失業保険の自己都合とは?すぐもらうのは可能?期間・条件について
この記事のポイント
- 失業保険とは、仕事を失った労働者が次の仕事に就くまでの期間、安定した生活を保護するために支給される給付金です。
- 自己都合を理由に離職している場合、離職日から失業保険を受け取るまでには約3カ月の期間が生じます。
- 自己都合による離職であっても、一定条件を満たす場合、受給開始時期を早め、受給期間を延長する可能性があります。
目次
失業保険(雇用保険の基本手当)とは?
失業保険とは、労働者が仕事を失った際、次の仕事が決まるまでの間の生活を維持しながら、円滑な転職活動を支援することを目的とした給付金です。
正式名称は「雇用保険の失業等給付の基本手当」ですが、一般的には「失業保険」と呼ばれることが多く、その他「失業手当」や「失業給付金」なども同じ意味で用いられる俗称です。
失業保険の受給条件
失業保険は、仕事を失った全ての方が自動的に受給できるものではありません。
受給するためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 一定期間以上、雇用保険の被保険者期間がある
- 失業状態にある
- ハローワークに求職の申込みをしており、就業の意思がある
まず、失業保険を受給するための大前提として、離職前の2年間で通算12カ月以上、雇用保険への加入期間(被保険者期間)が必要です。
ただし、会社都合による退職や正当な理由による自己都合退職の場合においては、被保険者期間が離職前の1年間で通算6カ月以上あれば受給対象となります。
詳細な受給条件については、厚生労働省が公表している資料をご参考ください。
次に、すぐに仕事に就ける能力と意思があるにもかかわらず、仕事に就くことができていない状態(失業状態)にあるということです。
上記2つの条件を満たしたうえで、ハローワークにて求職の申込みをすることによって、はじめて失業保険を受給するための手続きを開始することができます。
ただし、家事や学業に専念している専業主婦や学生、これから自営業を始める方、次の就職先が決まっている方などは、この失業状態に該当しないため、受給対象外となります。
失業保険は、離職してから自動的に支給されるものではないため、離職者本人が自分で手続きをしなければ支給されない状態が続くという点には注意が必要です。
参考:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準|厚生労働省
失業保険と雇用保険の違い
先述の通り、失業保険は雇用保険という制度の中で受けられる給付金の一つです。雇用保険とは、労働者が働くことができない状態になった際の雇用と生活を守ることを目的とした社会保険制度で、失業保険には以下の給付制度が設けられています。
- 求職者給付(失業保険はここに含まれる)
- 就職促進給付
- 教育訓練給付
- 雇用継続給付
雇用保険料は、労働者が在職中に雇用主とともに支払う仕組みになっており、失業保険の支給額は、この納付済み雇用保険料に基づき計算されます。
失業保険の自己都合とは?
失業保険は、離職理由によって、必要となる受給条件や給付金の受給期間などが変わってきます。
離職理由によって受給者は以下の3つに分類され、それぞれに定められたルールに基づき、受給手続きが進められていきます。
- 一般受給資格者:転職やキャリアアップなどの自己都合による離職
- 特定受給資格者:会社の倒産や整理解雇など会社都合による離職
- 特定理由離職者:病気やケガ、家庭の事情など正当な理由のある自己都合による離職
ここからは、受給者が「一般受給資格者」である場合の失業保険の受給について解説していきます。
失業保険の受給期間
失業保険の受給期間には「所定給付日数」という上限があります。受給期間中に次の仕事が決まらなかった場合であっても、基本的には所定給付日数を超えて継続して失業保険の受給ができません。
所定給付日数は、離職理由と雇用保険の被保険者期間によって以下のように異なります。
雇用保険の被保険者期間 | 所定給付日数 |
---|---|
10年未満 | 90日 |
10年以上20年未満 | 120日 |
20年以上 | 150日 |
失業保険の計算方法
失業保険の受給額は、雇用保険の被保険者であった期間の直近6カ月の間に受け取っていた賃金と受給者の年齢などに基づいて算定された基本手当日額に所定給付日数を乗じた額となります。
基本手当日額=賃金日額×給付率
賃金日額=離職前6カ月間の賃金合計÷ 180
給付率 = およそ50~80%(60~64歳の場合は45~80%)
賃金が低い方ほど給付率は高くなります。
このように、失業保険は在職中の賃金をベースに受給額が決定しますが、高所得者であるほど受給額が増えるという仕組みではありません。
基本手当日額には上限が設けられているため、上記の計算式で算出した日額が上限額を上回る場合、上限額にて失業保険の受給額が算定されます。
基本手当日額の上限(2023年8月1日時点)は下記の通りです。
受給者の年齢 | 基本手当日額の上限 |
---|---|
30歳未満 | 6,945円 |
30歳以上45歳未満 | 7,715円 |
45歳以上60歳未満 | 8,490円 |
60歳以上65歳未満 | 7,294円 |
失業保険の支給開始時期
自己都合により離職した場合の失業保険の受給開始時期は、ハローワークへ求職の申込みを行ってから約3カ月後が目安となります。
失業保険を受給するまでの大きな流れとそれにかかる日数は以下の通りです。
- 離職
- 離職証明書の提出を受けて離職票が交付される
- 「離職者」になる
- 離職者が求職の申込みと離職票を提出する
- 受給資格者証が交付される
- 「受給資格者」になる
- 受給資格者が失業認定報告書を提出する
- 失業の認定が行われる
→離職後、最初に管轄の公共職業安定所に出頭してから28日後 - 失業が認定された分だけ「基本手当が支給」される
失業保険は、離職理由や過去の離職頻度・回数によって、受給開始時期が異なります。
一般的には約1〜3カ月の間の給付制限を経た後、失業保険を受け取れるので、受給開始時期については、手続き開始時にハローワークに確認するとよいでしょう。
退職が自己都合の場合、基本手当をすぐもらう方法はある?
自己都合による離職は、給付制限期間が設けられるため、会社を辞めてから実際に失業保険を受け取るまでに時間を要します。そのため、計画的に準備を進めなければ退職から失業保険の受給までの間、生活が困窮してしまう可能性も考えられます。
「できるだけ早く失業保険を受け取りたい」と希望する場合、以下の2つのいずれかに該当する場合、通常よりも早く失業保険を受け取ることが可能となります。
- 「特定理由離職者」である場合
- 職業訓練を受ける場合
それぞれのケースについて詳しく解説していきましょう。
「特定理由離職者」であることを証明する
「特定理由離職者」とは、冒頭で少し触れた通り、病気やケガなどのやむを得ない理由により離職をせざるを得なかった方が該当します。
ここでポイントとなるのが「やむを得ない理由」という点であり、離職後の生活設計や次の仕事を探す間もなく離職に至ってしまったということが明らかであるという点です。
この「やむを得ない理由」により離職したことが証明できる場合においては、自己都合によって離職していても「特定理由離職者」に該当し、給付制限期間が設けられることなく失業保険を受けられます。
自己都合による離職であっても、離職理由が下記のようなケースに該当する場合は、特定理由離職者と判定されることがあります。
- 体力不足や心身障害、疾病や負傷、視力・聴力・触覚の減退など
- 妊娠・出産・育児により離職し、すでに受給期間の延長措置を受けている
- 父または母の死亡、疾病や負傷により、父または母の扶養や看護が必要となるなど、家庭事情が急変した
- 配偶者や扶養親族と別居生活を続けることが困難となった
- 結婚や育児、会社移転、配偶者の転勤などにより、通勤が不可能または困難となった
- 企業の人員整理などによる希望退職者募集に応じて離職した
- 配偶者から身体に対する暴力またはこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動を受け、加害配偶者との同居を避けるため住所や居場所を移し離職した
最終的に求職者が「特定理由離職者」であると判断するのはハローワークになるため、該当すると考えられる場合は、手続きを始める際に一度相談してみることをおすすめします。
参考:ハローワーク 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要|厚生労働省
職業訓練を受ける
国や自治体が実施している「公共職業訓練」を受講する場合、自己都合による離職者であっても給付制限期間が免除されます。
公共職業訓練は、再就職に有利となるような技能や資格・知識の習得を目的に実施される訓練です。基本的には訓練開始時の時点で所定給付日数の1/3以上の支給日数が残っていることが受講に必要な最大の条件となっています。
訓練の受講料は無料(教材費は有料)です。訓練中には受講手当や通勤手当が支給され、さらには訓練中に所定給付日数が上限に達した後も、訓練終了日まで失業保険の受給期間が延長されます。
訓練を申込むタイミングが遅いと受講できない場合もあるため、受講を希望する場合はなるべく早い段階でハローワークに相談するようにしましょう。
参考:職業訓練の申込みを検討しておられる雇用保険受給資格者の皆さんへ R4.6|厚生労働省
自己都合の理由が病気の場合、基本手当をもらうにあたって診断書はいる?
病気を理由に離職した場合、失業保険の手続きを行う際には診断書を提出することをおすすめします。
理由はこれまで触れてきたように、病気により離職を余儀なくされた場合は「特定理由離職者」と判定される可能性が高く、受給開始のタイミングや受給期間においてメリットを得られることが期待できるためです。
例えば、33歳の方が7年勤めた会社を病気が原因で自己都合退職した場合、一般受給資格者として手続きを進めると給付制限期間が2カ月、所定給付日数は90日となるのに対し、特定理由離職者と認定されると給付制限期間は免除され、所定給付日数は180日となります。
離職理由によっては、診断書に加え、裁判所や婦人相談所などが発行した証明書も必要となるため、事前によく確認したうえで必要書類をそろえるようにしましょう。
基本手当や自己都合退職などの状況・調査データ
ここからは、自己都合による離職や、失業保険の基本手当に関するさまざまな調査結果を紹介します。
基本手当の平均日額は5,092円
厚生労働省が実施した『基本手当等の現状について』によると、失業保険の平均支給額は、年々増額で推移しており、2022年度は日額5,092円に達しています。
基本手当日額の上限額がハイペースで引き上げられていること、そして全国的に賃上げが加速していることを考えれば、支給額はこれからも上昇傾向が続くことが予想されます。
失業保険の全受給者のうち「自己都合」による受給は約50%
厚生労働省の『基本手当等の現状について』によると、2015年ごろから自己都合による離職者が受給者全体の50%前後で推移しているとの調査結果を報じています。
他方で、民間の調査期間「Job総研」が実施した調査では、失業保険の給付開始までの期間が遅く、受給期間は短いと感じている回答者が約8割に達しており、「自己都合退職は不利である」と感じている方が多いという現状を見てとることができます。
政府がめざす「労働移動の円滑化」を進めていくうえで、今後も自己都合による離職者の増加が予想されます。
失業保険がキャリアアップのための退職などを躊躇する原因とならないよう、2020年10月以降、政府は自己都合離職者における失業保険の給付制限期間を短縮する方向で検討を進めており、今後もどのように見直しが進んでいくのかが注目されています。
参考:基本手当等の現状について|厚生労働省
参考:Job総研による『2023年 自己都合退職の実態調査』を実施|株式会社ライボ
自己都合退職者の約20%が給付制限期間中に再就職している
厚生労働省に『基本手当等の現状について』の資料内に掲載されている「自己都合離職者の再就職までの期間別の割合」調査では、自己都合による離職者のうち約20%の方が給付制限期間中に再就職をしているという結果が明らかになっています。
失業保険の受給者が再就職するまでに要する期間は、2021年度のデータでは以下の割合となっており、約6割の受給者が失業保険の受給期間が終了するまでの間で再就職をしています。
給付制限開始から再就職までの期間 | ||
---|---|---|
1カ月未満 | 9.0% | 給付制限期間中 |
1カ月以上2カ月未満 | 10.6% | 給付制限期間中 |
2カ月以上3カ月未満 | 6.2% | 失業保険受給中 |
3カ月以上4カ月未満 | 4.7% | 失業保険受給中 |
4カ月以上 | 30.1% | 失業保険受給中 |
受給期間終了後に就職または未就職 | 39.4% | — |
政府は今後、受給者が所定給付日数を残して再就職した場合において支給される「就業手当」や「再就職手当」、また再就職先での定着を促進する「就業促進定着手当」などの手当の認知度を高め、普及させていくことを目指しています。
このような就業促進手当が拡充・普及することにより、失業者の早期再就職が促進され、失業保険の受給期間にも変化が見られるようになることが期待できます。
参考:厚生労働省「基本手当等の現状について」
もっと詳しく!日本の失業保険に関する論文と要約
日本の失業保険(基本手当)に関する研究結果を以下にまとめます。
- 失業保険法と高齢労働者の雇用安定化法の改正: 日本の国会は、失業者、高齢労働者、育児休業中の親の所得保障を改善するため、失業保険法と高齢労働者の雇用安定化法を改正しました。これらの改正は、高齢化する人口と労働力に若年層が少なくなることに伴う労働市場の変化への対応の一環として行われました (Liu, 1994)。
- 失業保険システムの特徴: 日本の失業保険システムは、失業保険と失業予防の二層システムから成り立っており、雇用の安定化、生活の安定、再就職の支援の3つの機能を果たしています (Wen-qi, 2010)。
結論として、日本の失業保険システムは、失業者や高齢労働者の所得保障を改善し、雇用の安定と再就職を支援するために重要な役割を果たしています。
監修者の編集後記 -自己都合の基本手当受給について-
キャリアアップやライフステージの変化など、離職する理由も多様化が進む昨今においては、失業保険を効率的に活用しながら、スムーズに次の仕事に就ける流れを生み出すことが一層重要視されています。
本記事でご紹介したように、失業保険の受給ルールは離職理由によって大きく変わってくるため、離職する前に受給に必要な条件や制度の仕組みを理解し、再就職に向けてしっかりと計画しておくようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。