VUCA(ブーカ)とは?意味やリスク、時代に合わせた企業・個人の対策
この記事のポイント
- VUCAとは、不確実性や変動性が高く、見通しの立てづらい現代のビジネス環境、またはその環境に対応する能力を指す言葉です。
- VUCAの時代に対応できない企業は、競争力の低下や誤った経営判断などによって、事業の継続が困難な状況に陥ります。
- VUCAの時代に対応できる企業となるためには、ビジョンの明確化や多様な人材の活用などの施策が考えられます。
目次
VUCA(ブーカ)とは?4つの意味
VUCA(ブーカ)とは、さまざまな事象から不確実性や変動性が高まり、将来の見通しが立てづらくなっている現代のビジネス環境を指す言葉です。また、そのような環境に対応できる能力を指す言葉として使われる場合もあります。
VUCAは、それ自体がひとつの単語ではありません。4つの要素を表した以下の英単語の頭文字を取った造語です。
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧性)
次項から、それぞれの意味について解説します。
変動性(Volatility)
VUCAのVは、「Volatility」を表しています。「Volatility」は「変動性」であり、VUCAにおいては、社会情勢や社会の仕組み、人々の考え方が変化することを意味します。市場の状況が変化することによって、顧客のニーズも併せて変化することなどが例として挙げられるでしょう。現代のビジネス環境は、変動が激しくなっており、予測を立てることが困難となっています。
不確実性(Uncertainty)
VUCAのUは、「不確実性」を意味する「Uncertainty」の頭文字から取られています。不確実性の例としては、新型コロナウィルスによる社会や市場の混乱が挙げられるでしょう。パンデミックによる混乱は、誰にとっても予期し得ないものであり、企業が事前に対応することは非常に困難です。
複雑性(Complexity)
VUCAのCは、「複雑性」を意味する英単語である「Complexity」から取られています。VUCAでは、ビジネスがグローバル化することによって生じた国や地域ごとの法令や、商慣習の違いに由来するビジネス環境の複雑化を指して使われます。ビジネスがグローバル化している現代では、自国ではなく他国の法令改正による規制が、ビジネスに大きな影響を与えることも少なくありません。
曖昧性(Ambiguity)
VUCAのAは、「曖昧性」を表す英単語である「Ambiguity」から取られています。VUCAにおいては、不明瞭な物事の因果関係を指して使用されます。SNSなどの普及に伴って、ニーズは多様化しており、成功要因を把握することは困難です。このような状況下では、過去の成功事例が確実な最適解とはならず、絶対といえる解決方法が存在しないことになります。
VUCA(ブーカ)の時代はいつから?
本来VUCAは、アメリカで軍事用語として使用されていた言葉です。東西冷戦終結後における軍事戦略の複雑化を指して使用されていました。しかし、現在では軍事分野だけでなくビジネス分野においても使用される言葉となっています。ビジネスにおけるVUCAへの注目は、2016年開催のダボス会議において、「VUCA world」という言葉が使用されたことが始まりだとされています。
現代社会において、人工知能をはじめとするテクノロジーの進歩は、かつてない速度で進んでいます。ビジネス環境においても、IT化やDXの導入が早い速度で進んでおり、どのような企業も、デジタルツールを当たり前のように活用しています。また、新型コロナウィルスによる未曽有のパンデミックを事前に予想できた人はいないでしょう。現代のビジネス環境は、まさに先行きを見通せないVUCAの時代であるといえます。
技術進歩の加速化や、未曽有のパンデミックは、ビジネスモデルにおいても急激な変革をもたらしました。もはや、既存の価値観や手法では対処が難しい状況となっています。先を見通すことが困難となったビジネス環境を背景として、VUCAに注目する企業も増加しています。
VUCA時代に適応できない場合の企業リスク
先行きが不透明なVUCA時代において、対応できない企業は多くのリスクを抱えることになります。具体的なリスクを知ることで、対応への助けとしてください。
競争力の低下
変動性や不確実性の高いVUCA時代は、既存の概念にとらわれない斬新なサービスや商品が生まれる可能性も高くなっています。対応ができなければ、競合他社の新サービスや商品にシェアを奪われて、自社の市場における競争力が低下してしまうでしょう。
経営戦略の失敗
経営戦略を立てるためには、将来を正確に見通さなければなりません。しかし、VUCA時代に対応できない企業では、正確に先を見通すことは困難でしょう。また、想定外の事態にも対応困難となり、適切な経営戦略を立てることは望めません。
モチベーションの低下
変革が求められるVUCA時代において、旧態依然としたやり方に終始する企業では、従業員のモチベーションも低下してしまいます。「この企業では新しいことにチャレンジできない」と判断し、転職に至る可能性も否定できません。
VUCA時代を生き抜くスキル
VUCA時代を生き抜くためには、どのようなスキルが必要なのでしょうか。スキルごとに見ていきましょう。
情報収集力
現代のビジネス環境においては、絶えず大量の情報が流れ続けています。大量の情報の中から正確な情報や有益な情報を探し当て、ビジネスに活かせなければ、VUCA時代を生き抜くことはできません。また、常に情報収集に努め、最新情報のキャッチアップを欠かさないことも重要です。
問題解決力
VUCA時代では、価値観やビジネスモデルも急速に変容しています。そのため、これまでと同様のやり方では、成果を上げることは叶いません。しかし、高い問題解決力を備えていれば、変容を続けるビジネスモデルに対しても柔軟に対応できます。これまでの枠にとらわれない斬新な解決方法の提示も望めるでしょう。
意思決定力
状況が絶えず変動するVUCA時代では、不確実で曖昧な将来を見通して決断を下せる意思決定力が必要とされます。絶えず変動する状況に合わせて、適宜必要な決断を下せなければ、競合相手の後手に回ってしまい、自身のポジションを失ってしまうでしょう。迅速で正確な決断を可能とする意思決定力を備えていなければ、VUCA時代に必要な人材とはされません。
コミュニケーション力
VUCA時代においては、価値観もまた多様化しています。多様化する価値観を理解するためには、高いコミュニケーション力が欠かせません。高いコミュニケーション力があれば、さまざまな価値観や、異なった背景を持つ相手とも良好な関係を築けます。価値観の異なる相手とは、トラブルになることも多いですが、コミュニケーション力が備わっていれば、そのような事態も回避できるでしょう。
自分で考えて行動する力
これまでのやり方が通用しないVUCA時代では、自ら考え行動することが重要です。自ら考えず、過去の成功事例に頼っているようでは、変動する状況に臨機応変に対応することも叶わず、VUCA時代を生き抜けません。
客観的にとらえる力
正しい状況を把握するためには、主観に頼ってはいけません。物事を客観的に見ることで、正しい状況把握が可能となります。変動を続け、不確実性も高いVUCA時代においては、誤った状況把握から、誤った決断につながってしまう恐れも少なくありません。結果として、自身の状況を悪化させ、VUCA時代を生き抜くことを困難にしてしまうでしょう。
VUCAに対応できる企業・組織になるには
VUCA時代に対応できる企業や組織となることで、市場における競争力を高めるだけでなく、適切な経営戦略の立案も可能となります。VUCA時代に対応可能な企業となるための具体的な施策を見ていきます。
企業のビジョンを明確に定める
絶えず状況が変動するVUCA時代においては、ぶれない軸を持つことが重要です。軸がぶれてしまえば、その都度の場当たり的な対応に終始してしまい、根本的な解決は図れません。そのため、VUCA時代に対応できる企業となるためには、行動の指針となる企業ビジョンを明確に定めることが求められます。
働き方を見直す
VUCA時代においては、これまでと同様のやり方は通用しません。予測が困難で複雑な事態にも対応できるようになるためには、働き方自体も見直す必要があるでしょう。フレックスやテレワークなど、新しい働き方を取り入れることで、効率が上がるだけでなく、これまでにない発想が生まれる可能性もあります。
リーダーシップのある人材を育成する
絶えず変化する状況に迅速に対応するためには、強いリーダーシップを持った人物が組織に必要です。強いリーダーシップを持った人物のもとであれば、想定外の事態に遭遇しても、適切な対応を取ることが可能です。また、目的を達成するために必要となる方向性を示してくれるリーダーが存在すれば、メンバーも一丸となって目標達成に望むことができます。
多様な人材を雇用する
VUCA時代においては、これまでのような終身雇用制や新卒一括採用といった人材のマネジメントは通用しません。通年採用などの柔軟な採用制度を導入し、さまざまな価値観を持った多様な人材を受け入れることが、VUCA時代に対応できる企業となるために重要です。多様な人材が揃った企業であれば、あらゆる事態にも臨機応変に対応できます。
イノベーションを創造する
既存のビジネスモデルが通用しないVUCA時代には、これまでにない価値を創造し、新市場を開拓しなければなりません。イノベーションを起こすことができれば、新市場における先駆者となり、市場の独占も可能となります。また、新しい価値の創造は、既存市場における競争優位性を高めるためにも有効です。
VUCA時代に適したフレームワーク「OODAループ」とは?
先を見通すことが困難なVUCA時代では、既存のフレームワークの有用性も低下してしまいます。そのような状況にあって、VUCA時代に必要不可欠な思考法として、「OODAループ」が注目を集めています。
OODA(ウーダ)ループのOODAは、次の4つの英単語の頭文字から取られています。
- Observe
- Orient
- Decide
- Act
OODAループは、観察および状況の判断から始まる迅速な決定・実行のためのフレームワークです。正確な状況把握と、迅速な決定・実行が重要となるVUCA時代に適したフレームワークであるといえます。
OODAループの特徴
OODAループは、4つのステップから構成され、ステップを臨機応変に飛ばせることや、短い時間でサイクルを回せることが特徴です。各ステップの特徴は次の通りです。
- Observe(みる:観察)
外部環境である市場や顧客の動向を観察し、データを集めます。変動の激しい現代のビジネス環境把握に重要なプロセスです。
- Orient(わかる:状況把握)
観察によって集めたデータを基に、現状の把握理解に努め、進むべき方向性を検討します。これまでの経験やアイデアなども考慮する必要があります。
- Decide(決める:意思決定)
把握した状況から判断して、どのような行動を取るべきか、もしくは行動しないかを決定します。このプロセスで、具体的な指針や行動が決定されます。
- Act(動く:行動)
これまでのプロセスを踏まえたうえで、成果が出せるように行動を起こします。目標達成までOODAループを繰り返すことが重要です。
もっと詳しく!VUCA(ブーカ)に関するおすすめ論文と要約
VUCA 時代における企業価値向上のための コミュニケーション・サイクルに関する研究
この論文は、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の高い現代の経営環境において、企業がコミュニケーションを通じて企業価値を向上させる方法を提案しています。
3つの企業事例の分析から、企業価値向上に寄与する「コミュニケーション・サイクル」には以下の5つの機能があることが明らかになりました。
- 環境の変化を観察・解釈するセンシング機能
- 社員の共感を醸成する機能
- コミュニケーションを戦略的にデザインする機能
- 組織の行動変容を推進する機能
- 組織の知識を深化させる機能
これらの機能が企業の理念と文化を中心に循環することで、変化に迅速に対応できる組織能力が醸成される、というのが本論文の提案です。今後はさらに多くの事例を蓄積し、企業がこのコミュニケーション・サイクルを構築するためのガイドラインを開発することが課題とされています。
参考:VUCA 時代における企業価値向上のための コミュニケーション・サイクルに関する研究
VUCA時代とEntrepreneurshipに関する課題の考察
本論文では、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の高い経営環境における企業の課題とその対応策について述べています。
具体的には以下の3つの観点から分析しています。
- OODAループの活用:観察・方向付け・決定・行動のサイクルであるOODAループを活用することで、迅速な意思決定と行動が可能となります。
- 事業継続計画(BCP)による対応:想定外の緊急事態に備えて事前に対応計画を立てることが重要です。過去の事例として、アメリカ同時多発テロや東日本大震災、英国のEU離脱、トランプ大統領の就任など、予想外の出来事への備えが必要とされています。
- アジャイル型手順による対応:パフォーマンスの高い結果を得るために、理解、コラボレーション、学習、柔軟性を維持するアジャイルの考え方が有効とされています。
これらの観点から、VUCA時代におけるアントレプレナーシップの課題を深く理解し、具体的な対応策を見出すことができます。変化の激しい現代ビジネス環境に適応していくための実践的なアプローチが提示されています。
参考: VUCA時代とEntrepreneurshipに関する課題の考察
監修者の編集後記-VUCA(ブーカ)について-
急速な技術発展や、新型コロナウィルスによるパンデミックへの対応など、現代のビジネス環境においては、先を見通すことが極めて困難です。このような状況下であっても、競争力を高め、持続的な成長を続ける企業となるためには、VUCA時代への対応が重要となります。ぜひ、当記事を参考にVUCA時代を生き抜く力を身につけてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。