インクルージョンとは?職場でのメリットや事例、効果的な推進方法10選

この記事のポイント

  • ビジネスにおけるインクルージョンとは、多様な人材がお互いに尊重され、その能力を発揮して活躍できる状況をつくることです。
  • インクルージョンの推進により、従業員のモチベーションアップやイノベーションの実現などが期待できます。
  • インクルージョンの推進方法や成功事例を学び、自社の取り組みに活かしましょう。

インクルージョンとは?

インクルージョン

インクルージョン(inclusion)を日本語に直訳すると、「包括」「包含」などです。ビジネスにおいては、多様な人材がお互いに尊重されその能力を発揮して活躍できる状況を意味します。

インクルージョンについて理解するために、インクルージョンが普及した背景などについて解説します。

インクルージョンが普及した背景

インクルージョンが普及したのは、少子高齢化により人手不足が深刻化する中、多様な人材に活躍してもらうことにより労働力を確保しようと企業が考えるようになったためです。

また、インクルージョンへの取り組みによって働きやすい職場が実現し、企業価値が向上することに企業が気づき始めたことで、インクルージョンに対する関心が高まっています。

職場でインクルージョンが実現している状態とは

職場においてインクルージョンが実現している状態とは、次のような状態をいいます。

  • 女性や障がい者、外国人など多様な人材が企業の中で尊重され、その能力を発揮している
  • さまざまな属性を持つ従業員が働きやすい職場環境が整っている
  • 属性に関係なく、平等にチャンスが与えられている

インクルージョンの実現により、職場は活気づきコミュニケーションも円滑に進みます。

ダイバーシティとの違い

ダイバーシティとは、「多様な人材が受け容れられている状態」を意味します。一方、インクルージョンは「多様な人材が尊重されその能力を発揮している状態」を意味し、ダイバーシティより一歩進んだ状態と言えます。

たとえば、ダイバーシティが実現して企業内に女性や障がい者、外国人などが増えても、全員が活躍しているわけではありません。多様な人材が働きやすい環境の中で活躍している状態がインクルージョンです。

ダイバーシティについては、以下の記事もあわせてご確認ください。

ダイバーシティ&インクルージョンとは?

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは、ダイバーシティを推し進めてインクルージョンの実現を図ることです。

多様な人材がその違いを認められた状態(ダイバーシティ)が、それぞれが能力を発揮して活躍する状態(インクルージョン)まで発展すると、組織が活性化して企業業績への貢献も期待できます。

ダイバーシティ&インクルージョンを実現するには、従業員一人ひとりの多様性や属性に配慮した職場環境づくりが重要です。

職場でインクルージョンを広めるメリット

職場でインクルージョンを広める主なメリットは、以下の通りです。

  • 多様な人材を確保できる
  • モチベーションが高まる
  • 新しいアイデアや発見が生まれる
  • 生産性の向上につながる
  • 離職率が低下する
  • 企業のイメージアップ

各メリットについて、具体例を挙げて紹介します。

多様な人材を確保できる

インクルージョンを広めることにより、多様な人材や優秀な人材が確保しやすくなります。多様性を活かす企業や働きやすい企業に関心を持つ人材が多いためです。

たとえば、従来は男性中心の運送業界やタクシー業界でも、働きやすい環境を整備することで女性ドライバーや高齢ドライバーが増加しています。

モチベーションが高まる

職場環境が改善すると、従業員のモチベーションは高まります。

障がい者が働きやすいバリアフリー化を進めると、能力を発揮しやすくなりやる気も出てくるでしょう。また、育児がしやすい勤務制度(短時間勤務など)を設ければ、女性も安心して働けます。

新しいアイデアや発見が生まれる

多様な人材が自由に発言できる環境があれば、さまざまな価値観や考え方、ノウハウを持ち寄って発見が生まれ、イノベーションが促進されます。

女性の視点をいれることで新しい商品やサービスが生まれることを期待して、男性中心の商品開発部門に女性が抜擢されるケースも増えています。

生産性の向上につながる

働きやすい職場では作業効率がアップするとともにモチベーションも上がり、生産性が向上します。

荷物の積み込みや運搬作業を手作業からフォークリフトに変えたり、パワースーツを導入したりすれば、体力に自信のない高齢者や女性も安心して働けるとともに、高い生産性が期待できます。

離職率が低下する

インクルージョンでモチベーションが高まれば、会社や仕事に対する満足度が高まり離職率を抑えられます。

たとえば、従業員の意見を取り入れ職場環境を改善すれば、仕事に対する不満や不安を払拭できます。会社への信頼感が高まるとともに、従業員も安心して働けます。

企業のイメージアップ

ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む企業として認められれば、人を大切にする会社として企業イメージを高められます。

「多様性を活かす企業」「働きやすい企業」であることを採用活動でPRしたり、企業のイメージアップを商品販売で活かしたりできます。

インクルージョンを推進する方法・アイデア10選

多様な人材を採用すれば達成できるダイバーシティと異なり、採用した人材を活かすためには多面的な取り組みが必要です。インクルージョンを推進する10の方法やアイデアを紹介しますので、自社の取り組みに活かしてください。

トップダウンによる方針の発信

インクルージョンの推進に向け社内全体の意識変革を図るためには、企業トップが方針を発信するのが効果的です。インクルージョンの目的や具体的な目標を伝えるとともに、会社が本気で取り組むことを従業員に伝えましょう。

インクルージョンが浸透するまで、朝礼やミーティングなどで発信を継続することも必要です。

多様な人材を積極的に採用

インクルージョンの具体的な取り組みの第1歩は、多様な人材を採用してダイバーシティを実現することです。

受け入れ態勢を整え活躍の機会を設けるなど、最初は試行錯誤が予想されますが、その中から成功事例やモデルケースをつくることでインクルージョンが加速します。

公平な人事評価と昇進システム

インクルージョンを推進するには、全員一律の評価だけではなく特性に応じた人事評価や昇給システムの導入も効果的です。特性を評価するには、減点主義より加点主義の方が適しています。ただし、公平性を保ち従業員から納得感が得られるような制度が求められます。

また、多様な人材を活かすために、特性に応じた適材適所の人員配置も重要です。

チーム評価制度の導入

個人単位だけでなくチーム単位の評価制度を導入すれば、特性に応じた役割分担が生まれチーム運営が効率化します。チーム目標を共有して協働することで、チームの連帯感も強まるでしょう。

また、自分の役割が明確になることで、組織への帰属意識やモチベーションが高まることも期待できます。

部署間の横断プロジェクト

同じ特性を持ち各部署に配属されている人を対象とした部署間の横断プロジェクトも、インクルージョンの推進に役立ちます。それぞれの課題や悩みを共有し、問題解決のきっかけにしていきましょう。

具体的には、育児を抱える社員同士の情報交換会や、外国人従業員を対象とした研修会などが考えられます。

意識を高めるための教育とトレーニング

インクルージョンの浸透に向けた従業員の意識改革を行うために、研修やセミナーなどが効果的です。全従業員に対する教育も必要ですが、最初に職場を管理するマネジメント層の意識改革に取り組みましょう。

受け身の研修だけでなく、多様性を活かす取り組みを検討するなど従業員が主体的に考える場を提供することも大切です。

女性管理職登用制度を設ける

女性管理職登用制度を設けることで、女性が目標意識を持って能力を発揮することが期待できます。管理職の一定割合を女性とすることを決め、制度の普及を図る企業もあります。

女性管理職のロールモデルをつくることや女性管理職が働きやすいように配慮することも、制度浸透に効果的です。

社内提案制度の導入

インクルージョンを推進するために、社内提案制度を導入する方法もあります。さまざまな意見を集めることで、職場環境の改善や人材の有効活用につながる課題が見つかったりアイデアが生まれたりするためです。

従業員の意見を取り入れることにより、企業活動への参加意識を高める効果も期待できます。

バリアフリーにする

バリアフリー化を進めることで、障がい者や高齢者の安全を守るとともに、作業効率のアップが期待できます。

費用がかかるため現場任せではバリアフリー化が難しいため、本社部門が積極的に関わる必要があります。また、社内提案制度などを活用して、不便を感じている人の意見を取り入れていきましょう。

フィードバックの収集と評価

インクルージョンの推進策を実施後、進捗状況や成果を定期的に確認して評価することも重要です。評価によっては、計画の修正が必要になることもあるでしょう。

進捗状況や成果は数値化しにくいこともあるため、社内アンケートなどで従業員の声を収集する方法もあります。

企業のインクルージョン取り組み事例

既に、多くの企業がインクルージョンに取り組んでいます。先行企業の取り組み事例を紹介しますので、検討時の参考にしてください。

製造業:株式会社日立製作所

株式会社日立製作所では、グローバルな社会・顧客にサービスを提供するために、専属部署を設けてダイバーシティ&インクルージョンを推進し、「女性や外国人を積極的に役員に登用」しています。その結果、女性役員と外国人役員がそれぞれ全体の10%となりました。

将来的には、ダイバーシティ&インクルージョンと「事業戦略との融合」を目指しています。

参考:ダイバーシティ&インクルージョン戦略|日立製作所

林業:住友林業株式会社

住友林業株式会社では、ダイバーシティ&インクルージョンを重要課題の1つとして「年度活動方針や施策」に落とし込みマネジメントを行っています。

また、人事部内に「働きかた支援室」を設け各部署と協力して、多様な人材の活躍やワーク・ライフ・バランスの実現に向けた活動を行っています。ほかにも、「女性管理職登用目標(2030年30%)」を策定し女性の活躍を推進中です。

参考:住友林業グループのダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン|住友林業

建設業:熊谷組

熊谷組では、「社長が委員長となりダイバーシティ推進室」を設置して女性や障がい者、高齢者が働きやすい職場づくりに取り組んでいます。

その結果、8年間で女性管理職数は6.3倍、女性技術者は2.4倍、障がい者雇用率は2.18%となり「令和2年度新・ダイバーシティ経営企業100選(経産省)」に選定されました。

参考:熊谷組のダイバシティ|熊谷組

電気・ガス業:中部電力株式会社

中部電力株式会社では、「いかすボス(人財・時間・制度をいかし職場をいきいきさせるリーダー)」を宣言して、中間管理職の意識改革を図りました。

また、お互いに認めあう職場をつくるために毎月10日を「ありがとうの日」と定め、継続的な啓発を図っています。

参考:DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進|中部電力

製造業:東和組立株式会社

東和組立株式会社では、ITやIoT(※)を活用した業務改善により、熟練工が行っていた作業を障がい者や外国人ができるようにして多様な人材の能力発揮と人材の有効活用を実現しました。

※Internet of Thingsの略で、「インターネットで物と物をつなぐ技術」を意味します。

内閣府「令和3年度版障害者白書」では、同社がダイバーシティ企業として紹介されています。

参考:10月29日 令和3年度版 内閣府 障害者白書に掲載|藤和組立

ITサービス業:サイバーエージェント

サイバーエージェントでは、女性が働きやすい職場をつくるために次に取り組んでいます。

  • ダイバーシティ推進プロジェクト「CAlorful」:多様なバックグラウンドを持つ従業員のキャリアをサポート
  • 女性活躍推進制度「macalon」:独自の休暇制度や妊活・育児支援制度

その結果、全従業員のうち女性が33.6%、管理職のうち女性が24.7%を占め、産休・育休後の復帰率は100%を達成しています。

参考:ダイバーシティ|サイバーエージェント

インクルージョン導入の注意点

インクルージョンを導入するときは、「従業員の意識を変えるのは困難である」ことを認識しなければなりません。大きな変化に対しては、従業員からの反発や抵抗が予想されます。固定観念や先入観が意識改革を妨げることもあるでしょう。

また、インクルージョンの進捗状況や成果は数値化しにくいため、評価が難しい点にも注意しましょう。生産性の向上など数値的な判断基準だけでなく、従業員の満足度や意識の変化を把握する方法(従業員アンケートなど)を検討してみましょう。

インクルージョンの考え方に似た言葉・類義語

インクルージョンに関連する言葉の1つが、「エクイティ(公平性)」です。全員が一律という意味の平等とは異なり、多様な人材の特性を考慮して公平に情報やチャンスを提供したり、評価したりすることを意味します。

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)にエクイティを加えて、「DE&I」という考え方も広がっています。

多様な人材を組合わせてまとめるという意味の「インテグレーション(統合)」という言葉はインクルージョンと似た感じもありますが、それぞれの特性が活かされず同一化された状態を生むためインクルージョンの考え方とは大きく異なります。

もっと詳しく!インクルージョンに関するおすすめ論文と要約

インクルージョンに関するおすすめの論文を紹介します。それぞれの論文は、インクルージョンの理解を深め、インクルージョンを身につけるための具体的な方法を解説しています。

  • 「参加とインクルージョンの区別」では、インクルージョンと参加が公共参加の独立した次元であると論じ、インクルージョンが公共の問題を定義し、対処するために関与するコミュニティを継続的に作り出す方法について述べています[(Quick & Feldman, 2011)]。
  • 「インクルージョンの限界」論文では、インクルージョンには理論的な限界が存在し、その限界を教育実践で理論的に説明する必要があると議論しています[(Hansen, 2012)]。
  • 別の研究「インクルージョンが政治的偏見を減少させる」では、政治的インクルージョンが政治的アウトグループに対する偏見を減少させることが示されています[(Voelkel, Ren, & Brandt, 2017)]。
  • 「インクルージョン:定義する定義?」では、インクルージョンが特別な教育ニーズを持つ子どもたちの代表としてどのように機能し、教育的排除と公正を促進するための文化的なマントルとしてどのように使用されているかを探ります[(Hodkinson, 2011)]。

監修者の編集後記 -インクルージョンについて-

人材確保や生産性の向上に向けて多様な人材に活躍してもらうには、ダイバーシティ&インクルージョンの推進が効果的です。多様な人材が能力を発揮できるように、特性に応じた働きやすい職場づくりが求められています。

ダイバーシティ&インクルージョンと事業戦略の融合を目指す会社があるように、インクルージョンが企業の将来に大きな影響を及ぼす可能性があることを認識しましょう。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。