アサーションとは?職場での効果やトレーニング方法、事例を解説

この記事のポイント

  • アサーションとは、相手を尊重しつつも、自分の意見をしっかりと表明するコミュニケーション方法です。
  • アサーションには、他者と良い関係を築いたり、自分自身が気持ちよくコミュニケーションをとれたりする効果が期待されます。
  • アサーションを身につけるためには、自他共に尊重した表現や、肯定的な言葉遣いを心がけることが大切です。

アサーションとは?意味や言葉の使い方

アサーション

「この仕事お願いできませんか」と頼まれたとき、うまく断れずに困ったことはありませんか?自分の意見を主張しつつも、相手との関係を対等に保つスキルはビジネスの場では非常に大切です。

アサーションを身につけることで、今までは伝えられなかったことをうまく相手に伝え、円滑なコミュニケーションを図れるかもしれません。

アサーションの意味や言葉の使い方

アサーションとは、以下の2つを併せ持ったコミュニケーション方法です。

  • 自分を大切にするために、自分の気持ちや主張をしっかりと伝える
  • 相手を大切にするために、相手の意見を尊重し、傷つけない伝え方をする

自分だけ、相手だけではなく「自分も相手も両方」大切にすることがポイントです。

アサーションは主に名詞として使われています。さらに、「アサーションの性質を持つ」という意味で「アサーティブ」という派生語もよく使われます。

アサーションを身につけるための専門的なトレーニングが「アサーショントレーニング」です。

アサーションがビジネスで求められる背景

アサーションが求められる背景には、意識や社会の変化が関わっています。

ハラスメントへの意識の高まり

パワハラ防止法、男女雇用機会均等法が規定されるなど、社会のハラスメントに対する意識は年々高まっています。「面白いいじりのつもり」「昔では当たり前」という感覚のコミュニケーションが思わぬトラブルになることがあります。

そのため、社内でのハラスメント防止のため、相手のことを尊重するアサーションが改めて注目されるようになりました。

コロナ禍でのコミュニケーションの変化

2020年から新型コロナウィルスの影響により、テレワークの機会が増加しています。オンライン上のコミュニケーションでは、相手の表情が分かりにくい、言葉と言葉の間合いが掴みにくいなど、対面では簡単にできたことに苦慮する人や組織が増えました。

そのため、自分の気持ちや相手の状況に目を向けるアサーションの需要が高まっています。

働き方の多様化

障害者雇用や時短勤務など、働き方の多様化により、これまでは就労が難しかった人でも働けるような社会の実現が進んでいます。働き方の多様化は「さまざまな事情を抱える人でも平等に」という考え方がベースとなっています。

これが、アサーションにおける「自分も相手も同じように尊重されるべき」という考えに似ていることも注目される要因のひとつでしょう。

職場でアサーションを身につけるメリット

職場でアサーションを身につけることで、さまざまなメリットが期待されます。その一例をご紹介します。

上司や部下との信頼関係が築ける

職場では、上司や部下など上下の人間関係があります。自分が上司のときは、部下の意見も受け止める。逆に、自分が部下のときは、上司に対しても必要なことをしっかりと伝えることで対等に言い合える関係ができ、結果的に信頼関係を築けます。

取引先と対等な立場で話せるようになる

アサーションを身につけることで、取引先に対しても対等な立場でやりとりできるようになります。

ビジネスを継続するうえでは、過剰な要求や無理難題は断り、適切な条件で契約を行うことが重要です。対等な立場で話せるようにすることで、建設的に話し合い、トラブルやストレスを感じる機会を減らせます。

誤解や対立を防げる

働く中では、相手の申し出を断ることが必要な場面もあります。そのような際、攻撃的に言い返すと、相手との関係が悪くなってしまいます。

一方、相手に気を遣い、歯切れの悪い回答をすると、誤解やトラブルにつながってしまいます。批判的にならず、相手を尊重しつつ申し出を断るためには、アサーションの考え方が重要です。

ハラスメントの防止につながる

ハラスメントの予防は、自分を守るためにも、相手を傷つけないためにも大切でしょう。

アサーションを身につけていれば、さまざまな年代や立場の人に対しても相手を尊重しながら必要なことを伝えられるためハラスメントの防止に有効です。

モチベーション・生産性の向上につながる

アサーションが組織に浸透すれば、さまざまな立場の人とも対等な立場での意見交換ができるようになります。すると、ストレスの軽減が実現でき、モチベーションや生産性の向上につながります。さらに心理的安全性が高まれば、離職率の低下も期待できるでしょう。

アサーションでの3つの自己表現タイプ

アサーショントレーニングを行う際には、アサーションの種類を理解しておくことが重要です。アサーションは、自己表現の傾向によって大きく3つに分けられます。

アグレッシブ-攻撃的

アグレッシブとは、自分のことを中心に考え、率直に相手に意見を言う人のことです。自身の考えを主張できるというポジティブな一面がある一方で、相手を傷つけてしまうことや、人の意見に耳を傾けられないといったネガティブな面があります。

ノン・アサーティブ(パッシブ)-消極的

ノン・アサーティブ(パッシブ)とは、自分の意見を主張せず相手に合わせるような人のことです。トラブルなどは起こりにくいタイプですが、感情を押し殺した結果ストレスが溜まりやすい傾向があります。

アサーティブ-積極的

アサーティブとは、自分の気持ちや考えを相手に伝えられますが、相手のことも配慮した自己表現です。アグレッシブとノン・アサーティブの中間でバランスの良いタイプと言えるでしょう。

アサーションのトレーニング方法

アサーティブなコミュニケーションをとるためのトレーニング方法を紹介します。

オープンな姿勢を心がける

アサーティブなコミュニケーションをとるには、相手を歓迎するオープンな姿勢が大切です。笑顔で話したり、ハキハキと挨拶をしたりすることは、相手から話しやすい印象を持ってもらう土台となります。

また、人は相手をどう思っているかが、自然と態度の端々に出るものです。相手を歓迎するような気持ちで接することが大切です。

自分と相手が対等な立場であることを理解する

相手が平等だと理解しておくことも大切です。相手が目上でも下でも、同じ人間です。必要以上に気を張らず、かといって萎縮しすぎずにコミュニケーションをとるとよいでしょう。

自他ともに尊重した表現を心がける

人は、年代や性別、バックグラウンドなどが1人ひとり異なります。相手の価値観や気持ちに寄り添ったコミュニケーションを心がけることでアサーティブなコミュニケーションをとれます。

また、相手だけでなく「自分」も大切にすることがポイントです。自虐や必要以上の謙遜は控えることでアサーティブなコミュニケーションにつながるでしょう。

肯定的な言葉選びをする

何か頼まれごとをされたときに、「できない」「無理」という否定的な言葉は相手にとってネガティブな印象を与えてしまいます。そこで、否定で終わらせずに「今日ではなく明日中でもいいですか?」「この方法はどうですか?」など、前向きな代替案を一緒に出すことで、相手が受け入れやすくなります。

主語を「私」にして伝える

頼みごとをするときに相手を主語にすると責める口調になりがちですが、主語を「私」に変えるとことで傷つけにくくなります。

例えば、「あなたはこうしなさい」と言うよりも「私は、あなたがこうしたほうがいいと思う」という言い方のほうが、相手にとって受け入れやすくなります。

DESC法(デスク法)を活用する

DESC法では、4つの視点を持ってコミュニケーションをとることす。その結果、合理的に物事を解決しやすくなるといわれています。

D:Describe(描写する)客観的に状況・事実を伝える
E:Express(表現する)自分の意見や感情を表現する
S:Specify(提案する)相手に求めているものを言葉で伝え、提案する
C:Choose(相手の選択と応答)提案に対して、相手に選択肢や代替案を示す

職場でのアサーションの事例・実践例

アサーティブなコミュニケーションの例を見てみましょう。

上司から部下への過度な要求に対して

(定時前に上司から)

「これ明日の朝一までに終わらせておいてくれる?」

アグレッシブな場合「今何時だと思っているんですか?無理です」

ノン・アサーティブな場合「分かりました(残業確定だ……つらいな)」

アサーションの場合「今日はもう残り時間が僅かなので明日しようと思います。明日の昼までではだめでしょうか?」

プロジェクトの進行中に意見の対立が起きた場合

(短期的な利益に目が向いている人とのプロジェクト)

「こちらのほうが絶対に利益が出るからこっちにしよう!」

アグレッシブな場合「目先の利益でしかないと思います」

ノン・アサーティブな場合「そうかもしれません……」

アサーションの場合「○○さんの計画も大きな利益が出ると思います。ただ、長期的に考えるとこちらのほうが継続しやすいと思いませんか」

顧客からの厳しい要求があった場合

(見積もり中)

「予算オーバーだから半額にしてくれない?あと納期を早くしてほしい」

アグレッシブな場合「無理に決まっているでしょう。うちを何だと思っているんですか」

ノン・アサーティブな場合「はぁ……検討します」

アサーションの場合「予算は工程を減らすことでカットできるかもしれません。納期についても最大限努力はしますが、社員の健康を守るために大幅な変更はできかねます」

もっと詳しく!アサーションに関するおすすめ論文と要約

アサーションに関するおすすめの論文を紹介します。それぞれの論文は、アサーションの理解を深め、アサーションを身につけるための具体的な方法を解説しています。

  • 大学新入生に対するアサーション・トレーニングの効果
    この研究は、大学新入生にアサーション・トレーニングを実施した場合、自己主張、他者尊重、視点取得、怒り表現、適応感、アイデンティティ、自己受容に正の影響が見られるかを検討しています。結果として、これらの要素に中から大の効果が見られたと報告されています。
  • アサーション・トレーニングにおける肯定的フィードバックと否定的フィードバックの役割
    この論文では、非主張的な傾向が強い者を対象に、アサーション・トレーニングの行動リハーサルにおいて肯定的フィードバックと否定的フィードバックの効果を比較検討しています。否定的フィードバックでも、建設的で具体的な情報が付加されたものであれば、有効に機能する可能性が示唆されました。
  • 日本人のアサーションにおける熟慮的自己表現
    この論文は、青年期女子におけるアサーションと攻撃性、自己受容との関係に焦点を当てています。日本人のアサーションにおける自己表現の形態についての研究で、熟慮的な自己表現がどのように関連しているかを探求しています。
  • アサーション・トレーニングの理論と実践
    この論文は、アサーション・トレーニングの理論的背景と実践的応用について詳細に解説しています。アサーション・トレーニングが個人の対人関係の質をどのように向上させるかについての洞察を提供しています。
  • アサーションと心理的ウェルビーイングの関係
    この研究は、アサーションが個人の心理的ウェルビーイングに与える影響について検討しています。アサーションが高い人は、一般的により高い自己効力感と幸福感を報告していることが分かりました。

監修者の編集後記 -アサーションについて-

アサーションとは、相手を尊重しつつも、自分の意見をしっかりと表明するコミュニケーション方法です。これは、他者と良い関係を築いたり、自分自身が気持ちよくコミュニケーションをとったりするうえで欠かせません。

異なる年代や文化の人との交流は、難しさもありますが、新しい視点に気が付くきっかけや、チームの活性化など多くのメリットがあります。アサーションを身につけ、メンバーが気持ちよく過ごせる組織を作っていきましょう。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。