ハラスメントの種類が急増中?法律での種類と企業の対応策を解説

この記事のポイント

  • ハラスメントは、嫌がらせなどによって相手を不快にさせたり、肉体的・精神的に傷付けたりする行動を指します。
  • パワハラやセクハラ、マタハラなどが代表例ですが、他にもモラハラやアルハラなど多くの種類が存在します。
  • 職場におけるハラスメントの存在は、生産性の低下だけでなく、従業員の離職にもつながるため対策が必要です。

目次

ハラスメントとは?

ハラスメントの種類が急増中?法律での種類と企業の対応策を解説

ハラスメントとは、相手を不快にさせたり、精神的・肉体的な苦痛を与えたりする行為の総称です。パワハラやセクハラなどが代表的なハラスメントとなり、対応をしなければ従業員の離職など様々なデメリットが発生します。

ハラスメントになる条件

相手が不快に感じれば、その行為は本人にとってハラスメントとなります。しかし、通常ハラスメントとされるためには、一定の条件を満たすことが必要です。

たとえば、パワハラは「職場において行われる」行為でなければなりません。また、「優越的な立場を利用した言動」が、「業務上不必要な範囲にまでおよび」「従業員の就業環境が害された」ことが必要です。

セクハラに関しても、「相手の意に反した」「性的な言動」があり、それが「職場における」「就業環境などを悪化」させることが必要です。全ての言動がハラスメントになるわけでないことに注意しましょう。

職場でハラスメントを感じた経験:40代が最多で85%

Job総研が行った調査では、65.8%もの社会人が過去にハラスメントを感じたことがあると回答しています。過半数を超える数字が示されており、ハラスメント被害の深刻さを物語るデータといえるでしょう。

また、年代別に見て経験ありと答えた割合が最も高いのは、40代の85.7%です。30代も83.5%と非常に高い数字が示されており、企業の中核を担う働き盛りの年代が多くの被害を受けているようです。企業の成長のためにも、ハラスメント対策は喫緊の課題といえます。

参考:Job総研 「2023年 ハラスメント実態調査」を実施 | JobQ〔ジョブキュー

国がハラスメント対策に取り組む理由

厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、過去3年間でパワハラやセクハラなどを一度以上受けたと回答した人の割合は以下の通りです。

  • パワハラ:31.4%
  • 顧客などからの迷惑行為:15.0%
  • セクハラ:10.2%

また、過去5年間で妊娠や出産、育児などを原因とするハラスメントを受けた女性労働者の割合は、26.3%となっています。男性労働者が育児に関する制度を利用したことを原因とするハラスメントを受けたと回答した割合は、26.2%です。

データからは、パワハラやマタハラの割合が高いことが分かります。この2つについては特に対策が必要となるでしょう。また、割合が低いからといってセクハラや迷惑行為が許されるわけではありません。

国もこのような状況に対して、傍観しているわけではありません。ハラスメントが企業における人材の喪失や社会的評価の低下につながりかねない問題であるとして、関係法の整備に取り組んでいます。2020年からのパワハラ防止対策の義務化などは記憶に新しいところです。

参考:
職場のハラスメントに関する実態調査|厚生労働省
ハラスメント防止のために ~なぜハラスメント対策が重要なのか~|厚生労働省

法律で対応が定められるハラスメントの種類

ハラスメントには多くの種類がありますが、中には法律によって対応が求められているものも存在します。項目ごとに見ていきましょう。

パワハラ(パワーハラスメント)

労働施策総合推進法の改正によって、2020年から事業主はパワハラ防止対策を講じることが義務付けられました。当初は大企業のみが対象でしたが、2022年からは中小企業も対象となっています。

事業が講ずべき措置は以下の通りです。

  • パワハラに対する企業方針の明確化およびその周知と啓発
  • 相談に適切に対応するための体制整備
  • パワハラに対する事後の迅速かつ適切な対応
  • プライバシー保護などその他の措置

具体的なパワハラの内容としては、暴力などの身体的な攻撃はもちろんのこと、侮蔑といった精神的な攻撃や職場における人間関係からの切り離しなども含まれます。意識的な無視や隔離によって、孤立させることはパワハラとなるわけです。

また、達成不可能なノルマを課すことや、逆に仕事を与えないこともパワハラとされます。その他にも、プライバシーを侵害する行為がパワハラとされているため、注意しましょう。

参考:労働施策総合推進法|e-Gov法令検索

セクハラ(セクシャルハラスメント)

男女雇用機会均等法によって、事業主はセクハラ防止対策のための措置を講じなければなりません。なお、派遣労働者については、派遣元だけでなく派遣先事業主も必要な措置を講じる必要があります。

事業主が講ずべき措置は以下の通りです。

  • セクハラに対する企業方針の明確化およびその周知と啓発
  • 相談に適切に対応するための体制整備
  • セクハラに対する事後の迅速かつ適切な対応
  • プライバシー保護などその他の措置

セクハラには、「環境型」「対価型」の2種類が存在します。環境型セクハラとは、職場に性的なポスターを貼ったり、周りで性的な会話を行ったりすることで就業環境を害する行為です。一方の対価型セクハラは、性的な要求を行い、それに従わない場合に解雇や減給などの不利益処分を科す行為です。

参考:男女雇用機会均等法|e-Gov法令検索

マタハラ(マタニティハラスメント)

マタハラに対しても、男女雇用機会均等法によって事業主の講ずべき以下の措置が定められています。

  • マタハラに対する企業方針の明確化およびその周知と啓発
  • 相談に適切に対応するための体制整備
  • マタハラに対する事後の迅速かつ適切な対応
  • マタハラの原因や背景となる要因を解消するために必要な措置
  • プライバシー保護などその他の措置

マタハラは、妊娠や出産、育児を原因として、解雇や減給、降格などの不利益な取り扱いを行うハラスメントです。たとえば、育児休業を取得した従業員に減給処分を科したり、解雇したりする場合が該当するでしょう。このような妊娠や出産、育児を原因とする不利益な取り扱いは、男女雇用機会均等法や育児介護休業法によって禁じられています。

参考:
男女雇用機会均等法|e-Gov法令検索
育児介護休業法|e-Gov法令検索

職場で起こりうるハラスメントの主な種類

職場で起こり得るハラスメントは、パワハラやセクハラだけではありません。他にも様々なハラスメントが存在するため、紹介します。

パタハラ(パタニティハラスメント)

パタハラとは、男性従業員が育児休業などの制度を利用したことを理由とするハラスメントです。育児休業を取得した男性従業員を閑職に回すことなどが該当するでしょう。

モラハラ(モラルハラスメント)

モラハラとは、モラルに反する言動によって嫌がらせを行うハラスメントです。相手の容姿や人間性への攻撃、家族への悪口などが該当します。

リスハラ(リストラハラスメント)

リスハラとは、リストラ対象の従業員に行われるハラスメントです。自主退職を断った従業員に対して、嫌がらせを行い自主的に退職するように仕向けます。

ケアハラ(ケアハラスメント)

ケアハラとは、介護を行う従業員に対するハラスメントです。介護休業取得の妨害や、取得を理由とした不利益な取り扱いが該当します。

テクハラ(テクノロジーハラスメント)

テクハラは、IT技術や情報端末に明るくない人に対して行われるハラスメントです。知識が乏しいことや、操作が不得手なことを理由として、対象者を責めるなどの嫌がらせが行われます。

ジタハラ(時短ハラスメント)

ジタハラとは、具体的な対策を講じないまま時短措置を実行し、結果として従業員に過大な負担が掛かるハラスメントです。業務量が据え置きのまま、時短措置を実施する場合などが該当するでしょう。

ジェンハラ(ジェンダーハラスメント)

ジェンハラは性別を理由とした嫌がらせなどを指す言葉です。「女性だから」「男性だから」といって役割を決め付けたり、性別によって異なる評価を行ったりする場合が該当します。

スメハラ(スメルハラスメント)

スメハラは、においを原因とするハラスメント類型です。不衛生なことを原因とする悪臭はもちろんのこと、一般的に良い香りとされる香水のにおいであっても、強過ぎる場合にはスメハラとなります。

ワクハラ(ワクチンハラスメント)

ワクハラは、新型コロナウィルス感染症を原因として起きるハラスメントです。本来本人の自由意思によるべきワクチンを接種しないことを理由として、差別的言動が行われます。

アルハラ(アルコールハラスメント)

アルハラとは、主に飲酒の強制を指す言葉です。飲み会などにおいて、お酒に弱い相手や、「飲みたくない」といっている相手に無理矢理飲酒を強要します。また、飲める相手であっても、一気飲みを強要させるような場合はアルハラとなります。

ハラハラ(ハラスメントハラスメント)

ハラハラとは、正当な理由がある指導や教育などをハラスメントと認定する行為です。業務上必要となる範囲内の指導を「パワハラだ」と騒ぎ立てるような場合が該当するでしょう。

ハラスメントによる企業のリスク・損失

ハラスメントは、ハラスメントを受けた相手に深い傷を残すだけでなく、企業にとっても大きな損失が発生する行為です。具体的なリスクや損失を見ていきましょう。

企業イメージの低下

ハラスメントは、相手の尊厳を傷付ける行為であり、決して許されてはなりません。また、場合によっては、犯罪として扱われることもあり得ます。

犯罪として報道されるような場合はもちろん、そうでない場合であっても、ハラスメントを放置している企業のイメージが良くなるはずはありません。「あそこはパワハラ企業だ」「社長がセクハラを行っているらしい」などの悪評が立てば、企業イメージの低下は避けられないでしょう。

離職率の増加

ハラスメントが横行している職場は、従業員にとって働きやすいとはいえないでしょう。また、ハラスメントを受けた従業員は、心身の健康を害することも少なくありません。

働き辛い職場に対しては、エンゲージメントも下がってしまい、離職を選んでもおかしくありません。ハラスメントにより心身の健康を害した従業員が、休職や離職を選ぶ場合もあるでしょう。ハラスメントを改善しなければ、離職率も上がってしまいます。

作業効率・生産性の低下

ハラスメントを受けた従業員は、仕事に対するモチベーションを失います。低いモチベーションでは、効率が落ちてしまうでしょう。また、ハラスメントの横行する職場は、空気が悪く、どうしてもギスギスした雰囲気になります。そのような職場環境では、従業員間の連携も取れなくなり、結果として企業全体の生産性も低下してしまいます。

損害賠償責任や法的紛争も

ハラスメントによって、精神的な損害を受けたとして損害賠償請求訴訟を提起されることも珍しくありません。このような場合には、賠償金による金銭的な負担だけでなく、訴訟による企業イメージの低下も伴います。ハラスメントは、法的紛争につながる行為であることを忘れてはなりません。

ハラスメントを防ぐには?企業の対策

ハラスメントを防ぐためには、どのような対策を取れば良いのでしょうか。対策をひとつずつ見ていきましょう。

社内教育・研修を実施する

社内においてハラスメントに対する教育や研修を実施することは、有効な対策となります。無意識の行動がハラスメントに該当していたと気付くこともあるでしょう。

就業規則等で文書化する

就業規則などにハラスメントの類型とそれらを禁ずる旨を明記しておくことも有効です。文書化することでより強く「ハラスメントを行ってはいけない」と、意識できるようになります。

相談窓口の設置

ハラスメントに対する相談窓口の設置は、労働施策総合推進法による義務となっています。設置の際には内部相談窓口だけでなく、専門家による外部相談窓口も設置するとより効果を発揮するでしょう。

ハラスメントが起きた場合の企業の対応

ハラスメントは事前に防止するのが最善です。しかし、起きてしまった場合でも適切な対応によって影響を最小限に留めることができます。

事実関係の迅速・正確な確認

ハラスメントが起きた場合には、迅速かつ正確に情報を収集する必要があります。確認が遅れれば被害は拡大してしまいます。また、不正確な情報では根拠が薄く、処分ができません。

加害者への厳正な処分

加害者へは、社内規則に基づいた厳正な処分を下す必要があります。事なかれ主義で甘い処分にすると、加害者は事の重大さを自覚できず、同じ行為を繰り返してしまうでしょう。

被害者へのフォロー

加害者の処分だけでなく、被害者へのフォローも重要です。被害者は大きなショックを受けていることも少なくありません。適切にフォローできなければ、最悪の場合、離職にまでつながってしまいます。

再発防止に向けた取り組み

なぜハラスメントが起きたのかを把握し、再発防止に取り組みましょう。必要に応じた教育や研修、配置転換などを行い再発防止に努めます。

ハラスメントヒアリングシートの無料テンプレート・ひな形

ハラスメント行為の実態を把握するためには、ヒアリングシートの利用が推奨されます。ヒアリングシートを利用すれば、聞き取り内容の漏れもなくなり、当事者以外の第三者からの目撃情報なども集めやすくなります。主観的ではない客観的な情報収集と整理には、欠かせない存在といえるでしょう。

ヒアリングシートは、自社で内製しても問題ありませんが、以下のようなテンプレートを使うと手間が省けますので、ご活用ください。

もっと詳しく!ハラスメントに関するおすすめ論文と要約

ハラスメントに関するおすすめの論文を紹介します。

監修者の編集後記-ハラスメントについて-

ハラスメントは、企業の生産性を低下させるだけでなく、従業員の離職にまでつながりかねない行為です。少子高齢化の進展によって、人材確保が困難さを増している現状で、ハラスメントによる離職は、絶対に避けなければならない事態といえるでしょう。ぜひ、当記事の解説を参考にハラスメントの発生を未然に防いでください。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。