ハインリッヒの法則とは?具体例や職場での事故防止策を解説

この記事のポイント

  • ハインリッヒの法則とは、労働災害に関する調査をもとにした法則であり、ハインリッヒ氏により提唱されたことから、この名前で呼ばれています。
  • ハインリッヒの法則では、ひとつの重大災害の背後には、29件の軽微な災害が隠されており、軽微な災害の背後にはさらに300件の災害に至らない異常が存在するとされています。
  • ハインリッヒの法則には、バードの法則やタイ=ピアソンの法則など関連する法則が存在します。

ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)とは?

ハインリッヒの法則とは?具体例や職場での事故防止策を解説

ハインリッヒの法則とは、米国の損保会社に所属する安全技師であったハインリッヒ氏の著書により提唱された法則です。同法則では、ひとつの重大事故の背後には29件の軽微な事故が隠されており、その背後には300件の災害(傷害)に至らなかった異常がさらに隠されているとされています。

ハインリッヒの法則は、事故の分類方法から「1:29:300の法則」と呼ばれることもあります。ただし、この数字自体は重要ではありません。重大事故の背後には、多くの軽微な損害で済んだ事故があり、その背後にはさらに多くの災害(傷害)が発生しなかった異常が隠されているという考え方自体が重要です。

ヒヤリハットとの違い

ハインリッヒの法則は、生じた災害(傷害)の程度によって事故を分類しています。これに対して、ヒヤリハットは、災害(傷害)に至らなかった無傷事故を指す言葉です。つまり、ヒヤリハットは災害には至らなかったが、確かに異常は存在し、事故が起きる寸前であった状態を指しています。

ハインリッヒの法則における300の部分に、ヒヤリハットが含まれています。ヒヤリハットは無傷事故であり、実際に怪我をした者がいるわけではありません。しかし、事故が起きる寸前であったり、事故に至る直前の異常が存在していたりする状態です。そのまま見過ごすことはできないでしょう。

ヒヤリハットを見逃せば、重大な事故につながる恐れがあります。実際に被害が出ていないからといって、ヒヤリハットを軽視しないように心掛けることが大切です。

ハインリッヒの法則の具体例・事例

具体例を通して見ると、ハインリッヒの法則への理解が深まります。業種ごとの事例を見ていきましょう。

介護・福祉

介護や福祉の現場では、利用者をベッドから車椅子に移乗させることが日常的に行われています。この際に、無理な体勢で利用者を抱えてしまい、骨折などの災害が発生することもあり得ます。

ハインリッヒの法則では、無理な姿勢での介助による骨折の裏には、多くの骨折するまでには至らない怪我が隠されていることになります。さらにその背後には、より多くの怪我を負う寸前であったヒヤリハット事例が隠されていることになるでしょう。このようなヒヤリハット事例に注目することで、骨折などの重大な事故を防ぐことが可能となります。

医療

医療の現場では、利用者の車椅子を階段で運ぶことがあります。このような場面では、バランスを崩して転倒してしまい、骨折などの大怪我を負うこともあるでしょう。

ハインリッヒの法則では、転倒による骨折というひとつの重大災害の裏には、多くの捻挫や打ち身のような軽微で済んだ災害が隠れていることになります。また、その背後にはさらに多くの転倒しそうになったヒヤリハット事例が隠れていることになります。医療現場におけるミスは、患者の生命に関わるため、注意深く観察しなければなりません。

製造業

製造業では、プレス機械を使用することも少なくありません。大型のプレス機械に巻き込まれた場合には、最悪のケースとして死に至ることもあるでしょう。

ハインリッヒの法則を当てはめて、具体的に考えてみましょう。プレス機械による死亡事故の裏には、運良く軽傷で済んだ多くの事故や、さらに多くの事故寸前であったヒヤリハット事例が隠されていることになります。製造業におけるヒヤリハットは、重篤な怪我につながりやすいため、決して軽視してはいけません。

運送業

運送業では、荷物の積み上げや積み下ろしのためにフォークリフトを使用します。フォークリフトが急発進したことによって、近くにいた作業員が巻き込まれてしまう場合もあります。巻き込まれた作業員が、入院を要するような大怪我を負ってしまうこともあるでしょう。

ハインリッヒの法則では、フォークリフトに巻き込まれて大怪我を負うような重大な事故の裏には軽傷で済んだ多くの事故と、より多くのヒヤリハット事例が隠されていることになります。重大な事故の裏には、軽い打ち身や擦り傷で済んだ事故や、巻き込まれる寸前で回避できた事例が数多く存在するでしょう。これらの事故や事例を無視しないことが、重大な事故の発生防止につながります。

建設業

建設現場において、高所からの落下物で怪我を負うことは珍しくありません。これをハインリッヒの法則に当てはめてみましょう。

たとえば、高所での作業中に大型の工具箱を落としたとします。下で作業を行っている作業員がいれば、非常に危険です。工具箱が頭部にぶつかり、首の骨を折るような重傷を負うこともあるでしょう。重症となる事故の背後には、軽いむち打ち症で済むような事故が多く存在し、さらにそれよりも多くのぶつかりそうになったヒヤリハット事例が隠されています。

高所からの落下物は、ときには作業員の命を奪う可能性すらあります。被害が出なかったからといって、無視するようなことがあってはなりません。

清掃業

清掃業で使用されるごみ収集車の回転板に巻き込まれた場合には、腕の切断という重大な災害が発生する可能性もあります。しかし、巻き込まれたからといって全てが重症を負うわけではありません。また、巻き込まれる寸前で回避できるような場合もあるでしょう。

ハインリッヒの法則によれば、ひとつの切断に至るような事故の裏には、巻き込まれたものの軽傷で済んだ事故が多数存在することになります。軽傷で済んだ事故の背後には、巻き込まれそうになったヒヤリハット事例が数多く存在することになるでしょう。ヒヤリハット事例を注意深く観察し、なぜ事故が発生するのかを把握することが必要です。

サービス業

飲食サービス業では、調理のために包丁を使用します。鋭利な包丁は使い方を誤れば、怪我を負ってしまいます。

調理のために固い食材を包丁で切断する必要があったとします。その際には手元が狂って、怪我を負うこともあるでしょう。場合によっては、指の切断につながるような事故も起こり得ます。

ハインリッヒの法則では、包丁による指の切断という重大な事故の背後に、多数の軽い切り傷で済んだ事故が隠れていることになります。そのような事故の背後には、さらに多くの指を切りそうになった事例が隠れているわけです。刃物の扱いには、細心の注意が必要であり、怪我をしなかったからといって、そのままとするわけにはいきません。

ハインリッヒの法則をもとに重大事故を防止するには?

ハインリッヒの法則を活用すれば、重大な事故の発生を防止することも可能です。具体的な対策方法を紹介します。

ヒヤリ・ハット事例の共有

ハインリッヒの法則を用いて、重大事故の発生を防止するには、ヒヤリハット事例を収集分析し、共有することが大切です。

ヒヤリハットは、実際の被害が出ている状態ではありません。しかし、事故が起きて被害が発生する寸前の状態であったことは確かです。そのため、ヒヤリハット事例を分析すれば、事故の発生予防につなげることも可能です。

分析した事例を従業員間で共有できれば、ヒヤリハットは減少するでしょう。ヒヤリハットが減少すれば、自ずと事故の発生率も減少し、重大事故を防ぐことも可能となります。

事故リスクの収集と対策の検討

事故が起きるリスクと、その対策について検討することも必要です。リスク要因が判明すれば、対策を講じることも容易になります。

ヒヤリハットが発生した時点で、報告書を提出させることが、リスク要因の発見に有効です。多くの事例が集まれば、具体的な対策も立てやすくなるでしょう。しかし、どのような事例をヒヤリハットと感じるかは、従業員ごとに異なります。そのため、まずは危険性の高い作業を割り出して、起き得ると考えられるリスクを指摘するところから始めましょう。

業務マニュアルへの活用

事故が起きる要因が判明し、対策を立てたのであれば、それを業務マニュアルとして活かしましょう。マニュアル化することで、実際にヒヤリハットを経験した従業員だけでなく、他の従業員も対策を立てやすくなります。

業務マニュアルは、紙媒体だけでなく、電子媒体でも作成することが推奨されます。電子媒体であれば、スマートフォンやタブレット端末を用いることで、いつでも閲覧可能です。より効果的にマニュアルが活用できるようになるでしょう。

従業員への安全意識を高める

企業が対策を講じても、現場で働く従業員の安全意識が低ければ、折角の対策も効果を失います。朝礼の場で訓示を行ったり、見やすい場所に安全意識を高めるポスターを貼ったりすれば、従業員の意識も高くなるでしょう。

従業員同士で、ヒヤリハット事例などについて討論することも意識を高めるうえで有効です。具体的な事例について討論することで、より理解が深まるだけでなく、当事者意識を持つことが可能となります。

教育・研修を実施する

社内研修などを実施して、ハインリッヒの法則について教育することも重要です。安全管理を担当する者にとっては当たり前でも、現場の従業員にとっては初めて触れる言葉となる場合もあります。研修を通して、知識を得ることでハインリッヒの法則への理解が深まるだけでなく、法則を利用した事故防止施策への理解も深まるでしょう。

研修は既存の社員に対して行うだけでは足りません。新入社員はもちろん、アルバイトやパートといった非正規従業員に対しても同様の研修を行うことで、企業全体の安全管理体制をより強固なものとすることが可能となります。

ハインリッヒの法則に関連する法則

ハインリッヒの法則には、関連する法則が存在します。本項では、「バードの法則」「タイ=ピアソンの法則」について解説します。

バードの法則

ハインリッヒの法則に似た法則として、「バードの法則」が挙げられます。ハインリッヒの法則と同様に事故における経験則を示した法則です。

バードの法則では、事故報告を災害の程度で分類すると、次のような割合になるとしています。

  • 死亡等を含む重篤な事故:1
  • 軽傷となる事故:10
  • 物損のみとなる事故:30
  • 怪我や損害が発生しない事故:600

バードの法則は、ハインリッヒの法則に物損事故を加えたものであり、比率も若干異なります。しかし、重大な事故の背後には軽度の事故や、事故につながるヒヤリハットが多数隠れているという基本的な考え方は変わりません。また、上記のような分類方法から、バードの法則は「1:10:30:600の法則」とも呼ばれています。

タイ=ピアソンの法則

「タイ=ピアソンの法則」も、ハインリッヒの法則やバードの法則と同様に、事故の経験則を示した法則です。しかし、タイ=ピアソンの法則はハインリッヒの法則やバードの法則に比べて新しい法則であり、分類はより細分化されています。

タイ=ピアソンの法則による事故の内訳と割合は以下の通りです。

  • 重大な事故:1
  • 軽微な事故:3
  • 応急処置で済んだ事故:50
  • 物損のみとなる事故:80
  • 事故が起きる寸前であった状態:400

タイ=ピアソンの法則は「1:3:50:80:400の法則」とも呼ばれています。バードの法則よりも新しい法則のため、「応急処置で済んだ事故」が追加され、より細分化されています。しかし、重大な事故の背後には、多くのヒヤリハットが存在しているという考え方自体は、他の2つの法則と異なることはありません。

いずれの法則による場合であっても、ヒヤリハットを見過ごさないことが重大な事故を防ぐために重要であるといえるでしょう。

  もっと詳しく!ハインリッヒの法則に関するおすすめ論文と要約

ハインリッヒの法則に関するおすすめの論文を紹介します。

  • ヒヤリハット現象の背景と解釈に関する仮説と検証
    この論文では、エレベータと階段の軽微な事故・ヒヤリハット現象を対象にその時間的増減と組織としての障害者対策との関連を調べました。その結果、ヒヤリハット現象を利用することによって組織としてその対策に取り組むべき適切な時期がわかる可能性を明らかにしました。
  • 看護職がインシデント・アクシデントを繰り返す要因に関する研究
    この論文では、看護職がインシデント・アクシデントを繰り返し起こす要因を明らかにしました。その結果、「不安・緊張」、「混乱」、「抑うつ」、「従順な性格特性」、「判断力の不足」、「連携不足」、「過酷な勤務状況」、「業務多忙」の8 項目の項目平均得点は、インシデント・アクシデントが3 回以上の群が有意に高かったことが示されました。

監修者の編集後記-ハインリッヒの法則について-

労働災害の発生は、企業と従業員双方にとって不利益となるものです。災害による休職が発生すれば、業務効率も落ちてしまいます。また、最悪の場合には、死亡という痛ましい結果にもつながりかねず、絶対に避けなくてはなりません。当記事で解説した法則をもとに、労働災害の発生原因を特定し、重大な事故の発生を未然に防止してください。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。