コンピテンシーとは?意味や例文、導入方法や企業事例をわかりやすく解説
この記事のポイント
- コンピテンシー(Competency)とは、仕事で優れた成果を上げる人に共通する「行動特性」のことです。
- コンピテンシーを人事評価や採用・面接、能力開発などの場面で活用することにより、従業員の生産性を高められます。
- コンピテンシーを効果的に活用するためには、コンピテンシーを正しく定義付けしたり環境の変化に応じて見直したりすることが必要です。
目次
コンピテンシーとは?
「コンピテンシー(Competency)」とは、仕事で優れた成果を上げる人に共通する「行動特性」のことです。成果の出る行動特性が明確になれば、人材の登用や育成に活用して企業業績の向上に活かせます。
行動特性は、具体的な行動そのものではなく、行動につながる価値観や思考方法、性格などを指します。また、コンピテンシーは個人の能力の1つですが、知識やスキルとも異なることを理解しておきましょう。
コンピテンシーの活用について解説する前に、コンピテンシーの例文と企業でコンピテンシーが注目されるようになった背景を紹介します。
コンピテンシーの例文
コンピテンシーという言葉は、次のように使用されます。
- コンピテンシーを基に人事評価する
- 業務や職場に応じたコンピテンシーを定義付ける
- コンピテンシーを明確にして人材の育成を図る
企業においては、成果の出る行動特性を定義付けして、人事評価や人材の育成に活かすためにコンピテンシーが使われます。ただし、業務内容や職場によって必要とされるコンピテンシーが異なる点に注意しましょう。
コンピテンシーが注目されるようになった背景
日本の人事評価が年功序列から成果主義に変わりつつあるなかで、評価方法の1つとしてコンピテンシーが注目されるようになりました。
ハーバード大学のマクレランド教授が1970年代前半に行った調査によると、「学歴や知能は、業績の高さとあまり相関はない」「高い業績を上げる者には、いくつか共通の行動特性がある」ことが判明したそうです。
この結果を基に、コンピテンシーを明確にして人事評価などに活用することにより、企業は従業員の生産性を高めようとしています。過去の実績だけで評価する場合と比較し、コンピテンシーによる評価では、成果が見えにくい取り組みを適切に評価したり、将来の取り組みの成功率を上げられたりする点が特長です。
コンピテンシーが使われる場面、活用例
コンピテンシーが使われる主な場面は次の3つです。
- 人事評価
- 採用・面接
- 能力開発・キャリア開発
それぞれの場面について活用例を解説します。
人事評価
コンピテンシーを基にした人事評価を、コンピテンシー評価と呼びます。業務や職場に応じたコンピテンシーを定義し「コンピテンシーモデル」を作成し、モデルに合致した人を高く評価する仕組みです。
従業員一人ひとりがコンピテンシーモデルに近づこうと努力すれば、組織全体の活動が企業の目指す方向に変化することが期待できます。企業は、従業員に評価基準を明示するとともに、人事面談などでコンピテンシーの習得を促すことが重要です。
採用・面接
コンピテンシーは、人材の採用や採用面接の場でも活用できます。コンピテンシーを基に採用基準を作成して、企業業績に貢献できる人材を選別することが可能です。一般的に優秀とされる人材であっても、企業が求めるコンピテンシーと合致しなければ評価は低くなるでしょう。
また採用面接においては、採用候補者が企業の求めるコンピテンシーを持っているかを把握するために、効果的な質問を準備しなければなりません。
たとえば課題解決が必要な場面を設定し、どのような考え方に基づきどう行動するかを考えさせる方法などが考えられるでしょう。採用面接では、採用候補者の行動特性を把握するための工夫が求められます。
能力開発・キャリア開発
コンピテンシーを使って、従業員の能力開発やキャリア開発を行うことも有効です。企業が求めるコンピテンシーモデルを従業員と共有し、研修するなどしてどのような考え方に基づきどう行動すれば業績を上げられるかを従業員に浸透させます。
従業員もどうすれば成果がつながるか、会社から評価されるかがわかれば、コンピテンシーモデルに近づけるように積極的に自己研鑽するようになるでしょう。従業員一人ひとりがレベルアップすることにより、企業の生産性向上が期待できます。
また、業務や職場によって必要なコンピテンシーは異なるため、従業員の行動特性に応じた業務や職場に配属することにより、従業員それぞれに適したキャリア開発を進めることが可能です。
コンピテンシーを導入するメリット
人材を適切に評価するためには、コンピテンシーの導入が欠かせません。ここでは、評価にコンピテンシーを導入するメリットを3つ紹介します。
公平で納得度の高い人事評価ができる
企業がコンピテンシーを導入する主なメリットの1つは「公平で納得度の高い人事評価ができる」ことです。導入時に人事評価基準(評価項目や評価方法など)を定義して従業員に周知することで、透明性の高い人事評価が期待できます。
また、実際に業績を上げている人の特性を基にしているため、評価基準に対する納得感も得やすいでしょう。
企業が求める人材を評価、育成、採用できる
2つ目のメリットは「企業が求める人材を評価、育成、採用できる」ことです。コンピテンシーを基にした人事評価基準や採用基準を設けることで、企業業績への貢献が期待できる行動をした人を高く評価したり、採用時に求める人材を選別したりしやすくなります。
また、評価基準を社内に周知することで、従業員の目標も明確になり自発的に高く評価されるように活動するようになるでしょう。コンピテンシーを高めるために研修するなど従業員の活動を後押しすれば、企業が求める人材育成が容易になります。
企業業績の向上が見込める
「企業業績の向上が見込める」ことも、企業がコンピテンシーを導入するメリットです。業績を上げるコンピテンシーを持つ従業員が増えて個人の生産性が高まれば、組織の生産性も高まります。また、従業員が同じ方向に向かって活動することで、組織内の連携強化も期待できるでしょう。
コンピテンシーを導入するデメリット
コンピテンシーを導入には多くのメリットがありますが、デメリットについても紹介します。
コンピテンシーモデルや評価基準の設定が困難
企業がコンピテンシーを導入するときに「コンピテンシーモデルや評価基準の設定が難しい」点はデメリットです。モデルや評価基準を設定するには、時間や手間がかかるうえに、過去に経験のない作業が必要になる可能性もあります。
また、業務や職場によって必要とされるコンピテンシーが異なり、コンピテンシーモデルや評価基準を複数設けなければなりません。コンピテンシーを導入するには、相当の負担が発生することを覚悟しましょう。
コンピテンシーモデルや評価基準が理解されにくいケースがある
2つ目のデメリットは「コンピテンシーモデルや評価基準が従業員に理解されにくいケースもある」ことです。業績や結果は数値化できますが、行動特性は数値化したり文章化したりすることが難しい面もあります。
コンピテンシーモデルや評価基準については、わかりやすい文章で従業員に周知するとともに、モデル・基準設定の理由や効果を説明するなど、従業員の納得感を高めるための工夫も必要です。
環境変化の変化によって見直しが必要
コンピテンシーを導入するときの3つ目のデメリットは「企業を取り巻く環境の変化によってコンピテンシーの見直しが必要になる」ことです。環境が変化すると、これまで有効だったコンピテンシーが役に立たなくなったり新たなコンピテンシーが必要になったりします。
経済のグローバル化やIT化によって企業を取り巻く環境の変化は早くなっている状況です。環境の変化に応じて迅速にコンピテンシーを見直さなければ、業績の悪化を招くリスクがあることを認識しなければなりません。
コンピテンシー評価の導入方法
人事制度にコンピテンシー評価を導入する手順は、次の4ステップに分けられます。
- ステップ1.コンピテンシーモデルを作成する
- ステップ2.評価基準を作成する
- ステップ3.実務にコンピテンシーモデルを導入する
- ステップ4.評価と見直しを行う
以下で、各ステップについて具体的に見ていきましょう。
コンピテンシーモデルを作成する
最初に、企業が求めるコンピテンシーモデルを作成します。
モデルを作成するには、自社で業績を上げている人を調査・分析し、共通する「行動特性」を把握することが必要です。コンピテンシーの内容を明確にするために、行動特性は具体的でわかりやすく文章化しなければなりません。
たとえば、WHO(世界保健機関)が定める「WHOグローバルコンピテンシーモデル」ではコア・コンピテンシーとして次の7つの行動特性を挙げています。
- 確実で有効な方法でコミュニケーションを行う
- 自分自身をよく知り、管理できる
- 成果を出す
- 変化する環境の中で前進する
- 連携とネットワークを育てる
- 個性や文化の違いを尊重し奨励する
- 手本となり模範となる
行動特性を曖昧に定義すると、評価にブレが生じたり従業員への周知が困難になったりすることが予想されます。
参考:WHOグローバルコンピテンシーモデル|三重県立看護大学紀要
評価基準を作成する
次に、コンピテンシーモデルを基に評価基準を作成します。
評価基準を作成する手順は、評価項目を選定し各項目の評価内容を定めます。評価項目は、前述のWHOグローバルコンピテンシーモデルでは「コミュニケーション力」や「自己管理能力」「成果」などが設定されています。
つまり評価内容とは、各項目についてどのように評価するかということです。3段階や5段階に分けて評価するなど、評価を数値化しなくてはなりません。評価内容は、役職などによって異なるのが一般的でしょう。
また、業務や部署によって評価項目や評価内容を変えたり、特定の評価項目の配分を高めたりすることもあります。
実務にコンピテンシーモデルを導入する
コンピテンシーモデルと評価基準が決まったら、コンピテンシーモデルを導入し評価基準を変更すること、実施時期などを社内に発表し、コンピテンシーモデルを実際の活動に取り入れましょう。
従業員にコンピテンシーモデルと評価基準を周知するだけでなく、上司や人事担当者などが従業員と現状や今後の課題などについて話し合う機会を設けることで、コンピテンシーモデルが浸透しやすくなります。
評価と見直しを行う
評価期間終了後に、新しい評価基準を基に人事評価を行います。評価者を客観的、かつ公平に評価することは当然ですが、評価内容を従業員に適切にフィードバックすることも重要です。従業員が評価に納得し、行動を改善するように導かなければなりません。
可能であれば、各評価項目について従業員とできたことやできなかったこと、できなかった原因などを話し合い、今後の課題を共有するのがよいでしょう。
また、コンピテンシーモデル自体の評価も必要です。コンピテンシーモデルの導入によって従業員の行動が改善したか、成果が上がったかを評価して、問題があればコンピテンシーモデルの見直しも行いましょう。
コンピテンシー評価の導入事例
最後に、コンピテンシー評価を導入した企業の実例として、次の2つの企業を紹介します。
- 楽天グループ株式会社
- 株式会社クラレ
楽天グループ株式会社
楽天グループ株式会社では、ピープルアナリティクス(従業員の属性データや行動データ等を収集・分析し、人事制作に活かす手法)を重視し、人事評価にコンピテンシーを取り入れています。
具体的には、全従業員が半年ごとにコンピテンシーとパフォーマンスの目標を設定し、コンピテンシー評価によって月給、パフォーマンス評価によって業績賞与を決める仕組みです。
また、コンピテンシー評価が効果的に機能するように「コンピテンシー開発ハンドブック」を作成して、定義や課題への対処法などを明確にするとともに、全従業員に期待する行動や考え方を伝えています。
株式会社クラレ
クラレグループはさまざまな国籍・背景を持つ人材で成り立つため「クラレグループグローバル人事ポリシー」を設け、グローバル人材の育成を図っています。
2017年度に世界共通の行動指標「クラレコンピテンシー5×5」を作成し、人材評価項目や能力開発の指標として活用しているそうです。さらに、優秀人材の発掘や人材のローテーション・最適配置などにも適用を広げています。
もっと詳しく!コンピテンシーに関するおすすめ論文と要約
以下は「コンピテンシー」の効果や有益性に関する研究論文の要約です。
- コンピテンシーに基づくマネジメントは、組織の現在および将来のニーズを反映した職場やマネジャーのスキル開発に不可欠です。効果的なコンピテンシーフレームワークの開発は、個人と組織の成長を促進し、長期的には株主価値の向上にも寄与します(Pickett, 1998)。
- コンピテンシーと個人レベルのパフォーマンスとの間には正の関連があり、コンピテンシーシステムに基づくメンタリングを通じて個々のマネジャーのパフォーマンスを向上させることが可能です。ただし、コンピテンシーと組織単位のパフォーマンスとの間のリンクは比較的弱いです(Levenson et al., 2006)。
- コンピテンシーに基づくパフォーマンスマネジメントと組織効果(OE)との間には正の関係があり、生産性、適応性、柔軟性に関してコンピテンシーに基づく優れたパフォーマンスとOEの間に正の関連が実証されています(Shet et al., 2019)。
これらの研究は、コンピテンシーが個々のパフォーマンスおよび組織全体の効果に及ぼす影響を明らかにし、コンピテンシーに基づくアプローチがどのようにして組織の成長と成功に寄与するかを示しています。
監修者の編集後記 -コンピテンシーについて-
コンピテンシーとは、優れた業績を上げる人に共通する「行動特性」のことです。人事評価や採用、能力開発などの場面でコンピテンシーを適切に活用すれば、企業が求める業績を上げられる人材の採用と育成が期待できます。
コンピテンシーを効果的に活用するためには、適切なコンピテンシーモデルや評価基準を作成し正しく運用する必要があります。従業員の成長と企業の業績アップに向けて、導入を検討してみるのはいかがでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。