BPR(業務改革)とは?進め方やメリット・デメリット、成功事例を解説
この記事のポイント
- BPRとは、全社の業務フローや情報システム、組織、職務を抜本的に改革することです。
- 生産性の向上やコストの削減などのメリットがある一方、改革に抵抗する従業員を説得するなど社内のコンセンサスづくりが必要です。
- BPRを実施するときは、労力や時間、コストがかかることを前提に正しい手順で取り組みましょう。
目次
BPR(業務改革)とは?
BPRとは、「Business Process Re-engineering(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」の略語で、日本語では「業務改革」を意味する言葉です。業務プロセスの最適化を目的に、全社の業務フローや情報システム、組織、職務を抜本的に変えることを指します。
BPRを理解するために、業務改善との違いやBPRが注目される背景について解説します。
BPRと業務改善の違い
業務改善とは、業務プロセスを見直して最適化を図る取り組みです。BPRと同じ目的で行うものですが、BPRが「企業全体の業務を抜本的に見直す」取り組みであるのに対し、業務改善は「業務の一部を見直す」取り組みであるという違いがあります。
どの会社でも業務改善は頻繁に行われますが、BPRは難易度が高いため簡単には実施できません。大掛かりな見直しとなるため労力や費用がかかり、失敗したときのリスクも大きくなります。
BPRが注目されるようになった背景
BPRが注目されるようになったのは、少子高齢化による人手不足のため業務プロセスを大幅に改善しないと業務の維持・拡大が難しくなったことです。生産性を上げ従来より少ない人数でも、これまでと同様かそれ以上の業務をこなせることが求められています。
また、経済環境の変化やIT技術の進展に対応しているうちに業務プロセスなどが細分化・専門化したことで、全社で見ると複雑で非効率な業務プロセスとなってきました。そのため、BPRで業務を整理・統合し、効率的な業務運営に変えようとする企業が増えています。
BPRのメリット
BPRが企業にもたらす主なメリットは、次の4つです。
- 生産性の向上
- コストの削減
- 働き方改革
- イノベーションの促進
それぞれのメリットについて解説します。
生産性の向上
BPRによって業務プロセスが改善すれば、企業の生産性が向上します。業務プロセスに加え、企業全体で情報システムや組織、職務などを抜本的に見直すことで、単なる業務改善と比べて大きな効果が期待できるでしょう。
また、生産性の向上により業務が迅速化し、経済環境の変化への対応力が高まるというメリットもあります。
コストの削減
BPRによって無駄な業務を廃止し重複する業務を整理することによって、コストの削減が図れます。具体的には、次のコスト削減が期待できます。
- 業務量の削減による人件費の削減
- 情報システムの統合などによるシステムの保守・管理費の削減
- 生産工程の改善による設備費の削減 など
働き方改革
BPRの実施は、働き方改革の推進にも役立ちます。BPRによって業務量が減れば、長時間労働を減らしたり有給休暇を取得しやすくしたりできるためです。
また、業務の負担の軽減や生産性の向上により、従業員の仕事や会社に対する満足度が高まる効果も期待できるでしょう。
イノベーションの促進
BPRによって従業員はコア業務に集中できるようになるため、イノベーションの促進も期待できます。また、BPRの実施には新しいシステムや考え方を導入する必要があるため、新しいアイデアも生まれやすくなります。
BPRのデメリット
BPRが企業にもたらす主なデメリットは、次の2つです。
- 導入コスト
- 社内調整が必要
それぞれのデメリットについて解説します。
導入コスト
BPRは企業の全ての業務が対象となるため、実施には大きな費用と労力、時間がかかります。主なコストは次の通りです。
- 新しいシステムの導入費用
- BPRに伴う施設や設備の改修・導入費用
- コンサルタント会社などに委託するときは委託費用
- 業務プロセス移行に伴う生産減少などの損失
BPRに要するコストとBPR実施による成果を事前に精査し、実施計画を立てましょう。
社内調整が必要
BPRは社内の全業務を見直すため、従業員全員の考え方や働き方を大きく変えなければなりません。そのために、実施前の社内調整が必要です。
業務改革に抵抗する人や理解できていない人がいると、新しい体制への移行がうまくいかず企業活動に悪影響を与えるリスクがあることに注意しましょう。
BPR(業務改革)の進め方
BPR(業務改革)は、次の5ステップで進めていくのが一般的です。
- 業務プロセスの検討
- 分析と課題の特定
- 改革に向けた設計
- 業務改革の実行
- 評価・モニタリング
各ステップについて解説します。
1.業務プロセスの検討
最初に、社内全ての業務プロセスと各プロセスの問題点を洗い出します。漏れがないように、社内の各部署で幅広くヒアリングすることがポイントです。
次に、業務プロセスと問題点を整理・分析し、問題解決に向けた情報システムや組織、職務における課題を特定します。課題はできるだけ具体的に特定し、優先順位をつけましょう。最後に、BPRの目的を明確にして達成に向けた個別目標を設定します。
2.改革に向けた設計
次のステップでは、特定した課題を解決するために具体的な改革案を策定します。策定の主なポイントは次の通りです。
- 業務プロセスだけでなく業務そのものが必要かどうかも検討する
- 必要に応じて新システムを導入する
- 改革案に応じて組織を改変する、従業員の職務内容を変更する
また、販売する商品・サービスの見直しやビジネスモデルの変更、業務のアウトソーシングなど、抜本的な改革が必要になることも考えられます。
3.業務改革の実行
改革案を策定したら次は実行です。業務改革を実行するときは、次の点に注意しましょう。
- 全業務を一度に変更するのは難しいため、スケジュールを立て段階的に改革する
- 事前に実行スケジュールを社内に周知・徹底する
- 進捗状況を確認しながらスケジュールを調整する
BPRは大きな改革であるため、改革実行にあたっては企業トップの強力なリーダーシップが求められます。
4.評価・モニタリング
改革実行後は、目標達成状況をモニタリングして適切に評価することが必須です。状況次第では、目標の修正や計画の見直しが必要になることもあるでしょう。
モニタリングでは、改革を実行した現場のヒアリングが重要です。また、適切に評価するために、事前に数値目標を含む具体的な評価基準を設けておくことが必要です。
BPRが進まない理由と解決方法
前述の5ステップに従ってBPRを進めても、うまくいかないこともあります。主な理由は次の通りです。
- 目的や目標の設定が甘い
- 業務フローの可視化ができていない
- ツール導入後の運用があいまい
それぞれの理由と解決策について解説します。
目的や目標の設定が甘い
BPRの目的が抽象的であったり、目標が数値化されていなかったりする場合、BPRはうまく進みません。人によって目的や目標の解釈が異なり、方向性が定まらないためです。
適切な目的や目標が設定できない主な理由は、問題点の洗い出しと分析、課題の特定が不十分であることです。不十分だった作業を最初からやり直すなどして課題を明確にし、目的や目標を再設定しましょう。
業務フローの可視化ができていない
業務フローの可視化とは、各業務の工程や作業時間などが具体的にわかるように言語化・図式化することです。可視化されていないと、現状の把握や課題の特定が適切にできなかったり、従業員の理解が進みにくかったりします。
手間はかかりますが、問題や課題の洗い出し時と改革案の策定時には業務フロー図を作成するなどして関係者の理解を図りましょう。
ツール導入後の運用があいまい
新しいビジネスツールを導入する場合、基本的な操作方法の習得と具体的な活用方法を現場任せにすると、現場に浸透しなかったり、誤った方法で使われたりする可能性があります。
自社にあった活用方法をマニュアル化するなどして現場に周知することが重要です。また、ツール導入前に次の点を確認しておきましょう。
- 新ツールが業務改革に役立つのか、どんな効果があるのか
- 従業員への負荷はどうか
- どういう使いかたをするとよいのか など
BPRの推進に有効なフレームワーク
BPRの推進に有効なフレームワークは、以下の4つです。
- シックスシグマ
- 4C
- ECRS
- SWOT分析
それぞれの内容を解説します。
シックスシグマ
シックスシグマとは、統計学を基に品質管理を改善するための手法です。以下5つの活動サイクル(DMAIC)を繰り返すことによって、BPRを進めます。PDCAサイクルと類似する改善活動です。
- Define:定義
- Measure:測定
- Analyze:分析
- Improve:改善
- Control:管理
4C
4Cとは、顧客の視点を重視するマーケティングのフレームワークのことです。以下4つのCを適切に組み合わせて、顧客に高い価値を提供します。
- Customer Value:顧客から見た価値
- Customer Cost:顧客が負担する費用
- Convenience:顧客の利便性
- Communication:顧客とのコミュニケーション
ECRS
ECRSとは、生産工程での業務を改善するためのフレームワークです。以下4つの手順(ECRS)を行うことで、無駄な業務を減らして仕事を効率化します。
- Eliminate:排除
- Combine:統合
- Rearrange:順序入れ替え
- Simplify:簡素化
SWOT分析
SWOT分析とは現状を把握したり、課題を特定するためのフレームワークです。以下4つの要因(SWOT)を洗い出して、課題を発見します。
- Strengths:内部的要因である強み
- Weaknesses:内部的要因である弱み
- Opportunities:外部的要因である機会
- Threats:外部的要因である脅威
BPRの成功事例
BPRの成功事例として次の2社の取り組みを紹介します。
- 株式会社ブリヂストン
- 京都トヨペット株式会社・ネッツトヨタ京華株式会社
株式会社ブリヂストン
株式会社ブリヂストンでは、外部コンサルタント企業の力を借り、BPRにより設計開発業務を効率化して設計者を重点分野へシフトすることに成功しました。
主な取り組みは、属人化した設計業務を可視化してマニュアルを整備して業務を標準化することです。その結果、設計業務は15%効率化され、設計者の業務時間を成長分野である企画開発領域へシフト(2019年3月末実績で年間38,000時間)しています。
京都トヨペット株式会社・ネッツトヨタ京華株式会社
京都トヨペット株式会社では、会計システムを導入して「請求書支払業務」を改革しました。
会計システム導入により、手作業によるデータ入力や紙書類での業務処理などのバックオフィス業務がなくなり、従業員の負担軽減とデジタル化・ペーパーレス化が実現しました。
BPR成功の一因は、業務内容の変更に抵抗を持つ社員を説得し新しいやり方を理解してもらうことで改革が浸透したことだそうです。
参考:京都トヨペット株式会社・ネッツトヨタ京華株式会社 導入事例|株式会社マネーフォワード
もっと詳しく!BPRに関するおすすめ論文と要約
BPRの法則に関するおすすめの論文を紹介します。
- 「BPRの挑戦」:この論文では、BPRの解説書や論文を3つのグループに分類し、それぞれの性格の差を明らかにするとともに、いずれのグループによっても解答されていない論点を指摘しています。また、BPRを日本で実施する際の問題点に触れ、最後にBPRが日本社会に突き付けている本当の挑戦について考察しています。
- 「Bayesian Personalized Ranking (BPR)の派生研究まとめ」:この論文では、クリックや購入などの履歴といったimplicit feedbackを用いてランキング学習を行うBayesian Personalized Ranking (BPR)を紹介したのち、BPRから派生した研究をまとめています。
- 「電子政府におけるBPRと知識連鎖に関する研究」:この論文では、なぜ官公庁においてBPRを進めることが困難なのかを分析し、民の経営手法、組織運営や人事評価制度等の民のベストプラクティスをいかに官に転用し、BPRと知識連鎖をどのように実現すべきかを考察しています。
監修者の編集後記 -BPRの法則について-
BPRとは、全社の業務フローや情報システム、組織、職務を抜本的に改革することです。少子高齢化による人手不足や、業務プロセスの細分化・専門化による業務効率の悪化に対応するのに有効な手法と言えます。
BPRを成功させるポイントは、メリットとデメリットを正しく理解するとともに正しい手順でBPRを実施することです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。