給与所得者の基礎控除申告書を簡単に解説!書き方・記入例
この記事のポイント
- 給与所得者の基礎控除申告書とは、年末調整において、所得控除の1つである基礎控除額を申告するための書類です。
- 基礎控除額は、給与年収から給与所得控除を差し引くことで算出できます。
- 給与所得者の基礎控除申告書は、基本的に雇用形態にかかわらず、全ての従業員が提出する必要があります。
目次
給与所得者の基礎控除申告書とは
企業では毎年11月頃から年末調整のための準備が始まります。年末調整にあたり、従業員からの回収が必要な書類の1つが、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書」という書類です。
この書類は「基礎控除申告書」と略して呼ばれることが多く、給与所得者の次年度の税額算定において重要な役割を担う書類であるため、ほぼ全従業員の提出が必要となります。
そもそも基礎控除とは
基礎控除とは、課税所得額を算定する際に給与所得から差し引くことができる仕組みのことを指します。
基礎控除は、年収額に応じて定められた基礎控除額を給与所得から差し引くことで、課税所得と税額を抑え、納税者やその家族の生活を守るために必要な最低限の収入を確保することを目的としています。
会社員の税額が決まるまでには、以下のような流れで控除が発生します。
基礎控除は上記流れのうち、「所得控除」にあたり、基礎控除の他にも配偶者控除や扶養控除、生命保険控除などの15種類が含まれ、それらが給与所得から差し引かれて、課税所得が決定します。
2023年12月時点で、年間所得が2,400万円以下の人は基礎控除額が一人当たり48万円、2,400~2,500万円の間は控除額が変動し、年間所得が2,500万円を超えると基礎控除額は0円となります。
つまり個人の家庭状況や生活に関係なく、年間所得が2,500万円以下であれば無条件に、全ての納税者に適用されるのが「基礎控除」なのです。
基礎控除申告書を提出しないとどうなる?
基礎控除申告書が未提出の場合、申告者本人が基礎控除を受けることができなくなります。
つまり、基礎控除申告書を提出しない場合、提出した場合に比べて課税所得が48万円多くなり、その分多くの税金を納めることになるのです。
企業は年末調整を行うことが義務付けられているものの、未提出者がいたからといって企業側に罰則が科されたり、何か不利益が生まれたりすることはありません。
従業員の中で複数の企業から給与をもらったり、副業や不動産所得などの給与以外の所得を得たりしている方がいる場合、その従業員個人が確定申告を行う必要があるため、基礎控除申告書の提出は不要とする企業もあります。
給与所得者の基礎控除申告書の「収入金額」とは
「給与所得者の基礎控除申告書」に記入箇所がある「収入金額」は、当年の1月1日から12月31日までの1年間で支払われた給料収入の総額を指します。
給与収入には、源泉徴収や社会保険料などを天引きされる「前」の給与や賞与が含まれ、基本給の他に残業手当や住宅手当、職務手当などの各種手当も対象となります。
収入金額が分からない場合はどうしたらいい?
結論から言うと、年末調整の時点では、収入金額の欄に記入する金額は「見積額」で問題ありません。
理由としては、年末調整の書類を作成している段階では、まだ12月分の給料(場合によっては11月分も)が支払われていないため、正確な1年間の給与収入額を記入することはできないためです。
大幅なベースアップや昇給、臨時賞与などのイレギュラーな収入が発生していない場合であれば、前年度の源泉徴収票の「支払金額」に記載されている額を参考に概算で年収額を記入すると良いでしょう。または、当年の1月~10月までの給与額をベースに12カ月分を算出しても問題ありません。
給与所得者の基礎控除申告書の書き方・記入例
「給与所得者の基本控除申告書」に記入が必要な箇所は、以下のように4つのパートに分けることができます。
出典:令和5年分基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書|国税庁
ここからは、A~Dの順に各項目の書き方を解説します。
(A)基本情報の書き方・記入例
申告書上部にある基本情報欄(A)には、以下の1~6にそれぞれ記入していきます。
1.所轄税務署長
給与支払者の所在地の所轄税務署を記入します。
2.給与支払者の名称(氏名)、3.給与支払者の法人番号、4.給与支払者の所在地(住所)
給与支払者の会社名・法人番号・所在地を記入します。
5.あなたの氏名、6.あなたの住所
給与所得者本人の氏名と住所を記入します。
基本情報の記入例が、以下の通りです。
(B)給与所得者の基礎控除申告書の書き方・記入例
申告書の左側にある「給与所得者の基礎控除申告」(B)には、以下の1~6にそれぞれ記入していきます。
1.収入金額
当年度の1月から12月までの給与収入の見積額を記入します。ただし、以下の非課税となる手当に関しては給与収入から差し引いて計算します。
- 1カ月あたり15万円以下の通勤手当
- 転勤や出張に伴う旅費
- 一回あたり4,000円以下の宿直・日直手当
- 社会通念上相当とされる額の慶弔見舞金
2.所得金額
1の収入金額から給与所得控除を差し引いた金額を記入します。給与所得控除額は給与収入の金額によって変動するため、以下の表を参考に算出します。
出典:令和5年分基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書|国税庁
なお、詳細については後ほど解説しますが、「所得金額調整控除」を申告する場合は、さらに控除額を差し引いた額が給与所得となります。
3.給与所得以外の所得の合計額
副業で得た所得(雑所得)や前職の退職所得、不動産所得など、給与所得以外の所得がある場合は合算額を記入します。企業の年末調整では、給与所得以外で従業員が得た所得に関しては、個人で確定申告してもらうことが一般的であるため、その場合はこの欄は無記入となります。
4.あなたの本年中の合計所得金額の見積額
2と3で算出した額の合計を記入します。
5.区分
「控除額の計算」という左下の表に従い、4に記入した所得見積額に該当する区分を探しチェックマークを入れ、「区分Ⅰ(5)」にA~Cのいずれかの文字を記入します。尚、所得見積額が1,000万円を超える場合は、チェックマークのみ必要で、「区分Ⅰ」への記入は不要です。
6.基礎控除の額
5で確認した区分に従い、基礎控除額を記入します。
給与収入が400万円の場合の記入例が、以下の通りです。
(C)給与所得者の配偶者控除等申請書の書き方・記入例
申告書の右側にある「給与取得者の配偶者控除等申告書」(C)は、所得額が1,000万円以下の給与所得者の配偶者が一定条件を満たしている場合において、記入が必要となります。
配偶者控除の対象となるためには、配偶者は以下の「すべての」条件に該当しなければなりません。
- 民法規定上の配偶者である(内縁関係は対象外)
- 給与所得者本人と同一生計にあること
- 年間所得額が48万円以下であること
ただし、給与所得者の年間所得が1,000万円以下でありながら、配偶者の年間所得額が48万円超133万円以下の場合は、「配偶者特別控除」の対象となり、年末調整にて申告することができます。
配偶者控除または配偶者特別控除が適用となる場合、以下の4箇所に記入します。
1.配偶者の基本情報
配偶者の氏名・マイナンバー・生年月日・住所を記入し、配偶者が1年以上国外に住んでいる場合は、「非居住者である配偶者」の欄に丸印(○)を記入します。加えて、国外に居住している配偶者への1年間の総金額を「生計を一にする事実」の欄に記入します。
2.配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算
給与所得者と同様の方法で記入します。
3.区分Ⅱ
2で算出した所得の見積額をもとに、判定1~4に該当する箇所にチェックマークを入れ、区分Ⅱの欄に該当する1~4の数字を記入します。
4.配偶者控除の額 または 配偶者特別控除の額
4の左側「控除額の計算」表を参考に、区分Ⅱで記入した1~4の判定と、「給与所得者の基礎控除申告書」の区分Ⅰで記入したA~Cの判定が交差する箇所を確認します。次に、交差箇所に記載されている金額を、区分Ⅱで記入した数字が1または2の場合は「配偶者控除の額」の欄に、3または4の場合は「配偶者特別控除の額」の欄に記入します。
区分Ⅰが「A」の給与所得者の配偶者の記入例が、以下の通りです。
(D)所得金額調整控除申告書の書き方・記入例
所得金額調整控除は、以下の2つの条件のいずれかを満たす場合に適用となります。
1.給与所得者が子供や特別障害者を扶養または配偶者としている場合
「子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除」が適用
2.給与所得者が給与収入のほかに年金収入を得ている場合
「給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除」が適用
ここで注意するべき点は、年末調整において申告できるのは、「2.子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除」のみです。
年金収入がある1に該当する場合は、年末調整をしたうえで各自確定申告をする必要があります。
給与所得者の基礎控除申告書はパートも書く?
年末調整は、所得税の税額算定を目的として行われるため、会社から給与をもらっている方であれば雇用形態に関係なく、基本的には給与所得者の基礎控除申告書の提出が必要です。
ただし、年収を103万円以下に抑えて扶養内で働いているパート社員の場合、1年を通じて源泉徴収が1円も発生しておらず、年収も103万円を超えていなければ、基礎控除申告書を提出しても追徴も還付も生じないため、提出は不要と言えます。
一方で、年収によっては扶養内であっても「所得税は非課税・住民税は課税」となっていたり、保険料控除によって節税効果が生まれたりと、働き方や年収・家計状況が多様化している分、パート社員の年末調整にも様々なパターンが生じます。
中には別途確定申告が必要となる場合もあるため、個々のパート社員の事情ごとに対応していては、担当者に大きな負担がかかってしまいます。
そのため、企業によっては、年収にかかわらず、全員一律で基礎控除申告書の提出を義務付け、そこから個々の判断で保険料控除や住宅ローン控除を申告してもらうというルールを設定しているケースも珍しくはありません。
給与所得者の基礎控除申告書の独身者の書き方は?
独身者の場合、給与所得者の基礎控除申告書の以下の赤枠部分に記入することが必要です。
独身者であっても、給与所得者本人の基礎控除に関する申告は、これまで解説してきた方法で記入することに変わりはありません。
配偶者控除や配偶者特別控除の申告は不要ですが、所得金額調整控除に関しては該当する場合があります。
例えば、独身であっても家族や親族を扶養に入れている場合、被扶養者の年齢や状態によっては、所得金額調整控除申告書の方にも記入し、基礎控除の給与所得額にも反映させる必要が出てくるため、注意しましょう。
監修者の編集後記-給与所得者の基礎控除申告書について-
「給与所得者の基礎控除申告書」は、課税所得を決定するうえで重要な申告なので、記入箇所と確認すべきポイントをしっかり理解することが大切です。
特に、パート社員が「年収の壁」を気にしながら働いている職場では、配偶者控除に関する質問も人事担当者には多く寄せられるかもしれません。
今回のテーマは基礎控除でしたが、基礎控除申告の書き方だけでなく、配偶者控除の方にも関心を持つことでよりスムーズで効率的な年末調整を進められるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。