カタルシスとは?意味や使い方、ビジネスで役立つスキルや事例を解説

この記事のポイント

  • カタルシスとは、浄化を意味する心理学用語で、心の中に溜め込んだ悩みや葛藤を何らかの方法で吐き出し発散することで、問題を解決することです。
  • 特別な現象ではなく、身近な人に悩みを相談するといった行為もカタルシスに該当します。
  • 相手との信頼関係を作る、話し表現すること自体が癒しとなる、ストレスの元を整理し解決に導く助けとなるなど、カタルシスはさまざまな場面において役立ちます。

カタルシスとは?

カタルシスとは?意味や使い方、ビジネスで役立つスキルや事例を解説

カタルシス(catharsis)とは心理学で使われる言葉であり「浄化」を意味します。これは、心の中に溜まった悩みや葛藤を何らかの方法で表現し、それによって問題が軽減することを指します。

この概念は、精神分析の基礎を築いたオーストリアの精神科医、ブロイアーによって発見されました。彼は1880年代初頭に、アンナという21歳の女性ヒステリー患者の治療を通じてこの概念を見つけました。

アンナは水が飲めないという問題に悩んでいました。しかし、ブロイアーとの治療中に、彼女が嫌だった家庭教師がコップの水をそのまま犬に与えていたことを思い出しました。その思い出を共有した後、彼女の症状はすぐに改善し、再び水を飲めるようになったそうです。

このアンナの症例を元に、フロイトという別のオーストリアの精神科医は、精神分析にカタルシスの要素を取り入れ、さらに発展させていきました。

参考:「S.フロイトのヒステリー論-心的外傷の発見-」『福島大学総合研究センター紀要』10,15-24|中野明徳(2011)

カタルシスの語源

カタルシスの由来はギリシャ語の「katharsis」です。古代ギリシャの哲学者であるアリストテレスは、詩作について論じた『詩学』の中で悲劇論を展開しました。悲劇論において、悲劇的な物語が観客の心に恐れや憐れみの感情を呼び起こすことで、精神を浄化する効果があることを、カタルシスと呼び始めたのが始まりだそうです。

演劇用語から派生したカタルシスという用語は、後に心理学の用語としても用いられるようになりました。

参考:「アリストテレス詩学カタルシス再考」『言語文化』46,95-107|古澤ゆう子(2009)

カタルシスの使い方

主に芸術の分野において、「演劇で役を演じることで観客をカタルシスへ誘う」「創作を通して言語化によるカタルシスを体験する」と用いられます。

また、音楽や本、映画の題名に用いられることもあります。具体的には、小説家・村上龍の著書「奇跡的なカタルシス」や、ラッパー・SKY-HIのアルバムタイトル「カタルシス」、映画監督・阪口香津美の映画「カタルシス」などです。

カタルシス効果とは?

カタルシス効果はイライラや悲しみなど、ストレスの元となる感情をさまざまな手法を用いて自由に表現することにより、スッキリしたり問題解決の糸口を見つけたりすることをはじめ、問題自体の解決につなげることです。

以下で、カタルシス効果の具体例を確認しておきましょう。

カタルシス効果の具体例

カタルシス効果は私たちが意識していないだけであり、日常的に体験しています。例えば、泣ける映画を見た後に「なんだかスッキリした」という経験を持つ人は多いのではないでしょうか。広義では、これもカタルシスです。そのほか、以下のような出来事も含まれます。

  • 失恋した時にカラオケに行き、失恋ソングを歌った。
  • スポーツや芸術を通して、ストレスを発散した。
  • 悩みを身近な人に話して、スッキリした。

参考:「スポーツ観戦によるカタルシス効果」『高知工科大学2015年(平成27年)修士論文』|松浦元貴(2015)

カタルシス効果で得られるもの

カタルシス効果で得られるメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 相手との間で信頼関係が構築されやすい

    話を聞いてくれる人には心を開きやすく、本音で話しやすくなるため、相手との間で信頼関係を構築するのに役立ちます。

  2. 問題や葛藤のもとを話したり表現したりすること自体が癒しとなる

    愚痴を吐き出すことや文章にまとめてみるだけでも、その行為自体がストレス発散となり癒しにつながる効果が期待できます。また、自助作用を促進できる点もメリットです。

  3. 話し手が抱えているストレスの元を整理・解決する助けとなる

    気持ちを吐き出しながら感情が整理できると、物事を冷静に客観的に見つめなおせるようになります。その結果、こんがらがった糸をときほぐすように状況を整理でき、ストレスの元の対処法を見つけられ、解決につながる場合があるでしょう。

参考:傾聴の効果|働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳 厚生労働省

カタルシス効果がビジネスシーンで役立つ場面

カタルシスをビジネスに取り入れることで、従業員のメンタルヘルスや顧客対応に生かされたり、広告やマーケティングのヒントが得られるなど、さまざまなメリットがあります。ここでは、カタルシス効果がビジネスシーンで役立つ場面を紹介します。

営業・販売

営業・販売の分野では、顧客のニーズや悩み事の把握に、カタルシス効果を役立てることが可能です。不安や悩みを聞いてくれた人に対しては、好感や信頼感を覚えやすいでしょう。そのため、顧客のニーズを把握した上で、自社の商品やサービスを紹介しやすくなります。

顧客対応

特にクレーム対応について、カタルシスは効果を発揮します。反論せずにひたすら顧客の話を聞き、発散させることで、互いに冷静さを取り戻し、建設的な話し合いに発展させることが可能です。

人事・採用

人事採用場面においては、企業理念に対して応募者がどのような点に共感しているか、志望動機などを聞き出す際にも、カタルシスは効果的です。話を引き出すことで、よりモチベーションの高い人材を獲得するのに役立ちます。

広告・マーケティング・SNS

広告・マーケティング・SNSを展開する際には、顧客となり得る潜在層の心理の理解やニーズの把握が大切です。顧客の心を動かす具体的な言葉がけを行う際に、カタルシスの視点を持つことは有用でしょう。

参考:思いやりの心で優しい社会を!よりよい消費社会を目指して 第2回|日本労働組合総連合会

カタルシス効果を発揮するためのスキル

カタルシス効果を発揮するために必要なスキルは、聞き上手になること自己開示をすること信頼関係を築くことの3つです。

ビジネスシーンのみならず、日常生活においても周囲の人とより良い関係を築くヒントになるため、ここで確認しておきましょう。

聞き上手になる

聞き上手になるためには、傾聴のスキルを身につけておくことが大切です。大きく3つのポイントを意識するだけでも、聞き上手になり傾聴力は向上します。

質問で話の方向を変えず相手の話を受け止めること、適度に相手の話を繰り返すこと、相手の話を肯定的に捉え、返事をすることなどを意識することがポイントです。

これだけでも、話し手の印象はかなり良くなるでしょう。

自己開示をする

自己開示とは、自分に関する情報や考えや価値観などを、そのまま率直に相手へ伝えることです。自己開示を行うことにより、話がふくらむ、傾聴の骨休めとして活用できる、親密度が増すといった効果が得られます。

出身地や趣味、家族についてなど、さまざまな話題を自己開示として活用可能です。一方で、自己開示をやりすぎると相手に話を聞いてもらえないと感じさせることもあるため、バランスには注意しましょう。

信頼関係を築く

話し手と信頼関係を築くためには、ペーシングという手法が役立ちます。ペーシングとは相槌やうなずき、声の大きさや話のペースなどの非言語的な伝達手段を通じて、信頼関係を構築するコミュニケーション手段です。

話し手よりも早すぎず遅すぎないペースで話を聞くことにより、相手の話に並走できるようになります。さらに、相槌や頷きのタイミングを合わせることで、相手との距離が縮まり信頼関係を深めることも可能です。

参考:「対人関係の悩みについての自己開示がストレス低減に及ぼす影響」『対人社会心理学研究』1,108-118.|丸山利弥(2001)

カタルシス効果の事例

カタルシス効果の例を紹介します。

クレーム対応業務で過剰なストレス状態となった事例

以下は、とある企業のクレーム対応部門で働く20代の女性が、職場の健康管理室のサポートを受けて復調した厚生労働省のケースです。

カタルシスをまじえた積極的な傾聴を行ったところ、相談者の真面目で受身的な性格、顔や表情がみえないクレーム対応による消耗、自分がストレスの的にされることへの腑に落ちなさがあることがわかりました。

上記を踏まえ、対処法としてストレスが多い仕事であることを自覚する、苦情を聞くのが仕事ではあるが自分のせいではないと捉える、好きなことをしてリフレッシュしセルフケアすることなどを提案がなされました。

その結果、復調し仕事に戻ることができました。また、産業保健スタッフによる当該女性へのケアが、消費者の話を聞くモデルにもなったそうです。

参考:クレーム対応業務で過剰なストレス状態となった事例|厚生労働省 こころの耳

メール相談によるメンタルヘルス不調の回復機序モデルの立案

こちらは「勤労者こころのメール相談」の質的分析を通して、メール相談で心が回復する過程をまとめた研究です。

事例5では、相談者が異動や転勤などの逆境体験をメールを通して語ることが、ストレスをカタルシスしたり、自分への気づきを得るのに役立ったと分析されています。

また事例を踏まえ、回答者が相談者の気持ちを受け止め、専門知識を提供し、相談者自身が振り返れるように促し、セルフケアができるようレジリエンス(精神的な回復力)に働きかけていたことが、回復モデルに関わっているのではないかと考察されています。相談者のレジリエンスが。回答者の働きかけを通じて活性化したのでしょう。

参考文献:「メール相談によるメンタルヘルス不調の回復機序モデルの立案」『日本職業・災害医学学会誌』67,p159-166|山本晴義,横内彌生,李健實,杉山匡(2019)

もっと詳しく!カタルシスに関するおすすめ論文と要約

カタルシスに関するおすすめ論文を紹介します。

対人ストレスを身近な他者に相談する過程の検討

「対人ストレスを身近な他者に相談する過程の検討」は、日常的な対人ストレスを親しい人に相談する過程を研究しました。この過程は三段階で構成されています:相談への期待、相談相手の反応、そして心理的適応感。研究1では、大学生114名を対象に質問紙調査を実施し、これらの段階を探索的に検討しました。研究2では、新たに開発された尺度を用いて、大学生268名に再度調査を行い、相談過程の関連を検討しました。

その結果、相談過程は二つのパターンに分類されました。一つは、相談者が情緒的支援を期待し、相談相手が期待通りに対応することで、感情の回復や気持ちの解決がもたらされるパターンです。もう一つは、相談者が情報収集を期待し、相談相手が期待通りに情報を提供することで、問題解決への意欲、成長感、問題の解決がもたらされるパターンです。

この研究は、身近な他者との相談過程が、感情的なサポートと情報提供の両方を含むこと、そしてその過程が相談者の心理的調整とストレスの解決にどのように影響するかを明らかにしました。これにより、親しい人との相談がストレス解消に有効であることが示され、相談過程の理解が深まりました。

出典:J-STAGE「対人ストレスを身近な他者に相談する過程の検討」

スポーツ観戦によるカタルシス効果

「スポーツ観戦によるカタルシス効果」では、人々が日常生活のストレスや不満をスポーツ観戦を通じて解消する現象、カタルシス効果に焦点を当てています。カタルシスは、本来の目標が達成できない欲求や動因が関連する行為によって部分的に満たされることであり、これにより欲求や動因が低減するとされています。

この研究は、サッカーとテニスを例に、観戦状況(盛り上がり具合や集中度)によるカタルシス効果の違いを調査しました。被験者には、アルバイトでのストレスを背景にしたスポーツ観戦シナリオを想像させ、その後の感情変化を質問紙で評価してもらいました。分析結果は、サッカー観戦がテニス観戦よりカタルシス効果が高いこと、また観戦中の盛り上がりがカタルシスを感じやすい状況であることを示しています。しかし、これらの効果はスポーツの種類と観戦状況の組み合わせによって左右されるわけではないことも明らかにしました。

この論文は、カタルシス効果がスポーツ観戦の文脈においてどのように感じられるかを探る一方で、カタルシス効果が必ずしも一様ではなく、個々の状況や体験によって異なることを示唆しています。また、スポーツ観戦以外の領域でのカタルシス効果の検証を今後の研究課題として提示しています。

出典:高知工科大学「スポーツ観戦によるカタルシス効果」

監修者の編集後記 -カタルシスについて-

カタルシスは、顧客やクレームの対応、営業販売、広告マーケティング、人事採用などビジネスにおけるさまざまな場面において役立ちます。

相手の話を積極的に聞き、信頼関係を築くこと、自己開示をすることなどがカタルシス効果を狙うためのポイントです。

事例によると、顧客対応を行う従業員自身のメンタルヘルスや、メール相談においてもカタルシスは一定の効果を発揮することが報告されています。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。