ピグマリオン効果とは?ビジネスでの活用例や逆効果となる注意点を紹介
この記事のポイント
- ピグマリオン効果とは、教育心理学における用語の1つで、教師が学習者に対し何らかの期待を抱くと、その期待が意識・無意識的に影響し、期待通りの成績となること。
- ピグマリオン効果は教育の場のみならずビジネスの場面、特に部下や新人の人材育成の場においても活用可能。
- 例えば、部下に対して「君なら良い結果を出してくれると期待している」と伝えるだけでも、部下がより良い成績を出す助けとなることが期待できる。
目次
ピグマリオン効果とは?
「ピグマリオン効果」とは教育心理学における用語の1つで、教師が学習者に対し何らかの期待を持つと、その期待が意識・無意識的に影響し、期待通りの成績になることをいいます。アメリカの心理学者であるロバート・ローゼンタールにより発見された現象です。
1968年にローゼンタールは「教師の生徒に対する期待の効果」を発表しました。サンフランシスコの小学校担任へ、ある生徒の名簿をみせます。そして、名簿の生徒は検査の結果優秀で、今後成績が伸びる見込みがある生徒であると説明します。
しかし、名簿の生徒は実際には無作為に選ばれたものでした。担任が成績の向上が見込めると期待を込めて生徒をみた結果、実際に成績が向上したそうです。
参考:「ピグマリオン効果」(一般社団法人 日本経営心理士協会)
ピグマリオン効果が発見された実験内容
1963年にある大学で行われた実験を元に、ピグマリオン効果は発見されました。
ローゼンタールはフォードとある大学でネズミを用いた実験を行います。
実験に協力した学生を2つのグループに分け、片方のグループには「これはよく訓練された利口な系統のネズミ」、もう一方のグループには「これはまったくのろまなネズミ」と説明しネズミを手渡しました。
結果、事前に利口なネズミと説明されたグループの方が成績が良くなることが明らかとなったのです。なぜこのような結果が生じたのかローゼンタールは考えたところ、事前情報を受けて利口なネズミのグループはネズミを丁寧に扱い、のろまなネズミのグループはぞんざいに扱ったためではないかと考えました。
ローゼンタール効果、教師期待効果とも呼ばれる
ピグマリオン効果は別名として、ローゼンタール効果や教師期待効果と呼ばれることもあります。
また、ピグマリオンの由来はギリシャ神話に出てくる王の名前であるといわれています。ピグマリオン王は彫刻家であり、ガラテアと自ら名付けた彫刻像に恋をし、彫刻が人間になることを願い続けました。するとアプロディテという神様の力が作用し、実際にガラテアは人間となり、ピグマリオン王と結ばれたといわれています。
参考:「イギリスにおけるピグマリオン神話の受容」『愛知学院大学文学部紀要』51号,p149-157.
ビジネスでピグマリオン効果を活用するには?
ピグマリオン効果は教育の現場のみならず、ビジネスの場、特に部下や新人の人材育成の場にも活用可能です。以下にその例をご紹介します。
部下のマネジメント
ピグマリオン効果は、上司が部下の人材教育をする際にも役立つ考え方です。
例えば、上司が部下に「君なら良い結果を出してくれると期待している」と伝えるだけでも、部下がより良い成績を残す手助けとなることが期待されます。ただし、期待をかけるだけでなく困り事がないか尋ねるなど、気にかけていることも合わせて伝えてフォローすることが大切です。
参考:「期待の声掛けが内発的動機づけ及び印象形成に与える影響」『東北学院大学教養学部論集』191号,p1-17.
新人教育
新入社員向けのOJT(On the Job Training)においても活用可能です。
例えば、先輩が後輩に向けて成長への期待を発信することで、実際に新人の仕事の覚えやスピードが増す効果を得られます。また、期待をかけられたことで後輩から先輩への信頼が増すため、コミュニケーションが円滑になるでしょう。
モチベーション向上
ピグマリオン効果は、部下や後輩へ「期待している」とを言葉にして伝える以外の方法でも活用可能です。
例えば、継続的に仕事を任せ裁量権を与える、達成可能な目標を与えるなど、間接的に行動で期待を示すこともできます。ある程度仕事を任せる姿勢を持つことで、暗黙に期待を伝えることができ、新人のやる気を引き出すことにつながるでしょう。
営業目標の達成
営業目標を設定する際には、実現可能であるが少し高めの設定にする工夫が必要です。ノルマを示すことで「この人たちなら達成できるはず」と期待していることが伝わります。
ただし、実現不可能な目標を設定しないよう注意しましょう。あくまで達成可能な小さい目標を設定し、スモールステップで達成させることでモチベーションを高めることが目的です。
顧客サービスの向上
良いサービスを提供している従業員は、積極的に褒めていくことが大切です。従業員の能力を褒めることで、さらに能力を磨く励みになります。
従業員が褒め言葉に慣れていない場合は「あなたの顧客からの好感度が高いのはなぜだと思う?」などの問いかけを行うとよいでしょう。本人に成功の秘訣を語らせることで、本人の努力を引き出し、より具体的な褒めにつなげられます。
ピグマリオン効果を発揮させるポイント、注意点
ピグマリオン効果を発揮させるためには、効果を適切に活用することが大切です。目標や期待をかけるだけでなく、達成可能な目標を設定し、部下や後輩が困っている場合は適宜サポートに入ることも忘れてはいけません。
達成可能な高い期待を持つこと
ただ期待をかければよいというものではありません。目標やノルマを与える際には、必ず達成可能な、少し高めの期待をかけることが大切です。
高すぎる期待をかけられるとかえってプレッシャーになってしまったり、失敗したときに自信を失い逆効果になったりするためです。到達してほしい目標の前に小さな目標を設定し、スモールステップで達成させる方法が有効です。
目標を適切に伝えサポートすること
目標を伝え期待をかけるだけでなく、適切な目標を設定を行い、目標を達成するためのサポートを同時に行うこともポイントです。
定期的に1on1を設定し、部下や後輩が行き詰まっていないか確認したり、サポートをする機会を設けたりする工夫も必要です。バックアップがあることで、目標達成がしやすくなり、上司と部下のコミュニケーションも円滑になります。
ピグマリオン効果と比較される効果との違い
ピグマリオン効果と似ているものを、以下に3つまとめました。
類似の効果を知っておくことで、ビジネスの場面においてさらに活用できるようになるため確認しておきましょう。
ゴーレム効果
ゴーレム効果とは、1969年にローゼンタールにより発見されたピグマリオン効果の対義語で、ある人に対して周囲の期待や評価が低い場合、成果や成績が下がってしまう現象をいいます。
周囲から期待を持たれないためパフォーマンスが下がることを「絶対的ゴーレム効果」、否定的な評価を受ける集団に所属することで優秀な人でもパフォーマンスが下がることを「相対的ゴーレム効果」といいます。
ハロー効果
ハロー効果とは、ある人を評価する際に、一部の特徴的な印象に引きずられて、全体の評価を歪めてしまう現象をいいます。
例えば、容姿の良い男女をみたとき、「良い家柄なのだろう」「能力が高いのだろう」と無意識にバイアスをかけてしまう現象もハロー効果に該当します。
ホーソン効果
ホーソン効果とは、注目を浴びることで、その期待に応えたいという心理が働き、結果がよくなる現象をいいます。アメリカのウェスタン・エレクトリック社で行われたホーソン実験により発見された概念です。
ピグマリオン効果は他者の期待が影響しますが、ホーソン効果は他者の注目や関心を集めているという事実によりパフォーマンスが良くなるという点において区別されます。
もっと詳しく!ピグマリオン効果に関するおすすめ論文と要約
ピグマリオン効果に関するおすすめの論文を紹介します。
- 大学生における両親の期待度とその実現度の認知の比較
この研究は、大学生が感じる両親の期待と、それに対する自己の実現度の認知を比較分析しています。期待と自己評価のギャップが学生の自己効力感やモチベーションにどのような影響を与えるかを探っています。 - 教師の期待は子どもを伸ばすか
この論文は、教師の期待が子どもの学習成果にどのような影響を与えるかを検証しています。ピグマリオン効果を超えた教育のアプローチとして、教師と生徒の関係性や教育環境の質が重要であることを強調しています。 - 柔道の教授=学習過程におけるピグマリオン効果の実証的研究
この研究は、柔道の指導過程におけるピグマリオン効果を実証的に分析しています。指導者の期待が学習者のパフォーマンスに与える影響を明らかにし、スポーツ教育における期待効果の重要性を示しています。
監修者の編集後記 -ピグマリオン効果について
ピグマリオン効果はビジネスにおいても、部下の教育や新人の育成、営業目標の達成、モチベーションの向上、顧客目標の達成などの場面で役立てることが可能です。例えば、営業目標を設定したり、ある程度仕事の裁量権を与えることでも、間接的に暗黙に期待を伝えることができます。期待を伝える際には、目標や裁量権を与えるだけでなく、困りがないかを適宜尋ねるなど、サポートも欠かさないことがポイントです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。