ブラック企業とは?約半数が経験あり?特徴や企業の防止策を解説

この記事のポイント

  • ブラック企業とは、過剰な長時間労働や、休日出勤などを強制する従業員を大切にしない企業を指す言葉です。
  • ブラック企業は、どのような業界にも存在しますが、特定業種に多い傾向が見られ、ブラック企業自体にも共通の特徴が見られます。
  • ブラック企業とは逆に、福利厚生を充実させ、高い給与を支払うなど従業員を大切にするホワイト企業も存在します。

ブラック企業とは?

ブラック企業とは?約半数が経験あり?特徴や企業の防止策を解説

ブラック企業とは、一言で表せば従業員を大切にしない企業のことです。賃金が低かったり、残業や休日出勤が多かったりするような企業が該当するでしょう。

ブラック企業の定義

ブラック企業は、法的な定義のある言葉ではありません。しかし、一般的に労働条件が悪く、従業員を使い捨てるような企業を指して使われる言葉です。

少子高齢化が進展する日本において、労働力の確保は規模や業種を問わない企業共通の課題です。そのような状況下で、従業員を物のように扱い、使い捨てるブラック企業では人材を集めることもままならないでしょう。

ブラック企業が多いとされる業界

ブラック企業は、賃金や休日などの労働条件が悪い企業です。そのため、労働条件が悪いとされる業界は、ブラック企業も多くなります。

厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、産業別賃金では、「宿泊業、飲食サービス業」が259.5千円と最も低くなっており、「生活関連サービス業、娯楽業」が278.7千円でそれに続いています。また、その他サービス業も低い数値を示しており、「学術研究、専門・技術 サービス業」を除くサービス業は、全体として低い傾向が見られます。

「医療・福祉(298.0千円)」や「運輸業・郵便業(294.3千円)」などもサービス業ほどではありませんが、低い数字となっています。サービス業やこれらの業種は、賃金水準が低い業界であると言えるでしょう。

厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」における平均有給取得日数を見ても、「宿泊業、飲食サービス業」が6.6日で最も低い数字となっています。また、「医療・福祉(9.9日)」も低い数字を示しています。「運輸業・郵便業(10.4日)」は、調査計の10.3日を上回るものの、高い数字とは言えません。これらの業界は賃金だけでなく、休暇の面においても労働条件が悪く、ブラック企業の割合が多い業界と言えるでしょう。

業界を問わず企業規模が小さいほど取得日数が低くなる傾向が見られます。賃金においても同様の傾向が見られるため、ブラック企業は中小企業に多いと言えるでしょう。

参考:令和5年賃金構造基本統計調査の概況|厚生労働省
令和5年就労条件総合調査の概況|厚生労働省

ブラック企業と言われる特徴

ブラック企業に厳密な定義は存在しませんが、共通する特徴は見られます。特徴ごとに見ていきましょう。

長時間労働・過重労働

ブラック企業では、長時間労働や過重労働が日常化しています。違法な長時間残業はもちろん、法の定める範囲内の残業時間であっても、上限ぎりぎりを毎月続けるようであればブラック企業とされるでしょう。

有給が自由に取れない

有給は、取得理由や取得時季に制限はありません。そのため、企業は原則として従業員の有給取得を拒めません。しかし、ブラック企業では有給取得に制限を課し、自由に取得できないようにしています。

休業後の不利益な取り扱い

育児休業や介護休業は、家庭と職業生活の両立を図る重要な制度であり、休業を取得したことを理由に不利益な取り扱いをすることが禁止されています。しかし、ブラック企業では休業を取得した従業員を左遷したり、役職から外したりする場合があります。

給料が低い・最低賃金を下回っている

賃金は、最低賃金を下回らなければ自由に決定可能です。しかし、業務内容に対して不釣り合いな水準の賃金を支払うような企業は、ブラック企業の誹りを受けてしまうでしょう。最低賃金を下回るような場合は論外です。

残業代が出ない・サービス残業が多い

1日8時間、週40時間の法定労働時間を超過する労働には、法定の割増率による残業代を支払わなければなりません。法の基準を下回っていたり、サービス残業として支払わなかったりする企業は、ブラック企業と評価されても仕方ないでしょう。

やりがい搾取や精神論が多い

ブラック企業では、不当な長時間労働を強いたり、労働に対する正当な対価を支払わなかったりする「やりがい搾取」が横行しています。また、データに基づかない気合や根性といった精神論がまん延しているのも特徴です。

トップダウンの意思決定

トップダウンの体制は、スピーディな意思決定を可能とするメリットも存在します。しかし、トップダウンの意思決定は、どうしても現場の意見を無視したものになりがちで、従業員の不満も溜まりやすく、ブラック企業化にもつながります。

離職率・休職率が高い

ブラック企業では、離職率や休職率が高いのも特徴です。働きやすい環境を整備している企業であれば、従業員の企業に対するエンゲージメントも高まり、離職率は低くなるでしょう。しかし、ブラック企業では、そのようなことは望めないため、どうしても離職率が高まります。また、長時間労働により、心身の健康を害し、離職や休職に至るケースも珍しくありません。

ハラスメントが横行している

ブラック企業では、パワハラやセクハラなどのハラスメントが日常的に行われている場合もあります。ハラスメントの横行する職場は、働きやすい環境とはとても言えません。そのような職場では、従業員がブラック企業と判断するのもやむを得ないでしょう。

コンプライアンスに違反している

従業員の労働条件には、労働基準法をはじめとする法律による制限が課せられています。しかし、ブラック企業は、法で禁止されたサービス残業や休業後の不利益取り扱い、ハラスメントを行うのが特徴です。そのため、ブラック企業には、コンプライアンス違反という共通点があると言えるでしょう。

ブラック企業と言われないために企業ができること

ブラック企業の特徴を意識して、ブラック企業化を防ぐための対策を考えてみましょう。

コンプライアンス意識の向上

従業員の労働時間や賃金、休暇・休日などは、労働基準法をはじめとする法律により規制されています。そのため、法令を遵守すれば、自ずと労働条件も改善されブラック企業化を防ぐことが可能です。社内におけるコンプライアンス意識の向上に努めましょう。

業務の自動化・ITツールの導入

ブラック企業は、過剰な長時間残業や休日出勤が行われることが特徴です。そのため、労働時間の短縮ができれば、ブラック企業化を防ぐこともできます。労働時間短縮のためには、業務の自動化や効率化を図れるシステム、ITツールなどを導入するとよいでしょう。

労働時間の管理

2019年4月より、高度プロフェッショナル制度の対象者を除くすべての従業員の労働時間の客観的把握が義務付けられました。労働時間を正確に把握できれば、隠れた長時間労働を見逃すこともありません。労働時間の把握による適正な労働時間管理を心掛けることが大切です。

参考:客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました|厚生労働省

適切な給与と待遇

働きに対して適切な賃金が支払われていないようであれば、従業員からブラック企業と判断されてしまいます。業務の内容や職場における地位に相応しい賃金や待遇を用意しましょう。

働きやすい環境の整備

働きやすい環境を整備することは、ブラック企業とならないために重要です。従業員がその能力を十分に発揮できるような環境を整備すれば、ブラック企業化を防げるだけでなく、業務効率の向上も期待できます。ハラスメント防止の対策などを取りましょう。

教育と評価制度の整備

成果に対して適正な評価が与えられなければ、従業員のモチベーションも低下し、やりがいを搾取されていると感じてしまうでしょう。従業員が納得できる評価制度の確立が重要です。また、社内における教育体制を整えれば、従業員の能力も向上し、労働時間の短縮にもつながります。

休日と有給休暇の確保

企業は、1週間に1日、または4週間を通じて4日以上の法定休日を従業員に付与しなければなりません。また、年間で10日以上有給が付与される従業員であれば、5日以上の消化義務も発生します。適正な休日と有給の確保は、法律上の要請であり、守れないようであればブラック企業といわれても仕方がないと言えます。

コミュニケーションの促進

職場内におけるコミュニケーションを促進することで、ブラック企業化を防ぐことが可能です。従業員間のコミュニケーションが密になれば、社内の風通しもよくなり、職場の雰囲気も改善されます。コミュニケーションの促進は、働きやすい環境整備につながります。

ブラック企業の割合はどのぐらい?

Job総研が全国の20代から50代の社会人を対象に行った調査によると、実に52.8%もの方がブラック企業に勤めたことがあると回答しています。どのような企業をブラックと感じるかは個人差があるでしょうが、過半数超の結果はブラック企業の多さを物語るものだと言えそうです。

ブラックと感じた内容では、「長時間労働」がトップとなり、「ハラスメント」「根性論」「低賃金」などが、それに続いています。これらは、当記事で挙げた特徴とも一致しており、ブラック企業共通の特徴と言えそうです。ブラックな事象で転職した経験があると回答した割合は、47.8%となっており、いかにブラック企業が人材から敬遠されるか分かる結果となっています。

令和4年労働基準監督年報を見てみると、当記事でブラック企業が多いと紹介した飲食業や宿泊業、医療などの業界で、違反率が高くなっています。一方で、「電気・ガス・水道業」は、非常に違反率が低くなっています。賃金構造基本統計調査における産業別賃金でも410.2千円と最も高くなっており、ホワイト企業が多い業界と言えそうです。

違反状況を項目別に見ると、労働時間が最多となっており、労働条件の明示がそれに続いています。ブラック企業とならないためには、労働時間を削減し、適切に労働条件を明示することが必要だと言えるでしょう。長時間労働の是正は当然として、正しい労働条件を明示すれば、後のトラブルを防ぐことにもつながります。

参考:
Job総研 「2023年 働く環境の実態調査」を実施 | JobQ〔ジョブキュー
令和4年労働基準監督年報|厚生労働省
令和5年賃金構造基本統計調査の概況|厚生労働省

ホワイト企業の特徴

ホワイト企業は、ブラック企業と対になる存在です。そのため、ブラック企業とは真逆の特徴を持っています。

給料・賃金水準が高い

ホワイト企業は、賃金水準が高いことが多くなっています。賃金は生活に直結する労働条件であり、従業員にとって非常に重要です。賃金は、最も分かりやすい評価であるとも言え、賃金が高ければ従業員のモチベーションも高まるでしょう。

残業が少ない

長時間残業の多いブラック企業に対して、ホワイト企業では残業が少ない傾向が見られます。残業が少ないということは、業務が効率化され、適正な割り当てが行われている証です。従業員への負担も少ないものとなっているでしょう。

有給休暇取得率が高い

ホワイト企業では、法定の消化義務を上回る有給を取得できるのが通常です。有給を多く取得できれば、心身のリフレッシュをより図れるようになり、休暇後のパフォーマンスも向上するでしょう。

様々な働き方に配慮

働き方改革によって、多様な働き方が注目されています。ホワイト企業では、従業員のライフステージに合わせて、フレックスタイム制やテレワークなど多様な働き方を提供しています。ホワイト企業では、ワークライフバランスの実現が図りやすく、育児や介護による離職も防ぐことが可能です。

福利厚生の充実

ホワイト企業では、健康保険や厚生年金保険といった法定福利厚生の他に、企業独自の福利厚生制度を設けている場合も少なくありません。住宅手当や通勤手当といった一般的な法定外福利厚生の他にも、スポーツクラブの利用補助などユニークな制度を設けている企業も見られます。

公平で明確な評価制度

ホワイト企業における評価は、公平かつ明確な基準に基づいて行われます。また、評価を行う者に対する教育も行われており、評価に対する納得度を向上させています。公平で明確な評価制度のもとでは、自身の働きが正当に評価されるため、従業員の仕事への意欲も高まるでしょう。

離職率が低い

従業員にとって働きやすい環境を整えているホワイト企業では、従業員の企業に対するエンゲージメントも高く、離職率が低くなります。また、育児や介護休業を理由とする不利益な取り扱いも行われないため、育児や介護を原因とする離職を防ぐことも可能です。

もっと詳しく!ブラック企業に関するおすすめ論文と要約

ブラック企業に関するおすすめの論文を紹介します。それぞれの論文は、ブラック企業の問題を異なる視点から分析しており、ブラック企業の問題の多面性を理解するのに役立ちます。

  • 「ブラック企業の普遍性と多面性」
    この論文では、ブラック企業の雇用関係がどのように形成され、再生産されているかについて、「普遍性」と「多面性」の視点から分析しています。ブラック企業の労務管理上の特徴は、新規学卒者等の若者を大量に採用し、過重労働・違法労働によって使い潰し、次々と離職に追い込むことにあると述べています。
  • 「日本的雇用関係と「ブラック企業」」
    この論文では、日本的雇用関係とブラック企業の関連性について説明しています。ブラック企業の経営者が日本的経営の一部を都合良く選択的に取り込んだことにより、雇用劣化が生まれたと指摘しています。
  • 「ブラック的な働き方の背景とそれへの対応行動に関する研究」
    この論文では、ブラック企業での働き方の背景と、それに対する対応行動について調査しています。

監修者の編集後記-ブラック企業について-

少子高齢化が進む状況下において、人材の獲得は企業の悩みの種となっているでしょう。そのような状況で、「あそこはブラック企業だ」などと噂が立てば、人材獲得はより困難なものとなってしまいます。当記事で紹介したブラック企業化を防ぐ対策を実行し、人材獲得につなげるだけでなく、その先のホワイト企業を目指してください。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。