障害者雇用とは|デメリットしかない?メリットは?
この記事のポイント
- 障害者雇用とは、一定の条件を満たす障害者を、企業規模などの分類に応じて定められた障害者雇用率に従い雇い入れることです。
- 障害者雇用の対象となる障害者は限定されており、どのような障害者を雇い入れても、障害者雇用率算定の対象となるわけではありません。
- 障害者雇用には、デメリットしかないという誤解や偏見がありますが、障害者側はもちろん、雇用する企業側にとってもメリットのある制度です。
目次
障害者雇用とは?
障害者雇用とは、障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)に定められた障害者雇用率に従い、一定の条件を満たす障害者を雇い入れることです。
障害者雇用促進法は、障害者の雇用促進のための措置等を定めています。同法は、障害者が、その有する能力に適合した職業に就くことを促進し、障害者の職業の安定を図ることを目的とする法律です。同法により、一定の事業主や国・地方公共団体、教育委員会などは一定人数以上の障害者を雇用することが義務付けられています。
障害者を雇用すれば、その全てを障害者雇用と呼称しても間違いではありません。しかし、一般的には障害者雇用率の算定対象となる障害者を雇い入れることが、障害者雇用とされています。
障害者雇用の対象者
障害者雇用促進法は、身体障害や知的障害、精神障害を問わず、全ての障害者を対象とした法律です。しかし、同法に定められた障害者雇用率算定の対象障害者は、一定の範囲に限定されています。障害者雇用率算定の対象となるのは、以下に挙げる手帳の交付を受けている障害者です。
- 身体障害者手帳
- 療育手帳
- 精神障害者保健福祉手帳
なお、上記の手帳を有さない統合失調症や躁うつ病、てんかんの障害を有する場合には、雇用率の算定とはなりませんが、障害者雇用に関する助成金においては対象者とされる場合があります。また、これらの方であっても地域障害者職業センターや、ハローワークによる支援を受けることが可能です。
障害者雇用と一般雇用の違い
通常企業は、労働基準法をはじめとする法律に違反しない範囲内であれば、どのような条件で、どのような人材を雇い入れても構いません。そのため、事業に必要な人数だけ雇い入れることが通常であり、何人を雇用するかは企業の自由です。
しかし、障害者雇用には、法で定められた障害者雇用率が存在し、条件を満たす場合には、障害者の雇い入れが義務となります。この点が一般雇用と障害者雇用の大きな違いとなります。また、すでに説明した通り、障害者雇用では、雇い入れの対象者が限定されていることも一般雇用と異なる点です。
現行の障害者雇用率は、以下の通りです。
- 一般の民間企業:2.3%
- 特殊法人(独立行政法人雇用・能力開発機構等):2.6%
- 国・地方公共団体:2.6%
- 教育委員会等:2.5%
民間企業の障害者雇用率は2.3%のため、43.5人規模以上の企業であれば、障害者を雇用する義務が生じることになります。なお、民間企業の障害者雇用率は、令和6年4月に2.5%(40.0人以上で雇用義務)、令和8年7月には2.7%(37.5人以上で雇用義務)へ段階的な引き上げが予定されています。これまでよりも小規模な企業であっても、雇用義務が課されることになるため、注意しましょう。また、地方公共団体なども同様に引き上げが予定されています。
参考:障害者雇用率制度について|厚生労働省
令和5年度からの障害者雇用率の設定等について|厚生労働省
障害者雇用がデメリットしかないと言われる理由
「障害者の雇用にはデメリットしかない」などという意見も多く見られます。しかし、本当にデメリットしかないのでしょうか。デメリットとされることが多い事例を通して、誤解を解いていきます。
雇用が義務付けられている
通常であれば、企業には採用の自由があり、その活動も自由です。しかし、一定数以上の従業員を雇用している企業には、障害者の雇用義務が発生します。このことにより、採用の自由度が低下することはデメリットに感じるかも知れません。
しかし、多様なバックボーンや価値観、特性を持った人材を受け入れるダイバーシティ採用が珍しくない昨今では、このような受け取り方は時代遅れと言えるのではないでしょうか。多様な人材の受け入れをネガティブに捉える価値観は、アップデートが必要となります。
障害者雇用納付金の存在
障害者雇用率を満たせない企業には、障害者雇用納付金の納付が義務付けられています。一種の罰金とも言える制度で、その額は不足人数1人につき、5万円です。金銭的な負担が課せられるのは、デメリットに感じてもやむを得ないことかも知れません。
しかし、法で義務付けられた雇用率を達成できない企業に非があることも事実です。また、法定の雇用率を超える障害者を雇用する企業には、後述する障害者雇用調整金が交付されることを考えれば、やはりデメリットと捉えるのは無理があるでしょう。
生産性が低い
障害者は、健常者に比べて労働における生産性が低いという誤解や偏見が存在します。そのため、障害者雇用は、自社の生産性を下げるだけの制度と考え、デメリットと捉える向きもあります。
しかし、仮に障害を持っていたとしても、障害の特性に応じて、その有する能力を発揮できる仕事を任せれば、生産性が下がることはないでしょう。生産性の低下は、適切な人員配置ができていない場合であり、特性に応じた配置が可能であれば、デメリットとはなり得ません。
受け入れへの負担
スロープや手すりの設置など、障害者を職場で受け入れるためには、一定の環境整備が必要となる場合もあります。そのような環境整備を行う資金的な余裕のない企業も多く存在するでしょう。そのため、障害者雇用における受け入れのハードルの高さをデメリットと感じる企業も多いです。
しかし、障害者の就労しやすい環境整備には、障害者作業施設設置等助成金などの支援制度が設けられています。支援制度を活用すれば、受け入れにあたっての負担も軽減され、デメリットと感じることもなくなるでしょう。
参考:障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金|独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
障害者雇用のメリット
障害者雇用は、就労の困難な障害者にとっての後押しとなるメリットの大きい制度です。また、障害者雇用は障害者側にとってメリットがあるだけでなく、企業側にも多くのメリットをもたらします。
企業のイメージアップ
価値観や感性に偏見を持たず、年齢や性別、信仰、人種、障害の有無などを問わない採用を行うダイバーシティ採用は、今後企業の採用活動において主流となっていくでしょう。多様な特性や価値観を持つ人材を受け入れる企業は、先進的かつ柔軟性のある企業であると評価されます。そのため、障害者をはじめとする様々な特性を持つ人材の積極的な採用は、企業のイメージアップにつながります。
また、障害者雇用に積極的な企業は、障害を持っていても働きやすい環境を整備し、特性によらない全ての人が暮らしやすい社会の実現に貢献していると言えます。そのような企業は、社会的責任を果たしていると評価され、企業価値の向上にもつながるでしょう。
多様な人材の発掘
障害者雇用は、多様な人材の発掘にもつながる制度です。障害などの異なった特性を持つ人材は、異なった視点を併せ持つことも少なくありません。そのため、障害者雇用を行うことで、それまで自社に存在しなかった視点を持つ人材を発掘できる可能性も存在します。
異なった視点からの提案は、新たな商品やサービスの開発につながるだけでなく、他の社員が気付きを得ることにもつながります。障害者雇用は、多様な人材の発掘だけでなく、既存社員の成長を促す制度であるとも言えるでしょう。
業務や組織の見直しにつながる
多様な特性を持つ障害者の職場への受け入れは、業務や組織の変更を伴う場合もあります。このことは、一見コストや手間の掛かるデメリットに思えるかも知れません。しかし、受け入れ体制を構築する過程で、業務における無駄や組織の改善点が見えてくる場合もあります。
業務の効率化や組織の改善が図れるのであれば、多少のコストや手間はデメリットとはならず、それ以上のメリットを企業にもたらすでしょう。
障害者雇用調整金等の支給
障害者雇用率を達成できない企業には、障害者雇用納付金の納付が義務付けられています。一方で、障害者雇用率を達成し、それ以上の障害者を雇用する企業には、障害者雇用調整金が支給されます。
障害者雇用調整金は、罰金的な性質を持つ障害者雇用納付金に対して、報奨金的な性質を持つ制度です。障害者雇用調整金の額は、法定の雇用率を超えて雇用した障害者1人につき、2万9,000円となります。障害者雇用は、企業に金銭的なメリットをもたらす制度でもあるわけです。
障害者の雇用環境整備と同様に、障害者を雇用した企業には助成金が支給される場合もあります。対象となる助成金は以下の通りです。
- 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース及び発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)
- トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース及び障害者短時間トライアルコース)
また、障害者の職場定着のための措置を行った場合には、キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)の対象となります。他にも施設整備や職業能力開発を行った場合に支給される助成金もあるため、活用してください。
障害者雇用の雇用率の状況・データ
厚生労働省が公表した令和4年における民間企業の障害者雇用状況は以下の通りです。
- 雇用障害者数:61万3,958人(前年より1万6,172人増加)
- 実雇用率:2.25%(前年より0.05%増加)
- 法定雇用率達成企業:48.3%(前年より1.3%増加)
いずれの項目でも前年を上回り、雇用障害者数と実雇用率では、過去最高の数字を記録しています。特に雇用障害者数は、19年連続で過去最高を更新しており、着実に障害者雇用が推進されていることがわかります。
また、国や地方自治体、教育委員会、独立行政法人など、調査対象の全てにおいて、前年を上回るデータが示されています。民間企業を含め、社会全体が多様な特性や価値観を受け入れるように変化してきていることがわかる結果と言えるでしょう。
障害者雇用の年収の状況・データ
厚生労働省が公表した平成30年における障害者雇用における1か月の平均賃金の状況は以下の通りです。
- 身体障害者:21万5,000円(超過勤務手当を除く所定内賃金は20万4,000円)
- 知的障害者:11万7,000円(超過勤務手当を除く所定内賃金は11万4,000円)
- 精神障害者:12万5,000円(超過勤務手当を除く所定内賃金は12万2,000円)
- 発達障害者:12万7,000円(超過勤務手当を除く所定内賃金は12万3,000円)
厚生労働省が公表した令和4年賃金構造基本統計調査によると、一般労働者の賃金は男女計で31万1,800円です。最も賃金の高い身体障害者であっても10万円近い開きがあり、他に至っては20万円近い開きとなっています。
この賃金の低さには、雇用形態が大きく関係しています。最も賃金の高い身体障害者であっても、無期雇用と有期雇用を合わせた正社員の割合は52.5%と約半数程度です。他の障害に至っては、正社員の割合が20%程度に留まっています。身体障害者においては、正社員数の多さが、他よりも高い賃金につながっていると言えるでしょう。
非正規雇用は、正社員に比べて、労働時間が短く、仕事内容も単純なものが多くなっています。このような事情が、障害者雇用の平均賃金を下げる原因になっていると考えられます。一般の労働者と障害者雇用では、大きな賃金の開きが見て取れ、格差を埋めることが障害者の自立と職業の安定を図るために重要となるでしょう。
参考:平成30年度障害者雇用実態調査結果|厚生労働省
令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省
もっと詳しく!障害者雇用に関するおすすめ論文と要約
日本における障害者の雇用に関する研究について、以下に要約をまとめます。
- 雇用継続に影響する主観的認識:精神障害を持つ人々の雇用継続能力には、主観的認識が大きな影響を与えていることが分かりました。これは、精神障害を持つ人々の主観的ニーズに基づく雇用支援システムの開発が重要であることを示しています(Baba, Tanimura, & Ishi, 2023).。
- 複合多疾患が雇用に与える影響:日本の高齢者の中で、複合多疾患は退職後の継続的な労働を妨げる重要な要因であることが示されました。これらの個人の健康ニーズに対処することで、彼らの労働寿命が延長される可能性があります(Kato, Kawachi, & Kondo, 2022)。
- 脳傷害後の雇用状態に関連する無気力、抑制解除、および精神疾患:脳損傷を持つ人々の雇用状態は、認知能力よりも無気力、抑制解除、および精神状態とより関連があることが示されました(Funayama et al., 2022)。
- 農業活動における障害者の能力と適性の評価の違い:全国的なアンケート調査により、農業活動において障害者の能力と適性が高く評価されていることが明らかになりました。これは、農業における包括的な雇用慣行の潜在的な可能性を示しています(Bessho, Sakamoto, Yamazaki, & Yokohari, 2022)。
- 知的障害者の保育業務への雇用に関するケーススタディ:知的障害を持つ人々を直接支援業務、主に保育業務に雇用することの可能性と、その設定における具体的な指導と問題解決の支援の重要性が示されました(Maebara, 2022).。
- 障害者の雇用支援のための3Dプリンターを使用したトレーニング教材の開発:3Dプリンターの操作ができるようになるトレーニング教材の開発に関する研究は、障害者が包括的な職場環境で雇用される新たな機会を示唆しています(Emoto & Soeda, 2022)。
- 雇用と総死亡率の関係:高齢者の中で、脆弱性があっても適度な雇用は総死亡率の低下と関連していることが分かり、高齢者の継続的な雇用が健康に良い影響をもたらすことが示されました(Fujiwara et al., 2022)。
これらの研究結果は、日本において、障害者の雇用に関しては、主観的な認識、健康状態、および対象者に合わせた支援が重要であることを示しています。農業や保育など、さまざまな職場環境での障害者の様々な能力と貢献の可能性が認識されつつあり、継続的な雇用が健康成果と関連していることが認識されています。
監修者の編集後記 -障害者雇用について-
障害者雇用には、何かとネガティブなイメージが付きまとっています。しかし、当記事を読んでいただければ、それらが偏見や誤解から来るものだと分かるでしょう。
雇用において、障害者を差別してはならないことはもちろんですが、よりその特性に合った環境を整備することが大切です。適切な環境を整備し、能力の発揮を促すことができれば、障害者雇用は企業にとって多くの恩恵をもたらします。当記事を参考に障害者雇用に関する理解を深め、多様な人材活用へとつなげてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。