モラハラの意味とは?裁判事例やデータを元に分かりやすく解説
この記事のポイント
- モラハラとは、モラル(道徳や倫理)に反する精神的なハラスメント(嫌がらせ)のことです。
- 家庭内で起こるモラハラと職場で起こるモラハラの具体例を確認して、何がモラハラに該当するかを理解しましょう。
- 従業員を守るとともに損害賠償請求などのリスクを減らすために、ハラスメント防止に向けた企業の取り組みが必要です。
目次
モラハラとはどんな意味?
モラルハラスメント(以下、モラハラ)とは、モラル(道徳や倫理)に反する精神的なハラスメント(嫌がらせ)のことです。ここでは、モラハラの特徴や具体的な内容について解説します。
モラハラの特徴
モラハラの主な特徴は、次の通りです。
- ハラスメントの内容は暴力ではなく言葉や態度である
- 職場や家庭、学校など、さまざまな場面で発生しうる
- 被害者は精神的なダメージを受ける
モラハラの特徴の1つは、陰口を言ったり無視したりするなど、言葉や態度で相手を傷つけることです。パワハラなど暴力を伴うハラスメントとは異なります。
また、出産前後に発生するマタハラや異性に対するセクハラなど特定の状況や場所で発生するハラスメントと異なり、職場や家庭、学校など、さまざまな場面で発生することも特徴です。
被害という面では、暴力ではなく言葉や態度によるハラスメントであるため、被害者は肉体的ダメージではなく精神的なダメージを受けることが特徴と言えます。ケースによっては、精神的ダメージによって自殺に追い込まれたり、うつ病を発症することもあります。
モラハラに該当する行為
モラハラに該当する主な行為は次の通りです。
- 暴言を吐く
- 嫌味を言ったり嫌がらせしたりする
- 相手をバカにしたり人格を否定したりする
- 無視をしたり仲間外れにしたりする
- 非難や叱責を繰り返す
暴言や嫌味、相手の人格を否定する発言など、どの程度のものがモラハラに該当するかを判断するのは困難です。しかし、これらの発言が恒常的に繰り返されていれば、モラハラに当たる可能性は高いでしょう。
仕事で失敗した人に対して注意や叱責が必要なケースもありますが、問題解決後も執拗に非難したり叱責したりすることを繰り返せばモラハラになります。また、加害者が軽い気持ちで行った発言でも、被害者が大きな精神的苦痛を受けることもあります。
モラハラに該当するかどうかの判断は、行為の内容や頻度、被害者が受けるダメージなどを考慮して行わなければなりません。
モラハラとパワハラの違い
モラハラとパワハラは似ている面もありますが、次の点で違います。
- パワハラは職場内でのハラスメント、モラハラは家庭や学校など場所を問わない
- パワハラは優越的な立場を利用したハラスメント、モラハラは立場を問わない
- パワハラは肉体的な暴力などを含むが、モラハラは精神的な嫌がらせのみ
パワハラは、職場内などの優越的な関係をもとに立場の強い人が弱い人に対して行う身体的または精神的なハラスメントです。
モラハラは、パワハラと異なり職場内だけでなく家庭や学校で発生することもあります。また加害者は、パワハラのように優越的な立場の人とは限りません。部下が上司に嫌がらせを行うなど、一般的に立場が弱いと思われる人がモラハラの加害者になることもあります。
ハラスメント行為については、パワハラが暴力などの身体的な行為を含むのに対して、モラハラは精神的な行為に限定されます。ただし、職場内の上司による嫌がらせなど、モラハラとパワハラの両方に該当するケースもあることに注意しましょう。
家庭内で起こるモラハラの例
家庭内のモラハラは主に夫婦間で発生し、加害者が夫のケースと妻のケースの両方があります。それぞれについて、モラハラに該当する具体的な発言や態度の例を紹介します。
モラハラ夫のセリフ・態度の例
妻に対するモラハラ夫の典型的なセリフや態度は、次の通りです。
- 妻のことをバカにする
- 非難・叱責する
- 妻を束縛する
夫が家計を支え妻が無収入(または収入が少ない)の場合、経済的に強い立場にある夫が「誰のお陰で生活できているんだ?」「稼ぎもないくせに」などと妻に暴言を吐くケースもあります。
また、家庭内のことや子供の教育は妻任せにして、問題が発生すると「家事も満足にできないのか」「子どもにどんな教育をしているんだ」と責任をすべて妻に押し付けるような発言も見られます。
上記以外にも、妻の外出や他人との付き合いを制限する行為なども、夫による典型的なモラハラといえるでしょう。
モラハラ妻のセリフ・態度の例
夫に対するモラハラ妻の典型的なセリフや態度は、次の通りです。
- 夫を無視する
- 収入に関して文句を言う
- 不機嫌・急に怒り出す
妻が夫に対して反抗的な態度を繰り返したり、ケースによっては子どもを味方にして夫を無視したりするなどの行為はモラハラに該当します。
また「稼ぎが少ない」「いつになったら昇格するの」など、夫の収入や出世に関して妻が不満を繰り返すケースもあります。友人やご近所の夫と比較することや、子どもに十分な教育を受けさせられないなどと指摘されると、肩身が狭い思いをする夫もいるでしょう。
モラハラ妻の中には、いつも不機嫌な態度を取ったり、些細なことに対して急に怒り出す人もいます。日頃のストレスを発散するために、恒常的に夫に八つ当たりするケースも見られます。
職場で起こるモラハラの例
職場内で起こるモラハラには、上司によるパワハラと、地位や立場に関係なく同僚や部下を含めた個人、または集団によるハラスメントの2種類です。それぞれについて、具体例を紹介します。
上司によるパワハラ
上司によるモラハラは、パワハラに該当することもあります。具体的には次のハラスメントなどが該当します。
- 怒鳴る・叱責を繰り返す
- 不当に冷遇する
- 私用をさせる
仕事で失敗した部下や業績が上がらない部下に対して、職場内で大声で長時間怒鳴ったり、執拗に叱責を繰り返したりすることによって部下を傷つける行為は、モラハラ(=パワハラ)に該当します。
また、部下に過重な仕事をさせる、仕事をさせない、仕事を適切に評価しないなどの行為も、上司の権限を利用したモラハラ(=パワハラ)です。
上司が気に入らない部下などに対し、業務外の仕事をさせたり私用を押し付けたりすることも、モラハラ(=パワハラ)の典型的な例といえます。
上下関係に関係なく発生するモラハラ
部下から上司に対するハラスメントや同僚同士のハラスメントなど、上下関係に関係なく発生する主なモラハラは次の通りです。
- 仲間はずれにする
- 仕事の妨害をする
- 悪口を言う
同僚や上司、部下などに対し「挨拶しても返事をしない」「業務上の発言を無視する」などによって、特定の人を孤立させるような行為はモラハラに該当します。
また、仕事で必要な連絡をしない、取引先に悪い噂を流すなど、仕事の邪魔をするような行為も同様です。さらに陰口や、相手をばかにするような発言・態度によって相手を傷つけるような行為も職場内で発生しています。
職場のハラスメント状況・実態のデータ
職場におけるハラスメントの発生状況と、ハラスメント対策を進める上での課題について解説します。
ハラスメントの発生状況
厚生労働省の「令和2年度厚生労働省委託事業職場のハラスメントに関する実態調査」によると、勤務先で過去3年間にハラスメントを受けた経験率は、ハラスメントの内容別に次の通りとなっています。
- パワハラ:31.4%
- セクハラ:10.2%
- 顧客等からの著しい迷惑行為:15.0%
また、過去5年間に就業中に妊娠・出産した女性と育休などを利用しようとした男性の中でハラスメントを受けた人の割合は次の通りです。
- マタハラ(女性):26.1%
- 育児休業等ハラスメント(男性):26.2%
ハラスメントの内容により被害を受けた人の割合は異なりますが、相当数の人が職場内でハラスメントの被害を受けていることが分かります。
参考:令和2年度厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査主要点|厚生労働省
ハラスメントの予防・解決のための取り組みを進める上での課題
2020年6月1日、職場におけるハラスメント防止のために法改正が行われました。これにより企業はハラスメント防止への取り組みを強化していますが、予防・解決にはさまざまな課題もあります。
前述のハラスメントに関する実態調査で、企業が回答した主な課題は次の通りです。
- ハラスメントかどうかの判断が難しい(65.5%)
- 発生状況を把握することが困難(31.8%)
- ハラスメントに対応する際のプライバシーの確保が難しい(23.5%)
- 管理職の意識が低い(23.0%)
- 一般社員等の意識が低い(20.2%)
- 適正な処罰・対処の目安が分からない(19.5%)
- 社内に対応するための適切な人材がいない・不足している(18.6%)
ハラスメント防止への取り組みを始めたばかりの企業も多く、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」「発生状況を把握することが困難」など、ハラスメントに対する知識不足やハラスメント対策のノウハウ不足が課題となっています。
また、管理職と一般社員両方の意識の低さも課題です。「社内に対応するための適切な人材がいない・不足している」という回答も20%近くあり、ハラスメントに対応する体制づくりが課題となるケースもあります。
参考:令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 主要点|厚生労働省
職場におけるモラハラに関する裁判事例
モラハラ行為は人権侵害にあたることもあり、加害者は損害賠償責任を問われることもあります。職場におけるモラハラについて、損害賠償請求が認められた裁判事例などを紹介します。
会社の責任も認められた裁判事例
国際信販事件(東京地裁平14.7.9判決)について、事件の概要と判決のポイントを解説します。
本事件は、会社の業務縮小に伴い従業員を辞めさせるために、会社が次の嫌がらせ行為を行った上に、整理解雇したというものです。
- 上司と男女関係にあるという噂が広まり会社に改善を求めたが対応しなかった
- 過重労働を強いられた
- 次の業務では簡単な作業以外には仕事が与えられなかった
上記の嫌がらせにより、従業員は精神的ストレスで体調を崩した上に解雇されました。解雇の無効と嫌がらせによる精神的苦痛に対する損害賠償などを求め、従業員は訴訟を起こしたというものです。
判決では、社長や役員の指示または了解のもとに嫌がらせが行われていたことが認められ、社長や会社が連帯して損害賠償責任を負うことになりました。
参考:【第38回】 「一連の行為が、労働者を孤立させ退職させるための”嫌がらせ”と判断され、代表取締役個人及び会社の責任が認められた事案」 ― 国際信販事件|あかるい職場応援団
部下からの嫌がらせの裁判事例
渋谷労基署長事件(東京地判 平成21.5.20判決)について、事件の概要と判決のポイントを解説します。
本事件は、部下が勤務先の親会社に不当な中傷を行ったことにより、会社から長時間の事情聴取を受けたことや、左遷されたことによりうつ病を発症し自殺したものです。渋谷労働基準監督署に労災申請したが不支給となり、遺族が不支給決定処分の取り消しを求めて提訴しました。
判決では、会社からの長時間の事情聴取や左遷、部下とのトラブル(中傷)や親会社と勤務先との関係悪化などが業務による心理的負荷になったことと、心理的負荷によってうつ病を発症したことを認め、労災の不支給決定処分が取り消されました。
労災認定を争う判例ですが、被害者に対する部下の中傷や会社の不当な対応が精神的ダメージとなって自殺に至ったことから、職場内のモラハラの認定が判決の焦点になったと言えるでしょう。
参考:【第4回】「部下の嫌がらせ・会社調査とパワハラ」 ― 渋谷労基署長事件|あかるい職場応援団
マネーフォワードグループのハラスメント防止に関する取り組み事例
ハラスメント防止に向けた企業の取り組み事例として、マネーフォワードグループのハラスメント防止対策を紹介します。
ハラスメント相談・通報窓口、外部通報窓口の設置
マネーフォワードグループでは「グループ内部通報規程」を制定し、ハラスメント行為やそのおそれのある行為について通報できる窓口を設置しています。通報窓口には、社内に設置した窓口と社外の人が相談を受ける窓口があります。
- 社内窓口:ハラスメント相談窓口とコンプライアンス相談窓口
- 外部窓口:常勤社外監査役と外部弁護士
通報窓口は現職の正社員だけでなく、退職後1年以内の人やパート職員、派遣社員、インターンなども利用できます。
また、窓口利用者を保護するため、「秘密の厳守」と「通報を理由とした不利益取扱いの禁止」を徹底するための体制づくりにも取り組んでいます。
コンプライアンス教育の実施
マネーフォワードグループでは、従業員の「コンプライアンスに関する知識習得」と「コンプライアンス意識向上」を目的に、次の研修などを通してコンプライアンス教育を実施しています。
- 入社時:「マネーフォワードグループ コンプライアンス・マニュアル」やハラスメント防止に関する研修
- 年1回:全役職員に対して入社時研修同様のe-ラーニング
上記以外にも、各種コンプライアンス研修(オンライン研修、オンデマンド研修)を随時実施してコンプライアンス意識の向上などに取り組んでいます。
MFグループサーベイの実施
MF(マネーフォワード)グループサーベイとは、組織の実態を客観的に把握するために年に2回実施する満足度調査(従業員へのアンケート調査)です。同調査ではコンプライアンスに関する設問を設け、回答を分析して改善を図っています。
また、ハラスメントに関する設問を設けることによって、内部通報などで発覚していないコンプライアンス上の問題点の把握とコンプライアンスに関する意識向上に努めています。
もっと詳しく!モラハラに関するおすすめ論文と要約
モラハラについてもっと詳しく知りたいという方に、2つの論文を紹介します。
配偶者からの暴力に関する研究の動向|小林敦子
小林敦子氏によるこの研究は、暴力の定義や言葉の使い方、法的背景、社会的認識、そして暴力の影響について広範にわたって論じています。
伝統的に夫婦間の暴力は「夫婦喧嘩」として見過ごされがちでしたが、実際には一方的な暴力行為が含まれることが多いです。医療機関などでも、夫からの暴力に対する理解が不足している例が挙げられています。
暴力に関する研究は、精神医学、看護学、社会福祉学、社会学、心理学、法学、犯罪学など多岐にわたります。最近の研究では、夫婦間だけでなく、交際中のカップル間の暴力(デートDV)にも注目が集まっています。
出典:配偶者からの暴力に関する研究の動向|日本大学大学院 総合社会情報研究科
職場における看護師のモラルハラスメントの体験|松倉理江
看護師が職場で経験するモラルハラスメントに関する研究です。モラルハラスメントは、精神的な嫌がらせや虐待として定義され、職場での人権侵害の一形態です。この研究は、看護師がどのようにモラルハラスメントを経験し、それにどのように対処しているかを明らかにすることを目的としています。
研究の方法としては、半構造化面接を用いた質的帰納的研究が行われました。対象者はモラルハラスメントの経験がある看護師で、調査期間は2007年6月から10月の5か月間でした。データ収集は面接によって行われ、その内容は録音され、逐語録として記録されました。データ分析では、逐語録からコード化し、カテゴリー分類を行いました。
研究結果として、モラルハラスメントは主に上司や同僚からの言葉や態度によって行われていることが明らかになりました。被害を受けた看護師は精神的ダメージを受け、仕事への意欲の喪失や退職に至ることもあることが示されました。また、モラルハラスメントからの回復過程や、看護師教育への影響についても考察されています。
この研究は、看護師の職場内でのモラルハラスメントの実態を明らかにし、その予防と対処に関する重要な示唆を提供しています。また、看護師教育において人間性を高めることの重要性や、職場内での相談窓口の確立の必要性も指摘されています。
出典:職場における看護師のモラルハラスメントの体験~看護師へのインタビューを通して~|独立行政法人国立病院機構 旭川医療センター
監修者の編集後記 -モラハラについて-
モラハラとは、モラルに反する精神的なハラスメントです。言葉や態度によって相手に精神的なダメージを与える行為で、職場や家庭、学校などでも起こりうるものです。
職場内のモラハラは企業に悪影響(ストレスによる生産性の低下、職場環境の悪化による人材流出など)を及ぼすため、企業はモラハラ防止に真剣に取り組む必要があります。
モラハラ防止対策はさまざまですが、まずは研修や責任者の選任などでモラハラに対する意識を高めることと、相談窓口を設置するなど実態を早期発見する取り組みから始めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。