2025年問題とは?今企業ができること、医療・看護業界の状況
この記事のポイント
- 2025年問題とは、日本の人口に占める高齢者の割合が2025年に30%に近づくことによって発生するさまざまな問題のことです。
- 高齢者の増加による医療費・介護費の負担が増えるだけでなく、人手不足が深刻になり企業活動にも大きな影響が予想されます。
- 2025年問題に向けて、企業には業務の効率化と人材確保が求められています。
目次
2025年問題とは?
2025年問題とは、日本の人口に占める高齢者(65歳以上)の割合が2025年に29.6%となり、社会の高齢化が進むことによって発生するさまざまな問題を表す言葉です。
具体的には、社会の高齢化によって医療や介護に要する費用が増加し、現役世代の保険料の負担が大きくなったり、少子化の影響も加わり人手不足が深刻になったりするなどの問題が想定されます。
なお、2025年には団塊の世代全員が75歳以上になり、後期高齢者(75歳以上)の人口も大幅に増加すると予想される状況です。
日本の高齢化状況・データ
総務省統計局の「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」によると、日本の人口が減少する中、高齢者人口は増え続け、総人口に占める高齢者の割合も増加する見込みです。
(高齢者人口と割合の推移・万人)
総人口 | 65歳以上 | 75歳以上 | |||
---|---|---|---|---|---|
人口 | 割合 | 人口 | 割合 | ||
2000年 | 12,693 | 2,204 | 17.4% | 901 | 7.1% |
2005年 | 12,777 | 2,576 | 20.2% | 1,164 | 9.1% |
2010年 | 12,806 | 2,948 | 23.0% | 1,419 | 11.1% |
2015年 | 12,709 | 3,387 | 26.6% | 1,632 | 12.8% |
2020年 | 12,615 | 3,603 | 28.6% | 1,860 | 14.7% |
2025年 | 12,326 | 3,653 | 29.6% | 2,155 | 17.5% |
2030年 | 12,012 | 3,773 | 30.8% | 2,261 | 18.8% |
2035年 | 11,664 | 3,928 | 32.3% | 2,238 | 19.2% |
2040年 | 11,284 | 3,945 | 34.8% | 2,227 | 19.7% |
参考: 高齢者の人口|総務省統計局
2040年問題とは?
2040年問題とは、2025年以降も高齢化が進み医療費・介護費の負担増加や人手不足がより深刻になるだけでなく、老朽化したインフラ・公共施設が大幅に増加するなどの問題も予想されることです。
前述の総務省統計局の資料では、日本の人口に占める65歳以上の人の割合が2040年度には34.8%になるため、3人に1人が高齢者となります。また、75歳以上の人の割合が19.7%で、5人に1人は後期高齢者です。
2025年問題における各業界への影響
2025年問題における各業界への影響は、高齢者の増加と人手不足による要因が大きいです。主な影響について、業界ごとに解説します。
医療・看護業界
高齢者の増加に伴い、医療や看護に対するニーズが高まる一方、2025年問題の影響で、医療や看護を支える人材が十分に確保できないことが予想されます。
現在でも医療従事者は人手不足が深刻です。2023年11月の有効求人倍率は全職業の1.28倍に対し、医師や看護師は2倍を超える状況です。
(医療従事者の有効求人倍率)
医療従事者 | 有効求人倍率 |
---|---|
医師・歯科医師・獣医師・薬剤師 | 2.26倍 |
保健師・助産師・看護師 | 2.11倍 |
医療技術者 | 3.19倍 |
その他の保健医療従事者 | 1.96倍 |
参考:一般職業紹介状況(令和5年11月分)について|厚生労働省
さらに、2024年4月より医師に対しても時間外労働時間の上限規制が適用されます。上限規制により医師の残業時間が制限されるため、医師不足はより深刻になるでしょう。
また、厚生労働省「第11回看護職員需給分科会」の資料では、2025年の看護師は最大27万人も不足するとの推計もあります。2025年の看護師の需要が188万〜202万人であることに対し、看護師の就業者数は175万〜182万人程度と見込まれています。
働き方改革の推進や業務の効率化を進めるとともに、潜在看護師の復職支援など医療人材を確保するための対策が必要です。
介護業界
介護業界の2025年問題による影響は、医療業界よりもさらに大きいといえます。高齢者の増加により、介護職員の必要数が急速に増加することが予想されるためです。
(介護職員の必要数)
2019年度 | 2023年度 | 2025年度 | 2040年度 | |
---|---|---|---|---|
介護職員の 必要数 | 211万人 | 233万人 | 243万人 | 280万人 |
参考: 第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について|厚生労働省
公益財団法人介護労働安定センターの調査によると、介護事業所全体の66.3%が人手不足の状況です。なかでも、訪問介護員の人材不足感が他の介護職種に比べて高くなっています。
参考:令和4年度「介護労働実態調査」結果の概要について|公益財団法人介護労働安定センター
重労働で低賃金といわれる労働条件の改善による離職防止やITを活用した業務の効率化、外国人労働者の活用など、急速な需要増加に対して早急に対策が必要です。
IT業界
IT業界においては、「2025年の壁」といわれるものがあります。経済産業省のDXレポートでは、企業の成長や競争力強化のために必要なDX(※)を実現できない場合、2025年以降、年に最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性があると指摘されています。
※デジタル・トランスフォーメーションの略。新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出することです。
参考: DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~|経済産業省
DXが上手く行かない要因の1つが、IT人材の不足です。同レポートは、2025年にはIT人材が約43万人も不足すると予想しています。
経営者自らがITシステムの現状と問題点を把握しDX推進を図るとともに、IT人材の育成を図るなどの対応が必要です。
物流・運送業界
物流・運送業界では、2024年4月より時間外労働の上限規制が適用され、残業時間が大幅に制限されます。労働時間が減少し輸送能力が不足することが予想され「物流・運送業界の2024年問題」と呼ばれています。
現在でも、長時間労働や低賃金など労働環境が厳しい中で、物流・運送業界の人手不足が深刻ですが、物流・運送業界の2024年問題がこれに拍車をかけます。また、物流・運送業界では高齢化が進んでいることも問題です。
業務改善により労働生産性を高めるとともに、労働環境を改善して若者や女性が魅力を感じる職場環境づくりも重要です。
2025年問題・2040年問題に向けて、企業が今できることは?
2025年問題の各業界への影響について解説しましたが、共通する課題は人手不足です。人手不足解消に向けて企業が今できることは、主に業務の効率化と人材の確保です。それぞれについて解説します。
業務の効率化
2025年問題に向けて企業が今できることの1つが、業務の効率化です。業務効率を高めることで、今より少ない人数で従来通り、または従来以上の仕事量をこなせるようになるためです。
具体的には、業務を効率化するために次の対策が考えられます。
- 老朽化したシステムを入れ替えるなどDXを推進する
- 生産設備を更新して生産性を高める
- 業務プロセスを見直して非効率な業務を改善する
- 従業員の育成やリスキリング(※)を強化して従業員の個人能率を高める
- アウトソーシングを活用する など
※業務において必要なスキルを獲得するための学び直し(または再教育)のこと。
ヒト(従業員など)やモノ(ITシステムや生産設備など)への投資には手間やお金だけでなく時間もかかるため、早急な取り組みが求められます。
人材の確保
2025年問題に対応するために、企業活動を支える人材を確保することも重要な課題です。人材を確保するには、新規採用による従業員を増やす方法と離職を防ぎ従業員の減少を抑える方法があります。ポイントとなるのは労働環境の改善と多様な働き方の推進です。
労働環境の改善により職場の魅力がアップすれば、定着率が高まり採用面でもいい影響が期待できます。長時間労働や低賃金による離職が多い会社や業界では、待遇の改善が急がれます。働きやすい職場環境づくりや教育体制の整備も労働環境の改善に有効です。
短時間労働や在宅勤務、フレックス制度など多様な働き方を実現できれば、働ける人が増えることや職場の魅力が上がる効果も期待できます。また高齢者や女性、外国人などが働きやすい環境を整備して、人材を確保する方法もあります。
2025年問題・2040年問題に向けた、国の施策は?
2025年問題や2040年問題で生じる悪影響を抑えるために、国もさまざまな施策を実施しています。主な施策を4つ紹介します。
全世代型社会保障改革
全世代型社会保障改革とは、高齢者だけでなく子どもや現役世代が安心して生活できるように日本の社会保険制度を改革することです。当面の主な課題は「少子化対策」と「医療提供体制と医療費負担の見直し」といわれています。
少子化対策は、将来の日本経済や社会保険制度を担う子どもの減少を抑えるための対策です。国では子育て世帯を支援するため、待機児童の解消や男性の育児休業の取得促進などに取り組んでいます。
医療提供体制については、大病院と地域のその他の病院との役割分担を明確化したり、オンライン診療の推進を図ったりしています。また、現役世代の社会保険料負担の軽減を目的に、後期高齢者の医療費負担の見直し(窓口負担のアップ)を行いました。
地域包括ケアシステム
地域包括ケアシステムとは、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしができるように、地域で包括的な支援やサービスを提供する仕組みのことです。国では、2025年を目途に地域包括ケアシステムの構築を目指しています。
高齢者の医療ニーズと介護ニーズに同時に応えるとともに、効率的にサービスを提供できるというメリットがあります。
人材不足が深刻な業種への各種支援
国では、人材不足が深刻な業種を中心に企業が必要な人材を確保できるようにさまざまな支援を行っています。助成金や相談窓口、人材確保に関するマニュアルや事例集など、具体的な支援内容については、次の厚生労働省のホームページで確認しましょう。
参考:人材確保対策|厚生労働省
需要拡大が見込まれる看護、介護、保育分野などの社会保障関係分野や、構造的に入職者が減少傾向にある建設分野については、より手厚い支援を準備しています。
デジタルガバナンス・コード2.0
デジタルガバナンス・コード2.0とは、企業のDXへの取り組みを推進するためにデジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表など、経営者に求められる対応をまとめたものです。
DX認定制度(一定の基準を満たす企業を認定・公表)を設け、該当企業に税制上のメリット(DX投資促進税制の税額控除)を与えるなどして企業にDX推進を促しています。
もっと詳しく!2025年問題に関するおすすめ論文と要約
日本の2025年問題に関する主な研究結果は以下の通りです。
- 高齢化社会への対応: 2025年には日本のベビーブーマー世代が75歳以上となり、「スーパーエイジング」社会を迎える予測があります。この状況は医療・介護費の増加による社会保険費用の急増を引き起こしています (Tsumura, Broome, & Taki, 2020)。
- 労働力人口の減少と社会保険の負担: 日本政府は、高齢化に伴う労働力人口の減少と社会保険の負担に直面しています。これは医療、製造、物流部門での労働力不足という危機感につながっています (Kim et al., 2021)。
- 医師不足の現状と将来の余剰: 日本では1980年代後半から医師の数を減少させる政策が取られてきましたが、これが現在の医師不足という社会問題につながっています。しかし、医学生の定員増加により、将来的に医師の余剰が生じる可能性があります (Takata et al., 2011)。
結論として、2025年問題は日本社会において重大な課題であり、高齢化社会への適応、労働力の確保、および医療資源の適切な管理が必要であることがわかります。
監修者の編集後記 -2025年問題について-
日本社会の高齢化による2025年問題は、医療費や介護費の増加など社会保険制度だけでなく、人手不足など企業活動にも大きく影響します。
2025年問題による人手不足に対して企業に求められるのは、業務の効率化と人材の確保です。2025年以降も高齢化が進み人手不足はさらに深刻になることが予想されるため、企業は問題を先送りすることなく取り組みを進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。