社宅とは?種類や家賃の決め方、税金のルールを解説

この記事のポイント

  • 社宅とは、従業員への「福利厚生」の一環
  • 社宅のメリットは費用面と精神面
  • 社宅と寮の違いは家族形態

社宅(社宅制度)とは?

社宅とは?種類や家賃の決め方、税金のルールを解説

「社宅」とは、企業が従業員のために用意する住居のことです。企業で働いている人の大半は、自分で賃貸住宅を借りて住居としたり、土地や家屋を購入して住まいとしたりしています。

一方、社宅に住む人は自分で部屋を借りたり、購入したりする必要がありません。社宅制度は、福利厚生の一環として「従業員の住居費用負担の軽減」を実現します。

社宅のメリット

企業が社宅制度を導入する理由の一つとして、福利厚生以外にも多くのメリットがあるためです。「社宅のメリット=従業員のメリット」と考える人は多いかもしれませんが、実は社宅制度には「企業にとってのメリット」もあります。

企業のメリット

企業が社宅制度を導入することで得られる主なメリットは、以下の5点です。

  • 離職率の削減と定着率の向上

    ⇒個人の賃貸家賃の負担を減らし、通勤しやすい場所に住まいを用意することで長く働きやすくなる。結果として離職しにくく、定着率が高くなり、人材を確保しやすい。

  • 従業員の生産性の向上

    ⇒社宅は家賃負担と通勤距離のバランスが取りやすい。家計の心配や通勤での疲労を抱えにくくなり、業務へ集中できる環境が整う。業務の生産性向上が期待できる。

  • 企業としてのイメージアップ

    ⇒社宅制度の導入や運営には、企業としてまとまった資金も必要。そのため「社宅がある=安定している企業」というイメージアップが期待できる。同時に「従業員を大切にしている」など包容力のある企業と認識されやすい。

  • コストの削減

    ⇒社宅制度を導入すれば、一時的に企業側が大きな費用を負担することになる。しかし、社宅を備えることによって、従業員への「家賃手当」が低くなるというメリットは大きい。さらに、企業がまとめて借りることで同じ物件でも賃料が低くなる可能性が高く、その分企業の負担も削減できる。

  • 節税

    ⇒家賃は、企業の経費として計上できるため節税になる。従業員が個人で借りた賃貸物件への家賃補助は、給与の一部であるため「課税対象」であるのに対し、社宅制度では従業員が支払う家賃を「地代家賃等(非課税対象)」として計上できる。

「社宅」には、人材の確保やコスト削減、節税など企業にとっては大きなメリットがあります。企業にとってのメリットが「従業員への福利厚生」だけでないことは、一方で「従業員にとっての安心材料」と考えることもできます。

従業員のメリット

「社宅」が従業員にもたらすメリットは、主に以下の3点です。

  • 家賃負担の軽減

    ⇒一般的な賃貸物件に比べて、社宅は家賃と通勤距離のバランスが取りやすい。また、住居借り入れるの際の「敷金・礼金」を支払わなくてよい場合が多く、新居の初期費用を抑えることもできる。

  • 住環境の安定

    ⇒個人で借りている賃貸物件に住んでいる場合、費用(家賃)や時間(通勤)についての悩みや心配を抱きやすい。社宅であれば、費用や時間についてはもちろん、勤めている会社が守ってくれているという安心感につながる。その結果、快適性や満足度が向上し、住環境が安定しやすい。

  • セキュリティ

    ⇒社宅の場合、同じ企業の人が同じ建物内に住んでいることが多い。そのため、ご近所付き合いがしやすく、お互いを見守りやすい。建物ごと社宅の場合は、知らない人がいるだけで警戒することができ、もしもの場面に備えやすい。

社宅は「お金、精神、安全」という、生活に欠かせないものへの負担や不安を軽減してくれます。ワークライフバランスが取りやすい環境、といってもよいでしょう。

社宅のデメリット

「社宅」は従業員だけではなく、企業側にとってもメリットの多い制度であるということは、先にお伝えした通りです。

しかし、メリットと同時に「社宅制度のデメリット」も従業員・企業側それぞれに存在します。

企業のデメリット

社宅制度を導入することによって、企業側に生じるデメリットは、主に以下の3点です。

  • 初期費用や管理維持費を負担しなければならない

    ⇒社宅が、社有社宅・借り上げ社宅のいずれであっても、購入または借り入れ時には大きな費用を投資することになる。また、社有社宅の場合は、日常の管理維持費(清掃や修繕、備品の買い替えなど)が必要。

  • 入居率が低下するリスクを負う

    ⇒建物は入居者の数が少なくても、家賃の支払いや管理維持を続けなければならない。当然、入居者が少ないほど企業側の家賃負担は大きくなる。

  • 住民トラブルへの対応

    ⇒集合住宅や戸建て住宅地では「さまざまなトラブル」への対応が生じる可能性がある。

    騒音やゴミの出し方など、本来であれば不動産会社が対応するべき部分を企業が行わなければならないことも多い。

いずれのリスクも、社有社宅であるか借り上げ社宅であるかによって異なります。とはいえ、借り上げ社宅であったとしても「契約者(または所有者)」は企業です。通常であれば企業で行わなくてもよいはずの費用負担や、事案対応が求められるのはデメリットと言えるでしょう。

従業員のデメリット

従業員にとって社宅は、金銭面や精神面でのメリットをもたらしますが、社宅特有のデメリットがあることも把握しておきたいところです。ここでは主なデメリットをまとめてみました。

  • 住まいの選択肢が狭い

    ⇒社宅は企業が用意する住宅。そのため、自分で物件を探す手間がかからない反面、好みの物件を選ぶ自由がない。立地は通勤に便利なところであることが多いが、間取りや部屋数などは用意された空室の中から選ぶことになる。

  • 駐車場が足りない可能性

    ⇒社宅によっては駐車場が併設されているが、入居率が高い場合は駐車場が足りない可能性がある。社宅に住んで、駐車場は自分で別に契約をしなければならないということもある。

  • ペットが飼える社宅が少ない

    ⇒犬や猫などのペットと暮らす人は、ペット飼育可能な社宅を探すことになる。しかし、集合住宅という時点でペット不可である可能性は高く、社宅となればさらにペット暮らしが難しい。

  • ご近所付き合いが生じる

    ⇒地域や社風によっては、社宅内でのご近所付き合いが発生することがある。隣人と顔を合わせたこともないという現代の生活習慣に慣れている人にはストレスと感じるやすくなる。また、社宅内の住民は勤め先や子どもの通学先が同じということもあり、一般的なプライバシーの尊重が難しい場合もある。

これらのデメリットは、一般的な賃貸物件であっても生じる可能性があります。しかし、そこが「社宅」であるために、通常であれば解決しやすいデメリットもなかなか対応が難しいという側面があると思っておいた方がよいでしょう。

社宅の種類

企業が従業員のために用意する社宅は、主に「社有社宅」と「借り上げ社宅」の2つの種類があります。社有社宅または借り上げ社宅によって、企業が対応する社宅運営や従業員が負担する家賃などに違いが生じます。

社有社宅

社有社宅(所有社宅)とは、社宅の持ち主が勤め先の企業、またはグループ企業であるというものです。日常の管理維持や建物の老朽化への対処、備品の取り換えや清掃などの手間がかかりやすいという一面もあります。

しかし、社宅が自社の所有であるため、初期費用はかかりますが、比較的自由に運営できます。社員が支払う家賃も低めに設定できることが多いのが魅力です。

借り上げ社宅

借り上げ社宅とは、企業が不動産会社や個人所有者と契約をして、企業の名前でまとめて住居を借りている社宅です。企業は不動産会社や家主へ賃料を支払い、持ち主の許諾を得て社宅運営を行います。

同じ住宅でも、企業がまとめて借りることで家賃を抑えられる可能性はありますが、それでも社有社宅に比べると、従業員の家賃負担がかかる傾向です。

しかし、企業としては、購入に比べると初期費用が少なく済むため、社宅制度導入へのハードルは低くなります。また、従業員にとっても不動産会社など住まいのプロが管理をしているという面では、安心感が得られるでしょう。

社宅の家賃の決め方

「社宅の家賃」は漫然と決められるわけではありません。主に以下の3点を考慮して決定します。

国税庁が定める「賃貸料相当額」

国税庁では、社宅の家賃を適正な価格にするための計算式を決定しています。以下は、2023年4月1日時点での賃貸料相当額の計算方法です。


①(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント

② 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))

③(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント

「①+②+③=社宅の家賃」

引用:国税庁|No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき

なお、国税庁が賃貸料相当額を算出しているのは、企業による家賃決定が「高すぎる」「安すぎる」といったことを防ぐためのものです。この賃貸料相当額の計算式は、社有社宅・借り上げ社宅にかかわらず適用されます。

従業員の負担割合による決定

一般的な社宅の家賃は、周辺地域の家賃の半分以下が従業員負担となります。周辺と似た条件の住宅に、安く住めるのは従業員にとって何かと助かるでしょう。

具体的な従業員の家賃負担割合は、企業の財政状態や周辺住宅の家賃相場によりますが、一般的には、以下の3パターンから選ばれます。

  • 賃貸料相当額の一部を従業員が負担する
  • 社宅周辺の賃料相場の一部を従業員が負担する
  • 従業員の給与に応じて負担割合を決定する

従業員が家賃を負担する割合は、企業側によって決定されます。なお、国税庁が決定している賃貸料相当額は、その住宅の家賃であり、従業員の家賃負担割合が必ずしも賃貸料相当額を元にすると決められているわけではありません。

家賃の支払方法

社宅に住む場合、家賃を支払う先は勤め先であることが一般的ですが、借り上げ社宅の場合は、直接不動産業者や家主へ支払うこともあります。

多くの社宅で用いられている家賃支払方法は「給料からの天引き」です。給与計算の時点で、その従業員が負担する家賃を差し引きます。自分で支払いをしなくてよい、支払い忘れがないという点がメリットと言えるでしょう。

他にも、担当部署への現金支払いや、口座への振込み、オンライン決済などの支払方法がありますが、決済に必要な手数料や手間は従業員が負担する場合があります。また、担当部署への現金支払いはリスクが高く、採用している企業は少ない模様です。

社宅にかかる税金・課税ルール

企業が社宅制度を導入した場合に、大きく変わるのが「税金」です。

社宅にかかる税金は、大きく分けると2種類あります。

  • 法人税(社宅の減価償却費・社宅の家賃収入)
  • 所得税(従業員の給与・従業員の住宅手当)

社有社宅では、社宅の減価償却費と家賃収入が課税対象となります。社有社宅を導入、社宅から家賃収入を受けることで、税金が増えるということです。

しかし、従業員から受け取る家賃が「賃貸料相当額以下」の場合は、従業員の給与(課税対象)ではなく、地代家賃等(非課税)となるため、支払う税金が少なくなります。

企業が社宅家賃を全額負担しない理由

社宅が福利厚生の一環なのであれば、全額払って欲しいと思っている人もいるかもしれませんが、社宅の家賃を企業が全額負担することはほぼありません。

仮に、企業が社宅家賃を全額支払ってしまうと、従業員にかかる負担が大きくなってしまい、社宅の家賃負担がなくなれば、その分収入が増えることになり、所得税や住民税が高くなります。

また、企業側としても全額支払えば費用負担が大きくなり、経営を圧迫するリスクが生じます。従業員の税金負担を減らしつつ、企業が負担する家賃を経費として計上し非課税にすることで、他の福利厚生へ資金を回せるという仕組みとなっているのです。

社宅を導入する手順

企業が社宅制度を導入する場合、いくつかの手順を踏むことになります。

主な流れは、以下の通りです。

  1. 社宅導入についての検討

    ⇒社宅の必要性や導入の目的、コストや社内の受け入れ体制について

  2. 物件の選定

    ⇒家賃または価格、周辺環境や職場までの距離などを考慮

  3. 契約

    ⇒会社としての購入または賃貸の契約締結

  4. 入居準備

    ⇒必要な備品の設置や、安全性の確認、入居規則の策定などの確認

  5. 社宅制度の運営

    ⇒社宅制度全般について対応できる部署や担当者が必要

主な流れは、個人の賃貸契約とさほど変わりはありません。

ただし、①の検討の段階は「本当に社宅が必要なのか、社宅制度を導入することにどのような目的を持っているのか」など、個人の賃貸検討よりも長い時間がかかるでしょう。

社宅と寮、住宅手当の違い

社宅と似た制度に「寮」や「住宅手当」があります。どちらも、従業員の住まいにかかわる制度や手当ですが、社宅とは異なります。

社宅と寮の違い

まず、社宅と寮の違いは「住む人の家族形態」です。基本的に社宅は「単身者またはファミリー」で利用することが前提とされています。一方の寮は「単身者であること」が前提です。

さらに、社宅では基本的な社会ルールしか求められませんが、寮はルールが厳しいこと場合があります。帰宅時間や騒音、部屋に人を招いてはいけないなどというルールを設けていることも珍しくありません。

住宅手当の違い

社宅が「住まい」であるのに対し、住宅手当は名前の通り「手当(お金)」です。住宅手当は、社員が個人で契約をしている住居の家賃の一部を企業が負担する費用を指します。なお、住宅手当は、家賃補助、家賃手当などと呼ばれることがあります。

もっと詳しく!社宅に関するおすすめ論文と要約

社宅を「街」としてとらえ、そこに育まれた文化を見いだすこと

この論文では、社宅は単なる居住空間にとどまらず、そこに独自のコミュニティと文化が育まれる特殊な場所としてとらえられています。同じ企業に勤める人々が集まることで、強い仲間意識が形成されやすいのが特徴です。社宅内では住民同士の交流が頻繁で、共通の企業文化や価値観が共有されることから、強固なコミュニティが発展します。

また、社宅内でのイベントや共同活動が、住民同士のつながりを深め、互いに助け合う文化を醸成しています。さらに、転居しても社宅の住民同士のつながりが保たれるという特徴があり、移動が多い職場環境にも対応できます。

このような社宅のコミュニティと文化は、都市における新しいコミュニティの在り方を考えるうえで参考となる重要なモデルだと言えます。社宅は単なる居住空間ではなく、特殊な地域コミュニティ形成の場として注目されているのです。

参考:社宅を「街」としてとらえ、そこに育まれた文化を見いだすこと

新社宅に関する研究

この論文では、社宅についてさまざまな角度から深く分析しています。特に注目されているのは、社宅の規模や管理体制、居住者の生活スタイルと社宅内での交流が、コミュニティ形成にどのように影響するかという点です。

また、新しい形の社宅の管理・運営に関する具体例や調査結果も紹介されています。これらの研究を通じて、社宅の多面的な側面を理解でき、それぞれの論文を読めば、社宅のさまざまな特性を知ることができるでしょう。

参考:新社宅に関する研究

監修者の編集後記 -社宅について-

「社宅」には2つの種類と、いくつかのメリットやデメリットがあります。

何となく「家を用意してもらえる制度」と認識されていることが多い社宅制度ですが、企業の節税や従業員の負担軽減・税金の支払軽減にも大きく影響している制度です。

住居は毎日帰って家族との時間を過ごし、心身の疲れを取る大切な場所です。社宅制度の導入や社宅への入居は、企業も従業員もしっかりと検討し、お互いにとって最もメリットのあるものにしていきましょう。

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。