メンターとは?意味や人材育成で注目の理由、制度の導入方法を解説
この記事のポイント
- メンターとは、職場で言えば、経験、知識、技能の少ない新人・若手社員(メンティ)を一人前の職業人、社会人として育成するために指導や助言を行う人です。
- メンターは、対話をよってメンティの気づきや発見を誘発するとともに、ロールモデル通してメンティの成長を導きます。
- メンター制度を生かすには、メンターに任せきりにせず、運用ルールの策定、実施体制の整備、評価制度の構築など組織を通した制度設計が必要です。
目次
メンターとは?
メンター(mentor)の由来は、古代ギリシャの詩人ホメーロスの叙事詩『オデュッセイア』の登場人物メントール(Mentor)と言われています。メントルは、主人公オデュッセウスから息子であるテレマコス(Telemakhos)の教育を委ねられ、良き指導者としての役割を果たしたとされています。
ここから「指導者」「助言者」「相談相手」「支援者」といった役割を持つ育成者をメンターと呼ぶようになりました。メンターは、ある一定の期間を通して、年下の人に対して仕事や学業に関する助言や支援を与えてくれる経験豊富で信頼感のある人と言えるでしょう。
以下では、職場内におけるメンターについて説明します。
メンターとメンティの関係性
メンターの指導や支援を受ける人をメンティ(mentee)であり、プロテジェ(protégé)とも言われます。
メンターとなった先輩社員は、新人・若手社員(メンティ)との定期的な面談によって、仕事のノウハウやキャリア形成などメンティが抱えている疑問や不安を解消していきます。なお、メンターは、メンティとは異なる部署に所属しているのが一般的です。
メンターとチューターとの違い
チューター(tutor)とは、新人・若手社員に対し、担当する業務に直結する知識、スキル、技術、ビジネスマナーなどを教える役割です。
メンターは、仕事に対する取り組み姿勢、モチベーションの維持、キャリア形成の仕方など一人前の社会人としての成長を目的に指導や助言を行います。指導の期間は、メンターの方がチューターよりも長期です。
チューターは教え込むのが特徴ですが、メンターはメンティの気づきを引き出すための対話を繰り返します。
メンタリングとOJTとの違い
OJT(On the Job Training)とは、新人・若手社員を短期間で即戦力に育て上げるために、実際の仕事を通して行う職業訓練です。
一方、メンタリングは、仕事の現場を離れた場でメンターとメンティが対話をするので、メンティのいち社会人としての成長をサポートします。
メンタリングとコーチングとの違い
コーチングは、対象者への問いかけによって目的達成のための答えを引き出す手法です。あくまでも問いかけなので、基本的にアドバイスや経験のシェアはしません。また、対象者には答えにたどり着けるまでのスキル、経験、能力が備わっていることが必要です。
メンタリングでは、メンターはメンティにとってのロールモデルを通してアドバイスや経験を伝えるので、メンティとしてのスキルや経験は求められません。
メンタリングとカウンセリングとの違い
カウンセリングでは、専門知識を持ったカウンセラーが、相手の話に傾聴しながら、相手の抱えている悩み事などを緩和し解決するためのアドバイスをします。
それに対して、メンタリングは、メンターに専門的な知識を求めることはありません。
メンター制度が注目されている理由
新人・若手社員の成長過程では、先輩や上司の仕事ぶりを間近に見る、仕事上の経験談を聞くといった機会が、大きな影響になることがあります。他にも、先輩や上司との日々の会話から思わぬ気づきを得ることもあるでしょう。
しかし、近年では組織のフラット化、IT、DX(デジタルトランスフォーメーション)の普及など職場環境が大きく変化し、新人・若手社員が社会人として成長するのに必要なリソースが減少してきました。
メンター制度は、新人・若手社員が先輩社員と交流する機会を意図的に形成することで、その成長を支援する手法として注目されています。
メンター制度のメリット
メンター制度を導入することで次のような効果が得られます。
①新入社員・若手社員の離職防止
新人・若手社員の離職理由では、人間関係、仕事のやりがい、成長の見通しなどへの不満や不安が多く挙がっていると言われています。メンター制度はこうした不満や不安へのケアに有効です。
②自発的に行動し、成長できる人材の育成
メンターとの対話によって、気づきや発見を得ることを経験するうちに、メンティは自ら考え、行動する姿勢が身につきます。
③社員間のコミュニケーションの活性化
通常、メンティとは異なる部署の先輩がメンターを担当することで、部門を超えたネットワーク形成が期待されます。
④女性活躍の推進
職場の約4割を占める女性社員の活躍を推進することは、企業にとって大きなメリットです。女性が職場で活躍するチャンスを広げるために、メンター制度は大きな期待を寄せられています。新人・若手社員のケースとは異なる視点が必要ですが、メンタリングの基本的な方法論は同じです。なお、厚生労働省では『女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル』を公開しているので、ご参考に確認してみてはいかがでしょうか。
メンターに求められる役割
メンターは、メンティのキャリア形成を支援するとともに、社会人としての常識やルールを身につけるためのサポートを行っています。
メンターの役割
メンターがメンティに伝えるのは、仕事に向き合う姿勢、困難な課題に直面したときの対処の仕方、あるいは、仕事に役立つノウハウや業界の常識といったものです。こうした職業人としての基礎的な素養を新人・若手社員に伝えることがメンターの役割となっています。他にも、会社内や訪問先における振る舞いや作法、取引先との打合せなどで必要なビジネスマナーなどを指導するのもメンターの役割です。
メンターに求められるスキル
メンターは主観的な押しつけではなく、メンティの気づきや発見を引き出すことによって指導や助言を行います。このことから、次のようなスキルが必要となります。
- 相手の話を傾聴し、受け止める力
メンターは、相手の話を聴き取り、共感し、相手の考え方を受け止める度量と理解力が必要です。メンティとの信頼関係を形成するための基本スキルです。
- 相手の気持ちを引き出す質問力
メンティとの対話を前に進めるためには、相手の気持ちを引き出す質問力も必要です。また、相手が考えをまとめる助けになるような質問力も必要です。ただし、無理やり話を引き出すのではなく、相手の話を待つ姿勢が肝心です。
- 適切なコメントを発する能力
メンティの心を動かすコメントは対話を有意義なものにし、次の対話へとつながっていきます。そういうコメントの裏付けとなるのはメンターの洞察力、経験、業務能力、成長意欲、責任感です。
メンターの選定方法
メンター制度は、対話によって新人や若手社員を社会人として成長させることが目的です。メンターの人選に当たっては、コミュニケーション能力が高く、人材育成に前向きで、かつ仕事上である程度の成果を上げている人材が適切と言えるでしょう。もちろんメンタリングに関する理解も必要です。
メンタリングの基本は、あくまでもメンティの気づきや発見を導き出すことなので、それを忘れてはいけません。メンティに自分の考えを押しつけるような傾向や、成果志向が強すぎる人を選ぶのを避けた方が無難です。
また、メンターになった人は、その分だけ自分の業務時間が減るので、業務遂行能力とメンタル面の対応力を考慮した人選を心がけましょう。
メンター制度の導入の流れ
メンター制度を導入する場合には、導入の目的、メンティの改善テーマを明確にし、導入する必要性の有無、導入したときのメリット・デメリット、有効な解決策はないのかを検証することが重要です。
メンター制度推進体制の整備
メンタリングの開始を提案するのは誰か、中止を判断するのは誰か、メンターとメンティ間に問題が発生したときの相談窓口、問題がこじれた場合の裁定および調停機関などを整備し、制度運用の安心・安全を確保しましょう。
メンタリングの成果を高めるためには、メンターに対するメンタリングスキル研修だけでなく、メンティに対しメンタリングの機会を上手に活用する方法を伝える研修も効果的です。
運用ルールの制定
制度を円滑に運用するためには、運用ルールを明確にしておきましょう。メンターがメンティに対する過剰な踏み込みと、メンティの過剰な依存を防ぐためには、マッチング判断基準、両者の対話に関する守秘義務の厳守、メンタリングの実施期間と頻度などのガイドラインを設けておくことが必要です。
マッチングの成否、メンタリングプロセス上での課題発生は、双方の関係にしこりを残す可能性があるので、誰がどのように見守るかなどの体制を整えておきましょう。
メンター・メンティへの事前研修
メンタリングが成果を収めるためには、メンターとメンティそれぞれに対し必要な研修を行うことが効果的です。
そのためには、メンターには、メンターとしてのスキルとメンタリングへの取り組みといった技術研修が必要であり、メンティにはメンタリングのメリットと活用方法を伝えることが必要と言えるでしょう。
さらに、メンタリングの運用ルールも研修の場で再確認し、マッチングの失敗や問題発生時には直ちに申し出ができるよう基盤を整えることが大切です。
中間評価・最終評価・ケアシステム
メンタリングの期間は、1年から3年というのが一般的です。メンタリングが問題なく円滑に進んでいることを確認するために最終評価だけでなく中間評価も行いましょう。
なお、担当する業務以外にメンタリングも行っているメンターの負担になる場合もあるので、そのプロセスを反映する中間評価、最終評価を踏まえ、メンターに対するケアについて検討しましょう。業務の他にメンタリングに携わったという実績を評価することも必要です。
メンタリングの進め方:メンター面談シートテンプレート
メンタリングの進め方は、メンターとメンティに委ねられています。通常のメンタリングでは、以下の3つの段階が想定されています。
- メンターとメンティが互いに状況を探っている初期段階
- メンターとメンティの関係が深まってゆく深化段階
- メンター関係の終了段階
これら3つの段階で、メンターとメンティの関係がどのように推移しているか、またどのような会話が行われているのかを記録することは重要な情報です。面談シートをぜひ活用してください。
以下より、今すぐ実務で使用できる、テンプレートを無料でダウンロードいただけます。
シートへの記載に当たって注意すべき点は、メンティの個人情報です。不用意な個人情報の記載は、単なるメンタリングの失敗だけでなく、メンティの会社での生活や人生そのものにも影響を与えます。
メンター制度を成功させるポイント
メンター制度を効果的に機能させるためのポイントは次の通りです。
①メンタリングの目的を明確にする
→目的が明確であれば、メンターはメンティに対するアプローチ方法の選択に自信が持て、メンタリングの成果が上がります。
②メンターの業務負担について部署内でコンセンサスを形成する
→メンタリングに携わる分だけ、メンターの業務パフォーマンスは低下します。これをグループ内でカバーするための意識合わせを行いましょう。
③メンターに任せきりにしない
→メンタリングの実施もメンターの人選も組織全体の取り組みなので、この認識が乏しいとメンターはやる気をなくしてしまいます。メンタリングの成功はメンターの功績ですが、失敗は組織の責任です。
④メンターとメンティの関係性を慎重に見守り、中止の判断は迅速に行う
→両者が良好な関係を築けない場合、メンタリングが成果を上げることは期待できません。速やかに中止を決定し、両者のケアを実施する必要があります。
もっと詳しく!メンターに関するおすすめ論文と要約
メンタリングは働く人のキャリア 課題の対処資源となり得るのか メンターおよびメンティの性別による差異の検討
メンタリングが働く人のキャリア課題への対処資源となり得るかどうかを、メンターおよびメンティの性別による差異を検討した研究です。
大企業に正社員として勤務する男女2,028名を対象にWebによる質問紙の調査を行い、その結果からメンタリングの効果が明らかにされています。具体的には、男性メンターを持つ人は能力発揮満足感が高く、女性メンターを持つ人は仕事と生活のバランスが良いことが示されました。
この結果から、メンタリングは働く人のキャリア課題への対処資源となり得ることが示唆されています。
参考:「メンタリングは働く人のキャリア 課題の対処資源となり得るのか――メンターおよびメンティの性別による差異の検討」
組織における協力行動のマネジメント:仕事の設計がメンタリング行動と向社会的モチベーションに与える影響
この論文は、従業員の自発的なメンタリング行動に注目し、その背後にある心理的メカニズムを状況的要因から検討したものです。
多くの企業で導入されているメンター制度にはさまざまな問題点があることが明らかにされています。そこで、この論文では仕事の設計に着目し、メンタリング行動と従業員の向社会的なモチベーションの関係を分析しています。
この研究は、メンタリング行動の心理的仕組みを理解し、より効果的なメンター制度を設計するための重要な知見を提供しています。メンタリングの背景にある従業員の心理を明らかにすることで、組織における協力行動をうまくマネジメントできるようになるのです。
参考:「組織における協力行動のマネジメント:仕事の設計がメンタリング行動と向社会的モチベーションに与える影響」
監修者の編集後記 -メンターについて-
新人・若手社員が、職業人、社会人として成長する過程は、実務の修得とは異なります。身近な先輩や上司の仕事振りを間近で見ると、何らかの気づきや発見が生まれ、そこから自分なりのスタイルを形成していくのです。
職場環境の変化でそうした気づきや発見の機会が減りつつある中、新人・若手社員への助言者でありロールモデルであるメンターの活動はますます注目されていくでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。