LGBTとは?割合や人事担当が知っておくべきこと、企業の取り組み事例を解説
この記事のポイント
- LGBTは、レズビアンやゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーなどの性的少数者を総称した言葉です。
- LGBT比率の高まりを受け、企業や学校などでも対応が必要となっており、各企業や学校は様々な施策を講じています。
- 企業や学校において、LGBTを受け入れ、サポートしていくためには、注意点を守ったうえで十分な準備を整える必要があります。
目次
LGBTとは?
LGBTとは、下記の4つの頭文字を取った言葉であり、性的少数者の総称として用いられています。
【L】Lesbian(レズビアン:女性同性愛者)
【G】Gay(ゲイ:男性同性愛者)
【B】Bisexual(バイセクシャル:両性愛者)
【T】Transgender(トランスジェンダー:精神的な性と身体的な性の不一致)
LGBTは近年増加傾向にあり、企業や学校では受け入れのために必要な様々な施策を打ち出しています。また、LGBTに関連する言葉として、「SOGI」が存在します。SOGIとは、以下の頭文字を取った略語です。
【GI】Gender Identity(性自認)
LGBTが性的少数者の中でも、認知度の高い代表的な4つに限定されているのに対して、SOGIは全ての人を対象とする言葉です。たとえば、精神的にも身体的にも男性であり、性的指向が女性であれば、LGBTとはなりません。しかし、SOGIではそのような人も同性愛者や両性愛者と同様にセクシャリティのひとつであると考えます。
LGBTQとは?
LGBTQとは、LGBTに「Questioning(性的指向や性自認が分からない・定まっていない)」を加えた言葉です。LGBTに性的指向や性自認が不明な人も含むことになるため、より広範囲を対象とした言葉といえるでしょう。また、Questioningではなく「Queer(クィア)」が用いられる場合もあります。Queerは、本来同性愛者への侮蔑語でしたが、性的少数者を包括する言葉としても用いられています。
セクシャリティの範囲は広がりを見せており、LGBTQでは分類できない場合も出てきました。そのため、性におけるあらゆる在り方を認めるものとして、「+(プラス)」付け、「LGBTQ+」と呼称する場合もあります。LGBTQ+は、あらゆる性を包含する概念を表す言葉です。
LGBTの割合は?増えている理由
電通グループが実施した「LGBTQ+調査2023」によると、「LGBTQ+当事者層」の割合は9.7%でした。2020年に行われた調査(8.9%)と比較して、0.8%増加しています。1割に満たないとはいえ、前回よりも増加の傾向が見られるようです。
増加の理由として考えられるのは、LGBTに関する情報発信が増えたことです。「LGBTとは何か」といったLGBTに関わる情報が発信されることによって、自分自身の性的指向や、性自認に気付く人が増えたと推測されています。
LGBTに関する取り組みを行っている企業への就労意向は、約6割でした。LGBT当事者だけでなく、非当事者でも高い数字を示しており、理解が広まっていることが分かるでしょう。LGBTへのインクルージョン意識(違いを受け入れ、理解し、尊重する考え方)も約8割と高い数字を示しており、理解の広まりが増加を後押ししていると考えられます。
約8割のインクルージョン意識に対して、実際に「彼氏」「彼女」ではなく、「パートナー」といったジェンダー的に中立な言葉を用いる人は、約2割でした。このような意識と行動のギャップを埋めていくことが、LGBTであることをカミングアウトしやすい環境の構築につながるでしょう。
参考:電通グループ、「LGBTQ+調査2023」を実施|株式会社電通グループ
職場でLGBTが問題になるケース
増加傾向にあるとはいえ、まだまだ職場におけるLGBTへの配慮が行き届いているとはいえません。LGBT当事者は、職場において様々な問題を抱えています。
プライバシーや自由の制限
LGBTであることを周りにカミングアウトするのは自由です。しかし、LGBTへの理解が薄い職場においては、非難を恐れてカミングアウトの自由が制限されてしまいます。また、LGBTであることが分かれば、私生活に踏み込んでくることも考えられます。
ハラスメントの経験
LGBT当事者は、様々な形のハラスメントの対象になりやすくなっています。無理解からくる差別的な言動を受けたり、揶揄の対象となったりすることも珍しくありません。また、「男性だから」「女性だから」と本来の性自認とは異なった決めつけが行われ、精神的な苦痛を味わうことも多いでしょう。
偏見や差別、理解不足
LGBTに関する情報発信が多くなり、以前に比べれば理解が進んでいる状況ともいえます。D&I(ダイバーシティアンドインクルージョン)の考えが広まり、多様性を尊重する社会へと向かっていることも理解を後押ししています。しかし、未だにLGBTについて偏見を持っていたり、理解が不足していたりする人が多いのも事実です。LGBTは、そのような人たちから職場において差別を受けやすくなっています。
社内制度・福利厚生を利用しにくい
男女雇用機会均等法によって、福利厚生制度は、原則として男女間で格差を設けてはならないとされています。しかし、実質的に男性社員のみや、女性社員のみが利用可能な社内制度や福利厚生制度を設けている企業も存在するでしょう。
このような制度は、均等法に触れるだけでなく、男女平等の推進やLGBTへの理解促進の妨げともなります。均等法とは関係なく、性別や性自認によらず利用可能な社内制度や福利厚生制度の構築が求められます。
相談窓口がない
労働施策総合推進法の改正によって、企業にはパワハラ相談窓口の設置が義務付けられています。そのため、パワハラへの相談は以前よりずっと行いやすくなっています。しかし、LGBT相談窓口を設けている企業は少ないでしょう。相談窓口がなければ、LGBT当事者は、LGBTであることに起因した問題を相談することも難しくなります。結果として、ひとりで問題を抱え込み、心身の健康を害してしまうこともあります。
LGBTに対して人事担当者が知っておくべきこと
LGBTへの理解は、多様性を尊重する社会の実現には不可欠の要素です。本項では、人事担当者が知っておくべきLGBTに関する事柄を紹介します。
アウティングしない
アウティングとは、同意を得ることなく、本人の性的な指向や性自認を公表する行為です。アウティングは、LGBT当事者を深く傷付けるだけでなく、LGBTに対する配慮のない企業としてネット炎上につながる可能性もあります。決して行わないようにしましょう。
カミングアウトは求めない
LGBTであることのカミングアウトは、本人の意思に基づいて行われるべきです。周りに受け入れてもらえるかは、カミングアウトのタイミングによるところも大きくなっています。また、望まぬカミングアウトは、本人にとって過大なストレスともなってしまうでしょう。仮に職場における受け入れ体制が万全であったとしても、カミングアウトを強制してはなりません。
個人のプライバシーを尊重する
職場において、LGBT当事者をサポートしたいと考えること自体は問題ありません。理解のある上司が存在する部署へ異動させるようなことは望ましいともいえます。
人事異動においては、本人の能力や資質などを調査する必要があります。調査自体は問題ありませんが、あくまで業務遂行に必要な範囲に留めましょう。より適切なサポートを行うために必要だからといって、性的指向の詳細などプライバシーにまで踏み込んではなりません。
LGBTの従業員をサポートする方法は?
LGBT当事者である従業員が働きやすい職場環境を構築するためには、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。項目ごとに見ていきましょう。
社内規程に対応を明文化する
LGBT当事者をサポートするためには、就業規則をはじめとした社内規程に、LGBTへの配慮などの対応を明文化しておくことが有効です。対応を明文化しておけば、当事者以外の社員も対応しやすくなります。また、対応だけでなく、差別の禁止なども明文化しておけば、よりLGBT当事者を意識した行動ができるようになるでしょう。
研修を実施し理解を深める
LGBTという言葉は聞いたことがあっても、詳細を理解している社員ばかりではありません。そのような社員を対象として、LGBTに関する研修を実施すれば、無理解から来るトラブルの発生も防止できるでしょう。理解を深めれば、自然に差別的な言動も出なくなるはずです。
誰でもトイレや更衣室を整備する
通常企業のトイレや更衣室は、男女別で分かれています。その際の男女の区別は、身体的な性別によるのが通常です。しかし、LGBTは身体的な性と精神的な性が一致しているとは限りません。そのような社員でも使いやすいように、性による区別なく誰でも利用できるトイレや更衣室を整備するとよいでしょう。
尊重と配慮をもって接する
相手がLGBTであるからといって、殊更に持ち上げたり優遇したりする必要はありません。他の社員に接する際と同様にコミュニケーションを取れば問題ないのです。しかし、コミュニケーションの際には、相手に対する尊重と配慮を忘れないようにしましょう。尊重や配慮の欠如は、往々にして知識が薄いことや無理解から生じます。しっかりとした研修や教育を行いましょう。
LGBT相談窓口を設置する
LGBT相談窓口を設置すれば、LGBT当事者は性的少数者であることを理由とする問題を相談しやすくなります。ひとりで抱え込めば心身の不調にもつながってしまうため、気軽に相談できる窓口は重要です。また、非当事者からの相談も受け付けるようにすれば、よりLGBTへの理解が進むことになるでしょう。
LGBT受入における注意点についての案内文‐無料テンプレート・ひな形
職場においてLGBTを受け入れる際には、相手への正しい理解や尊重の姿勢が欠かせません。正しい理解や正しい姿勢を養うためには、研修や教育が重要なことはいうまでもありません。そのうえで、受け入れに係る注意点をまとめた案内文を交付すれば、より理解が深まり、受け入れ後のトラブル発生を防げるでしょう。
注意点を記した案内文は、自社で作成しても問題ありません。作成の過程でより理解が深まる効果も期待できます。しかし、以下で紹介するようなテンプレートの利用も便利です。作成に自信がない場合や、手間を省きたいときにはぜひ活用してください。
LGBTへの企業・学校の取り組み、事例
社会における多様性の広まりを受けて、企業や学校ではLGBTに関する様々な取り組みを実施しています。取り組み事例を紹介するため、自社における参考としてください。
世界中の、全ての仲間が、自分らしく活躍できるトヨタへ|トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車では、「世界中の、全ての仲間が、自分らしく活躍できるトヨタへ。」をスローガンに多様な価値観の尊重に努めています。同社では、LGBTに関する研修を実施し、偏見をなくすだけでなく、相談窓口を設置しているのが特徴です。また、LGBTが安心して利用できる「みんなのトイレ」を設置するなど、セクシャリティに関係なく、能力を発揮し、働ける環境づくりに努めています。
参考:Diversity & Inclusion|トヨタ自動車株式会社
DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の尊重|ブリヂストン株式会社
ブリヂストングループでは、DE&I(ダイバーシティ・エクイティアンドインクルージョン)の尊重を掲げ、LGBTに関する取り組みを行っています。同グループでは、異性だけでなく、同性のパートナーであっても、婚姻と等しく扱っているのが特徴です。同性パートナーであっても、婚姻と同じように育休などの制度を利用できるだけでなく、「パパ・ママ」など性に基づく言葉をガイドブックから削除しています。
参考:DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の尊重|ブリヂストン株式会社
「LGBTQ+」「SOGI」尊重への取り組み|関西学院大学
関西学院大学は、多様性を力とする垣根のない共同体を目指し、「LGBTQ+」「SOGI」の尊重に取り組む大学です。同大では、性的指向や性自認の多様性を配慮した教育・研究に関して基本となる方針とガイドラインを定め、全教職員に周知徹底しています。また、「関学レインボーウィーク」を開催し、大学に集う関係者が多様な性について考える機会を設けています。
参考:「LGBTQ+」「SOGI」尊重への取り組み|関西学院大学
中央大学ダイバーシティ宣言|中央大学
中央大学は、「中央大学ダイバーシティ宣言」を定め、多様な背景を持った人々が、ともに学びともに働くことが可能な環境づくりに取り組む大学です。大学内に専門部署となる「ダイバーシティセンター」を設置し、性的少数者である学生への配慮や対応を行っています。性別に違和感を覚える学生からの要望に対応し、多目的トイレを整備するなど、多様な背景を持つ人々が性的指向や性自認に関わりなく、学べる環境づくりに努めています。
参考:セクシュアル・マイノリティ学生への配慮・対応について|中央大学
もっと詳しく!LGBTに関するおすすめ論文と要約
LGBTに関するおすすめの論文を紹介します。これらの論文は、LGBTに関する様々な側面を探求しており、その理解や受容について深い洞察を提供しています。
- 「LGBTの現状と課題」: この論文では、LGBTの現状と課題について詳しく説明しています。具体的には、LGBTの人口規模、直面する困難、国内外の動き、企業や地方自治体における取り組み、法制化の動き、教育や戸籍上の性別、家族との関係など、多岐にわたる課題について述べています。
- 「LGBTを読み解く」: この論文では、LGBTが示す性的マイノリティや性の多様性という観点、そしてそれらが着目された状況の意味することについて、クィア・スタディーズの視点から深く掘り下げられています。
- 「性的マイノリティに対する大学生の意識と態度 第3報」: この論文では、18歳から20代前半の男女の、性的マイノリティに対する意識や態度を明らかにすることを目的としています。その結果、性的マイノリティに関する正しい知識を有している割合は増加傾向にあり、特に高校生は受け入れる割合が高いことが分かりました。
監修者の編集後記 -LGBTについて-
現在の日本は少子高齢化の進展によって、深刻な労働力不足に陥っています。このような状況下において、性的指向や性自認に対して偏見を持つ企業は、より人材獲得が困難となるでしょう。多様な価値観を受け入れ、多様な人材を活用できる企業となることが必要です。当記事によるLGBTの解説を参考に価値観のアップデートを図ってください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。