コーチングとは?意味ない?効果的なやり方や必要なスキル、会話例を解説

この記事のポイント

  • 「コーチング」とは、対話を重ねることでクライアントに柔軟な思考と行動を促し、目標達成できるように支援する技法です。
  • コーチングの効果では、生産性の向上やモチベーションアップなどが期待されます。
  • コーチングには、「傾聴」「質問」「承認」といった特別なスキルが必要です。

コーチングとは?

コーチングとは?意味ない?効果的なやり方や必要なスキル、会話例を解説

「コーチング」とは対話を重ねることにより、クライアントへ柔軟な思考と行動を促し、目標を達成できるように支援する技法です。

「答えは相手の中にある」ことを基本としているため、指導したり、答えを伝えたりはしません。対話を重ねることで、クライアントの答えや選択肢を引き出していくことが特長です。

コーチングは、おもに以下のような目的で行われます。

  • 考え方や行動の選択肢を増やす
  • モチベーションを向上させる
  • 目標達成に必要な行動を促進する

コーチングの語源は、馬車を意味する英語の「Coach」です。昔、馬車の役割は「大切な人を望む場所まで送り届ける」ことでした。馬車の役割と相手を目標まで連れて行ってくれる行為が重なり、現在の意味で使われています。

コーチングの3原則

コーチングには、以下3つの原則があります。それぞれの内容を確認しておきましょう。

1.インタラクティブ(双方向)

インタラクティブとは、クライアントとコーチが対等な立場でコーチングを進めるという原則です。

上司と部下などの関係では、どちらかが一方的に話したり、顔色を伺ったりすることが少なくありません。このような関係はインタラクティブな関係とはいえないため、お互いに何でも話せる関係性の構築が必要です。

2 .オンゴーイング(現在進行形)

オンゴーイングとは、クライアントが目標に向かって自発的に行動できるまで関わり続けるという原則です。

コーチングを一度受けた場合でも、すぐにクライアントが変わるわけではありません。継続的に関わることで、コーチングなしでも目標に向けて動けるクライアントを形成していきます。

3.テーラーメイド(個別対応)

テーラーメイドとは、クライアント一人ひとりに合わせた対応を行うという原則です。

コーチングを行う際、目標が同じでも達成のための道筋は、クライアントごとに異なります。なぜなら、特性や思考パターン、経験などが異なるためです。したがって、コーチングでは画一的な方法はとらず、その都度クライアントに合わせて行われます。

コーチングは意味ない?メリット・デメリット

一見、魅力的なコーチングですが、世間では「意味がない」といわれることがあります。

ここでは、コーチングのメリットとデメリットを確認しておきましょう。

コーチングのメリット

コーチングは、内面にアプローチすることで目標達成に導きます。具体的には、以下のようなメリットがあります。

  • 生産性が向上する
  • 主体的や自主性を高められる
  • 問題解決にあたる姿勢を身につく
  • 高いモチベーションを維持できる
  • セルフ・コーチングの力が身につく

コーチングのメリットとしては、まず生産性が向上します。コーチングによって個人は自らの能力や資源を最大限に引き出し、仕事やプロジェクトにおいてより効果的な成果を上げることが可能です。

また、コーチングは主体的で自律的な行動を奨励し、個人が自らの目標に向けて主導権を握る手助けをします。このプロセスにより、自己意識が高まり、クライアントは自分の強みや改善の余地を理解しやすくなるでしょう。

問題解決に対する積極的な姿勢も、コーチングによって醸成されます。コーチングを通じてクライアントは困難な状況に対処し、解決策を見つけ出すスキルを磨ける点がメリットです。

高いモチベーションの維持もコーチングのメリットの1つです。コーチはクライアントのニーズや価値観を理解し、それに基づいてモチベーションを促進するサポートを提供します。その結果、クライアントは長期的な目標に向けて継続的な意欲を維持しやすくなるでしょう。

さらに、コーチングはセルフ・コーチングの力を育む手段にもなりえます。クライアントが自らの成長や進化に対する洞察を得ることで、自己改善のプロセスを継続的に推進できるようになるのがメリットです。

コーチングのデメリット

一方、コーチングでは以下のようなデメリットも想定されます。

  • 成果が出るまでに時間がかかる
  • コーチが持っていない技術や能力に関してコーチングしても結果が出にくい
  • 専門的なスキルが必要
  • 多人数を同時に育成できない

まず、成果が得られるまでには十分な時間がかかる可能性がある点はデメリットです。コーチングは深層な内面の理解や変容を促すプロセスであるため、即時の結果が期待できないこともあります。

また、コーチが特定の技術や能力を持っていない場合、その分野において効果が得られにくい点もデメリットです。コーチはクライアントのニーズに対して適切なアプローチを提供する必要がありますが、コーチが専門的な知識を持っていない場合、十分なサポートを提供することが難しくなります。

さらに、コーチングは専門的なスキルが必要であるため、資格や経験の不足がコーチングの効果に影響を与える可能性があります。適切な指導やフィードバックを提供するためには、コーチが熟練したスキルを持っていることが重要です。

最後に、コーチングは個人に焦点を当てる性質上、多人数を同時に育成することが難しいという点もデメリットだといえます。個別のニーズや課題に対応するため、効果的なコーチングは一対一のセッションが一般的であり、大規模なグループに対して同時に適用するのは難しい場合があります。

したがって、クライアントの課題や目標によっては、コーチングが最適な解決策であるとは限らないことがあることに留意しましょう。

コーチングに必要なスキル

コーチングを行うためには、どのようなスキルが必要なのでしょうか。ここでは、コーチングを実施するために必要なスキルをご紹介します。

傾聴

傾聴力とは、相手の言葉を背景まで深く理解するための聴く力を指します。言葉だけでなく表情やしぐさ、口調など、非言語的な表現にも注意を払ってクライアントの話を聴くスキルです。

したがって、クライアントの話をありのまま受け入れ、共感的に関わる姿勢が求められます。

質問

コーチングを行う際には、クライアントの頭の中を整理したり、新たな気づきを促したりするための質問スキルも必要です。

簡単なことだと思われるかもしれませんが、アプローチ方法は奥が深く、クライアントに今必要な考えを狙ったうえで、問いかける必要があります。例えば、以下のような質問の種類が挙げられるでしょう。

  • オープンクエスチョン/クローズドクエスチョン
  • 拡げる質問/絞る質問/掘り下げる質問
  • 未来についての質問/過去についての質問

承認

コーチングにおける承認とは「存在」「感情」「行動」「結果」を認めることです。

承認は、褒めることとは異なります。褒めるとは、コーチ側の価値観で「良い/悪い」を判断することです。一方、コーチングでは、クライアント側の価値観を尊重するため「良い/悪い」ではなく、ありのままの状態を承認する点が異なります。

コーチングの効果的なやり方

コーチングを実施するためには、いくつかのステップを踏む必要があります。ここでは、コーチングの効果的なやり方を順番に見ていきましょう。

現状と課題を把握する

まず、クライアントの「現状」や「課題」を確認しましょう。人に話すことを通して、クライアントは自身の考えや感情を整理しやすくなります。

また話を傾聴、共感してもらえることで「分かってもらえた」体験につながり、コーチングには欠かせない信頼関係の構築も可能です。

目的(ゴール)を設定する

次に、具体的な「目的(ゴール)」を設定します。目的(ゴール)は数値など、明確なものが望ましいですが、クライアントのニーズに合わせて納得感をもてるように設定することが大切です。

ただし、最終的な目標が大きすぎる場合は、いったん細かく分けた目標を立てるほうが、モチベーションは持続しやすいでしょう。

必要な要素を明確にする

目的が決まれば、現状と比べ「できていないこと」「足りていないこと」を明確にしましょう。また、この時点で「できていること」を承認することも大切です。

行動計画を作成する

目的に向けて、取り組むべき行動の具体的な計画を立てます。締切を決めると、メリハリがついて集中して取り組みやすくなる点がメリットです。

フォローアップする

定期的に声をかけてクライアントの様子を見守りましょう。目標に対する達成状況を確認したり、努力の方向が正しいか確認したります。

コーチングを行う時のポイント

コーチングを行う際には、いくつかのポイントがあります。以下で、どのような内容かを確認しておきましょう。

信頼関係を築くこと

コーチングで成果を上げるためには、コーチとクライアントの良好な関係性が欠かせません。表面的な関係性では本音を言えないため、コーチングとして機能しないためです。

さらにインタラクティブ、つまり対等でなければ、顔色を伺ったり、一方的な決意表明になったりするため、コーチングとして機能しません。

本人から答えを引き出すこと

コーチングでは、クライアントから答えを引き出すことが大切です。達成してほしい目標があったとしても、それを押し付けることはコーチングではありません。

そのため、コーチは身近すぎる人よりも、距離のある人や外部委託をする方法が有効な場合もあります。

定期的に行うこと

コーチングは定期的に行うことが大切です。なぜなら、1つの目標を達成できたとしても、内面の変化はなかなか起こりにくいと考えられるためです。定期的、かつ中長期的に行うべきでしょう。

また、定期的に会うことにより、クライアントのモチベーションを維持・向上する効果も期待できます。

コーチングの会話例

具体的にコーチングをどのように実施するのか把握するためには、会話例を参考にする方法が有効です。ここでは、同じ悩みでも、コーチングによって異なる背景が出てくる会話例を見てみましょう。

例1:仕事の生産性で悩むクライアント

クライアント:「仕事のノルマが達成できません」

コーチ:「どうしてでしょうか?」

クライアント:「内容が難しいので、進みが悪いのだと思います」

コーチ:「特にどこ難しいのですか?」

クライアント:「分析の部分です。前回より複雑なのでどうしたらいいかわかりません」

コーチ:「確かに複雑ですね。これまではこんな時どうしていましたか?」

クライアント:「自分で調べたり、上司に聞いたり……あ、今回はまだ上司に聞いていません」

コーチ:「上司に聞く手がありそうですね。では、いつまでに聞きますか?」

クライアント:「今日中に聞いてみます。やる気が出てきました!」

例2:人間関係に漠然と悩むクライアント

クライアント:「仕事のノルマ達成できません」

コーチ:「どうしてでしょうか?」

クライアント:「それが分からないんです」

コーチ:「例えば、設定目標が高すぎる、モチベーションが上がらない、プライベートの悩みがあり身が入らないなどが考えられますね」

クライアント:「確かに!このところ家族関係の悩みがあってなかなか眠れず……パフォーマンスが下がっていたかもしれません」

コーチ:「それは大変でしたね。ただ、そこを解消できれば、家族関係が良好になるうえ、仕事に身が入りそうですね」

クライアント:「はい。なんとかできるでしょうか」

コーチ:「できることを一緒に考えてみましょう」

コーチングの資格

コーチングに国家資格はありませんが、各団体により認定される民間資格があります。資格がなければコーチングを行えないわけではありませんが、力を証明する目安の1つだといえるでしょう。

ここでは、代表的な3つの資格を紹介します。

一般財団法人生涯学習開発財団

日本初のコーチ認定制度です。専門プログラムを学習し、実戦経験を積むなどの複数条件を満たすことで取得できます。

参考:(一財)生涯学習開発財団認定コーチ資格

日本コーチ連盟(JCF)

こちらも国内のコーチ認定制度です。専門プログラムを学習し、学科試験と実技試験で取得できます。また、コーチング技能を教えるインストラクターの資格認定も行っています。

参考:一般社団法人日本コーチ連盟

一般社団法国際コーチ連盟(ICF)

国際コーチ連盟(ICF)からの認定を受けている国際的なコーチング資格です。「コーチングを社会の共通言語に。」を理念に掲げており、日本におけるコーチングの価値を高める活動に積極的に取り組んでいます。

国内では、一般社団法人国際コーチ連盟日本支部が運営しています。

参考:ICFジャパン

コーチングとよく似た言葉との違い

コーチングにはよく似た言葉が存在します。それぞれどんな意味を持ち、どのような違いがあるのかを解説します。

ティーチング

コーチングでは「傾聴」することに対して、 ティーチングでは「指導」を行う点が違いです。つまり相手に対して、知識や技術などのスキルを教えることを意味します。

したがって技能の獲得など、思考をしても答えが出ない分野の悩みには、ティーチングのほうが有効だといわれています。

コンサルティング

コンサルティングで行われるのは「提案」です。専門家がクライアントに対して、知識と経験をもとに提案や助言を行い、相談者の問題解決策を行っていきます。

ティーチングでは基本的に上下関係がありますが、コンサルティングでは対等な関係で問題解決にあたることが特徴です。

カウンセリング

カウンセリングは、精神的な問題を健康な状態へ戻すことがおもな目的です。つまり、マイナスからゼロの状態に戻すことを目的としています。一方、コーチングでは今よりも良い状態、ゼロからプラスの状態にすることが目的です。

また、コーチングではおもに「未来」に対してアプローチしますが、カウンセリングでは「過去」に対してアプローチします。

もっと詳しく!コーチングに関するおすすめ論文と要約

各種論文を基にした「コーチング」の効果や有益性に関しては、主に以下の通りです。

  1. 関係性の構築: コーチとクライアント(またはアスリート)との間の信頼関係は、コーチングの成果に非常に重要です。強い信頼関係があることで、クライアントは自身の内面をより深く探求し、自己認識を高めることができます(Jowett, 2017)。
  2. 自己効力感の向上: コーチングは個人の自己効力感を高め、自身の目標達成能力への信頼を深めることができます。自己効力感が高い人は、挑戦的な目標に対しても積極的に取り組み、困難を乗り越える力が強いとされています(Bozer & Jones, 2018)。
  3. パフォーマンスの向上: コーチングは、職場やスポーツなどのパフォーマンス向上に貢献します。具体的な目標設定、フィードバック、行動計画の策定を通じて、個人のスキルや能力の発展を促します(Jones, Woods, & Guillaume, 2016)。
  4. 知識とスキルの習得: コーチングプロセスでは、新しい知識やスキルの習得が促されます。これは、個人が自己のポテンシャルを最大限に引き出し、継続的な成長を遂げるために重要です(Peters & Carr, 2013)。

これらのポイントは、コーチングが個人の成長、パフォーマンス向上、目標達成において有益であることを示しています。コーチングは、個人が自己の内面と向き合い、自身の可能性を最大限に引き出す手助けをするプロセスです。

監修者の編集後記 -コーチングについて-

コーチングとは、対話を重ねることでクライアントに柔軟な思考と行動を促し与え、目標を達成できるように支援する技法です。モチベーションを向上させたり、主体性を高めるうえで有効といわれています。

うまく取り入れることで、仕事や家庭での満足感を上げることができるかもしれません。この機会に、導入を検討してみてはいかがでしょう。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。