの注目が増し、社外取締役の設置義務化やコーポレートガバナンスコードの再改訂が進んでいることを指摘しています。これらの変化は、企業の持続可能な成長と企業価値の向上に貢献することが期待されています。
最後に、環境問題の深刻化やグローバル化の進展により、企業の社会的責任と戦略、そしてコーポレートガバナンスが重要視され、企業は利益追求だけでなくステークホルダーとの共生を重視するようになっていると結論付けています。また、会計の専門家には財務情報だけでなく非財務情報にも精通し、正確な分析能力が求められるとしています。
出典:武蔵野⼤学「コーポレート・ガバナンスを巡る最近の動き」
非営利組織のガバナンス研究の展開と課題
この論文は、非営利組織のガバナンスに関するモデルを検討し、それらの意義と問題点を探求しています。特に、ポリシー・ガバナンス・モデルを中心に、主要なガバナンスモデル(プリンシパル・エージェント・モデル、スチュワードシップ・モデル、ステークホルダー・モデルなど)について詳細に分析し、それぞれのモデルの特性や効果、および問題点を考察しています。
論文は、非営利組織のガバナンスにおける理事会の役割と責任、理事会と最高経営責任者(CEO)間の関係、組織の所有権者へのアカウンタビリティなど、様々な側面を深く掘り下げています。また、ポリシー・ガバナンス・モデルの理論的背景と実践的応用に関する考察に重点を置いており、モデルの普遍的な適用性についても検証しています。
さらに、非営利組織のガバナンスに関する研究における今後の課題や方向性についても議論しています。組織特有の状況や外部環境の変化に対応するための「状況適合モデル」としてのガバナンスモデルの必要性に言及し、組織に最適なガバナンスモデルの選択と実践に関する提案を行っています。
総括すると、この論文は非営利組織のガバナンスに関する理論と実践における多様なモデルを検討し、それらの適用性と有効性について深い洞察を提供しています。また、組織特有の状況に合わせたガバナンスモデルの選択と適用の重要性を強調し、非営利組織のガバナンス研究の今後の方向性に対する重要な示唆を与えています。
出典:近畿大学学術情報リポジトリ「非営利組織のガバナンス研究の展開と課題:非営利ガバナンス・モデルの検討(上)」
監修者の編集後記-ガバナンスについて-
国際水準と比較すると道半ばといえる日本のガバナンス改革ですが、形式や形態に捉われるのではなく、その先に期待できる効果やメリットを見据えながら自社の価値向上につながる統治体制を築くことが大切です。
企業規模にかかわらず、ステークホルダーと良好な関係を築き、社会に対して有益な価値を提供することが企業の持続性を高められます。ぜひ本記事を参考に、自社に適したガバナンス改革に着手してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。