ロールモデルとは?意味や必要性、見つけ方の例、企業の活用方法

この記事のポイント

  • ロールモデルとは、物事に対する考え方や、行動の規範とすべき人物像を指す言葉です。
  • ロールモデルが設定されることによって、従業員が目指すべき人物像が明確になり、成長の効率化が図れます。
  • ロールモデルには、身近な上司や先輩が選ばれるだけでなく、歴史上の人物や著名人などが選ばれる場合もあり、その設定方法はさまざまです。

ロールモデルとは?意味や必要性

ロールモデルとは?意味や必要性、見つけ方の例、企業の活用方法

「ロールモデル」とは、物事に対してどのように考え、行動するかの規範となるべき人物像を指す言葉です。従業員がロールモデルを持つことによって、自身が目指すべき人物像が明確となり、キャリア形成が促進されます。

ロールモデルが注目されている背景

ロールモデルが注目されている背景には、働き方の多様化が存在します。政府が推し進める働き方改革などによって、多様な働き方が可能となり、従業員のキャリア形成における選択肢も広がっています。

幅広く用意された選択肢の中から、自身の望むキャリアに合った選択肢を見つけるためには、手本となるロールモデルの設定が有効です。育児と仕事を両立させている先輩や、上司をロールモデルとすれば、ワークライフバランスを重視したキャリア形成の助けとなるでしょう。

ロールモデルを設定するメリット

ロールモデルの設定には、多くのメリットが存在します。適切なロールモデルを設定することで、メリットを最大限に活かしましょう。

キャリア形成に役立つ

ロールモデルは、従業員のキャリアにおける規範となる人物像です。手本とすべき先輩や上司が職場に存在すれば、ロールモデルとすることで、キャリアプランを立てやすくなるでしょう。設定されたロールモデルは、従業員の具体的な行動指針となり、キャリア形成を促進します。

自己成長の促進

ロールモデルと現在の自分を照らし合わせることで、足りないスキルや知識が明確になります。ロールモデルに近づくために何が必要か明確になるため、目標設定も容易になり、効率的な成長が望めます。

組織が活性化する

目標とするロールモデルに近づくためには、その人物を深く知り、考え方を学ぶ必要があります。同じ職場の上司や先輩をロールモデルとしている場合であれば、積極的にコミュニケーションを取ることで、考え方を学び取ろうとするでしょう。このような動きが社内全体に広まることで、組織の活性化を促せます。

コミュニケーションの改善

上司や先輩をロールモデルに設定した場合には、その人物をよく知るためにコミュニケーションを取る必要があります。ロールモデルとして設定すれば、普段は声を掛けづらい上司であっても、声を掛けやすくなるでしょう。

上司や先輩にとっても、仕事に対する考え方などは話しやすい話題となります。共通の話題を設定することで、職場におけるコミュニケーションが改善される効果を期待できます。

離職率の低下につながる

「この職場で働き続けても先が見えない」「この職場ではこれ以上の成長は望めない」と考え、離職に至る従業員も存在します。そのような従業員にとって、目指すべきキャリア像を具体的に示してくれるロールモデルの存在は重要です。将来のキャリア像を明確にイメージ可能となるロールモデルの設定は、離職率を低下させる効果も期待できるでしょう。

ロールモデルの見つけ方

ロールモデルには、どのような人物を設定すればよいのでしょうか。ロールモデルの見つけ方を解説します。

社内の上司や先輩

同じ職場の上司や先輩は、職業生活上最も身近なロールモデルとなり得る人物です。上司や先輩が働いている姿からは、物事への取り組み方や考え方など、多くのことを学び取れるでしょう。直属の上司や先輩がいない、またはロールモデルとなり得ない場合には、他部署の上司などを設定しても構いません。

関わりのある社外の人

企業で働くうえでは、社外の人物とも多く関わる必要があります。交流を続けるなかで、自分の手本としたい人物を見つけることもあるでしょう。そのような人物をロールモデルとして設定すれば、社内の人物とは違った視点や考え方を学び取れます。社外の人物をロールモデルとすることで、多角的な視点から物事を見られるようになるでしょう。

有名人や歴史上の人物

職場や社外に適した人物がいない場合には、有名人や歴史上の人物をロールモデルとすることも考えられます。さまざまな分野で活躍する有名人や、歴史に名を残す偉人からは、ビジネスでも活用可能な考え方を学べるでしょう。

複数人

ロールモデルは、ひとりに限定する必要はありません。「顧客に対する姿勢はA課長」「スケジュール管理についてはB先輩」など、複数人を要素ごとのロールモデルとして設定することも可能です。このような設定方法であれば、自分の成長段階や、目指すべきスキルなどに応じて、適宜選択可能となります。

企業の考え方・ブランド・サービス

ロールモデルは、人物である必要はありません。たとえば、企業理念やブランド・サービスなどをロールモデルとして設定することも可能です。企業理念やブランド・サービスの考え方からは、顧客対応や営業姿勢など、学び取れるものも多く、自身の目指す姿とすることもできるでしょう。

ロールモデルの人物例

多くの人に影響を与え、規範や手本とされる人物とは、どのような人物なのでしょうか。女性と男性に分けて紹介します。

女性のロールモデルの例

女性は、妊娠や出産などによってキャリアが断絶する場合があります。また、出産後職場に復帰した後も家庭と仕事の両立が求められます。そのため、女性のロールモデルとしては、家庭と仕事の両立を図っている人物が適しているといえるでしょう。

妊娠や出産によってもキャリアを断絶させず、企業におけるリーダーとして活躍しているような女性もロールモデルとして適しています。これらの女性が職場内にいない場合には、社外に目を向けたり、各方面で活躍する有名人を手本としたりすることを考えてもよいでしょう。

男性のロールモデルの例

妊娠や出産といった、性別による特有のステージが存在する女性と異なり、男性のロールモデルは特定されません。そのため、自身が目指すキャリアに沿った人物をロールモデルとして選択するとよいでしょう。

たとえば、新分野を開拓したいと考えているのであれば、新規プロジェクトを成功に導いた社内外の人物が打ってつけです。先駆者や開拓者として名を残す歴史上の人物からも多くのことを学べるでしょう。また、ワークライフバランスの実現が目指すべきキャリア像であれば、男性の育休取得を推進する企業の理念をロールモデルとすることも可能です。

ロールモデルに求められる要件

ロールモデルとして選ばれる人物は、どのような能力や素質を持っているのでしょうか。新入社員や中堅社員、ベテラン社員といったステージごとに求められる要件は異なるため、ステージごとの解説を行います。

新入社員

新入社員は、知識や経験に乏しく、自らの判断で動くことが困難です。そのため、主に上司や先輩の指示に従って行動する必要があります。つまり、新入社員は優秀な作業者であることが必要です。そのような新入社員のロールモデルには、以下のような要件が求められます。

  • 上司や先輩の指示を正確に理解できる
  • 問い掛けに対して、自分の意見を的確に述べられる
  • 予定された計画通りの成果を上げられる
  • 業務を進めるうえで必要となる知識やスキルを積極的に吸収できる
  • 成長できるチャンスを逃さず、誠実かつ積極的に仕事に取り組める

中堅社員

中堅社員になれば、指示通りに動くだけでなく、自分で指示を出すことも求められます。また、他部署や他チームとの連携を図るうえでの調整を行うことも必要です。中堅社員は、企業実務における推進力となることが望まれるため、以下のような要件を満たす人物がロールモデルとして適しています。

  • 発言の内容から、課題や問題を見つけ出し、リスクに至るまで整理できる
  • 推進される案について、その理由を相手に分かりやすい言葉で、端的に説明できる
  • 効率的に業務を遂行できる
  • 会議やミーティングの事前調整を行い、当日の仕切りをこなせる
  • 自主的に学び、吸収することでベテランになるために何が必要か判断できる

ベテラン社員

中堅を過ぎ、ベテランと呼ばれる段階に進むと、チームにおけるリーダーを務めることも求められます。そのようなベテラン社員は、組織としてのパフォーマンスを向上させる管理職としての能力が必要です。以下のような能力を備える人物が管理職のロールモデルとして適しているでしょう。

  • どんな相手の意見でも耳を傾け、真意を引き出すサポートができる
  • 議論に参加していない相手に対しても、現状や改善目標、経緯などを分かりやすく説明し、理解を促せる
  • 会議の参加者に対して、主体性を持った発言や趣旨に沿った議論を促すような進行ができる
  • 部下や後輩への権限移譲を促進し、チーム全体としての作業効率の向上を図れる
  • 職場内外におけるコミュニティに参加し、ネットワークを広げている

企業がロールモデルを活用するポイント

ロールモデルの設定は、従業員の成長につながるため、企業にとって重要です。しかし、なかには自身でロールモデルを見つけられない従業員もいるでしょう。そこで、企業がロールモデルを活用する際のポイントについて解説します。

ロールモデルの設定

ロールモデルは、中堅やベテランといった従業員のステージだけでなく、目指すべきキャリアによっても異なります。そのため、ロールモデルを活用するためには、ステージやキャリアに応じたロールモデルの設定が不可欠です。スキルや能力だけでなく、ワークライフバランスなども踏まえたうえで、ロールモデルを設定しましょう。

モデルとなる人物の育成

ロールモデルの設定が済んだら、モデルとなる人物を育成しなければなりません。手本や規範となる人物がロールモデルから外れていては、効果を発揮することができないでしょう。

モデルとなる人物の育成では、計画的な人事異動や配置を行い、必要なスキルを身につけるための自己啓発などを支援します。また、外部研修の活用も有効な育成施策です。集合研修の形で本人のモチベーションを高めたり、ネットワーク構築を支援したりするとよいでしょう。

ロールモデルの周知

ロールモデルとなるべき人物の設定ができたら、その存在を周知します。社内でロールモデルとなり得る人物の存在が知られていなければ、役割を果たすことができません。社内報や社内イントラネットなどを活用して、ロールモデルの存在を広く周知しましょう。また、社員研修で紹介することも有効です。

ロールモデルによるキャリア支援例を参考にする

三井住友トラスト・ビジネスサービス株式会社は、女性管理職育成の取り組みを行う企業です。研修においては、キャリアの成功や、業務における悩みについて先輩従業員の具体的なアドバイスを受けられる機会を設け、支援を行っています。また、キャリア支援の基礎となる両立支援では、短時間勤務など柔軟な勤務制度を用意し、育休復職者を対象とする復職予定者研修も実施しています。

復職予定者研修においては、実際に短時間勤務で働いた従業員をロールモデルとして、交流を行うことで、復職の不安軽減につなげています。ロールモデルとの交流によって、仕事と家庭の両立がイメージしやすくなり、キャリアの継続も図りやすくなっています。この事例は、ロールモデル活用による女性のキャリア支援の好例といえるでしょう。

参考:女性の活躍推進や両立支援に積極的に取り組む企業の事例|厚生労働省

もっと詳しく!ロールモデルに関するおすすめ論文と要約

「ロールモデル」概念の広さと発達的意義

この論文は、ロールモデルがキャリア形成にどのように影響するかを分析しています。ロールモデルのタイプ(指導者タイプ、統合タイプ、反面教師タイプ)と、キャリア発達の指標(目標設定の準備性、進路未決断、自己効力感)の関連を検討しました。

その結果、指導者タイプ、統合タイプ、反面教師タイプのロールモデルは、一時的なタイプや憧れタイプよりも、キャリア発達の指標が高い傾向にあることがわかりました。また、ロールモデルとの類似性が高く心理的距離も近いほど、良好なキャリア発達がみられました。

適切なロールモデルの存在が、個人のキャリア形成に良い影響を及ぼすことが示唆されています。ただし、一時的なタイプや憧れタイプだけでは十分ではないことも明らかになりました。

参考:「ロールモデル」概念の広さと発達的意義

女性の昇進意欲に関するロールモデル論の理論的検討

この論文では、企業が女性の活躍を推進しつつあるものの、定着した女性従業員の能力発揮には課題が残されているとの指摘がある中で、特に女性管理職比率の低さが大きな問題とされています。

この問題に関して、ロールモデル論が注目されています。ロールモデル論は、女性管理職の増加が他の女性の昇進意欲を高めるという考え方です。

しかし、ロールモデル論自体がまだ十分に議論されておらず、実証研究の結果も一貫していないという課題も指摘されており、今後の研究の方向性について論じられています。

参考:女性の昇進意欲に関するロールモデル論の理論的検討

キャリア形成支援におけるロールモデルの機能と関係性

この論文は、ロールモデルとメンターの違いを分析し、それぞれがキャリア形成にどのように影響を及ぼすかを探っています。

ロールモデルは個人から対象への一方向的な関係で、行動や意思決定に影響を与えます。一方、メンターは個人と支援者の双方向的・互恵的な関係です。

この論文は、ロールモデルとメンターの役割とそのキャリア形成への影響について、深く理解するための重要な資料となっています。

参考:キャリア形成支援におけるロールモデルの機能と関係性

監修者の編集後記-ロールモデルについて-

職業人として自分の目指すべき姿が明確でなければ、描くべきキャリアも見えてこないでしょう。企業において、自分の目指すべき人物像を明確なものとするロールモデルは、従業員のキャリア形成の過程において欠かせない存在です。当記事を参考にして適切なロールモデルを設定し、望むべきキャリア形成の助けとしてください。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。