アンガーマネジメントとは?簡単に解説!やり方・診断方法
この記事のポイント
- アンガーマネジメントとは、怒りの感情を理解し、うまく付き合うために必要な方法のことです。
- 怒りの背景にある本来の感情に気づき、人間関係に影響を及ぼさないよう、適切に表現できることを目指すのがアンガーマネジメントです。
- 社内研修に取り入れたいと考える人も多く、会社の組織マネジメントの観点からも注目されています。
目次
アンガーマネジメントを簡単に説明!
アンガーマネジメントとは、怒りとうまく付き合うために行う心のトレーニングです。怒りの正体を認識して、必要以上に振り回されなくなる状態を目指します。また、怒りを無理にコントロールするのではなく、うまく伝えられるように取り組みます。
怒りと上手に向き合うためには、その正体について知っておくと、適切な対処を取れるようになるでしょう。怒りの正体や攻撃的な言動の原因となる破壊衝動について解説します。
怒りの正体とは?
怒りの正体は「不安」「悲しさ」「残念さ」などの本来の感情です。アンガーマネジメントでは、本来の感情を一次感情と呼びます。一次感情が蓄積され、限界を超えてしまったときに怒りとして表現されます。
例えば、「部下のミスに対して過剰に怒ってしまった」というケースを考えてみましょう。「前も教えたのに」という悲しさや、「これからもミスを繰り返すかもしれない」といった不安があるかもしれません。
アンガーマネジメントでは、怒りの背景にある一次感情を理解し、適切に表現できるよう取り組みます。
破壊衝動とは?
破壊衝動とは、感情のコントロールがきかず、突発的に物を破壊したり攻撃的な行動を取ったりする衝動をいいます。理性が働かないほどの怒りが止まらず、周囲とのトラブルに発展するような厄介な感情といえるでしょう。
ただ、動物行動学者のローレンツによると、破壊衝動のような攻撃性は、動物にとって生き残るために必要な本能とされています。人間にとっても、自分を守るために必要な感情だといえます。
一方で、怒りに任せてばかりでは、周囲との関係を築けません。アンガーマネジメントを学ぶことで、破壊衝動ではなく適切な形で表現できるように取り組む必要があるのです。
アンガーマネジメントの診断方法
怒りといっても、全員が同じ物事に怒るのではなく、怒り方は十人十色だといえます。アンガーマネジメントでは、自分がどのようなポイントに怒りやすいかを明らかにし、怒りの傾向を認識することを重視します。
怒りのタイプとして、日本アンガーマネジメント協会から6つのタイプが紹介されています。どのタイプに近いか考えてみましょう。
公明正大タイプ:自分なりの正義から外れると怒る
自分なりの正義や考えを強く持ち、それを貫こうとする人です。ルールや道徳を重視するあまり、間違っていると思うことに対して怒りを抱く傾向があります。「電車で見かけるマナーの悪い人」のような、自分とは直接的に関係のない対象にも怒りを向けがちです。
博学多才タイプ:周りに完璧を求めて寛容になれない
「好き嫌い」「良い悪い」「敵か味方か」などと、さまざまな物事を白か黒かで判断しがちな人です。完璧を求めるゆえに、優柔不断な人や仕事が遅い人に対して寛容になれず、怒りを抱きやすいでしょう。
威風堂々タイプ:自信家で冷たくされると怒りを抱く
自信にあふれたリーダー的な性質をもつ人です。行動力があり面倒見が良い一方で、プライドが高いため、冷たく扱われると怒りやすい傾向があります。また、他人からの評価を気にしており、少しでも大切に扱ってほしいという気持ちが強いでしょう。
外柔内剛タイプ:自分の基準と折り合いをつけづらい
一見柔らかな雰囲気がある一方で、内面では自分なりの信念が確立されている人です。穏やかな様子から頼られやすいのですが、自分の考えとの折り合いがつかず、不満を抱えることがあります。また、根拠のない思い込みから他人に怒りを向けやすいことも特徴です。
用心堅固タイプ:他人に配慮して怒りを抑える
冷静に物事を捉え、人を見る目に長けていますが、自信がなく周囲の評価に過敏なため、怒りを抱いても我慢するタイプです。そのため、表面上は社交的に見られますが、内面ではいら立ちを感じることが多いでしょう。
天真爛漫タイプ:自分の主張を強引に通そうとする
自分の主張を思った通りに表現したいタイプで、発表や議論など話すことが得意な人です。しかし、主張が通らない場合には強い不満を抱きやすく、反対する人に対して強気に説得しようとする傾向があります。
アンガーマネジメントのやり方
怒りを正しく認識し、対処していくためにはどうすればよいのでしょうか。アンガーマネジメントで用いられる5つのやり方を紹介します。
6秒ルール:間を置くことで瞬間的な怒りをしずめる
瞬間的に生じる怒りの感情は、6秒我慢することで理性が働くようになるといわれています。ついカッとなって、攻撃的な言葉を発してしまいそうなときは、6秒間じっと何もせずにやり過ごすことが効果的です。
しかし、6秒間何もせずに待つことが難しい場合もあります。そのときは、「大丈夫、大丈夫」と自分を励ます言葉をかけたり、深呼吸をしたり、水を飲んだりして間を置くとよいでしょう。
グラウンディング:「いま、ここ」に集中する
グラウンディングとは、いま目の前にあるものに意識を集中させることで怒りをしずめるやり方です。
例えば、職場で腹の立つことがあったときには、机に置いてあるペンや窓の外の景色に意識を向けます。「ペンがどんな形をしているか」「窓から見える木はどんな色をしているか」などと、見えているものを丁寧に観察するとよいでしょう。
怒りが高まると、自分の頭の中で展開する思考や過去の記憶に意識が向きがちになります。そうではなく、「いま、ここ」の瞬間で起こっていることに意識を向けると、怒りに振り回されにくくなるのです。
アンガーログ:怒りを記録して分析する
自分がどのような物事に怒りやすいかを把握するためには、アンガーログという怒りの記録が役立ちます。怒りを感じた出来事をその場で記録し、怒りの強さを100点満点で数値化します。記録することで、怒りと距離を取って、客観的に分析できるようになるのです。
記録する方法は、スマートフォンのメモ機能や日記アプリなど自分に合ったやり方でよいでしょう。記録したら読み返したくなるかもしれませんが、直後は怒りがよみがえるかもしれません。5〜7日ほど経過して落ち着いてから読むようにしましょう。
「べき」の整理:譲れないところは何かを知る
「○○するべきだ」という自分なりの「べき」を整理することも、アンガーマネジメントの1つです。
怒りの背景には、「○○するべきだ」「△△するべきでない」といった信念が影響していることがあります。例えば、「上司には意見するべきでない」という信念を持っていると、部下から率直な意見を伝えられると怒りを感じやすいでしょう。
ルールを守るためには、「べき」を大切にすることが重要ですが、そればかりでは周囲との関係に支障をきたす可能性があります。アンガーマネジメントでは、本当に譲れないところと譲れるところを整理しながら、譲れる範囲を広げることを目指します。
Iメッセージ:怒らず自分の主張を伝える
Iメッセージとは、「私」を主語にして感情を伝えるコミュニケーション技法です。
怒りを表現するときには、「早くしてよ」「何度言えば分かるんだ」と相手に向けて表現しがちです。相手は強く責められているような気持ちになり、相手の反発を招くかもしれません。
自分を主語にして表現すると、マイルドな伝え方になります。「早くしてよ」は「(私は)早くしてほしいと思っている」「(私は)時間に間に合うか心配」と伝えると、トラブルになりにくいでしょう。
怒りの背景にある一次感情に気づき、それをIメッセージで伝えると、マイルドな形で怒りを伝えられます。
アンガーマネジメントファシリテーターとは?
アンガーマネジメントファシリテーターとは、日本アンガーマネジメント協会が認定する資格のことです。アンガーマネジメントに関する研修やトレーニングを通じて、怒りとの付き合い方を教育する役割を担います。
2日間の養成講座を受講したのち、試験に合格することが資格取得の条件です。また、受講者の40%弱は会社員で、社内研修として取り入れたいと考える人も多いようです。組織マネジメントの観点からもアンガーマネジメントは注目されているといえるでしょう。
もっと詳しく!アンガーマネジメントに関するおすすめ論文と要約
アンガーマネジメントに関する論文を要約して紹介します。
感情制御方略とマインドフルネスがアンガーマネジメントに及ぼす影響
研究では、アンガーマネジメントの効果的な方法として感情制御方略(再評価法と抑制法)とマインドフルネスを検討しています。
研究の目的は、日常生活での怒りを適切に処理することがストレス軽減につながるという点に焦点を当てています。アンガーマネジメントは怒りや攻撃的行動の自己制御能力を促進するための構造化介入と定義されています。
研究では、感情制御方略の中で特に再評価法(状況や刺激に対する解釈を変えることで感情を制御する方法)と抑制法(進行中の感情表出行動を抑える方法)が注目されています。また、マインドフルネスは、現在の瞬間の感覚や感情に注意を払い、それらを無評価で受け止めることによって、アンガーマネジメントに役立つと考えられています。
研究方法として、アメリカ・ニューヨーク州の私立大学の学生145名を対象に、マインドフルネス、感情制御方略、アンガーマネジメントに関する質問紙を使用しました。
結果として、感情制御方略とマインドフルネスの交互作用によるアンガーマネジメントへの影響は示されませんでした。しかし、再評価法と抑制法を共に用いる者(感情調整群)は、再評価法を用いない者(非再評価群)や抑制法を用いない者(非抑制群)よりもアンガーマネジメントをより適切に用いることが示されました。
今後の研究では、怒りのカテゴリー別の適切な感情制御方略や、抑制法を選ばざるを得ないシチュエーションでのアンガーマネジメントについての検討が必要とされています。
出典:感情制御方略とマインドフルネスがアンガーマネジメントに及ぼす影響|J-STAGE
刑事施設におけるアンガーマネージメント
奈良少年刑務所では、CBTに基づく暴力回避教育プログラム(Aプログラム)と、知能指数(IQ)が85以下の受刑者を対象としたアンガーマネージメントに基づく暴力回避教育プログラム(Bプログラム)が導入されています。これらのプログラムは、特に境界知能を持つ受刑者に焦点を当て、再犯防止に貢献しています。
Potter-Efron(2005)によると、アンガーマネージメントは不必要な怒りの増大や表現を防ぎ、適切な怒りの表現を促進し、対立解消スキルを学ぶことを目的としています。本田(2007、2010)はアンガーを「怒り」だけでなく、悲しみや悔しさ、苛立ち、焦燥感、嫉妬など様々な感情が混在する状態と定義しています。
結論として、再犯防止対策の継続性や、矯正職員の専門性向上が課題として挙げられています。
監修者の編集後記-アンガーマネジメントについて-
アンガーマネジメントは、怒りの背景に存在する本来の感情を理解し、適切な形で表現するために有効です。そして、怒りを無理に消そうとするのではなく、最適な付き合い方を探っていくことが目的の1つです。
組織の中に怒りに振り回される人が増えると、人間関係が悪化する可能性があります。仕事においては、業務効率やモチベーションにも影響する問題です。本記事で紹介したやり方を参考に、周囲との関わり方に役立ててください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。