エグゼクティブとは?意味やリーダーの役割、人材育成方法や事例を解説
この記事のポイント
- エグゼクティブは、一般的には企業などで「責任の重い、重要な役割を担う人」という意味で使われています。
- 一般的には、CxO(Chief x Officer)、執行役員といった役職に就いている人たちをエグゼクティブと呼ぶことが多いようです
- エグゼクティブの役割は、組織目標の設定や経営戦略の策定に関わる意思決定、部下の動機付け、企業の社会的責任の遂行など組織全体の方向性を定めていくことです。
目次
エグゼクティブの意味とは?
エグゼクティブは、英語ではexecutiveと綴りますが、その意味は、「意思決定をし、その決定に基づいて行動を起こす、ビジネス分野で高い地位にいる人」「法律などの執行に責任を負う政府の一部(行政機関)」といったものです。形容詞として使う場合には、特に前者の意味を受けて、「地位の高い人向けの」「高級な」といった使い方がされています。
ビジネスでの意味
「エグゼクティブ」は、明確な定義はありませんが、役割については、多くの方が共通の認識を持っているでしょう。一つは、組織の方向性を決定し、目標の達成に向けて組織内の力を結集していくことであり、もう一つは、組織の社会的責任を全うすることです。要するに、経営幹部や執行責任者です。
こうした役割を担う役職と言えば、企業では、会長、社長、専務、常務、いわゆるCxO人材(後ほど説明します)、執行役員が挙げられます。こうした役職に就いている人たちをエグゼクティブと呼ぶことができます。
ビジネス以外で使われる場合
ビジネス以外のエグゼクティブとは、ハイクラスな方のための、あるいは、高級なといった意味で使われています。
飛行機のエグゼクティブ・クラス、ホテルのエグゼクティブ・ルームやエグゼクティブ・ラウンジなど、ワンランク上のサービスや仕様を訴求するときに使うのが典型的な例です。
エグゼクティブの責務とリーダーシップ
エグゼクティブは、経営層として、株主、社員(従業員)、顧客が満足できる業績・成果を上げる責任を負っています。
また、コンプライアンスの確保、事業を通しての社会課題の解決(SDGs:Sustainable Development GoalsやCSV:Creating Shared Value)などの企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)の遂行もエグゼクティブの役割です。
こうした責務を果たすために、エグゼクティブは、組織目標を設定し、実現に向けた全体戦略を決定します。そして、この戦略を実行するために、リーダーシップを発揮し、組織を動かします。
業績・成果の達成に向けた目標と戦略
エグゼクティブは、組織目標の設定や戦略策定によって、各部門が達成すべき業績・成果を明示するとともに、自社の目標達成が社会のメリットとなっていることも示すことが求められます。そのため、目標設定にあたっては、自社の能力を測るだけでなく、自社を取り巻く社会・経済・政治環境を正しく認識する必要があるのです。
戦略について、経営学者のヘンリー・ミンツバーグは、戦略は計画的に策定されると同時に創発的に形成されることが必要だと指摘しています。策定当初の状況では合理的なプランであっても、想定を超えた時期と規模で環境が変化すればこれに対応した見直しが求められるのです。
つまり、エグゼクティブは、目標や戦略が現在の環境に適合的であるか否かを知るために、環境の変化を常に見極める責任があります。
リーダーシップで部下の強みを活かす
エグゼクティブは、目標を達成するために、リーダーシップを発揮して部下を動かします。部下を動かす方法は多種多様(※1)ですが、動かす目的は一つです。それは、組織への貢献であり、業績・成果を上げることです。ポイントは、部下の得意な能力(強み)を発揮してもらうことであり。ピーター・ドラッカーは、強みを活かすことは組織の機能であると述べています(※2)。
(※1)ダニエル・ゴールマン「リーダーシップ」土屋京子訳 日本経済新聞出版社
中村久人、竹林浩志
(※2)ピーター・ドラッカー「経営者の条件」上田惇生訳 ダイヤモンド社 第4章人の強みを生かす
エグゼクティブに含まれる役職や肩書
トップマネジメントの仕事は高度であり、かつ多岐にわたります。したがって、それぞれの担当分野の最終責任者(エグゼクティブ)によるチーム形成が不可欠です。
CxO人材は、トップマネジメント・チームのメンバーであり、CxOとは、chief[組織の上位として責任を持つ]業務を行う officer[役員・幹部職員]のことで、「最高○○責任者」と呼ばれます。
最高経営責任者(CEO)
業務執行役員のトップであるCEOの「E」とは、Executiveのことです。アメリカの法律では、取締役会が意思決定をし、これを受けて業務執行役員が実行に移します。日本の会社法では業務執行役員という概念がなく、取締役会が意思決定をし、代表取締役がこれを執行します。CEOは経営の執行責任者であり、会社の代表を意味するものではありません。CEOはあくまでも役職であり、法的な規定はありません。
最高執行責任者(COO)
COOの「O」は、Operatingを指し、CEOが定めた経営方針に従って業務を遂行(Operate)する実行部隊を統括する最高責任者のことです。アメリカの企業統治では、経営と執行の責任範囲を明確に区分しており、これがEとOとの違いです。初めの頃は、CEOがCOOの役割を兼ねていましたが、組織の拡大に伴い、設置されるようになりました。
最高技術責任者(CTO)
CTOの「T」は、Technicalであり、企業の技術面における最高責任者のことです。MOT(技術経営:技術を具体的な事業に結びつけ、経済的な価値を創出する経営)の中心として、目標達成に必要な技術の決定など技術戦略を担います。ESGを経営の中心に据える企業が増える中、CTOの重要性が高まっています。
最高財務責任者(CFO)
CFOの「F」は、Financialです。財務・会計の最高責任者として、財務パフォーマンスの向上とともに、財務を経営戦略の中に位置づける役割を担います。欧米では、営業、管理、システムなど財務会計以外の部門のビジネスマンが、CEOへのステップとしてCFOの職に就くケースも少なくありません。
最高情報責任者(CIO)
CIOの「I」は、Informationを指し、経営理念に基づく情報化戦略を立案、実行する責任者を意味します。ITシステムの構築を通して、社内情報の管理の適正化や、業務の効率化や意思決定の迅速化などの情報化戦略を立案し、顧客との双方向コミュニケーションによる満足度の向上などにも取り組みます。
エグゼクティブプロデューサー
エグゼクティブプロデューサーは、演劇、オペラ、映画、テレビ番組の制作にあたり、企画の立上げ、予算の確保、配役や制作スタッフの決定などに関与する責任者のことです。作品づくりが始まると、現場については演出家、映画監督、ディレクターに任せ、自らは、制作の進行管理やスポンサー集めなどに専念します。エグゼクティブプロデューサーは、プロデューサーの上位職であり、クレジットでは「制作総指揮」などが使われます。
エグゼクティブディレクター
エグゼクティブディレクターは、専務取締役と訳されています。専務取締役は、社長に次ぐ役職として、会社の経営方針の実行を管理するほか、事業計画の策定、予算管理、業務の指揮・監督、人事・労務管理などの経営業務を担当します。
エグゼクティブマネージャー
エグゼクティブマネージャーは、経営(マネジメント)を担う高位・上級の(エグゼクティブ)役職者を指します。特定の役職名というよりは、一定のレベル以上の管理者を包括的に表現する場合に使うことが一般的です。具体的には、会長、社長、専務、常務、CxO人材、執行役員などを指し、いわゆるエグゼクティブのポジションに相当します。
エグゼクティブな人材を確保する方法
2017年に経済産業省が実施した『経営人材育成』に関する調査の結果によると、経営人材の確保・育成について順調、どちらかといえば「順調」と回答した企業は37.6%でした。
なお、育成教育で力を入れているのは、多数回答順に経営戦略・事業戦略、リーダーシップ、自社の経営課題解決、組織・人材論、財務・会計でした。
エグゼクティブに必要な能力を明確にする
エグゼクティブ人材は、情報分析、マーケティング、財務、組織・人事管理、プレゼンテーションなどについて一定以上の知見を持ったうえで、さまざまな場面での実践的な対応力が求められます。
PDCAサイクル、OODA(ウーダ)ループ(※)の場面では、経営環境や市場に関する定性的な情報の収集、社内外の人的ネットワークの形成、自社の能力(強み)の把握、リーダーシップが特に重要です。
コンプライアンス問題の発生場面では、事態の正確な把握と迅速な対応策の実行が必要ですが、何よりも所掌部門における問題を未然に防ぐための統制力が肝要です。さらに、これら全ての場面において、高い視座、果敢な決断力と仕事の結果に対して責任を取る覚悟がなくてはなりません。
(※)Observe[事象の観察]→Orient[状況判断・方向づけ]→Decide[意思決定]→Act[行動]の4つの英単語の頭文字を取った意思決定にまつわる用語。変化が急速な環境において効果的なサイクルとされ、創発的戦略との親和性が高いとされている。
エグゼクティブ人材の育成計画
エグゼクティブの育成に必要なのは、決断力やリーダーシップなど定性的な能力を養う、実戦的な経験の場です。書籍や講習で得られるものは、自力で獲得することができます。
ロミンガーの法則(ロミンガーはアメリカのコンサルティング会社)、別名「70:20:10」の法則というのがあります。経営リーダー人材にリーダーとして有益な経験を尋ねたところ、仕事における経験が70%、上司などの上位者や取引先の経営者から学んだことが20%、研修で学んだことが10%であったということです。
エグゼクティブ人材の育成には、難しい案件、他社や未経験部門への配置などによる持っている能力以上の課題を割り当てるといった「タフアサインメントの実施」が効果的と考えられます。ただし、何をしても歯が立たないという割り当ては、かえって逆効果になるでしょう。
参考:経済産業省「企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」2017年
エグゼクティブ人材の確保
ここまで自社でのエグゼクティブ人材の育成について説明してきましたが、外部から採用するケースもあります。
経済産業省の「『経営人材育成』に関する調査結果報告書」に関する調査結果報告書によると、経営人材を外部から採用した経験のある企業は、全体の3/4であり、そのうちの80%以上が経営層の人脈を使って人材を確保しています。採用の成功率は70%超です。
参考:経済産業省「『経営人材育成』に関する調査結果報告書」2017年
エグゼクティブの人材育成の課題
エグゼクティブ人材の育成を難しくしている課題には次のようなものがあります。
① 個々の候補人材に合わせた育成プランがない
エグゼクティブ人材の育成に必要なプランは、実戦経験の機会です。異動、出向、派遣などの人事配置の問題として対応を検討するか、専門的なコンサルタントの活用も一案です。
② 候補人材の不得意分野をフォローする育成メニューがない
これは、①の課題に通底しているものと考えられます。
③ 配置転換によるミスマッチングが生じる
タフアサインメントでは、本人の能力をはるかに超えている域を避けることで効果を上げられます。
④経営トップが一人で人材を決めてしまう
これは、特にCEO候補人材を選ぶ場面で多く見られるようです。経営人材候補の育成の取り組みをしていない企業では半数、育成の取り組みを行っている企業でも1/4の企業で、トップが独断で候補人材を決定しています。これは、企業のガバナンスのあり方も含めた課題がありそうです。
参考:経済産業省「『経営人材育成』に関する調査結果報告書」2017年
エグゼクティブな人材育成に成功している企業事例
エグゼクティブ人材の育成を着実に進めている企業に共通するのは、自社のビジョンを明確に表現することで、必要な人材のイメージを具体的に描いている点にあります。ここでは企業の成功事例について紹介します。
サントリーホールディングス株式会社
自然と社会が輝くことで「人間の生命の輝き」を目指すサントリーは、1899年創業のグローバル食品酒類総合企業グループです。
同社では、グローバル企業にふさわしい人材育成の基盤として、世界中の全従業員が参加するサントリー大学を2015年に開校しました。ハーバード大学など3つの大学とグローバルに通用する経営人材の育成プログラムを開発し、サントリーらしい革新的かつ戦略的な思考力を持った人材を育成しています。
株式会社島津製作所
1875年創業の島津製作所は、「科学技術で社会に貢献する」を社是とし、計測機器、医用機器、産業機器、航空機器の各分野で高い技術力を発揮しています。
同社では、幹部候補生に向けた「経営塾」を2015年から毎年実施しています。経営塾のプログラムは極めて実践的なものとなっており、参加者は、ケーススタディを通じてのビジネスリテラシーと判断軸の修得や自社課題を踏まえた経営ビジョンの提案などに取り組みます。
参考:株式会社島津製作所
株式会社商船三井
商船三井は、世界貿易の97%を船舶輸送が担っており、世界最大の船体規模を誇る、創業140年余りのグローバル企業です。
同社は、人事戦略において、社員の専門性を尊重しながら、あえて複数業務を経験させることで経営者層に必要な能力の育成に取り組んでいます。その一環として、「One MOL グローバル経営塾」を設け、本社および海外現地法人から推薦された人材に向けたグローバル経営を担うエグゼクティブ人材の育成を行っています。
参考:株式会社商船三井
もっと詳しく!エグゼクティブに関するおすすめ論文と要約
以下は「エグゼクティブ(CxO)」のビジネス上の効果や有益性に関する研究論文の要約です。
- 効果的なエグゼクティブは、典型的な意味でのリーダーである必要はありません。効果的なエグゼクティブに共通する8つの実践があります:「何をなすべきか」を問う、企業にとって何が正しいかを問う、行動計画を策定する、決定に対する責任を取る、コミュニケーションの責任を取る、問題よりも機会に焦点を当てる、生産的な会議を実施する、「私」ではなく「私たち」と考える(Drucker, 2017)。
- マーケティング最高責任者(CMO)の存在が企業業績に与える影響についての研究では、CMOの存在が企業業績にプラスの影響を与え、特定の市場や戦略的状況下で他のCxOの存在がこの関連を強化することが示されています(Nath & Bharadwaj, 2020)。
- 最高情報責任者(CIO)と最高経営責任者(CEO)間の効果的なコミュニケーションが組織のIT成功に重要であることを示す研究があります。共有されたCIO/CEO理解は、組織全体のITの成功に肯定的な影響を与えます(Hütter, Arnitz, & Riedl, 2016)。
- CEOの役割が企業業績に与える影響を調査した研究では、CEOのパワーと企業の財務業績との間に複雑な関係があることが示されており、特定の状況下での強力なCEOのパフォーマンスが業績に否定的な影響を与える可能性があることが指摘されています(Han, Nanda, & Silveri, 2016)。
これらの研究は、エグゼクティブ、特にCxOが企業の戦略的意思決定と業績に重要な役割を果たすことを示しており、その効果的なリーダーシップとコミュニケーションが組織全体の成功に不可欠であることを強調しています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。