OJTとOff-JTの意味を簡単に!OJTに向いてない人とは

この記事のポイント

  • OJTは、1910年代後半のアメリカ造船業界で、ひっ迫する作業員を仕事の現場で実践的かつ即効的に育成するために生まれた人材育成方法です。
  • OJTは、Show(やって見せる)→Tell(説明)→Do(やらせてみる)→Check(確認・追加指導)というサイクル(4段階指導法)で構成されています。
  • Off-JTと併用することで、OJTで得た知識・技術・技能を体系立てて整理することも重要です。

OJTの意味とは?

OJTとOff-JTの意味を簡単に!OJTに向いてない人とは

OJTとは、On the Job Trainingの略記であり、職場の上司や先輩が新入社員に対し、実際の業務を通して行う教育・訓練のことです。

OJTは、次の①から④までのステップを、Show→Tell→Do→Checkというサイクルで進めていきます。

  1. 指導者(上司・先輩)と対象者(部課・新人社員・人事異動や中途採用社員)がペアを作り、
  2. 実際に担当する仕事の場において、
  3. 仕事に必要な心構え、知識、技術、技能を
  4. 意図的・計画的・継続的に指導し、対象者に修得させる。

OJTのメリット

OJTのメリットは、次のようなものが考えられます。

  1. 実戦的な知識・技術・技能を持った社員を効率的に育成できる
  2. 対象となる社員一人ひとりの性格、能力に合わせた指導ができる
  3. 通常の仕事が研修の場でもあるので、特別な研修コストは不要である
  4. 指導者も対象者も同じ仕事時間を過ごすので、対話能力が向上し、良好な人間関係が形成される
  5. 指導者である上司や先輩にとって、自らの仕事を見直す機会となる

OJTのデメリット

一方、OJTは次のようなデメリットが考えられます。

  1. 指導者の取組み姿勢や能力、教え方によって成果が左右される
    →初心者の目線で仕事を見ながら指導のポイントを整理するなど、事前の準備が重要
  2. 体系的な知識・技術・技能の修得には不向きである
    →OJTの目標は即戦力の育成なので、OJT以外の方法(=Off-JT)によって学びを肉づけすることが必要である
  3. 指導者と対象者の人間関係が悪化する恐れがあり、その結果、対象者の仕事や会社に対するエンゲージメントが低下することもある
    →指導者は、対象者の理解度や集中度を観察し、対象者が学びへの興味を失わないように注意する
  4. 本来業務に加えての教育・訓練なので、指導者の負担が大きくなる
    →指導者の上位者は、OJT期間中の業務配分の調整などの負担軽減策を考慮

Off-JTの意味とは?

Off-JTは、OJTとは異なり、仕事の現場を離れ(※ここでは“Off”という認識)、研修室などで行われる、座学系の講座が中心です。その内容は、外部講師や社内インストラクターによるレクチャー、グループディスカッション、ロールプレイング、あるいは講演会など多彩です。

Off-JTは、社内の他部門の社員や他社の社員も参加する場合が多く、普段接触する機会の少ない人と出会う機会もあります。

OFF-JTのメリット

Off-JTのメリットは次のようなものが考えられます。

  1. OJTで学んだ知識・技術を体系的に整理し、広い視野で考えることができる
  2. 仕事現場では得にくい、先進的・先端的な知識・技術を知り、今後の動向にも視野が広がる
  3. 社会人・組織人として知っておきたい知見(組織論、人事管理論、企業会計など)に触れられる機会となる
  4. 普段接触する機会のない人と出会える、人脈形成のチャンスがある

Off-JTのデメリット

一方、Off-JTには次のようなデメリットが考えられます。

  1. 受講者が、仕事との関連性を把握できず、受講の効果が上がらないことがある
    →入社から間もない社員には、受講の目的を説明し、終了後はレポートを提出させるなどのフォローが必要
  2. 受講者が、主体的かつ積極的な姿勢で問題意識を持って参加しないと、本人の成長の機会にならない
  3. 短期間ではあるが、現場を担う社員の数が減ることになる
    →受講時期の分散などの工夫を行うと良い

OJTに向いている人・向いていない人の特徴

OJTの基本的な構成は、Show(やって見せる)→Tell(説明)→Do(やらせてみる)→Check(確認・追加指導)というサイクルです。

つまり、OJTの向きと不向きを見極めるには、この4段階のサイクルをきっちりと回し、各フェーズに応じた指導をし、OJTの成果を実現できるかどうかで決まります。

OJTに向いている人の特徴

  1. Show(やって見せる)=対象者に伝えるだけの知識・技術・技能を持っている人

    ただし、「○○名人」である必要はありません。会社が求める水準にあれば問題ありません。必要に応じて、「やって見せる」際には、ポイントをついたコメントができればより効果が高まります。

  2. Tell(説明)
    実践に役立つ説明をわかりやすく明確に伝えることのできる人対象者の集中力が途切れず、よし、「やってみよう!」という意欲につながれば理想的です。
  3. Do(やらせてみる)
    対象者が仕事をしているときに適切なタイミングでアドバイスできる人実践のときこそ、絶好のアドバイスのチャンスということもあります。
  4. Check(確認・追加指導)
    対象者の知識、熟度、性格などを把握し、相手の立場を考慮しながらコメントできる人

改善やレベルアップへの意欲や関心をかき立てる工夫も大切です

OJTに向いていない人の特徴

OJTに向いていないという場合でも人材育成の重要性やOJTの指導方法の特性を理解し、事前準備を行うことで、OJTの成果を上げられます。OJTのような部下や後輩の育成は、会社だけでなく指導者自身の成長にとっても有益な取組みです。

  1. Show(やって見せる)
    対象者に伝えるだけの知識・技術・技能を持っていない人OJTの計画者は、指導者の能力を見極めておくことが必要です。
  2. Tell(説明)
    説明がくどい人、筋道だった簡潔な説明ができない人くどい説明や説明順序の混乱などは、対象者の集中力や意欲を低下させてしまいます。「余分な話をする暇があったら仕事を教えてほしい」、というのが対象者の本音です。
  3. Do(やらせてみる)
    対象者の仕事を黙って見ていられない人適切なタイミングでのアドバイスは効果的ですが、何かというと「止めたがる人」に教わると対象者の意欲がなくなります。一方で、アドバイスもなく放っておかれるのでは教育や訓練の意味がありません。
  4. Check(確認・追加指導)
    否定的なコメントをしたがる人、何かにつけて自分を基準にしたがる人、自分のやり方を押しつけたがる人、ステレオタイプなものの見方や評価をしがちな人、他者の成長を素直に喜べない人

問題がある指導者のタイプは、おおむね以上のとおりです。これらのタイプに共通しているのは、「対話」をする力の不足です。まずは、自分のものの見方や考え方、こだわりなどを一度、脇に置いて、対象者の言葉に耳を傾ける姿勢を意図することによって改善の方向性が見えてくるでしょう。(※1)

(※1)宇田川元一著|『他者と働く』| NewsPicks パブリッシング|2019年

OJT研修ではどんなことをやる?

OJTの基本的な構成は、4段階職業指導法、つまりShow(やって見せる)→Tell(説明)→Do(やらせてみる)→Check(確認・追加指導)のサイクルです。具体的には、《OJTの意味とは?》で確認してください。

OJTの対象者の数は?

指導者1人につき対象者1人というのが一般的です。仕事の内容や仕事場の状況によっては、対象者を2人、3人とすることも可能です。これより人数が多くなると、Tell(説明)やCheck(確認・追加指導)が不十分になる可能性があります。

事前に準備しておいた方が良いことは?

指導者、対象者の双方にOJTの趣旨・目標を理解させること、そして、達成目標を共有させることです。

これを踏まえ、指導者は、対象者の資質や性格などを把握し、説明の仕方(ポイントや順序など)を整理し、イメージしておくことが大切です。

OJTの効果を高めるにはどうする?

OJTの意味とは?》で述べているとおり、OJTは、「意図的・計画的・継続的に指導し、対象者に修得させる」ことが重要です。

  1. 意図的に:中長期的な会社のビジョンに基づいてOJTの目標を明確化する。
  2. 計画的に:OJTの全体スケジュールを策定し、修得すべき知識・技術・技能の項目、修得の順序などを明確化する。
  3. 継続的に:一度のOJTで修得できる知識・技術・技能は限られており、内容によっては、反復的に行う必要もある。一度限りではなく継続的に実施する必要がある。

日本におけるOJT・Off-JTの状況・データ

厚生労働省の調査結果によるとOJT実施企業は全体の63.0%、Off-JTは71.5%です。他の調査では、実施会社は70%超となっています。

ただし、課題もあります。指導者については能力不足や指導のバラツキが、対象者については向上意欲の不足、あるいは、時間をかけて指導した社員の離職などが指摘されています。他にも組織全体でも実施時間の不足、体系プログラムがないなどの課題が見られます。

参照:
厚生労働省(MHLW)「令和4年度能力開発基本調査」2023年6月
日本・東京商工会議所(J-T CCI)「人手不足の状況および従業員への研修・教育訓練に関する調査」2022年4月
商工中金(SCB)「中小企業の人材育成の状況について」2022年10月
株式会社日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)「新人・若手職員のOJTに関するアンケート」2022年9月

OJTの実践事例・ケーススタディ

OJTのルーツは、造船業というモノづくり分野で考案された、作業者の育成方法です。今日では、OJTが小売業界、医療・介護業界、外食業界、教育界などに広がっており、その実施目標も技術修得だけにとどまりません。

参照:東京都教育委員会「OJTガイドライン」【第3版】
青森県庁「OJTマニュアル 事例編」

いつも不満が多い社員・やる気のない社員に対してのOJT

不満が多い社員ややる気のない社員に対してOJTを実施する企業もあります。社員に何らかの課題を与え、OJTによる支援を通して達成感や成功体験を味わってもらうプロセスを継続することで、社員の自己肯定感が高まり、仕事への意欲が高まるのです。

お客様・取引先からクレームを受けた社員に対してのOJT

クレーム対応は、自社の改善点への気づき、顧客満足の向上など有益な情報や提案を得られる機会でもあります。こうした認識を持った企業では、Off-JTだけでなく、OJTによって相手への共感、傾聴、謝罪などのスキルを実践の場で修得する機会を設けています。

残業が常態化している社員に対してのOJT

過重な業務量による残業の解消は管理職の課題ですが、非効率な仕事の仕方が原因であるなら、当事者への教育および訓練が必要です。この場合、指導者と対象者がOJTの目的を共通認識していることが肝心です。4段階のうちではCheckでのやり取りが効果を決定します。

参照:厚生労働省「時間外労働削減の好事例集」

もっと詳しく!OJTに関するおすすめ論文と要約

OJTに関する論文を要約して紹介します。

OJTを指導するために必要なコミュニケーション能力・知識・経験が指導方法に与える影響

この研究は、自動車メーカーの設備保全職場におけるOJT(On-the-Job Training)の指導方法に焦点を当てています。主な発見は以下の通りです。

  1. コミュニケーション能力と知識・経験
    OJT指導には「他者受容」「表現力」「解読力」「自己主張」「自己対応力」「他者対応力」「知識」「経験」の8つの要素が重要です。
  2. 指導方法
    OJTの指導方法は「ストレッチ」と「リフレクション」の2つの要素に分けられます。
  3. パス解析の結果「他者受容」と「自己主張」はOJTの目標設定における「ストレッチ」に正の影響を与え、専門知識は「リフレクション」を促進します。

この研究は、OJT指導におけるコミュニケーション能力の重要性と、目標設定や省察を促進するためのバランスの取り方を示しています。

出典:OJT を指導するために必要なコミュニケーション能力・知識・経験が指導方法に与える影響-自動車メーカーの設備保全職場を対象とした事例-|J-STAGE

企業内部の能力形成とその効果-OJT と OFF-JT の相乗効果に関する分析

この研究は、企業内のトレーニングが労働者の経済的な利益にどのように影響するかを示しており、企業が内部トレーニングにどう取り組むべきかについての洞察を提供しています。

主なポイントは以下の通りです。

  1. OJT(職場内研修)とOff-JT(職場外研修)
    これらのトレーニングが単独で行われた場合、賃金上昇の有意な効果は見られませんでした。
  2. 相乗効果
    OJTとOff-JTを両方受けた場合、2年後に賃金が有意に上昇することが確認されました。
  • 企業の役割Off-JTを実施する企業は、効果を高めるためにOJTも適切に機能させるよう職場環境を整えています。
  • 政策の影響
    企業の能力形成を支援する政策は、賃金上昇を通じて生産性向上に寄与している可能性があります。

出典:企業内部の能力形成とその効果-OJT と OFF-JT の相乗効果に関する分析-|内閣府

4段階職業指導法を活用し、効果的なOJTを実現しよう!

OJTには、4段階職業指導法という明確な方法論があります。本文にある「Show→Tell→Do→Check」サイクルです。とはいえ、この方法論は、あくまでも指導の枠組みとなっています。実際の指導するシーンでは、指導者は、対話、説明、フォローアップの仕方についての最適なスキルの選択が求められます。

今、ここで働く人たちの資質や価値観を踏まえた指導スキルを採用することで、はじめてOJTという指導の枠組みが活かされる点を改めて認識させられるでしょう。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。