衛生管理者とは?難易度や合格率、安全管理者との違い・選任数について解説
この記事のポイント
- 衛生管理者とは、従業員の身体的・心理的な健康を維持する有資格の管理職のこと
- 安全管理者との違いは「管理する対象」
- 衛生管理者の合格率は約5割
目次
衛生管理者とは?
衛生管理者とは、従業員の健康維持を目的とした有資格の管理者です。この場合の「従業員の健康」とは、身体的ならびに精神的に異常がなく健全に働ける状態を指します。
衛生管理者は医師のように治療をする存在ではありません。従業員が就業の際に発生する健康障害を防止することが健康管理者の役目となります。
衛生管理者の主な仕事内容
衛生管理者にはさまざまな仕事があります。従業員の健康や安全のために必要な業務を行うのが衛生管理者であり、主な仕事内容は以下の4点です。
- 安全衛生に関する方針の表明に関すること
- 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善に関すること
- 健康に異常がある者の発見および処置
- 労働衛生保護具・救急用具の点検および整備
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト:衛生管理者」のページには詳細を公開しています。あわせてご覧ください。
衛生管理者は従業員の健康と衛生の管理に必要な資格
衛生管理者として従事するには、以下のいずれかの資格や免許が必要であると法律で定められています。
【安全衛生法第12条第1項】
- 都道府県労働局長の免許
第一種衛生管理者
第二種衛生管理者
衛生工学衛生管理者 - 省令で定める者(1の免許が不要)
医師・歯科医師
労働衛生コンサルタント
その他
第一種衛生管理者・第二種衛生管理者の違い
第一種衛生管理者と第二種衛生管理者の違いは「専任できる業務の種類」です。
- 第一種衛生管理者:全ての業種の事業所(事業場)で衛生管理者になれる
- 第二種衛生管理者:限られた業種でのみ衛生管理者になれる
なお、第二種衛生管理者が、衛生管理者になれる業種は限られており、主は情報通信業、金融・保険業、卸売・小売業などです。
衛生管理者の専任と専属の違い
衛生管理者は、業種による資格(第一種衛生管理者または第二種衛生管理者)を持っていることが条件をして掲げられており、原則としてその事業所(事業場)に「専属」でいなければなりません。
ただし、業種によっては第二種衛生管理者を配置できないものがあります。次のAまたはBいずれかに該当する場合、衛生管理者を「専任」としなければなりません。
A:常時1,000人を超える労働者を使用する事業所(事業場)
B:常時500人を超える労働者を使用している事業所(事業場)、かつ「坑内労働または健康上特に有害な業務(※)」に常時30人以上の労働者を従事させている事業所(事業場)(法定有害事業場)
(※深夜業であるか否かは問われない)
なお、これらの業務のうち労働基準法施行規則第18条1号・3号~5号・9号に掲げる業務を行う事業所(事業場)に配置する衛生管理者は、少なくとも1人は衛生工学衛生管理者免許を受けたものでなければなりません。
【安衛法・安衛規則】
- 衛生管理者は、その事業所(事業場)のみに勤務する者(=専属する者)でなければならない。
※その事業所(事業場)の業種によっては、第二種衛生管理者を配置できない。
- 衛生管理者の選任数は、事業所(事業場)の規模(常時使用する労働者の人数)に応じて決まっている。
※ただし、2人以上を選任する事業所(事業場)で、その中に労働衛生コンサルタントがいる場合は、1人は専属以外でも良い。
- A、Bいずれかの事業所(事業場)においては、少なくとも1人の衛生管理者を専任としなければならない。
- 【専任】衛生管理者の資格を保有し、勤務時間の全てを衛生管理の業務に費やす
- 【専属】衛生管理者の資格を保有し、該当の事業所(事業場)にのみ勤務しているが衛生管理以外の業務も行う
- 【兼務】衛生管理者の資格を保有しながら、勤務時間内を他の業務にも費やす
少なくとも一人は「専任」であることが必要とされています。
法定有害事業所の定義
第一種衛生管理者が必要な「有害業務事業場」とは、労働安全衛生規則第7条1項第5号で定められた業務を行う事業所(事業場)です。
有害業務事業場の対象となる業種は14種類以上ありますが、主として「従業員の健康に悪い影響を与える可能性が高い業務」が挙げられています。
- 著しい高温や低温、異常な気圧や騒音および振動が激しい場所での業務
- 細かいチリやほこり、人体に有害な薬品などを取り扱う業務
- 鉛、粉塵、特定の化学物質、放射線などに接する業務
これらは、法定有害事業所(事業場)の一部です。
詳しくは労働基準法施行規則|e-Gov法令検索をご覧ください。
有害業務事業場においては、選任すべき衛生管理者のうち一人は「専任」を入れる必要があります。
衛生管理者の試験難易度・合格率
衛生管理者の資格は、労働安全衛生法によって定められた国家資格であり、以下の3種類があります。
- 第一種衛生管理者
- 第二種衛生管理者
- 衛生工学衛生管理者
第一種衛生管理者とは、すでに第二種衛生管理者の資格を持っている方が受ける第一種衛生管理者試験です。
合格率
安全衛生技術試験協会が公表している2022年度の衛生管理者の合格率は以下の通りです。
- 第一種衛生管理者:45.8%
- 第二種衛生管理者:51.4%
- 労働衛生コンサルタント:24.4%
第一種衛生管理者は約7万人、第二種衛生管理者は約35,000人が受験しました。
試験日と申込方法
衛生管理者試験は、基本的には毎月行われています。試験の概要は以下の通りです。
- 実施地域:関東・近畿・中部・東北・中国四国・北海道・九州の各安全衛生技術センター
- 実施回数:月に2~6回(地域により異なる)
- 受験費用:8,800円(非課税)
- 支払方法:センター窓口への現金持参、または振込
- 申込受付開始:試験の2カ月前より
- 申込受付締切:試験日の2日前の16時まで(持参)/試験日の14日前の消印まで(郵送)
【申込から合格までの流れ】
- 最寄りのセンターホームページ、または関係団体機関から「免許試験受験申請書とその作り方」を入手(または試験の種類・必要部数・連絡先を書いたメモを同封した返信用封筒にて郵送を依頼する)
- 受験料の支払(または振込)
- 受験申請書の提出(または郵送)
- 受験票の受け取り
- 受験
- ホームページまたは郵送物にて試験結果確認(試験日よりおおむね7日後)
- 免許申請手続き
申込方法などの詳細は、各センターのホームページで確認が可能です。
参考:令和6年度労働安全衛生法に基づく 各種免許試験(学科)案内|公益財団法人 安全衛生技術試験協会 関東安全衛生技術センター
安全衛生技術試験協会|公益財団法人
受験資格と勉強方法
衛生管理者試験の受験資格は、「高等学校を卒業した者で、その後3年以上労働衛生の実務に従事した経験を持つ」など16に分類されています。
また、第一種衛生管理者の試験範囲には、第二種衛生管理者試験にはない「有害業務にかかわるもの」が含まれます。
勉強方法については独学でも合格が可能であり、参考書や問題集を使って1~2カ月ほど勉強する、オンライン講座を受講するなどがあります。
衛生管理者と安全管理者の違いは?
衛生管理者と似た資格として、事業場や職場の全般的な安全を管理する「安全管理者」があります。衛生管理者と同様、従業員の安全面と衛生面を管理する役目です。
衛生管理者と安全管理者の違いをまとめると以下の4点です。
- 専任すべき事業所(事業場)の規定
- 資格要件
- 専任とすべき事業所(事業場)の業種
- 巡視の頻度(衛生管理者:毎週1回/安全管理者:常時)
衛生管理者との違いは、安全管理者は国家資格ではない(厚生労働省の承認はあり)ことと、主に事故やケガから従業員を守る「安全」を管理する点と言えるでしょう。
安全管理者は工場や現場での安全を管理
安全管理者の特徴として、業種によって選任の必要があるということです。衛生管理者は事業所(事業場)の人数によって選任されますが、安全管理者は、法定の業種、かつ常時50人以上の従業員を使用する事業場(事業所)です。
安全管理者と衛生管理者の兼任は可能
一人の従業員が安全管理者と衛生管理者を兼任することは可能です。常時50人以上200人以下の従業員を使用する事業所(事業場)では、1人以上の衛生管理者の選任が必要であり、50人以上の事業所(事業場)においては、衛生管理者、安全管理者の専任義務がなければ兼任できます。
ただし、安全管理者と衛生管理者を兼任すると管理しなければならない業務が多くなり、個人の負担は増えるので、配慮が必要です。
衛生管理者と労働衛生コンサルタントの違い
衛生管理者に選任されるのは、衛生管理者の資格を持っている方だけではありません。労働衛生コンサルタントも衛生管理者として選任できます。
労働衛生コンサルタントは、衛生管理者とは別の国家資格であり、衛生管理者との違いは仕事内容です。労働衛生コンサルタントの仕事については、以下の通りとなります。
- 労働衛生に関する教育
- 労働衛生に関する講演
- 労働衛生に関する諸規程、計画、点検基準などの指導
また、労働衛生コンサルタントには、保健衛生と労働衛生工学という区分があります。保健衛生の区分には、産業医、看護師、保健師も数多く登録しています。
衛生管理者と産業医の違い
労働衛生コンサルタントが就くことができる「産業医」とは、医学的な立場から従業員の健康管理を行う医師のことです。衛生管理者と産業医の違いは、医学についての専門知識の有無であり、医師は自分の専門分野に関係なく一定の条件を満たせば産業医になれますきます。
衛生管理者の選任数について
企業内の衛生管理者は人数に制限はありませんが、規模によって最低限必要な人数が異なっています。ここでは、選任数にまつわることについて解説します。
従業員数に対する衛生管理者の選任人数
事業所(事業場)で選ぶ衛生管理者の数は、従業員数によって異なります。詳細は以下の通りです。
事業所(事業場)(企業)の規模 | 必要な衛生管理者の数 |
---|---|
50人~200人以下 | 1人~ |
200人~500人以下 | 2人~ |
500人~1,000人以下 | 3人~ |
1,000人~2,000人以下 | 4人~ |
2,000人~3,000人以下 | 5人~ |
3,000人~ | 6人~ |
従業員数が多くなればなるほど、衛生管理者の数が増えるのは、従業員の健康障害を防ぐために十分な体制を整えるためです。
また、2人以上の衛生管理者を選任する場合は「労働衛生コンサルタント」を入れることで、1人は専属以外とすることもできます。
衛生管理者の未選任は罰則対象
衛生管理者を選任する必要があるにもかかわらず、選任をしていない場合は労働安全衛生法の第12条にのっとり、14日以内に決定し、所轄の労働基準監督署へ届け出をしなくてはならなりません。
また、未選任の状態が続くと、50万円以下の罰金対象になる可能性があるので、衛生管理者の選任が必要となったら、速やかな選任と届け出が必要です。
対象者がいない場合は受験または採用
衛生管理者が必要な事由が発生していても、事業所(事業場)に衛生管理者の資格を所持している従業員がいない場合もあります。その場合は、既存の従業員が衛生管理者資格の取得試験を受けて資格を得るか、資格を所持している人を新たに採用することになるでしょう。
なお、新たな資格取得や資格保持者の採用には一定の時間を要するので、途切れもなく衛生管理者を配置できるような取り組み(例:資格取得する環境を整えるなど)が必要です。
衛生管理者の職場巡視について
衛生管理者は、労働安全衛生規則によって、週に1回以上の各事業場(事業所)を巡って状況を観察する職場巡視が義務づけられています。
必要時に対応できる代理者
衛生管理者に何らかの事情があって職場巡視ができない場合は、代理者を立てることが必要です。代理者として選任できるのは、同じ衛生管理者の資格を所持している他の従業員や、産業医などです。他にも、保健衛生の業務に就いている従業員や、過去に就いたことがある従業員が代理者を選ぶ際の対象となります。
職場巡視のチェックリスト例
衛生管理者の職場巡視では、従業員が健康で安全に働けているか、安全衛生の問題点はないかという点に目を向けます。
職場巡視は、基本的には項目別に実施します。以下が職場巡視のチェックリスト例です。
【職場環境】
- 換気や空気調節は適切か
- 通路幅は適切か
- 不自然な作業姿勢の従業員はいないか
- トイレや給湯室に不衛生なところはないか
- 冷蔵庫内は清潔に保たれているか
【防災・安全】
- 非常口のドアは正常か
- キャビネットの上段の物は落下の可能性がないか
- 救急用具は設置されているか
【その他】
- たばこや煙、ほこりなどの充満はないか
- 残業やハラスメントに対する取り組みが積極的に行われているか
各事業場(事業所)に最適なチェック項目を用意しましょう。
企業における衛生管理者の状況・データ
2023年12月現在、企業における衛生管理者には以下の3つ特徴が見られます。
- 約40%が40代
- 約70%が人事部門へ在籍
- 事業所(事業場)や個人の能力によって業務負荷に差がある
それぞれの特徴について、詳しく確認してみましょう。
衛生管理者の70%が人事部門へ在籍する理由
衛生管理者自体は、所属部門を限定していませんが、衛生管理者のうち人事部門7割、または総務その他3割といった部門に所属しています。
その理由として、衛生管理者の多くが衛生管理者資格を取得する前に、人事部門で社員の健康管理に関する業務を経験しているからだと予想できます。すでに経験している業務内容が知識のベースとなっている点も資格取得後の業務を効率的に回せる要因にもつながっているでしょう。
衛生管理の業務負荷について大きな差がある
令和元年(2019年)全国衛生管理者協議会が実施した「衛生管理者の能力向上教育に関するアンケート」の結果によると、事業所(事業場)や個人によって衛生管理業務の負荷に差があることがわかりました。詳細は以下の通りです。
- 衛生管理の仕事の幅が大きく十分な対応ができない
- 通常業務と兼任しているため衛生管理業務に割く余裕がない
上記は一見、相反するように見えるアンケート結果ですが、そこには事業所(事業場)ごとの「衛生管理に対する意識」が反映されているとも言えます。
実際のところ、衛生管理に力を入れようとすれば管理すべき内容の多さに対応できない、衛生管理に対する力量を小さくして他業務と兼務すれば職場巡回の時間が取れない、ということです。
職務の再整理と能力向上研修が急務
衛生管理者へ向けた過去のアンケートによると、経験年数が2年未満の衛生管理者の多くが、能力向上研修を強く希望していることがわかりました。
また、衛生管理者数の不足を補うための受験推進や、衛生管理者の職務に十分な時間を割けるような職務の再調整が必要と言えるでしょう。
衛生管理者は従業員の健康維持を目的とした、大切な役割です。事業場(事業所)に一人でも多くの衛生管理者の資格を取得させ、従業員の健康に特化した働きができるような環境づくりが必要となるでしょう。
監修者の編集後記-衛生管理者について-
衛生管理者は、従業員の健康管理だけでなく、企業の成長や社会への貢献において欠かせない存在です。この資格は取得して終わりという仕事ではありません。資格を取得することでこれまでの知識や経験を活かしながら、日ごろから従業員に寄り添うことを意識することで、心身の負担を減らし、「健康維持」という大きな成果を上げ続けることができるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。