アウトソーシングとは?意味やメリットデメリット、企業の導入事例を解説
この記事のポイント
- アウトソーシングとは、自社の業務を外部の会社などに委託することを指します
- アウトソーシングには、経営資源をコア業務に集中できたり定例業務などのコストを削減したりするメリットがあります。
- 積極的にアウトソーシングを活用して業務を変革することが、企業の発展につながります。
目次
アウトソーシングとは?
アウトソーシング(Outsourcing)は「Out(外部)」と「Sourcing(資源利用)」を組み合わせた単語で、日本語では「外部委託」です。つまり、自社の業務を外部の会社などに委託することで、業務の効率化や社外の人材・ノウハウの活用などを目的とします。
たとえば、給与計算を社外の企業に委託し業務が集中する時期をなくしたり、新規事業参入時に社内にないノウハウを持つ企業に業務を委託したりすることなどが該当します。
アウトソーシングと人材派遣との違い
社外の人材を活用するという点で、アウトソーシングと間違いやすいのが人材派遣です。しかし、アウトソーシングと人材派遣社外は委託するサービスの内容や業務の遂行管理など、異なる点が多数あります。
委託するサービスの内容は、人材派遣は業務を遂行する「人材(労働力)」であるのに対し、アウトソーシングは「業務」そのものです。人材派遣では、企業が派遣労働者に業務内容を指示し業務の進捗状況などを管理しますが、アウトソーシングでは委託先の企業が自社の従業員を使って業務を行います。
また、企業と委託先が締結する契約の種類も両者で異なります。人材派遣は、企業と人材派遣会社が「人材派遣契約」を結びますが、アウトソーシングでは、企業と委託先が締結するのは「業務委託契約」です。ただし、労働者を雇用するのはどちらも委託先企業です。
(企業と委託先、労働者の関係)
アウトソーシングの種類
アウトソーシングの種類を委託する業務内容によって分類すると、大きく次の3つになります。
- ITO
- BPO
- KPO
それぞれについて、委託内容と具体例などについて解説します。
ITO
ITOとは、「Information Technology Outsourcing、インフォメーション・テクノロジー・アウトソーシング」の略で、「情報技術や情報システムなどのIT業務」を委託することです。
システムの開発や運用・管理、セキュリティ管理、サーバーの運用・管理などのIT関連業務を、専門的な技術やノウハウを持った企業に委託することが該当します。
情報システム部門を持たない企業がIT導入を図るケースや、急速に発展するIT技術を早急に取り入れたい企業が先端技術を持つ委託先に依頼するケースなどが想定されます。
BPO
BPOとは、「Business Process Outsourcing、ビジネス・プロセス・アウトソーシング」の略で、企業の一定業務(人事や総務、経理など主にバックオフィス業務)を一括して委託することを指します。
具体的には、給与計算や社会保険手続き、経費精算、コールセンターなどの業務が対象です。
人材不足で業務を削減したい企業や繁忙期に合わせた人員を減らしてコスト削減を図る企業、人的資源のコア業務への集中を図る企業などが活用します。
KPO
KPOとは、「Knowledge Process Outsourcing、ナレッジ・プロセス・アウトソーシング」の略で、情報の収集や分析、解析といった知的生産に関する業務を委託することです。
たとえば、顧客データの分析や市場調査、商品開発に必要なデータ分析などの業務が該当します。
市場や顧客の動向を把握し企業活動に活かすために、社内にいない高度な情報分析能力や判断能力を持った人材やそのノウハウを活用したい企業にとって、KPOは有効な方法といえるでしょう。
アウトソーシングに向いている業務例
どの業務をアウトソーシングするかは、企業の経営判断や現在の業務運営状況によって異なりますが、アウトソーシングに向いている業務と不向きな業務があります。
それぞれについて、主な業務を紹介します。一般的に、定型の業務や単純作業の多い業務はアウトソーシング向きといえます。
コールセンター・顧客対応
アウトソーシングに向いている業務の1つが、コールセンターや店頭などの顧客対応です。
コールセンターの業務には、カスタマーサポート(照会・苦情対応)業務やテクニカルサポート(操作方法など技術的な質問への対応)、テレフォンアポイント(商品などの照会、送付案内、面談アポ)などがあります。また、店頭などでのお客様対応も同様です。
業務内容を絞り対応をマニュアル化するなどすれば、アウトソーシングでも比較的短期間で顧客対応できるようになります。
人事・採用
人事関係や採用関係の仕事も、アウトソーシングに向いた業務といえます。
人事関係の業務には、給与計算や人材育成などがあります。人材育成業務は、人材育成計画に沿った研修カリキュラムや研修の実施・フォローなどです。社内の人材だけで多様な研修を実施するのは難しい場合、企業向けの研修会社を活用できます。
採用関係の業務は、人材募集や応募の受付、採用試験・面接などをアウトソーシングできます。採用代行会社の豊富な情報やノウハウを活用して、採用にかかる手間を省きながら転職市場の変化などに素早く対応できるでしょう。
経理・会計
経理や会計は定形のルーティン業務が多いため、アウトソーシングしやすい業務です。
具体的には、帳簿の作成や決算書の作成、税務申告などがあります。これらの業務は会計などの専門知識が必要であり、特定の時期に業務が集中するという特徴があります。
そのため、最新の会計管理システムを持つ代行サービスに委託するのが効率的です。また、会計ルールや法改正への対応も確実に対応してくれるため安心です。
総務
総務の仕事は、受付業務や書類の作成・保管、備品・設備の管理、名刺手配など多種多様ですが、定型業務が中心であるためアウトソーシングに向いています。
また、経理・会計と同じように特定の期間に業務が集中する傾向にあるため、アウトソーシングすれば繁忙期に合わせて多めに人員を配置する必要もありません。そのため、事務経費の削減や人材不足への対応として、アウトソーシングを活用することもあります。
IT関連
IT関連の業務は対応できる人材が社内にいないためアウトソーシングに頼らざるをえないというケースもあります。
IT関連の業務には、システムの開発や運用・管理、セキュリティ管理などがあります。それぞれの業務には専門知識が必要ですが、プログラマーやSEなどIT技術者の人材不足が顕著で、自社で人材を育成する余裕のない企業も多いのが現状です。
また、業務内容の高度化などにより新しいスキル・ノウハウ(AI技術関連など)を持つ人材が必要になるケースもあり、社外の人材やノウハウを活用することで迅速・効率的に業務が進むこともあります。
広告・マーケティング
IT関連の業務と同様、広告やマーケティングの業務も社外の人材やノウハウが必要になることがあります。
ホームページやWeb広告など多様化する広告手段に対応できる人材を社内で確保できない企業も多いでしょう。広告代理店やWeb制作会社に委託することで、効果的な広告やマーケティングが期待できます。
また、市場の関心や社会のトレンドを迅速に幅広く把握しやすくなるというメリットもあります。
営業
営業のアウトソーシングとは、自社の商品やサービスの営業・販売を委託することです。営業がコア業務でアウトソーシングできない企業もありますが、商品・サービスの開発や製造をコア業務とする企業の利用が考えられます。
また、営業をコア業務とする企業でも、営業員や販売員の不足を補ったり、同業他社や他業界で培った営業スキルや経験を持つ人材を活用して売上アップを図ったりすることもあります。
販売する商品やサービスを限定すれば、一定期間の教育で営業員や販売員の育成は可能です。
アウトソーシングに不向きな業務
アウトソーシングに向いている業務がある一方、不向きな業務もあります。企業経営や業務運営のコアとなる業務、重要な責任を伴う業務などは、一般的にアウトソーシングには不向きといえます。
企業業績を左右する業務運営方針や企業を支える諸制度の企画や決定、推進などが該当します。また、主力商品やサービスの開発業務や販売促進、プロジェクト業務の管理・推進なども企業のコアとなる業務です。
ただし、新規事業の立ち上げなど自社で対応できない業務だけを部分的にアウトソーシングするという選択肢はあるでしょう。
アウトソーシングをするメリット
アウトソーシングの主なメリットは次の通りです。
- 事業の推進力を強化できる
- コスト削減ができる(人件費・固定費など)
- ルーティン業務を効率化できる
- 専門スキルを仕入れられる
それぞれについて解説します。
事業の推進力を強化できる
アウトソーシングによって業務の選択と集中ができるようになり、重要な事業や新規事業を推し進める力がアップします。企業業績にあまり関わりのない業務や雑務などをアウトソーシングすれば、企業のコア業務に人材などの経営資源を集中できるためです。
アウトソーシングによりコア業務の生産性がアップし、企業の収益改善も期待できます。ただし、自社で手掛けるコア業務とアウトソーシングしても問題ない業務をきちんと選別しない場合、期待した効果が得られないこともあるため注意しましょう。
コスト削減ができる(人件費・固定費など)
アウトソーシングによって、人件費や固定費などのコストが削減できることもあります。繁忙期に合わせて人員や設備、システムを配置した場合、閑散期でも人件費や設備費などの固定費が発生するため、アウトソーシングにより無駄なコストを削減できるためです。
また、委託先は複数の企業から業務を受注するため、一般的に業務を効率化してコストを削減しやすくなります。結果的に、自社で業務を行うよりもアウトソーシングの費用のほうが安くなることもあるでしょう。
コスト削減効果を発揮するには、費用対効果をきちんと検討してアウトソーシングする業務を選択しなければなりません。
ルーティン業務を効率化できる
アウトソーシングには、定形のルーティン業務を効率化できるメリットもあります。たとえば、給与計算や経費処理などのルーティン業務は、最新の会計システムを利用することで業務を効率化できる可能性が高いでしょう。
ルーティン業務の効率化を図るために自社でシステム導入する方法もありますが、導入費用が割高になったり、システムを効率的に運用できる人材がいなかったりするケースもあります。
専門スキルを仕入れられる
技術革新やビジネス環境・顧客ニーズの変化に対応できるスキルなどを自社だけで養成するのは難しいですが、アウトソーシングにより社外の専門スキルやノウハウを仕入れて活用できます。
業務内容に応じて専門スキルを持つ委託先にアウトソーシングすれば、時代の変化にもスピーディーに対応できるでしょう。また、委託先に業務を任せきりにせず協同して業務を行えば、委託先の専門スキルやノウハウを自社でも蓄積できる可能性もあります。
アウトソーシングをするデメリット
アウトソーシングにはさまざまななメリットがある一方、デメリットもあります。主なデメリットは次の通りです。
- 情報が外部に流出する恐れがある
- 社内にノウハウが蓄積されない恐れがある
- 高額な費用がかかる場合もある
それぞれについて解説します。
情報が外部に流出する恐れがある
アウトソーシングのデメリットの1つは、社内の機密情報などが委託先を通じて外部に流出する可能性があることです。業務委託のために社内の機密情報や顧客情報、従業員情報をアウトソーシング先に提供するケースもあるためです。
委託先の従業員による故意や過失による情報漏洩であっても、自社の信用やイメージが大きく損なわれることもあります。また、情報流出による損害賠償責任を問われるリスクも考えられます。
委託先の情報セキュリティー体制が十分かを、アウトソーシングする前に十分確認するとともに、情報管理が適切に行われているか定期的に確認することも必要です。
社内にノウハウが蓄積されない恐れがある
アウトソーシングした業務について委託先に任せっきりになると、業務に精通した従業員がいなくなることも考えられます。社内にノウハウが蓄積されず、委託先を変更する(または社内に戻す)際、不都合が生じる可能性もあります。
業務の進め方を一緒に検討したり、定期的に業務の進捗状況や改善策を話しあったりするなど、委託先との連携やノウハウの共有を図ることが重要です。
高額な費用がかかる場合もある
アウトソーシングには初期費用やランニングコストがかかるのは当然ですが、業務内容や委託先によっては社内で業務を行うより高い費用がかかることはあります。
コストダウンを目的にアウトソーシングしたにもかかわらず、高額な費用がかかり却ってコストアップすることにもなりかねません。委託費用が業務内容に見合うのかどうかをきちんと検証し、複数の委託先を比較したうえで、導入の可否判断や委託先の選択を行いましょう。
中小企業のアウトソーシングの活用状況
中小企業庁の「アウトソーシングの活用状況」をみると、実際にアウトソーシングしている企業について次の傾向がみられます。
- 売上が増加している企業ほどアウトソーシングを積極的に活用している
- アウトソーシングを活用している企業の約半数は「制度導入に特に課題(問題)はない」と考えている
- 成長・拡大志向企業では、必要性が増加した業務として「デザイン・商品企画」、「調査・マーケティング」といった専門業務を挙げる割合が高い
積極的にアウトソーシングを活用して業務の変革を図ることが、企業の発展につながる可能性が高いといえるでしょう。
アウトソーシングの導入事例
最後に、アウトソーシングを導入して成果を上げている次の3企業の取り組み事例を紹介します。
- 問い合わせの対応のアウトソーシング(株式会社日立マネジメントパートナー)
- 給与計算業務のアウトソーシング(株式会社AIRDO)
- 火力プラントの保守業務をアウトソーシング(三菱日立パワーシステムズ株式会社)
問い合わせの対応のアウトソーシング|株式会社日立マネジメントパートナー
株式会社日立マネジメントパートナーは日立製作所や関連会社の人事事務などを行う会社で、各社の従業員からの問い合わせを受けるコールセンター運営を委託しています。
アウトソーシングにより、コールセンター運営コストの約30%削減とプロのオペレーターによる運営でサービス品質の向上を実現しました。
同社の担当者によると、「アウトソーシングを成功させるには、委託元と委託先がお互いに歩み寄って協力しながら進めることが何より重要」、「一緒に課題解決に取り組んでくれるパートナー選びが非常に重要」とのことです。
参考: BPO事例インタビュー 株式会社日立マネジメントパートナー|PASONA
メール室の業務をアウトソーシング|日本マクドナルド株式会社
日本マクドナルド株式会社の総務部では「店舗およびオフィススタッフにとって快適な環境を提供すること」をミッションとして掲げています。同社はメール室での業務をアルバイトで運用していましたが、適切に運用できなかったため、アウトソーシングの導入に踏み切りました。
アウトソーシングの導入により、200時間程度の定型業務を社員からカットすることに成功したそうです。これにより、総務部の社員がコア業務に集中できるようになりました。
参考: 日本マクドナルド株式会社「全てのスタッフが快適に働ける環境作り」をミッションに、アウトソーシングを有効活用|NOCアウトソーシング&コンサルティングサービス株式会社
火力プラントの保守業務をアウトソーシング|三菱日立パワーシステムズ株式会社
三菱日立パワーシステムズ株式会社は、火力発電システム事業などを行う会社です。同社では、世界各国にある火力プラントの保守・メンテナンス業務を一括してアウトソーシングしています。
国ごと、プラントごとに個別の対応が求められるためアウトソーシングは難しそうに感じられますが、業務の標準化を推進することにより、固定費を削減しながら受注額を増やしています。
成功の要因は、火力プラントごとの取引条件をまとめた「標準化シート」やスタッフのスキルを可視化したシート「スキルマップ」を活用するなどして業務の標準化に成功したことです。
参考:BPO事例インタビュー三菱日立パワーシステムズ株式会社|PASONA
もっと詳しく!アウトソーシングに関するおすすめ論文と要約
アウトソーシングに関する論文や情報を要約して紹介します。
アウトソーシングの実態と経営課題
この論文は、グローバリゼーションによって進行する先進国内部の経済格差と労働条件の悪化、特に日本の状況に焦点を当てています。日本では、市場原理主義に基づいた構造改革が進められ、伝統的な終身雇用制が解体され、不安定な雇用形態が増えています。これは国内雇用状況の悪化につながっています。この背景下で、企業経営におけるアウトソーシングの増加が見られ、その実態と戦略的な側面が研究されています。
論文は、製造業、医療分野、知的所有権、人材派遣、情報システム分野、物流業分野など、様々な業界におけるアウトソーシングの実態と経営課題を多角的に分析しています。特に、コスト削減やスペースの有効活用のための周辺業務のアウトソーシング、新規事業進出や事業拡大のためのコア業務の外部委託など、多様なアウトソーシングの動向について考察されています。
また、アウトソーシングの定義、従来の外部委託との違い、アウトソーシングの導入状況や供給状況、アウトソーシングの導入分野、契約期間、組織の変更、取引企業数の特徴、アウトソーシング受託企業の強み、選定基準などについて詳細に分析されています。これにより、アウトソーシングが企業経営において重要な戦略的役割を果たしていることが明らかになります。
研究は、アウトソーシングがもたらす様々な影響と、それに伴う経営上の課題について深い洞察を提供しています。アウトソーシングの導入による効果、企業間の認識の違い、人材問題、そして経営戦略上の課題に対する提案が行われています。
企業におけるITアウトソーシングの影響について
この論文は、企業の情報通信技術(IT)の活用とITアウトソーシングの実施に関する影響について焦点を当てております。ITはビジネスの効率化に貢献しますが、IT人材の不足や技術の急速な変化に直面しています。これに伴い、多くの企業がIT関連業務を外部に委託するITアウトソーシングを検討しております。
論文では、日本企業におけるITアウトソーシングの影響を分析することを目的とし、株価への影響とセキュリティインシデントの発生の有無を調査しています。研究結果によれば、ITアウトソーシングの発表が株価に有意なポジティブな影響を与えるわけではなく、セキュリティインシデントの発生との関連性がある可能性が示唆されております。
論文は、ITアウトソーシングの利点とデメリットを考慮し、外部委託によるコントロールの損失や情報漏洩などのリスクを指摘しております。最終的には、ITアウトソーシングは外部と内部の協調を重視した戦略的なアプローチが必要であると結論づけています。この研究は、企業がIT戦略を検討する際の重要な視点を提供していると言えるでしょう。
出典:慶応義塾大学「企業におけるITアウトソーシングの影響について」
監修者の編集後記 -アウトソーシングについて-
業務の効率化やコスト削減を目的に、定例業務や単純作業のアウトソーシングを図ることも大切ですが、専門性の高い業務で豊富なスキルやノウハウを持った社外人材を活用することで企業の発展や業務変革を図ることも検討してみましょう。
アウトソーシングを成功させるためには、自社の経営課題や業務内容を確認しアウトソーシング活用の目的を明確にすることと、委託先と協力して業務改善を図ることが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。